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デジタル私的録画問題に関する権利者会議は29日、コピーワンス問題と私的録音録画補償金制度に関する合同記者会見を開催した。 地上デジタル放送の新録画ルールである「ダビング10」は、総務省の情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」における合意を持って、開始の期日が確定される。 委員会での合意に先立ち、社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)は、放送局と機器メーカーらの合意の上6月2日を開始予定日時と設定していたが、私的録音録画補償金制度の維持とHDD録画/録音機器への適用を求める権利者団体と、同制度の拡大を懸念する社団法人電子情報技術産業会(JEITA)における意見対立などから、5月に入ってからも委員会における合意が得られず、日時確定には至っていない。そのため、6月2日のダビング10実施は絶望的になっている。 同権利者会議は4月の会見で、文化庁 私的録音録画小委員会において、JEITAの委員から「文化庁案に沿ってバランスの取れた解を見つけるため真摯に努力する」という発言があったことから、「大きな変化であり、高く評価したい」と語っていた。しかし、その後、両者間の意見の隔たりは埋まらず、29日に開催を予定していた私的録音録画小委員会も延期となり、「また迷宮入りしてしまった(実演家著作隣接権センター 椎名和夫氏)」という。 ■ メーカーの主張は「ちゃぶ台返し 」
実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、「補償金問題を決着させようという意のあるメーカーが、補償金問題の決着に向けて、JEITA内部の説得の努力をしていた。兆しは折に触れ感じてきたが、そうしたメーカーについては心から感謝の意を表したいと思う。心あるメーカーの対応により、4月3日の“文化庁提案に沿って努力する”という意見表明など、前進が見られた」と“混乱前”の状況を振り返った。 現在の要因については、「“とあるメーカー”が極めて原理的に拒否反応を示し、議論の経緯も学習しないまま、さまざまな策を弄してJEITA内部で多数派工作を行なった結果、と聞いている。また、経済産業省というプレーヤーが新たに参入してきたことで、2年の歳月をかけてたどりついた“文化庁提案”に対する理解が十分でないことからくる、頓珍漢な対応が多々生まれ、混乱にいっそう拍車がかかっている」と現状を説明。それらを配布した資料の中で「ちゃぶ台返し (ノ-_-)ノ ~┻━┻」と表現し、新たに表明された懸念について反論した。
なお、ここで言及した「経済産業省の動き」については、「伝聞に基づくものだが、文化庁提案についてそれを受諾するのは難しいという方向に動かれているという風に聞いている」と説明。“とあるメーカー”については、「わかっていますが、記者会見の場ではいえない。議論を(メーカー批判に)誘導するつもりで言っているわけではない」とした。 新たに表明されたという「懸念事項」は、(1)「(補償金の対象となる)HDD内蔵の一体型機器は汎用機と区別がつきにくく、いずれ汎用機の指定につながる」、(2)「制度が縮小していく保証が無い」とのもの。 1については、「2年の議論を経てパソコンを制度の対象に加えないことに権利者は同意した。最大限の譲歩。一体型の機器と汎用機が区別がつきにくい、というが、HDDレコーダ/プレーヤーのどこがパソコンと見分けがつきにくいのか? メーカーはいったいいかなる販売戦略で売っている、理解に苦しむ」と反論。加えて、「録音録画メディアはMDやDVDからHDDに移行しつつある。対象の拡大ではなく、シフトしているだけ。一体型の機器を加えなければ補償金の実体は生まれない。これは(文化庁の)中間整理案でも書かれている」と訴えた。 2については、「拡大していく“ネットの世界”を補償金の対象から外す。まさに制度が縮小していくことの最大の根拠」と反論した。 また、「そもそもコピーワンスの問題の発端は“メーカーの落ち度”」と説明。「ムーブの失敗やクレームは、メーカーの技術力の未熟さとサポート体制の不備によるもので権利者と何の関わりも無い」とし、「補償金制度の範囲内で、できうる限りの可能性を模索した結果、ダビング10が生まれた。(総務省の)第4次中間答申に“権利者への対価の還元”が前提に謳われており、その策定に当たって、メーカーは何の意義も申し立てていない」とし、「メーカーは、権利者に尻拭いをさせながら、放埓な主張を繰り返して、第4次答申の実現を危うくしている」とメーカーの対応を非難した。 さらに、「権利者はダビング10を人質に補償金の拡大を主張している」との意見に反論。「ダビング10の実施期日確定にゴーサインを出すのは情報通信審議会の検討委員会。