■ 口上 ドトウの2002年もようやく終わりを告げようとしている。おそらく皆さん昨日今日とクリスマス関係でいろいろ忙しいことだろうが、かく言う筆者は出版業界恒例の年末進行をなんとか乗り切って、比較的平穏にこの年の瀬を過ごせそうである。 さて本日のElectric Zooma! は、年末恒例スペシャル企画として、2002年のAV製品を振り返って総集編をお送りする。世の中振り返ってみると案外いいこともあるもので、編集部内をくるっと振り返ったところ、担当の机の後ろに山積みされているどうでもい……、いやステキなAVグッズの中から読者の皆様にプレゼントがあるそうである。応募方法はこの記事のずーっと後ろの方にあるので、今すぐページの最後までガーッとスクロールしたら泣くぞおまいら。一応記事の方も読んでくれぃそれがオトナってもんだからナ。 ま、そんなこんなで、今年1年の動きを総括してみよう。
■ 家電系HDDレコーダ篇 今年最も大躍進のAV機器といったら、やはりデッキタイプのHDDレコーダだろう。パソコンの周辺機器ではなく(内部的にはPCであってもだ)、スタンドアロンで動作する、いわゆる家電として扱えるHDDレコーダは、今や一般週刊誌にも特集が組まれるほどである。 注目された理由は、比較的簡単なところにあるのではないだろうか。すなわちテレビ録画というのは、ただ見るだけというタイムシフターとしての役割と、メディアに保存するという二面性から成り立っているということなのである。録るだけならランニングコストゼロ、必要なものは取り出して保存できるという「保険」あり、そんなところが受けたと思われる。 この理屈からいけば、特に保存したいわけでもないものでもランニングコストがかかる、記録型DVDオンリーのデッキがあまりぱっとしなかったのも頷ける。もちろん現状のDVDでは、記録容量が少ないという要因もあるだろう。また記録型DVDとHDDが1台に乗っているタイプのレコーダが受けるのは必然と言えば必然で、1台にまとまって操作が易しいという点も手伝って、コンシューマーではおそらくこの傾向はしばらく続くと思われる。 この手のレコーダでは、東芝のRDシリーズがかなり早いペースで製品をリリースしており、今年だけでも「RD-X2」、「RD-XS30」、「RD-XS40」と3モデルも市場に投入してきている。現状では最もメジャーなシリーズと言えるだろう。またそれと拮抗するPanasonicの「DMR-HS2」も、PCカードスロットやDV端子といった豊富なインターフェイスを装備して、すべての画像をここに集約しようという、パソコンライクな考え方が面白い製品であった。
こうしてみると、コンシューマにおいてDVD-RAMはかなり定着したと見ていいのではないだろうか。一方DVD-R/RWドライブとHDDを搭載したPioneer DVR-77Hは若干出遅れた感があるが、DVD-RAM/RドライブはDVD-Rの書き込みが遅いという弱点をうまく突いて、最高24倍速ダビングが売りとなっている。これがどのぐらいまでユーザーにアピールするのか、注目したいところだ。 もう1つのDVD、DVD+R/RWのレコーダは、欧米ではすでにPhilipsとYAMAHAから販売されているが、国内発売に関してはその後音沙汰がない。DVD+VRフォーマットの発表でPCとレコーダ間の追記互換を大々的にアピールした割には、国内でのレコーダ発売にはいろいろ摩擦があるのか、なかなか慎重な姿勢だ。
一方で、この視聴と保存という理屈と対局の位置にあるのが、SONYのCoCoonである。前身となったClip-Onからずーっと、なんにも保存しないHDDレコーダという特異な位置をキープしている。 CoCoonではチューナとエンコーダを2系統装備するという、さらに特異な仕様に拍車をかけた。ユーザーの傾向を学習していって、だんだん賢くなるという学習アルゴリズムは、エンターテイメントロボットなども手がけるSONYならではのものだ。 しかし、保存したいというニーズがあり、これだけ実際にDVD記録モノが売れているところからすれば、「いーやあんたらのそういう生活習慣のほうが間違ってる」とも言い切れまい。CoCoonはシリーズで展開するところから考えれば、近い将来何らかの記録型DVDドライブを搭載したモデルが出るのではないか、と勘ぐりたくもなる。 もしSONYがDVD搭載録画機を出すとしたら、自社開発したDVD±RWドライブを搭載する可能性は高いのではないか。DVDフォーラムからもDVD+RWアライアンスからも「あんたらどっちの味方なのよオラオラ」とあおられながら苦心惨憺開発に成功したDVD±RWドライブは、ある意味板挟みになっているSONYの安住の地とも言える存在だからだ。
■ PC系HDDレコーダ篇 家電系レコーダがリモコン操作だけですべての機能が使えるのに対し、PC系メーカーが出しているHDDレコーダは、PCと組み合わせて機能するものが多い。フルの機能を引き出そうとすれば、それなりのスキルが必要になってくるわけで、家電タイプのものよりも若干敷居が高いところに存在する。
