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ノイズキャンセリング機能の内蔵から、無線LAN内蔵、ワンセグ対応など、ポータブルオーディオプレーヤーの多機能化が進んで久しい。日本発売が話題の3G iPhoneは、“ポータブルプレーヤー”と言うよりはスマートフォン、PDAと呼びたくなる端末だが、iPodに最近大きな機能追加が無い以上、“iPodの進化した姿の1つ”と考えると、これも多機能化の一例に数えられるだろう。 機能的には“出尽くした”感も漂うポータブルオーディオプレーヤー。そんな中、国内の老舗オーディオメーカーであるビクターが、“音質”というプレーヤー本来の機能の土俵で、今までにない特徴を持ったプレーヤー「alneo」(XA-V80/40/20)を投入した。 最近のプレーヤーには、ほぼ全てと言っていいほどイコライザが内蔵され、ユーザーがある程度、音質をカスタマイズすることができる。「ポップ」や「ロック」など、カスタマイズプリセットを持った機種も多い。新しい「alneo」は、そんなイコライザによるカスタマイズ機能をより強化し、わかりやすくすることで、「接続したイヤフォン/ヘッドフォンや、聞いている場所によって再生音が変えられる」ことを前面に押し出したモデルだ。 閉塞感の漂うポータブルオーディオプレーヤー界に風穴を開けるアイデアとなるだろうか? さっそく使ってみた。
■ プレーヤーとしての高い基本性能 まずは基本仕様を見てみよう。カラー液晶を備えた、フラッシュメモリ内蔵型のプレーヤーで、メモリ容量8GBモデルの「V80」(実売27,000円前後)、4GBの「V40」(同24,000円前後)、2GBの「V20」(同19,000円前後)と、3モデルをラインナップしている。 iPod nanoの8GBが23,800円、4GBが17,800円なので、1,000円~3,000円程度高価になるが、それほど大きな差は無いと言えるだろう。デザインは縦長の筐体で、カラーリングはブルー(A)、ブラック(B)、レッド(R)、ホワイト(W)の4色。原色が目に鮮やかで、背面にはポップアート調に描かれたニッパーのイラストがレーザー刻印されている。レッドモデルなどは女性/男性問わず受け入れられそうなデザインだ。
外形寸法は89.3×44.5×10.5mm(縦×横×厚さ)。重量は46g。液晶ディスプレイは2インチで、iPod nanoと同じだが、解像度は220×176ドットと低め(nanoは320×240ドット)。ただ、IPS液晶を採用しているため、視野角は広い。alneoとしては初めて、動画の再生にも対応している。 右側面にホールドスイッチ。イヤフォン端子は底面に備え、PC接続用端子も底面に備えている。端子としては通常のUSBで、後述する同社メモリーコンポとの接続にも使用する。 操作ボタンは液晶下部に集約。中心に決定キーを備えた十字キーを採用。その周囲に再生/停止兼用の電源ボタン、戻るボタン、サブメニューボタンを配置している。メインメニューにはミュージック、ビデオなどの機能がアイコン表示され、左右ボタンでローリングさせながら選択/決定。早送り/巻き戻しは十字キーの左右、ボリュームは上下で行なう。
ミュージックでは、プレイリスト、新着トラック、アーティスト、アルバム、ジャンルなどから楽曲選択が可能。決定、もしくは左右ボタンで階層を降りていく。再生中のジャケット表示も可能。「戻る」ボタンで階層を登り、同ボタンの長押しで一気にメインメニューへジャンプ。「メニュー」ボタンは「サブメニュー」を意味しており、再生画面表示の変更や、「お気に入り」への登録、頭文字から検索ができる「インデックスサーチ」機能などが呼び出せる。 ボタン操作とディスプレイの動きに不一致感は少なく、既にポータブルプレーヤーを使ったことがあるユーザーならば、説明書を見ずに基本的な操作はできるだろう。レスポンスも良好だ。
