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今年のWinHECで目立つのが、「PCの家電進出」に関する話題である。それはもちろん、Windows Vistaに様々なAV関連機能が搭載されたからだ。中核となるのは、やはりMedia Center。Microsoftだけでなく、IntelやAMDも、Media Centerを絡めたセッションを用意しているほどである。 中でも注目が集まったのが、Media Centerでの、デジタルテレビ放送に関するセッションである。そのセッションで公開された情報からは、世界から見た日本の「テレビ事情」が垣間見える。
■ Media Centerの次の狙いは「世界」と「デジタル放送」への対応 WinHECには、米国のみならず、世界中の開発者が集う。彼らがターゲットとする国も、当然多岐にわたる。そんな事情を反映して用意されていたのが、初日に開かれた「Preparing For TV Beyond Windows Vista」というセッションだ。 このセッションでは、Vista登場以降の、Media Centerを軸としたテレビ関連機能について、どのような方針で開発を行っているのかが解説された。 現在はほぼ米国向け、といっていいMedia Centerだが、今後の注力点として挙げられているのが、「世界中のデジタルテレビのサポート」である。 プレゼンテーションを行なった、米Microsoft eHomeディビジョンのリードプログラムマネージャー、バーナード・コッツェンベルグ氏は以下のように説明する。 「アナログではもはや不十分だ。世界中のデジタルテレビ規格に対応する必要がある。それには、(受信から表示までの)End-to-Endでのコピープロテクションと、権利処理機能を備える必要があり、しかもそのためには、各国での標準規格を満たす必要がある。だが現時点では、それらの条件を満たした上で、ハードとソフトの開発を単純化するような共通のAPIや暗号化ソリューションはない」 この問題提起は、「WindowsとMedia Centerに実装するもので問題を解決しよう」という主張につながるのだが、その中で、「各国がどのような状況なのか」が示された。 特に時間を割き、最初に解説されたのが日本の状況である。 ■ 「複雑、不明確」。日本のテレビシステムに突きつけられる疑問
スライドが表示された瞬間、聴衆はあっけにとられた。日本のデジタルテレビに関する現状が、あまりに世界の常識からかけはなれていたからだ。 まず、標準化にかかわる団体が複数存在すること。規格に添った製品を作るには、ARIB(社団法人 電波産業会)、D-PA(社団法人 地上デジタル放送推進協会)、B-PA(社団法人 BSデジタル放送推進協会)の3つの規約に準拠する必要がある。 それ以上に聴衆を驚かせたのが、「定まった認可プロセスがない」ということである。 通常、ある国に向けた製品を作ろうと思ったら、その国の標準化団体の定めるルールに従い、特定の認可プロセスを経て製品化される。海外からの新規参入者であっても、ルールに従うのならば、成功を収められるかはともかく、ビジネスへの参加は難しくない。 だが日本の場合、「参加のためのルール」が不明瞭である。技術的な話よりも先に「認証手続きが複雑であり、日本国外からの参入に大変な手間がかかる」(カッツェンバーグ氏)ことが示されたのは、きわめて象徴的といえる。
また、右のようなスライドも示された。各国でどのようなデジタル放送規格が使われているかを示したもの。 一見してわかるように、日本がどこにも属さず、独自の規格を推進していることが見て取れる。なお、ブラジルでは日本と同じISDB-Tの採用が有力視されており、面積比でなくテレビ受像器の台数比で見れば、ここまで「孤立」しているわけではない。 日本国内でも、デジタル放送の規格策定と製品認証については、「曖昧で交渉が難しい」という不満を口にする企業は多い。特にPC関連の製品では、「デジタル放送録画の条件決定に1年近くの交渉が必要だった」といったエピソードも耳にしている。 各国にはそれぞれ事情があるとはいえ、海外からは「不思議で大変な国」と思われていることが、今後マイナスに働くことが懸念される。 ■ 次期Media CenterではWindows DRMを活用しデジタル対応
「Media Centerの地デジ対応」については、時期こそ「2007年中」としか示されなかったものの、今回のセッションにより、地デジ対応の方法と、その機能の一端が明かされた。 今後、Windows Vistaでデジタル放送対応を実現するために、「PBDA」(Protected Broadcast Driver Architecture)という技術が使われる。PBDAは、読んで字のごとく、Media Centerでチューナでの映像受信に使われる「BDA」に著作権保護技術を組み込んだもの。受信段階でWindows Media DRM(WMDRM)で暗号化と権利管理が行なわれる。 権利管理とはコピー回数などのことで、おなじみの「コピーワンス」や「ネバーコピー」といったフラグを、WMDRMのコピー制御情報に置き換える。 PC内では、すべてのデータがWMDRMで管理されたまま処理され、ディスプレイなどから映像を出力する際に、映像の復号化と権利信号追加がなされる。アナログ出力ならCGMS-Aやマクロビジョンによる制限がかけられ、デジタルならば、HDCPによる暗号化が行なわれることになる。 この仕組みは、放送方式や映像の伝送方式に依存するのはチューナ部のみで、パソコン側の処理はかなりの部分が抽象化されるため、各国の事情にあわせた変更は最小限で抑えられる。
日本向けのシステムは、PBDAをベースとしながら、B-CASカードやBMLといった、日本独自のシステムにも対応する。 中でも、特に時間を割いて言及されたのが、地デジやBSデジタルなどで、放送波に含まれる形で流されるEPG(In-Band Guide)への対応だ。これらのEPGは、スポーツなどの時間延長に対応して、放送局側で書き換えられていくため、うまく追いかけられれば、録画の失敗を防ぐことが可能となる。 「日本ではスポーツの時間延長で、あとのTVショーがずれ、録画に失敗することが多い。これに対応するための仕組みだ」(カッツエンバーグ氏)と、わざわざ解説が入ったほどだ。時差があり、CATVによる多チャンネルがあるアメリカでは、なかなか理解しづらい現象であるようだ。 日本向けのシステムについては、海外で開発するのは難しい。そこで、東京都調布市にある、マイクロソフト調布技術センター内に15、6人の開発チームが作られているのだという。 Media Centerによる地デジPC登場には、まだそれなりの時間がかかりそうだ。現在の、家電に比べ制限の多い地デジPCの現状を、どのくらい打破してくれるものになるのか。Microsoftと関連企業の努力に期待したい。 □WinHECのホームページ ( 2006年5月25日 ) [Reported by 西田宗千佳]
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