■ 口上 早いもので、今年ももうこの原稿を書く時期となった。AV機器業界の今年を振り返ってみると、成長自体は比較的順調に推移したものの、メーカーとしては勝ち組、負け組のコントラストがはっきりしてきた年ではなかっただろうか。勝ち組では、液晶テレビでシャープ、プラズマでパナソニックの優勢が目立った。やはりテレビというのは高額商品ということもあって、利ざやも大きくなる。東芝はこれといって突出した商品はないのだが、強気の戦略が功を奏している印象がある。三社とも、テレビ事業以外でも元気のいいところが目立った。 一方で三洋電機の「総合家電メーカーからの脱却」は、厳しいニュースだった。脱却というより撤退のほうが表現としては妥当だろうが、ポジティブな意味合いで今後の活躍に期待したい。一方パイオニアも、プラズマとDVDレコーダの不振で社長が引責辞職するという事態となった。モノ自体は売れていないわけではないのだが、市場価格の下落により利益率が確保できなかった、ということだろう。いずれにしても、やはりテレビ事業が明暗を分けた恰好だ。 そんな中、今年最もツキから見放されていたのがソニーだろう。好評だったのはPSP、ロケーションフリー、HDVカメラぐらいで、2003年から取り組んできた起死回生の高級ブランド戦略「QUALIA」の失敗と、会長・社長交代劇、CCDの不具合問題、WalkMan Aに付属したConnect Playerの不評、米国から火の手が上がったXCP問題、果ては中国浙江省でデジカメの品質問題が指摘され中国全土で販売自粛と、普通の会社なら5~6年かけて降りかかる問題が半年ぐらいでいっぺんに襲った感じがある。会社の体質などいろいろ指摘すべきところはあるのだろうが、こうまで連続する事態は尋常ではなく、なんだか気の毒ですらある。 さてそんな激動の2005年であったが、今年1年Electric Zooma!で取り上げた製品を中心に、今年のトレンドを総括してみよう。
■ ビデオカメラ篇 今年は全体を見ると、ビデオカメラのような撮影系デバイスのネタが多く、イベントレポートなどを除いて17回もやっている。一方で結構沢山やったような気がするレコーダは14回と、2番目だった。
市場としてはテレビほどは大きくないビデオカメラ市場だが、今年はかなりエポックメイキングな動きが目立った。まず今年トレンドを築いたという点では、ソニーのHDVカメラ「HDR-HC1」の登場は大きかった。
HDV自体は昨年からすでに製品が出ていたのだが、普及価格帯でそこそこ小型ということで、大ヒット商品となった。その伏線としては、2月に扱った3CMOSの「DCR-PC1000」があったわけだが、ソニーとしては新しい撮像素子を急速に立ち上げることで、新分野での立ち位置を確保したい構えだ。 その一方で、ソニー製CCDの不具合により、自社だけではなく社外的にも大きな損害を出したのは、どう考えてもマズかった。失われた信頼性を回復するには、しばらく時間がかかるだろう。 DVDに記録するビデオカメラも、次第に市民権を得てきたようで、運動会などでもちらほら見かけるようになってきた。特に今年はキヤノンがこの分野に参入を果たし、開発先行する日立、米国で好調のソニー、新規参入のキヤノンという3竦みの市場となった。
また今年のトレンドで顕著なのが、HDDやメモリに記録するタイプのムービーカメラが、マジでビデオカメラと呼べるようなレベルに達してきたところだろう。ビクターのEverioにしろパナソニックのSDカードムービーにしろ、もはや単にテープ記録じゃないというだけで、機能的にも画質的にも普通のビデオカメラと比べて遜色ない仕上がりで立ち上がってきた。
さらに今年は東芝が自社製HDDを搭載して、ビデオカメラ分野に参入した。これまでビデオカメラの経験がないぶん、他社製品をよく研究した仕様となっている。あとはなかなか表に出てこない使い勝手部分を、いかにユーザーから吸収していくかが課題だろう。 一方で心配なのが、三洋Xacti Cシリーズの行方である。今年のC5でデザインを一新し、C6では暗部撮影の強みを出してきた。一説にはHD版のXactiが出るという噂もあったが、メーカーの状況が状況なだけに、今後の製品開発がどうなっていくのか不安である。
