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日本ビクター株式会社は14日、12面体構造を持つ「呼吸球式スピーカー」を開発したと発表した。9月21日から24日までパシフィコ横浜で開催される「A&Vフェスタ 2006」の同社ブースで展示される。 自然で理想的な音場再生を実現するための「理想音源」に近い性能を持つというスピーカー。12面体構造を採用した球形をしており、全体が振動板として機能。まるで呼吸するように振動し、音を発生させるという。
通常のスピーカーは円形の振動板を音源として振動させ、音波を放出する。放出する方向が決まっているため指向性が生まれるほか、ユニットをエンクロージャに搭載するため、エンクロージャの形状による周波数特性の乱れが発生。キャビネットで音波が回折する影響などもあり、そうしたものが固有の音質を形成している。 しかし、原音に忠実な再生を行なうためには、こうした課題を無くす必要がある。そこでビクターでは、理想の音源を「呼吸球」と決め、'67年の球型スピーカー「GB-1」以降、理想音源を求めて研究を続けてきた。
呼吸球とはその名の通り、呼吸するように膨張/縮小する球体のこと。風船のようなイメージで、呼吸するように振動することで音を発する。全体が振動板と言えるため、全方向に同じ波面を伝播でき、放射インピーダンスに乱れがなく、キャビネットが無いため回折も無い。平板状音源に近づいた時に発生する近距離音場の乱れがないなどの利点を持つ。 この呼吸球をスピーカーとして実現できた場合、電気・音響経路にスピーカーが存在しなかのような状況が作り出せる。そのため、スピーカーのキャラクターが無く原音に忠実で、指向性も無いため部屋のどこにいてもリアルな音場が楽しめるという、理想的なスピーカーになるという。
今回ビクターが開発した試作機は、この呼吸球式スピーカーを目指したもの。完全な球形とは異なるが、直径10cm相当の球体を5角形の振動板を11枚繋ぎあわせることで構成した、12面体構造になっている。各面の振動版は、ダイナミック方式でドライバ駆動しており、底面を除く11個のドライバを内蔵している。 最大の特徴は、12面体の骨組みに振動板を取り付けているのではなく、11枚の振動板をエッジだけで連結していること。そのため、エッジを除くスピーカー表面が全て振動板かつ放射面となっており、フレームやキャビネットの影響を排除でき、歪感のないクリアな再生が行なえるという。 振動板を支えるために、高い弾性を持ちながら、固有共振を排除したという新開発のサスペンションを2枚直交に配置。振動板を呼吸するように正確に駆動できるという。
ただし、完全な球形の場合は指向特性が無指向性になるが、12面体の振動板は平面のため無指向性にはならず、そのままではいびつな指向特性になってしまう。そこで、音放射方向に山のように外側に突起した形状を持つ五角形の振動板を採用。、均一に音が広がる無指向性を実現したという。また、形状が複雑な振動板の周波数特性をフラットにするため、独自のオブリコーン技術を応用して開発した「ワイブルカーブド振動板」となっている。 なお、試作機では低音再生能力を補うため、ユニットを上に向けたウーファと組み合わせている。クロスオーバー周波数は250Hz。デモではソースのCDプレーヤーからAVアンプに入力し、内部のDSPで周波数を分けてアンプ(AX-M9000)に渡し、それぞれのスピーカーをバイアンプ駆動していた。
再生音は非常にクリアで、均一かつ極めて自然に広がる音場が特徴。無指向性のため、通常のソースでは音像はピンポイントとはいかないが、高さも感じられる優秀な定位感が印象的。特にライヴ録音された楽曲では、2ch再生とは思えない音場の広がりで、目を閉じるとスピーカーが消え、試聴室ではない場所に来たような感覚が味わえる。また、試聴中に横を向いたり、頭の位置を変えても音場や音像が変化しないのも、球状スピーカーならではの特徴と言えるだろう。
製品化の時期について、AVシステムカテゴリの米本正氏は「2007年の前半を目標にしている。どのような製品になるかは現在のところ未定だが、日本だけでなく世界でも広く受け入れられる技術/スピーカーだと自負している。そのため、どのような製品展開が行なえるか、スタッフで検討を重ねている段階。価格帯なども含め、その方向性が決定してから決めていきたい」と語った。
□ビクターのホームページ
(2006年9月14日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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