しかし何も連携せずに、ただ日々録って見られればそれでいいというのあれば、これらのレコーダは安い買い物である。現にうちの家内が愛用しているレコーダは、このレビューのあとあらためて購入した日本デジタル家電の「ロクラク」であり、単純に毎週同じ番組を録画して見るだけなので、何の問題もない。 ロクラクはその後、ファームのアップデートなどのサポートもかなり堅実に行なわれており、製品もiEGP対応の120GBモデル「ロクラク・スーパー120i」やUSB 2.0とEthernet装備の「ロクラク II 120」を発売するなど、着実に進化し続けている。購入したノーマルのロクラクは、今となってはアヤシイなどと言ってすまんかったと思えるほどお世話になっている。
購入したものはほかにもある。筆者用はレコーダとして今まではCanopusのMTV1000を使ってきたが、レビュー後しばらくしてMTV2000に乗り換えた。そして年末、NECのAX10も購入した。これもリリース前からプロトタイプなどをお借りしていたのだが、なかなか良かったので自分用に購入したのである。
アイ・オー・データのRec-Onは、その後USB 2.0に対応したHDDレコーダ「Rec-On S」、Macintoshに対応した「Rec-On for Mac」など、着実にグレードアップしている。グレードアップするということはそれだけちゃんと需要があるということの現われなので、どれも相当数の数が出ているということだろう。
しかしこれらPCメーカー製レコーダで問題になるのは、販路である。単にテレビと繋ぐだけならば家電メーカー製レコーダと何ら変わりがないこれらの製品も、いわゆる電器店や量販店、ディスカウントショップなどには流れない。あのNECでさえ現在は家電から撤退してしまっているので、普通の量販店に流すルートがなくて苦労しているぐらいであるから、他メーカーの苦労も忍ばれようというものだ。 パソコンショップで売れればそれでいいじゃないか、と思われる方もいるかもしれないが、いわゆるPCモノと家電モノでは、売れる数が軽く1桁は違う。一般の家電として扱われることのメリットは計り知れないのである。
■ ビデオカメラ篇
Electric Zooma! で比較的積極的に取り上げてきているのが、ビデオカメラである。製品としては動きが鈍ってきた感はあるが、今年は各メーカーとも中庸なモデル層から離れて、ハイエンドモデルに注力が見られた年でもあった。 いくつか触ってみた中で最も印象深かったのが、Victorの「GY-DV300」であった。撮れる映像に個性があり、しかもKneeやBlackのCompress/Strechといった専門的な設定が可能である。じっくり腰を落ち着けていいものを撮るという、のんびりしたペースで取り組めるいいカメラだ。ただしボディにはあまりお金がかかってなさそうに見えるので、なかなかその価値が伝わらないカメラでもある。
その反対にCANONの「XV2」は、以前からの業務モデルが持っていたいいところを取り込みつつ、ボディラインの無駄を極限まで省いて小型化したカメラである。またCANONのビデオカメラの傾向として、静止画にビデオくささを持ち込まず、最初から別物として色作りを行なっている。この考え方は正しいと思う。
MICROMVカメラとして3作目となるSONYの「DCR-IP220K」は、液晶モニタは横に飛び出してるもの、という固定観念を打ち破り、ビデオカメラとしての基本構造を1から見直したという点でエポックメイキングな製品だろう。レンズから液晶まで直線上に並ぶ「インラインレイアウト」は、撮影者がより被写体に集中できる、実用性の高い考え方だ。人物撮影にはかなりいい。
MICROMVの問題点は、編集環境としてSONYのMovieShakerしかないというところであった。これはどちらかと言えば遊びのためのソフトであり、普通に編集するには力不足であったものだ。しかし今年はMICROMV対応の編集ソフトも、Uleadの「MediaStudio Pro 6.5」、Pinnacleの「Pinnacle Studio Version 8」がリリースされ、環境も徐々に整いつつある。
これらテレビクオリティのカメラに対して、まったく別のユーザー層を築きつつあるのがPanasonicの「D-Snap」シリーズである。この12月、表を歩けば至る所に看板や広告を目にするほどの力の入れようもあってか、今までビデオを撮ることにあまり興味のなかった層を掘り起こし、かなり売れているようである。ケータイでも動画が撮れるようになったことに加え、デジタル地上波では低解像度用サービスも始まりそうだ。低解像度の動画デバイスというのは、今後撮る方見る方両方でいろいろ可能性のある分野であろう。