委員会で合意が得られないのは、メーカーが一貫性の無い行動を取るためで、権利者はダビング10を人質になどしていない」と強調した。 ■ 補償金制度撤廃を消費者は望んでいるのか? また、補償金制度が必要な理由について、「コンテンツビジネスにとってさまざまな送信や複製の手段がふんだんに提供されてきた。放送局自身をはじめとした様々なプレーヤーがネット流通に参入しているが、ネットに無償な複製コンテンツがあふれている現状では、いかなるビジネスモデルも成立しない」と現状の問題を挙げた。 さらに、「こうした無償コンテンツの流通は、ネットワークだけでなく、家庭内や友人の間でも行なわれている。無償コンテンツの発生、流通を機器や媒体が支えていることに疑いは無い。補償金は、そのような機器や媒体のメーカーが、複製に供される機器や媒体を販売することで得る莫大な利益の一部を権利者に還元させようとするもの。補償金制度の正当性は、今日強まりこそすれ、薄れてきたなどという見方はあたらない」と主張した。 また、椎名氏は「一番訴えたい点」として、文化庁案に沿って補償金制度が縮小され、契約と保護技術に変わるという未来像について「消費者は本当にそれでいいのでしょうか?」と問いかけた。 その理由は、「現在の補償金制度は消費者が負担するという建前のもとメーカーが負担している。メーカーもそう自覚している」とし、「補償金イコール消費者の不利益として言われてきたが、消費者が負担する構造が生まれてメーカーが負担のサイクルから未来永劫開放されるだけのこと。この関係に消費者は気づいていないのではないか。この状況が消費者の本当に望んでいることなのでしょうか?」と問題提起した。 ■ JEITAのダビング10アンケートは「大変良い調査」
日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏は、「4月の文化庁提案を受け、5月の小委員会で段階的にコンセンサスをとるべきだ、ということになった。この合意が取れれば補償金制度に大きな一歩となる。文化庁提案を要約すれば、補償金制度を縮小するが、音楽CDからの録音と無料放送の録画は補償金制度を当面利用するということ。この提案の根幹は、著作権保護技術の発展に伴うもので、これから新しい議論、関係が始まる。対立路線から協調路線へ移行できるはず。しかし、この後におよんで、被害妄想的な主張を繰り返すメーカーは理解できない。世界に冠たる家電メーカーが、知財立国を目標とする国家戦略を根底から否定することになりかねない」とし、「未来に向けてコラボレーションするために一歩踏み出してほしい」とメーカーに対して呼びかけた。 日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎氏は、「作家からいうと、なにやっているかわからない。憤りを通り越して、信じられない。いろいろな要因があるのだろうけど、わからない。物を作っている人間からすると落胆してしまう。話し合いは継続せざる得ないが、クリアな解決を早急に出してほしい」と述べた。 また、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫理事は、「補償金とダビング10は基本的には別の問題として動いていた。昨年、(中間答申で)“適正な対価”ということで、補償金の話ができてきた。であれば、今、補償金についていうのではなく、昨年言うべきだったのではないか」と語った。
加えて、菅原氏は、JEITAが28日に発表した「ダビング10への意識調査結果」についても「非常にいい調査」と言及。音楽CDの、主要な録音源についての調査では、「“レンタル/購入したCDの支払い対価に私的録音の対価が含まれていれば、保存されている音楽のほとんどに対して、私的録音対価が支払済みとなる”とされているが、これは“含まれておりません”。逆に言えば、“含まれていないのであれば……”という風にも考えられる」と調査結果から、補償金の必要性が読み取れると解釈。 さらに、録画の実態については、「ほとんどがタイムシフト。機械上の問題が無ければコピーワンスでよかったということ。コピーワンスで機械の問題があって、そこで利用可能性が広がった。そこで補償をどう考えるか、ということになるのではないか」と言及。「大変良い調査をしていただいた」と重ねて評価した。 また、「ダビング10の実施は、急がなければいけない状況だと思います。だけれど、なかなか進まない。メーカーの中に6月2日にやりたくないところがあるんですかね? そうだとすると4月におっしゃった“バランスを取るための議論”という話は、メーカーさんのバランスを取るためだったのでしょうか? 」とメーカーの姿勢について疑問を呈した。 □デジタル私的録画問題に関する権利者会議 ( 2008年5月29日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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