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この冬、“次世代”レコーダ商戦も本格化。新BDレコーダとしては、ソニーの「BDZ-X90」や「BDZ-L70」、松下電器産業のDIGA「DMR-BW900」で、MPEG-4 AVC変換、4倍速ダビング、高度な番組検索機能、ビデオカメラ連携など、さまざまな新機能が盛り込み、年末商戦に臨んでいる。
そうした潮流の中、独自の道を歩んでいるのがシャープのBDレコーダだ。上位シリーズの「BD-HDW20/10」こそ、1TB/500GB HDDとBDドライブを備えたハイブリッドモデルだが、普及モデル「BD-AV10」、「BD-AV1」は、近年では珍しいHDD無しの単体レコーダとなっている。AV1は1層BD-RE記録のみ、AV10は2層対応の上位モデルと位置付けており、店頭予想価格はAV1が10万円前後、AV10が12万円前後の見込み。 まだ、BDの存在が理解されているとは言い難い今、こうした単体レコーダを投入する理由はどこにあるのだろうか? シャープでBDレコーダの製品企画を担当する、AVシステム事業本部 デジタルメディア事業部 第1商品企画部 係長の岩崎宏之氏に聞いた。
■ 「BDでVHSを置き換える」がシャープ流
BD-AV10/AV1は、HDDを内蔵せず、BDの記録メディアもBD-REに限定。機能も既存のハイビジョンレコーダより絞り込んだ「シンプル」な製品となっている。 他社が高付加価値製品をアピールする中、シャープがシンプルなBDレコーダを投入する理由とは何か? 岩崎氏によれば、その狙いは「VHSの置き換え」。「シンプルに、VHS風の使い勝手をBDレコーダで実現する」。これがBD-AV10/AV1の製品企画の要だ。 こうしたアプローチを決意させた理由は、現在のハイビジョンレコーダ市場への危機感があるという。 「DVDをはじめとするデジタルレコーダの国内市場は現在約400万台。しかも、若干の減少傾向にある。一方、VHSの最盛期には国内需要が750万台を超えていた。電子番組表やランダムアクセスなど、デジタルになって“便利になったはず“なのに、市場としては大きくなっていない」。 世帯普及率もVHSの約82%に対して、レコーダは33%。つまり、VHSほどに受け入れらていない理由が現在のレコーダにある。その最大の理由を、シャープでは「使いにくさ」と考えているという。 岩崎氏は、「非常に残念なのですが……、(シャープの)お客様窓口の問い合わせナンバーワンが、DVDレコーダ。“使い方がわからない”という声が、他の製品と比べると非常に多いのが現状」と語る。また、“難しそう”というデジタルレコーダのイメージが、VHSからの移行を妨げていると分析している。つまり、この「わかりにくさの解消」が、今後の市場拡大に急務というわけだ。
そのためのアプローチが、「機能をシンプルに、VHS風の使い勝手を実現する」というBD-AV10/AV1の製品コンセプトとなる。「商品企画としては、本当は、入れられる機能はなんでも入れたい。しかし、現実に、使い方がわからない、という声がある。あえて機能が“無い”という製品はチャレンジ」という。 BD-AV10/AV1では、とにかく簡単さを追求した。そのために、シャープでは7つの「無し」を定めた。
ある程度レコーダを使いこなしている人であれば、ここまで機能を削る必要があるのか、とも思うかもしれない。しかし、シャープが考える「VHSとの壁」は、このあたりにあったという。 例えば、地上アナログチューナを外すことで、2つのチューナ間で戸惑う必要がなくなる。また、画質選択や外部入力を省くことで、録画予約操作などもシンプルになる。 録画予約は、電子番組表(EPG)を利用し、毎週録画予約などの設定も可能だ。すっきりとした録画画面は、古くからのDVDレコーダユーザーであれば、黎明期のDVDレコーダを思わせ、懐かしさすら感じるかもしれない。このシンプルさ、こそがVHSの置き換えには必要というわけだ。
■ REのみ対応も「シンプル」追及のため
