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パイオニアに聞く「20層/500GB光ディスク」の可能性
-20層構造の基本技術を確立。記録対応が課題



 7月7日、パイオニアは世界初という容量400GB/16層の再生専用光ディスクの開発に成功したと発表した。

多層ディスク用のドライブシステム

 1記録層あたりの容量がBlu-ray Discと同じ25GBながら、16層という多層化により12cm径の光ディスクで、400GBの大容量を実現したものだ。同技術の研究成果は、広報発表の6日後の7月13日にハワイで開催された国際学会「ISOM/ODS2008」で発表されたが、その際には20層、500GBでも実現可能なことが報告された。

 この大容量/多層ディスク、記録型への応用は可能なのだろうか? また、対物レンズの光学的仕様など基本構造はBlu-ray Discを踏襲していることなどから、今後、BDの多層/大容量化につながるものなのだろうか? パイオニアに新技術の特徴を聞いた。



■ 多層化に向けた3つのブレークスルー

 ISOMでは、2006年に光学メディアにおけるロードマップを発表。2010年に500GBのディスクを実現するとの目標を提示していた。こうした目標に向けて、パイオニアが提案したものが、今回の多層ディスクとなる。

 パイオニアが提案した方式の特徴は、Blu-ray Discに近い構造のディスクを多層化していること。NA(レンズ開口率)など、対物レンズの光学仕様をBDと同一とし、1層の容量も25GBとBDに準じている。これにより、ドライブ部分の基本的なコンポーネントをBDから継承可能とし、量産実現性にめどをつけながら、大容量化を図っている。

 だが、光ディスクにおいて多層化を行なうことは非常に難しい。DVDやBlu-rayの2層の実現にも様々な技術的困難が伴ったが、当然16~20層という多層化についての課題は多かったという。

 その課題は大きく分けて以下の3つだ。

  • 多層化による光学ロス
  • 隣接する層からのクロストークと多重反射によるクロストーク
  • 球面収差

誘電体膜の採用で光の透過ロスを減少

 まずひとつは、多層化による光学ロスだ。通常の光ディスクでは、アルミや銀などの金属系の反射層を用いるが、これでは多層化時に奥の層までレーザー光が届かない。そのため、記録された情報を読こむことはできない。

 今回、記録層の素材にNb2O5(五酸化ニオブ)を採用。誘電体層での反射率は3%程度と、金属系の素材に比べると大幅に少ないものの、十分なアイパターンを示しており、後述の技術と組み合わせることで、多層化しても問題ない性能が得られることが確認できたという。

 しかし、単純に等間隔で層を重ねていくと、隣接する層ごとにクロストーク(信号干渉)を起こして、信号劣化を起こしてしまう。こうなるとS/Nが悪くなり、いくら膜の透過率が優れていても、多層化したデータを読み取りにくくなってしまう。

 そこで考案されたのが層の厚みを2種類にすること。つまり、奇数層と偶数層で厚みを変えることで、となりあう層の間でのクロストークを抑制したのだ。これにより、ほぼ半分まで干渉を減らせたという。層の厚みは、16層ディスクで、奇数層の誘電膜が10μm、偶数層を14μmとした。同ディスクのカバー層は30μm(通常のBDは100μm)のため、すべてを重ねても16層で厚みは200μm程度に収まっている。

10μm以上のスペーサーが必要 層厚を変えることでクロストークを抑制


総合的な球面収差設計のもと層の厚みを決定

 また、層を重ねると、球面収差の影響が大きくなるため、ドライブ、ピックアップ側の対応も必要となる。同社では、シミュレーションによる総合的な球面収差設計のもと、層の厚さを10μmと14μmと決定した。

 16層の実験では、対物レンズにBD第1世代の量産品をそのまま利用。球面収差補正の部分を一部変更しているものの、特殊なものでなく量産品の応用という。20層では、残留球面収差の影響を少なくした対物レンズを採用している。

 ディスクの製造は、液体の紫外線樹脂をスタンパではさみ、スピン方法によって生成している。ディスクは同社による手作りだが、ばらつきも少なく、量産化に向けた課題は多くないという。今回製作したディスクも、選別品によるいわゆる「チャンピオンデータ」では無いとしている。

 同社の検証では、16層、20層のディスクの全層でジッタ10%以下を達成しており、再生系として実用的な性能を実証できたとしている。光学系もBDに近く、また、今回の試作ドライブシステムのレーザー出力も、現在のBD再生用のものより若干強い程度。なお、試作システムでは、通常のBDのデータ読み取りも可能となっているという。


■ 将来展開のためには記録型用の材料が必要

 こうしてみると、将来有望で実用化も近そうな技術に見えるが、まだ課題はある。まず、大容量のアーカイブという光ディスクへの市場ニーズを考えれば、やはり「記録型」が必要。しかし、この点ではまだ実用化に向けたハードルが残っている。

20層/500GBの特性を確認

 今回は、再生専用ディスク向けに誘電体を素材に選んだが、記録型の多層材料についてはまだ適したものは見つかっていない。パイオニアも、「ディスクの構造は確立したので、記録材料をいれてさらに進めたい」としており、材料メーカーなどの提案に期待しているという。

 気になるのは、これがBlu-ray Discとして実際の製品化に向かうか、という点。パイオニアでは、「あくまで、BD技術を応用した研究開発として実施したもの」としており、また現時点ではBlu-ray Disc Associationにおいても多層化のワーキンググループは無い。そのため、すぐに規格化がスタートするわけではなさそうだ。

 パイオニアでは「記録メディアさえできれば、システム(ドライブ)はできることが実証できた」としている。光ディスクの可能性を広げる新しい提案の今後に期待したい。

□パイオニアのホームページ
http://pioneer.jp/
□ニュースリリース
http://pioneer.jp/press/2008/0707-1.html
□関連記事
【7月7日】パイオニア、世界初の16層/400GB光ディスク技術を開発
-Blu-rayと互換性も。大容量アーカイブ実現へ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080707/pioneer.htm
【2006年6月6日】CEATEC JAPAN 2006【記録メディア編】
マクセル、体積記録型カートリッジ「SVOD」を出展
-TDKの6層/200GB BD-Rもデモ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061004/ceatec11.htm

( 2008年8月12日 )

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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