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フラットパネルディスプレイ関連の展示会「第3回国際フラットパネルディスプレイ展(Display 2007)」が11日、東京ビッグサイトで開幕した。期間は4月11日から13日まで。FPDの研究開発や製造技術関連の展示会「FINETECH JAPAN」と、「FPD部品・材料EXPO」も併催されている。 初日である11日の基調講演には、東芝 執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社の藤井美英社長や、NHK放送技術研究所の谷岡健吉所長、パイオニアの専務取締役で技術開発本部長兼総合研究所長の山田宰氏が登壇した。 講演のテーマは「ポスト“ハイビジョン”を担う“スーパーハイビジョン” ~FPDへの期待と可能性~」。薄型テレビは大サイズ化や価格競争が激化しているが、「その渦から出て、未来のテレビの夢を語る」がテーマになっている。
■ ニーズによってテレビは変化する
東芝デジタルメディアネットワーク社の藤井社長は冒頭、「昨年の秋に基調講演を依頼された時には“SEDの宣伝でもしようかな”と思っていたが、皆さん新聞などでご存知の通り、喋れることが無くなってしまった」と切り出し、会場の笑いを誘う。 さらに、「最近、一部報道で“東芝はFPDのグローバル競争から脱落した”というような書かれ方をされた。記者の方は世界各国で使われているテレビの状況を本当に良く勉強されているのでしょう、そうでないとあんな風に書けないだろう。私がテレビ事業で感じていることは、“テレビは文化そのもの”だということ。地方や国によって、求められるものが大きく異なる」とし、世界市場での販売台数など、数字ばかりが強調される風潮に疑問を呈した。 また、「“楽天 VS ライブドア”が発端となったのか、“パソコン VS TV”や“Blu-ray VS HD DVD”など、マスコミの人達はすぐに、“0か1か”の2極対立にしたがる。対立をあおったほうが面白いのだとは思うが、海外でそのような話は聞かない。日本はもともと仏教の国で、幅の広い“0”が存在していた。2極対立は農耕民族の我々にとって新しい感覚であり、これもある意味で“0か1か”の“デジタル化”なのかもしれない」と持論を展開。 「東芝はテレビではマイナーかもしれないが、パソコンは米国を中心に評価が高い」などとしながら、12日に特別招待講演として、ソニーの井原副社長と、パナソニックAVCネットワークスの森田上席副社長が登場することも紹介。「明日はBD編ということで……BDと言っても“バッドディスプレイ”ではなく、“ベストディスプレイ”です。“井原さん VS 森田さん”で面白い話は聞けると思うので、私は違った観点からテレビの将来を考えてみたい」と本題に移った。
まず、藤井社長は「テレビは誰のものか」を考察。スポンサー、コンテンツクリエイター、放送局、テレビメーカー、視聴者の関係で成り立っている現在のテレビシステムを説明。
「どの要素が欠けてもダメ。それと同時に、テレビに関わる多くの人のニーズによって未来のテレビの仕様は決まる」とし、その例として「テレビとネットの連携が加速して、有料のネット放送がメインになったらスポンサーや無料放送はどうなるのか? 同時に、ネット機能を強化したテレビなど、我々メーカーの作るテレビも変わってくる」と語る。
その反面、「HDDへの蓄積などの視聴スタイルの変化や、ネットワークの普及、ストレージの進化、テレビの高画素化、大画面化、薄型化といった昨今の変化が同時に起こったのは、言ってしまえば偶然。シャープさんが我が世の春を謳歌しているのも偶然。インテルもマイクロソフトも半分は偶然。もちろん努力が必要というのもあるが、一番強いのは偶然だ」とし、様々な技術が連携していく偶然も、要素として欠かせないものだとした。
その上で、テレビの進化の3つの方向性を提示。テレビはあくまでテレビとして、その能力が強化されていく「テレビ本体の進化」、モバイルテレビなど「テレビの多様性」、レコーダやパソコンなど「テレビを取り巻く機器と同調した進化」を挙げる。どれか1つがテレビの主流になるのではなく、ニーズによって様々な形のテレビが存在しえる未来像を紹介。小学生を含む、幅広い層から未来のテレビのアイデアを募集するコンテストを開催したことなども報告した。
■ スーパーハイビジョンを表示する家庭用ディスプレイを
NHK放送技術研究所の谷岡所長は、NHKが取り組んでいる走査線4,320本のスーパーハイビジョンについて解説。7,680×4,320ドットの超高解像度映像と、22.2chのサラウンドシステムがもたらす臨場感の魅力を紹介するとともに、2006年の大晦日に行なった、東京で行なっている紅白歌合戦を、大阪の480型スクリーンのパブリックビューイングに中継した実験も報告。
「テレビを観ているのではなく、ステージを観覧している感覚。東京のスタジオで拍手が起こると、自分の隣からも拍手が聞こえるので、大阪のお客さんも思わず拍手していた。普通テレビを観ながら拍手する人は少ない。これが“臨場感か”と実感した」と、観客の反応を紹介した。
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21GHz帯の衛星送信を利用し、2025年までの実用化を目指しているスーパーハイビジョン。だが、現在では2K×4K解像度のLCOSプロジェクタを2台使用して400インチを超えるスクリーンに投写。撮影にも3,840×2,160ドットのCMOSパネルを4枚使った、40kgのカメラが必要。24Gbpsという膨大なデータ量で、記録も3.5TBのHDDに18分しかできないなど、放送として家庭に導入するにはオーバースペックにも感じられる。 谷岡所長は「スーパーハイビジョンが必要か? という声は確かにあるが、現在普及しているハイビジョンは、カラー放送で皆が十分満足していた'69年頃に開発がスタートした。技術者として、今後のニーズを先取りした開発をしなければならない」と説明。 また、「2,000本級の映像で十分という意見もあるが、それでは外国も含め、現在の技術で実現できてしまう。4,000本は日本にしかできないもの。今できない、難しいことにチャレンジしていかなくてはならない」と言う。 家庭への導入に向けた課題としては「大型スクリーンではなく、100インチクラスの直視型ディスプレイが必要。伝送方式の研究や、H.264などを活用した高圧縮技術も必要。撮影でも、現在の800万画素画素ずらしから、3,200万画素のフルスペックで撮影できなければならない。NHKだけでなく、国やメーカーとも連携して、これらのハードルを越えていきたい」と語った。
これを受けてパイオニアの山田技術開発本部長は、プラズマディスプレイを中心とした、同社のFPDへの取り組みを説明。「ダイレクトカラーフィルター」や「クリスタルエミッシブレイヤー」など、新プラズマテレビに搭載された独自の技術を解説すると同時に、SEDや有機EL、液晶などの技術概要も説明。 「直視型ディスプレイが求められているスーパーハイビジョンだが、高精細や大型化、薄型化という面で考えると、PDPと液晶、有機ELなどが有望になるだろう。個人的には有機ELに注目している」とした。
□Display 2007のホームページ
(2007年4月11日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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