音楽ファイルはMP3(8~320kbps)、WMA(8~320kbps)、WAV(16bit)の再生に対応。WM DRM10で保護された楽曲の再生もサポートしている。対応する動画ファイルはWMVのSimple Video Profileのみで、解像度は最大320×240ドット、30fps、ビットレートは最大384kbpsまでサポートする。 USBでPCと接続するとMTP(Media Transfer Protocol)接続モードとなり、楽曲の転送にはWindows Media Player 11が使用できる。同期転送、プレイリストの転送、アルバムジャケットを登録している楽曲はジャケット画像も一緒に転送可能だ。エクスプローラーでのドラッグ&ドロップ転送にも対応しており、「alneo V Series」内の「Internal Storage\Music」フォルダに楽曲を入れる。静止画は「Pictures」フォルダが用意されている。音楽の転送速度は56個のファイル、359MBのファイルで7分ちょうど。
動画の転送にはWindows Media Player 11を使用。転送時に自動的にalneoがサポートする、320×240ドットのWMV動画に変換される。そのため、転送には若干時間がかかる。解像度640×480ドット、278MB、24分程度のWMV動画を変換/転送したところ、Core 2 Duo E6600(2.4GHz)のマシンで所要時間は4分30秒程度。WMP 11で再生できる動画であれば変換できるとのことだが、XviDなど、コーデックにより変換できないものもあった。 公称再生時間はMP3再生時で25.5時間、WMAで24.5時間、WMV動画で6時間。イコライジングの変更や動画再生を頻繁に織り交ぜながら、MP3/WMAを再生していたところ、21時間程度でバッテリが無くなった。
■ 豊富、かつわかりやすい音質カスタマイズ 全音質設定をOFFにして再生音をチェックしてみたが、非常にニュートラルな音質が印象的。低域の分解能が高く、ロックやポップスでボリュームを上げても破綻しにくい。中広域は解像度の高さを強調するタイプではなく、しなやかな伸びが印象的。女性ヴォーカルが得意だ。低域に迫力があるソニーのウォークマンや、全域の分解能が高い東芝のgigabeatよりも、ケンウッドのMediaKegに近い音作りで、落ち着けるサウンドだ。 本機最大の特徴は、接続するイヤ/ヘッドフォンや、聴取する場所(環境)に合わせて、再生音を変えられること。と言っても、何か特別な技術を搭載しているわけではない。基本はイコライザを使った調整なのだが、イヤフォン/ヘッドフォンの種類や、聞く場所に応じたプリセットを備えており、それらを組み合わせることで、手軽に“その場所&接続した機器”に合わせた再生音に設定できる所がポイントだ。 この機能はメインメニューにある「サウンド工房」で利用できる。アクセスすると、あらかじめ作成された「プリセット」を選ぶか、その場でカスタマイズを行なう「チューニング」のどちらかを選択する。プリセットを選択すると、上下に2ラインのアイコンが表示される。上のラインが現在の環境(場所)を選ぶ「リスニングシーン」、下が接続している機器を選ぶ「ヘッドフォン」のラインだ。
「リスニングシーン」には「サブウェイ」、「ストリート」、「パーク」、「ルーム」の4環境、ヘッドフォンには「インナー」(イヤフォン)、「カナル」(イヤフォン)、「オープンエア」(ヘッドフォン)、「密閉」(ヘッドフォン)の4タイプが用意される。例えば「地下鉄の中でカナル型イヤフォンを使う」と選ぶだけで、場所と再生機に合わせた音質が設定されるというわけだ。
まずはそれぞれのモードの特徴を知るため、静かな室内で、個人的にリファレンスイヤフォンとして使っているオーディオテクニカのカナル型「ATH-CK7」を用いて、各モードを選択してみた。各モードの音質インプレッションは以下の通り。