いずれにしても来年のトレンドは、ハイビジョン化と脱テープ記録がどれだけ進行するのかがポイントになることだろう。
■ ビデオレコーダ篇 次世代DVDとしてなにかと取り沙汰されるBlu-rayとHD DVD。だが今年は双方とも、製品としては何もリリースされていない。HD DVDは当初、年内にはプレーヤーの発売を目指していたが、著作権保護規格の策定の遅れから、延期になってしまった。Blu-rayのほうは新しく1社ぐらい製品が出ても良さそうなものだったが、なかなかそこまで元気のあるメーカーもないということだろうか。そんな様子見感が漂う中、レコーダはハイエンドを中心に、各社ともデジタル放送対応機は一通り出そろった。だが、保存はSD画質にダウンコンバートしてDVDに、というなんとも煮え切らない仕様が定番化してしまったのは残念だ。
ただこの仕様のおかげで、DVDのアップコンという機能が多くのレコーダに積まれたのは良しとすべきだろう。ハイビジョンテレビの普及で、今度はSDが綺麗に映るテレビが少なくなってしまった昨今、この機能はもっと注目されてしかるべきではないかと思う。単体の機材としてはQUALIA 001があるが、こういうものを1/10、せめて1/5の値段で作れるようになってから売れば、大ヒット商品になっただったろう。
デジタル放送とアナログ放送の両対応機が増えると言うことは、必然的にダブル録画機が増えるということでもある。それ以前のダブル録画は、同じ放送波が2局録れるという意味だったが、今年からその意味合いが変化して、違う放送波の2局録りもダブル録画と称するようになった。
そんな中、いち早く地デジをダブル録画するという点で、今年は日立の頑張りが光った。これまで日立はレコーダで劣勢に立たされてきたが、自社グループの持つ潤沢なリソースにものを言わせ、地デジ普及をきっかけにジャンプアップを図りたい構えだ。 実際にデジタル放送が始まった地域では、もう見るのも録るのもデジタル波であろうと思われる。DVDに残すことを期待せず、見たら消す派にとっては、強力な一台だろう。 一方で安定した人気を誇る東芝RDは、地デジ対応スーパーハイエンド機のZシリーズを立ち上げ、アナログW録機、デジアナW録機と順調にラインナップを積み重ねてきている。特に最新モデルRD-X6では、ソフトウェアのGUIもかなり整理されて、わかりやすくなった。ハードウェアのグレードに対してソフトウェアは共通であるため、今後の廉価モデルも期待して良さそうだ。
わかりやすいGUIといえば、パイオニアもGUIを東大先端研と共同開発するなど、わかりやすさと使い勝手の両立に努力した。マジョリティ層へのアプローチとしては、「難しくない」というところが第一条件となる。さらに独自の「録画辞典」を開発し、自動録画機能を充実させた。また「連ドラ延長録画」など、ドラマ録りのこだわりがすごい。 その一方で、今年はDVR-920H-Sの後継となるハイエンドモデル出なかったのは残念だ。もっとも今後は入出力でフルデジタル化が進むため、AD/DAコンバータを奢ったハイエンドモデルは、昨年か今年のモデルで最後ということになるかもしれない。
以前はなぜか社内にレコーダを作る事業部が3つも4つもあったソニーだが、PSXとスゴ録の事業が一本化され、その流れの製品が出てきたのは今年の特徴だ。今年夏モデルの「RDZ-D5」は、ソニー初のデジタルチューナ搭載ハイエンドであったが、機能的にはまだ合体の不自然さを残していた。だが冬モデル「RDZ-D90」では、前作で取りこぼしてしまった機能を再び実装し、ようやく合体のメリットが出てきた感じだ。
同じソニーでもVAIOチームが作ったレコーダ、「Xビデオステーション」はなかなか面白かった。VAIOブランドということでPC周辺機器という見方が強い同機だが、今この時期にアナログだけで8チャンネル同時録画というマシンをリリースしてしまうあたり、ARIBの制限がキツくてなかなかデジタル放送対応に本格着手できないVAIOチームのフラストレーションがいい具合に炸裂した、と見るべきだろうか。 一方HDMI出力がデフォルトというリビング指向PC「type X Living」は、ハードウェア的な仕掛けがなかなか面白かったのだが、発売が来年4月に延期されてしまった。もともとコンセプト的には、初代VAIO type Xのコンセプトを二分したというのがウリだっただけに、残念だ。