■ DVDドライブ篇 去年のAV Watch的トレンドは、リテールの記録型DVDドライブであったろう。フォーマットに相互互換が薄いため、「どれを買うか」というよりはむしろ「どれを信じるか」という宗教的要素が強く、ユーザー間に派閥を生んだものだ。 今年はマルチドライブの登場で、ちょっと事情が変わってきた。去年の発表から長らく待たれていた日立エルジーデータストレージの「GMA-4020B」のOEMリリースにより、決められない人はとりあえず買っとくという押さえのモノが現われた。そうかと思えばSONYのDVD±R/RWドライブ「DRU-500A」は実にひっそりとしたリリースであったが、そんなのアリかよといったインパクトは大きかった。
しかしその結果、リリースされているドライブの種類たるやもうすんごいことになっており、アレがこれのOEMで同じだろ、コレはアレのOEMだからぁ、みたいに整理していかないことにはもう何がなんだかわからない。パソコンショップのドライブ売り場では、もうあらかじめ決め打ちで棚を作って、うちはコレとコレとコレプッシュで行く、みたいな割り切りも行なわれているようだ。 来年のDVD系トレンドは、もしかすると書き込み速度かな、という気がする。DVD-R 4倍速記録が今年後半に滑り込んできたが、来年はDVD+R/RW陣営も4倍速記録を用意してくるし、長らく速度アップのないDVD-RAMも3倍速だという話も聞こえてくる。ただ高速記録には当然それに対応したメディアが必要であるため、これによってメディア価格もまたひと騒動ありそうな気配だ。
■ パソコン篇 2002年後半から、HDDレコーダの台頭はかなり大きな出来事だった。テープを使わない録画システムは、今まではパソコンユーザーのみが享受できたメリットであったわけだが、これからは理屈はわからなくても便利だからOKみたいなブラックボックス的な扱いで広く一般に浸透していくと思われる。 その一方で今後苦戦を強いられるのは、デスクトップPCだろう。昨年まではテレビ録画やDVDが焼けることを訴求してきたわけだが、HDDレコーダの需要が加速していくにつれ、このままでは失速していくだろう。それに変わる魅力を打ち出せない限り、商品としては厳しくなる。
そんな中、デスクトップPCとして新しいジャンルを開いたのが、SONY「VAIO W」だろう。独特のアイデアで、デスクトップでは過去の失敗からタブーとされてきた本体とモニタ一体型を成功させた手腕は見事だった。 VAIO Wには、ノートとデスクトップの中間といった発想がある。きちんと市場調査をやって分析して導き出した答えであり、いろいろ納得させられる面も多い製品だ。最初に見たときは、確かに面白いけどVAIOらしくないなぁと思ったものだが、いつのまにかこの形もまたVAIOの顔として定着した。ただ今年の冬モデルでは、他社もそれイタダキとばかりに同じようなものを繰り出してきたのはいただけない。それらもそこそこ売れているらしいが、企業として、また大人としてそれでいいの? ホントに? と訊きたくなる。 長いスパンで考えると、パソコンは年々、クリエイティブな要素が衰退してきているように思える。以前ならば、3DCG、ビデオ編集、WEBページ作成といった、いわゆる発信する側のツールであったものだ。しかし最近ではあまりにもパソコンがAV機器であろうとしたために、ただテレビやDVDを見たり、音楽を聴いたりするといった、受信側のツールになる傾向にある。 またユーザー層も、パソコン持ってれば楽しいことは向こうから勝手にやってくるみたいな感じに変質し始めている。Push型にしてもPull型にしても、ただ情報を蓄積するだけという傾向は、やはり長期化している景気低迷と関係があるとするのは考えすぎだろうか。 そもそもパソコンには「本来あるべき姿」はないものであるが、少なくとも創造性を失わせるツールであるのはマズイのではないか。停滞気味なデスクトップPCの出口は、案外そういうところにあるような気がする。
■ 総括 さて、来年の抱負というと大げさだが、今年あまり取り上げなかったオーディオ製品をもう少しがんばってやってみようかな、と思っている。特にバーチャルサラウンドは、新フォーマットや新技術も誕生したことだし、ちょっと面白いことになりそうだ。オーディオの話を文章にするのはなかなか難しいものだが、まあなんとかやってみよう。 それから来年は、MPEG-4を使った低ビットレートメディアが加速してきそうな気配だ。一般的に広まりつつある大画面指向とは逆のベクトルだが、ベースとなる技術はすでにできていることから、モバイル/通信系の濃いユーザーを中心に広がりを見せるのではないか、と思っている。 それからそれから、来年いよいよ地上波デジタル放送がスタートする。実際にモノが出てくるのは夏商戦からだと思われるが、テレビ・チューナはもちろんのこと、レコーダがどの程度対応してくるのか興味のあるところ。また放送人として、番組を供給する側の裏舞台もレポートしてみたいと思っている。 では今年のElectric Zooma! は、これにて終了である。来年もまあ基本的にはこんな調子なんで、よろしくお付き合いのほどを。
(2002年12月25日)
[Reported by 小寺信良]
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