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株式会社東芝は、HD DVD関連事業からの撤退を決定。開発、生産を停止し、3月末をめどに事業を終息する。これにより、次世代DVDにおけるHD DVDとBlu-ray Discの「フォーマット戦争」が終了する。 HD DVDレコーダとプレーヤー生産/開発を停止するほか、パソコン用のHD DVDドライブについても、顧客の需要に配慮しながらも同様に量産を終了する予定。なお、現行DVDのレコーダ/プレーヤーについては事業継続するが、BD搭載レコーダ/プレーヤーの開発/販売計画は「無い(西田社長)」。HD DVDドライブ搭載の同社製PCについても今後PC事業全体の中で位置づけを検討していくという。 今後は市場動向を見極めながら、フラッシュメモリやHDDなどのストレージ技術、次世代CPU、画像処理、ワイヤレス処理などの技術を生かした、新たなデジタルコンバージェンス時代に適した次世代映像事業の中長期的な新戦略を再構築していくという。
■ 「技術に自信」もワーナー移籍で「勝ち目がないと判断」
「技術的にも、コストを含めたお客様への利便性提供という点でも、今日この時点においても、HD DVDへの自信は変わっていない。しかし、経営を預かる立場として、理由やプロセスはどうあれ、結果として市場環境の変化を直視し、変化への対応策を速やかに講じる必要があことも事実」と語り、敗因が技術面ではないことを強調した。
「HD DVDをご愛用してくださったみなさま、パートナー企業のことを考えると苦渋の決断だが、これ以上HD DVD事業を継続することは、経営にとって大きな影響を及ぼすとともに、複数の規格が併存することによる次世代DVD市場や消費者への影響でも問題がある。よってHD DVD事業を終息させることを決定した」と宣言した。
撤退にあたり、以下の3点の方策を発表。海外においても地域特性に応じた対応を図っていくという。
同社のHD DVD関連機器累計販売台数は、日本でプレーヤー約1万台、レコーダ約2万台。全世界の累計ではプレーヤーが70万台。そのうちアメリカが約60万台、欧州が約10万台。HD DVD搭載PCは世界では30万台で、そのうち北米が14万台、欧州が13万台、日本が2万台。HD DVDドライブの累計出荷は約200万台。「Microsoftの(Xbox 360用)HD DVDドライブは、数字を正確にはつかんでいないが、30万台ぐらいだと推測している」という。
なお、現時点でコールセンターに寄せられている相談としては、「現行のDVDプレーヤー/レコーダは今後も使えるのか?」というものが多いという。そのため、西田社長は「現行のDVDレコーダ/プレーヤーのユーザーには全く関係ない。適切な対応を行なっていきたい」と強調した。 HD DVDの終了後のBDプレーヤー/レコーダの開発/販売の可能性については、「現時点で、BDをベースにしたプレーヤー/レコーダを生産し、販売するという計画は全くありません」と言及。UniversalやParamoutなどのスタジオには、「説明はしているが、どういう決定を下すかは、スタジオの判断。私達からどういう風になると述べることはできない」とした
なお、HD DVD撤退による業績面での影響は、「現時点では確定していない。もうしばらく時間をおいて見極めたい」と報告した。技術者などの処遇については、「映像事業などグループ全体のなかで適材適所で考えている」と説明。米国市場における撤退に関する訴訟リスクについては、「十分に対応できる範囲ではないかと考えている」とした。 また、ユーザーに対しては、「現行のHD DVDはDVDとの互換性が100%あり、現行DVDソフトについても、アップコンバート機能を持っていて、ハイビジョンにほぼ近いような画質で見られます。レコーダについても、HDDのハイビジョンのレコーダとして利用できる。この点を利用者の皆さんに説明していきたい。商品の価値と、お客様に対するサービスを誠心誠意説明し、対応していきたい」と訴えた。 「なぜ、これだけ早い段階でHD DVD撤退という決断を下したのか」という質問に対しては、「客観的に眺めると、年末商戦のプレーヤーのシェアは当社が高かった。しかもPCのドライブもこれから増量を行ない一気に広げる状況があった。だが、その段階でのワーナーの方針転換はわれわれにとっては寝耳に水。これによって、アメリカのリテーラなどが様々な反応を示した。これが大きな理由。2つの規格で争われてきたことは、消費者に負担を与えることをわかったうえで、やむをえずやっていた。しかし、ワーナーがいなくなっても、細々と事業をやり続けるのは、消費者に迷惑をかけることでもある。また、競争という観点からも“もはや勝ち目はない”と判断した」と、素早い決断の理由を説明した。 一方、ワーナーについては「(12月までではなく)もう少し長い契約があった。にもかかわらず、そういう決断をされた。(東芝の)油断といえばそうかもしれないが、(契約期間中に)そういう決断をされたということ」と言及。また、ParamoutのHD DVD移籍時に金銭のやり取りがあったという報道についてその金額は戻ってくるのか? との質問については、「そういう憶測報道があるが、憶測にはコメントしない」とした。 ■ フラッシュに1兆7,000億規模の投資。集中と選択の一貫 HD DVD撤退に合わせ、NANDフラッシュメモリ工場の設立計画を発表。岩手県北上市、三重県四日市市の2カ所に、NANDフラッシュメモリ工場を建設することも明らかにした。投資総額は約1兆7,000億円を超える見込みという。 現在、四日市工場において4棟のフラッシュメモリ製造棟が稼働しているが、今後、北上市と四日市市の2棟の建設を同時に行ない、需要急増にこたえる方針。1棟は四日市工場の隣接地、もう1棟は岩手東芝エレクトロニクスの敷地内に建設する。 このうち、1棟については、Sandiskと協力し、投資を行なう方針で、300mmウエハーに対応した生産ラインの整備と、それに伴う新合弁会社の設立に基本合意した。1棟は共同運営となるほか、もう1棟についてもSandiskが参画する可能性がある。 生産規模は、300mmウエハー換算で「月産15~20万枚」とする。フラッシュメモリのほか、次世代メモリの生産も計画。新棟の建設は、2009年に開始。2010年の量産開始を目指し、シェア40%を目標とする。
西田社長は「2010年以降は、パソコンの記憶装置として“SSD”に期待しているほか、新たな市場創出も目指していく。将来にわたっての事業を考えたときに、10年先、さらに先を見据えた投資が必要。成長の手綱を緩めるわけにはいかない。市場の成長に対し、常に先手を打てる体制を整える。新棟の立ち上げによる供給能力拡大で、市場の変化にフレキシブルに対応できる体制を整えるとともに、技術開発力も市場をリードし、NANDフラッシュ、次世代メモリの事業競争力を強化していく。市場でのリーダーとしての地位を確固たるものとし、確固たる利益ある成長を図りたい」と訴えた。 最後に、「さらなる前進を図る事業と、歩みを止めて再構築する事業の2つを同時に説明させていただいた。事業の集中と選択という、性格の異なる意思決定ではあるが、環境変化をいち早く捉え、先手を打って対応してくことが不可欠と決断した。サブプライムに端を発した米国経済の先行き懸念や、原材料の高騰など、経営環境は楽観視できる状況ではないが、厳しい状況の中で利益ある成長を継続するため、スピード感を持った経営に邁進する」と、今回の決断について、理解を求めた。
□東芝のホームページ ( 2008年2月19日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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