■ ポータブルデバイス篇
今年の小物類のポイントは、いよいよ動画再生機能が本格化したことだろう。ただ動画再生専門機が出てきたわけではなく、電話だったりゲーム機だったり音楽プレーヤーだったりしたものが、ことごとく動画対応となったところが今年の特徴だ。 NEXXの「PMP-1200」は、昨年から盛り上がりを見せていたマルチフォーマットプレーヤーの中では、最も質感の良い製品だった。機能的にも盛りだくさんで、旅行や出張に持っていくと、これ1台でかなり楽しめる。しかしこれ以降は他社製も含め、ビデオプレーヤーとしてはあまり傑出した製品が出てこなくなってしまった。 そのかわり、音楽プレーヤーの動画対応はかなり積極的であった。特に春から夏にかけては、iRiverのU10、iAUDIOのX5、MPIOのMPIO ONEなど、実用性は置いといてとりあえず動画対応はデフォルトな、という韓国勢のイキオイがすごかった。
その間、国内メーカーのミュージックプレーヤーは、ひたすら動画対応に対して沈黙を守ってきたわけだが、大御所Apple iPodの動画対応をきっかけに、敗戦色が濃厚となりつつある。その代わりに、音楽プレーヤーの本質とも言える音質重視傾向が次第に強まっており、来年に期待を繋ぎそうな感じである。
Zooma!では取り上げていないが、動画対応ということではゲーム機が結構頑張っている。PSP(プレイステーション・ポータブル)は「Image Converter2」および「Image Converter2 Plus」の発売により、任天堂ゲームボーイアドバンスSPやニンテンドーDS、ゲームボーイミクロは「プレイやん」および「PLAY-YAN micro」の発売により、ブレイクした。
またこれをきっかけに、各種コンバータやDVD作成ソフトがそれぞれのフォーマット対応を謳い、専用のレコーダが出るなど、地道に盛り上がってきている点は興味深い。 また今年のVAIOでは、DoVAIOでのテレビ録画と同時にPSP用にコンバートするといった機能を搭載。また10月にはロケーションフリーがPSPに対応するなど、自社製品同士ならではの横の繋がりで機能強化した。 我々日本人にとっては、iPodに比べてWalkManの旗色の悪さが印象的だが、Appleは最初からWalkManなど眼中にない。むしろ彼らが警戒しているのは、世界で1,000万台売ったというPSPだ。今年頻繁に行なわれたスティーブ・ジョブスのプレゼンテーションでも、PSPとiPodのシェア比較が冒頭に登場するのが恒例のようになっている。
■ 総論 今年の傾向を総括すると、良くも悪くもデジタル放送に振り回された1年であったろう。コピーワンスが見直されるかもしれないという話は喜ばしい話だが、来年もし動きがあればあったで、その対応で各業界とも忙しくなりそうだ。録画機では、来年こそ次世代DVD搭載レコーダの登場に期待がかかる。またそのときPCへの対応は一体どうなるのか、興味は尽きない。 ビデオカメラでは、各メーカーがHD化をどのように実現していくのか、その動向が注目される。現状の「HDR-HC1」の売れ行きを見れば、市場がそれを支持しているのは明らかだ。現在SD解像度では、メモリやHDD記録のビデオカメラもいい具合になってきており、この勢いをどうHD化に繋いでいくかが課題となる。やはりそれには、H.264の普及と、高性能かつ低価格のハードウェアエンコーダの登場が必須だろう。 来年の抱負として、ゲーム機を中心としたAVソリューションにもう少し注目していく必要があるだろうと感じている。Xbox360の評判はあまり芳しくないようだが、来年はPS3も出るだろう。またPSPも相次ぐファームウェアのアップデートで、ゲーム以外の部分がかなり面白くなってきている。 さて、2005年のElectric Zooma!はこれにて終了である。来年はCES 2006のレポートで幕を開ける予定だ。今後ともよろしくご愛読のほどを。
□Electric Zooma!バックナンバー
(2005年12月21日)
[Reported by 小寺信良]
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