BD-AV10/AV1は、録画や再生だけでなく、さまざまな点でVHSをイメージした機能設計が行なわれている。たとえば、BD-REディスクの残量を前面パネルで表示する「ディスクメーター」。VHSテープと同様に残量を視覚的に表示するというメーターだ。 また、ディスクごとのレジューム再生機能も装備。ディスクのある領域に最後に再生したタイトルの再生位置を記憶し、ディスクを入れ替えた後も、そのポイントから再生が可能となっている。これも、テープの位置をそのまま保持する「VHS風」の使い勝手を実現するために実装した機能だ。 AV10/A1のスペックで気になる点は、単体レコーダなのに、一番利用が多いと思われるBD-Rに対応していないことだろう。書き換え型のBD-REにのみ対応している。これも、「VHSテープ」の使い勝手をイメージしてのことだ。 VHSテープを使っていた人にとって、追記型のBD-Rという「消せない」メディアを理解するのは難しい。「何度も消して、何度も使える」という書き換え型のメディアこそがVHSを置き換える製品にはふさわしいと考えたという。
岩崎氏は、「ドライブ的にはBD-HDW20/15と同じですが、あえてBD-Rの記録機能を省いている」という。だが、売り場で間違えてBD-Rメディアを買ってしまっても、結果的に、「書ける。使える」という方がユーザーにとっては良いのではないだろうか? 「もちろん社内でも議論しました。(BD-Rに)書けたほうが安心だ、と。しかし、“これしか使えない”と限定して、とにかくREの利便性を理解していただいて、REを覚えていただくほうがいいのではと考えた」という。そのため、販売時にBD-REのメディアを同梱するなどの対策により、「BD-AV1/AV10にはBD-RE」という使い方を積極的に訴えていくという。 ただし、BD-REのメディア価格は1層25GBで1,500円程度。2層50GBでは4,000円以上と、いまだに高価だ。1層25GBで1,000円程度のBD-Rと比較しても、まだまだ高止まりしている。 「メディアの単価がもう少し下がってから、とも考えましたが、卵が先か鶏が先かという関係で、ハードが売れなければメディアも安くならない。デファクトになれば、確実にメディアの価格は下がる。BDというハイビジョンのディスクを本格的に普及させるためには、2007年の年末にしっかりとハードを出して行かなければいけないと考えています」。 VHSの機能を、デジタルレコーダとして極力取り込んだといえる「BD-AV10/A1」。それであれば、AVCエンコードによる「2倍/3倍モード記録」も必要だったのではないだろうか? 「もちろん、1年以上前から導入を検討していました。10Mbps程度あれば、画質的にも満足はできるだろうと。ただし、BDをお買い上げのお客様は、“本当にいい画質”で残したいはず。年末向けの商品については、まずは、“かんたんにビデオからの移行”というメッセージを届けたかった」。ただし、「長時間という需要もあると思っています、ビデオの3倍モードのように、一つの機能として検討はしています」という。 従来のAQUOSハイビジョンレコーダと同様に、「AQUOSファミリンク」によるAQUOSの連携機能を装備。また、i.LINKも搭載するなど、このあたりはAQUOSの伝統を踏襲している。また、HDMIケーブルをレコーダとしては初めて同梱したことも、販売店から評価されているという。 メーカーの思惑通りとはいえないまでも、「HDD録画」がそれなりに浸透した日本市場で、BD単体レコーダで本格的な市場立ち上げを狙うシャープ。元々BDへの興味が高いユーザー層ではなく、VHSユーザーをターゲットにしたという戦略も含め、レコーダ市場への新しいアプローチといえる。年末商戦を含め、市場でどう受け入れられるのか、注目したい。 □シャープのホームページ ( 2007年10月30日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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