書き出してみると、「ヘッドフォン」の項目は、接続したイヤフォン/ヘッドフォンが苦手とする帯域の音を増減させることで、音の欠点や特徴を弱め、できるだけニュートラルな音に近づけようとしていることがわかる。逆に「リスニングシーン」では騒音をノイズキャンル機能で消すことはできないので、騒音で聞き取りにくくなる帯域を強調。主旋律や音楽を支える低いビートなどをすくい上げることで、どんな環境下でも“音楽を楽しめる音”に積極的に音作りしているようだ。 実際に街で使ってみると、静かな室内ではあれほど低音過多なドンシャリサウンドに聞こえた「サブウェイ」も、地下鉄で使えば極めてニュートラルに聞こえる。実際には低音過多なのだが、電車の騒音に大半はかき消され、それでも低域を強調したことで消されずに残った音が耳に届く。その分量が中/高域と比べてバランスが良いので、総合的にニュートラルに聞こえるという仕組み。騒音は確かに聞こえ、決して“フラット”とは言えないのだが、音楽はハッキリと明瞭に楽しめるというちょっと不思議な体験だ。 ホームに降りれば、今度は低音ばかりが耳につくので「ストリート」に変更。地下街から外に出たら「パーク」に、会社に戻ったら「ルーム」にと、一度合わせると、場所を変えるたびに頻繁に設定を変えたくなってくる。
■ より詳細な補正も可能 前述の「サウンド工房」で「チューニング」を選ぶと、「簡単チューニング」と「詳細チューニング」が現れる。これは、各周波数帯域で個別に再生されるチェック音声を聞きながら、前述のプリセットより細かな補正を行なうものだ。「簡単チューニング」は、ボーッボーッや、チーッチーッというような確認用ノイズが低域から高域にかけて、5種類の音で再生され、それぞれが聞こえた最小のポイントでタイミング良くボタンを押すというもの。5種類の音全てをクリアすると、最後に測定結果の周波数曲線が表示され、それを2個まで登録できる。 「詳細チューニング」では、各帯域で左右チャンネルのバランスも調整でき、帯域の補正は自動的に音が再生されるのではなく、各帯域で自分でバンド位置と高低をじっくり操作し、音が最小で聞こえるポイントを指定できる。使い分けとしては、時間がない時には自動的に調整用ノイズを次々と出してくれる「簡単チューニング」か、前述のプリセットを、その場でじっくり音を追いつめる時間があれば「詳細」を選ぶほうがいいだろう。
前述のプリセットのように、シーンやヘッドフォンといった2系統の補正は存在しないが、その場でチューニングを行なうことで、結果的には「その場所と、接続している機器で再生した場合、フラットな音になる」よう補正ができる。
試しに地下鉄の中でチューニングしてみると、騒音に埋もれて低いテスト音がまるで聞こえない。高域にも聞こえる帯域とそうでない帯域が存在し、結果としてかなりいびつな測定結果となった。だが、適用して音楽を再生すると見事に補正され、非常に違和感の無い音が流れ出す。当たり前と言えば当たり前のことなのだが、妙に新鮮な体験だ。
■ スタジオ・セッティングとサウンド工房は排他利用
もう1つの特徴と言えるのが、高音質再生用として「スタジオ・セッティング」モードを備えていること。これは、ビクタースタジオと協力して作り上げたというモードで、alneoをビクタースタジオに持ち込み、スタジオ側が用意したWAVファイルを用い、alneoをモニタースピーカーなどと接続し、スタジオエンジニア達の耳で音質を追い込んでいったという。 前述のイコライジングではなく、システム的にも別の処理が加えられており、音楽ファイルをD/A変換前にビット拡張する「オーバーサンプリングK2処理」が行なわれている。16bitなどのデータを一旦24bit/96kHzの信号に変換した上で、DACでアナログ変換することで、より高音質な再生ができるというものだ。 ONにすると、ふわっと音場が広くなるのがわかる。坂本真綾「トライアングラー」では、ボーカルの消え際がよくわかるようになり、音楽が立体的になる。個々の楽器の分離が良くなり、サ行のキツさもしなやかに緩和される。アカペラのジャミン・ゼブ「スマイル」も、個々のシンガーが立つ感覚が広がったようだ。低レートでエンコードしたファイルの高域の荒れ緩和にも効果的だ。
いずれにしても、先ほどまでのイコライザで“音をいじくる”変化ではなく、極めてオーディオ的な、音楽の質感、表情、分解能などの向上が確認できる。静かな室内……つまり、イコライザプリセットで「ルーム」を選ぶような環境では、むしろイコライザはOFFにして「スタジオ・セッティング」を選んだほうがいいだろう。
ただ、ここで問題がある。この「スタジオ・セッティング」と「サウンド工房」のイコライザ設定は排他利用なのだ。正直言って地下鉄内で「スタジオ・セッティング」による音の違いをブラインドで聞きわけられる自信は無い。そういった意味で“環境系”のイコライザ補正と「スタジオ・セッティング」は両立できなくても良い。
だが、ヘッドフォン/イヤフォンの再生音をフラットに近づける補正と「スタジオ・セッティング」は両方同時に使ってみたかったというのが正直な感想。処理的重くなり、イコライザを通すことで音に影響が出るための処置だとは思うが、次期モデルでは両立させて欲しいポイントだ。
ここで、付属の新開発イヤフォンも聞いておこう。開発時にこのイヤフォンを用いての音質検討が行なわれたとのことだが、低域にパンチのあるロック/ポップス向けの音作りが印象的。個人的にはちょっと低音が過多に感じられた。もちろんイコライジングをすれば、この傾向は弱めることができる。
■ 同社コンポとの連携をサポート フラッシュメモリを内蔵した「メモリーコンポ」(UX-GM77-B)も同時期に発売される。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5万円前後。本体上部に「alneo Vシリーズ」と連携可能な「alneoドック」を装備したのが特徴。CDからalneo VへWMA形式で楽曲録音が可能。デッキはCDとMD、AM/FMチューナも備えている。PCレスでリッピング/転送が完結するのは嬉しいポイントだ。 なお、コンポとの接続時には、USBデジタルメディアストリーミングに対応しているため、デジタルデータのまま楽曲再生が可能。コンポ側でD/A変換ができる。また、同社のコンポ「UX-GM77/70/50」と接続した場合には、WM DRM10で保護された楽曲も、デジタルのまま伝送/再生が可能。音楽ファイルのムーブにも対応しており、コンポの内蔵メモリに楽曲を保存可能。ただし、DRM10で保護されたファイルは転送できない。
■ 「より良い音で聞きたい」という意識改革
1週間ほど使ってみて感じるのは、「サウンド工房の楽しさ」に尽きる。とは言え、2ラインのプリセットを組み合わせるという“使い方の斬新さ”はあるものの、中身は結局のところイコライザであり、イコライザが入っているプレーヤーで同様のことをするのは可能だ。 普通のユーザーの場合、購入したイヤフォンの音質に不満があった時にイコライザで補正し、フラットな音に近づけるという使い方がメインだろう。逆に、それを設定してしまうと、毎日違うイヤフォンを使うわけでもないので、イコライザ設定を頻繁に変えることは少ない。再生する音楽のジャンルに合わせてプリセットを選べる機種も多いが、楽曲ジャンルを自動判別して設定が変わるわけでもなく、曲を再生するたびに手動で変えるのは面倒なので、マメに変える人も少ないだろう。「結局のところ、どんな音楽でもそつなく聴ける“イコライザOFF”しか使っていない」というユーザーも多いはずだ。 alneoの魅力は、アイコンを使ってイコライザ機能を手軽/わかりやすくすることで、“積極的にこの機能を使いこなそう”という意欲を沸かせる事にある。外出時は「ストリート」、電車に乗ったら「サブウェイ」を選ぶなどしているうちに、「この場所ではどの設定がいいんだろう?」、「最適なプリセットが無いから詳細チューニングをしてみようかな?」など、いつのまにか能動的に音質改善にいそしむ自分に気付いた。AVアンプで自動音場補正がトレンドになったように、ポータブルプレーヤーでこそ“積極的なイコライザの活用”に意味があると気付かせてくれる。
改善を望むポイントとしては、このイコライザ設定がメニューの案外深い部分にあるので頻繁な変更に向かないこと。専用ボタンを設けて気軽に切り替えられるようにして欲しい。保存可能なプリセット値の増加も希望したい。また、プリセットデータをユーザー同士が公開/交換できるようになれば「○○社のイヤフォン○○を、総武線の中で使う時のデータ」など、よりマニアックな音作りの世界が広がりそう。ともあれ、“音楽を良い音で楽しむ”というプレーヤー本来の機能を強化した製品として、注目に値するモデルだ。
□日本ビクターのホームページ
(2008年6月27日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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