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デジタルインターフェイスのHDMIなどを推進する米Silicon Imageは、2009 International CES会期中に、近郊のMGM Grandホテルで顧客向けのプライベートイベントを開催した。 8日には、新しいホームネットワーク技術「LiquidHD」を発表。テレビや、パソコン、ポータブル・メディア機器など、LiquidHD対応のソース機器から、同一ネットワーク上のLiquidHD対応機器に、映像や音声をストリーミングで伝送する技術となる。 今回このLiquidHD技術について、Silicon ImageのPayam Kermani氏に話を伺った。また、LidudHD以外にも、同社イベントでは携帯機器向けのHD映像出力規格「MHL」、HDMIの高速切替技術「InstaPort」のデモが行なわれていた。また、展示はなかったものの、6日にはHDMIの次世代バージョンのコンセプトも発表されている。 ■ 家庭内ネットワークで映像を共有する「LiquidHD」
LiquidHDは、1台のソース機器に表示されている映像を、同一ネットワーク上のクライアント機器から同時にストリーミング視聴可能にするテクノロジー。 例えばLiquidHD対応のテレビの番組を、同一ネットワーク上のLiquidHD対応PCディスプレイや、CATVセットトップボックスからも視聴できる。また、CATV用のHDDビデオレコーダにLiquidHDソフトウェアを導入し、対応のクライアント機器で、番組をネットワーク視聴することなども可能となる。 HDMIは、基本的に1台の機器に対して、1台までの出力を行なう「1対1」の関係となる。対してLiquidHDは、複数の機器への同時出力が可能となり、その出力のためにネットワークを利用するものだ。レシーバ側ではMPEG-4 AVC/H.264、MPEG-2、VC-1のデコーダを備えており、対応映像ソースであれば再変換を行なわず、そのまま伝送できる。
LiquidHDの対応のために、ソース機器側に専用のソフトウェアを内蔵する必要がある。一方、クライアント機器については、LiquidHD専用のLSIを搭載する。このLSIを機器に追加導入するだけで、容易にLiquidHD機能を導入できるのが、この技術の特徴となる。 Ethernetのほか、MoCA(同軸ケーブル)、HomePlug(家庭用電源ライン)、無線LANなどの既存のIPネットワーク上で動作するプロトコルセットとして設計されており、同一のネットワーク内であればソース機器の映像を共有できるようになっている。なお、外部ネットワークへの配信などには対応しておらず、同一ルータ内のネットワークでの共有までが許可される。 LiquidHDは以下の5つの技術で実現されている。
同一ネットワーク上であれば、電源起動後に瞬時にソース/クライアントの双方が瞬時に相互に対応機器を認識。LiquidHDソース機器からの配信数に制限はないが、100BASE-TXのネットワーク(100Mbps)で、20Mbps相当のHD映像を配信する場合は、ネットワークの制限から4~5本程度までということになる。 テレビチューナやビデオレコーダなどの映像をそのままネットワーク経由でクライアント機器から視聴できるだけでなく、リビングルームのテレビで見ていた映画やテレビ番組などをリモコンで一時停止し、続きを別部屋のテレビやパソコンで楽しむ、といったことも可能となる。Wake On LANにも対応する。機器操作のインターフェイス技術として、「LiquidPixels」を採用。STBやBlu-rayプレーヤー、HDTVなどのソース機器のインターフェイスをそのままクライアントに表示し、そのリモコンで操作可能としている。 著作権保護についても、ハリウッド各社と協議を進めており、6日にはFOXグループがLiquidHD支持の声明を発表。新しいネットワークAVソリューションとしての足元を固めている。また、米国のCATV大手ComcastもLiqudHDを支持。「マルチルームDVR」としての活用に期待をかけているという。 Silicon Imageでは、LiquidHDクライアント用のディスプレイプロセッサ「SiI6100」と、LiquidHD SDKを開発。ソース機器に専用ソフトウェアを、クライアント機器にプロセッサを提供する。サンプル提供の開始は、2009年第2四半期を予定している。SiI6000にはMPEG-4 AVC、MPEG-2、VC-1のHD/SDデコーダや、AAC、DTSデコーダ、LiquidHD用のネットワーク検出機能などを含むプロトコル群を集積している。
さらに、業界標準化への取り組みも進めており、2009年の早い段階でLiquidHDに関するコンソーシアムを設立、規格化や認証委員会などの機能を設置し、早期の普及と業界標準化を目指す。HDMIにおけるHDMI Lisensingのような、ライセンス管理会社の設立も計画しているという。これにより、ライセンスを受けて、認証を取得すれば、Silicon Image以外の企業でもLiquidHD対応のチップセットやソフトウェアを開発/製造できる。 Silicon Imageでは、HDMIとともに、ネットワークを活用した新しいAVソリューションとしてLiquidHDを訴求していく方針。実際にリファレンスキットを使ったデモも行なわれていた。
■ 携帯用MHLや、高速切替InstaPortのデモも
また、既存のHDMIやモバイル用の伝送規格MHLについても実働デモを行ない、新しい展開をアピールしている。 携帯機器向けの「MHL(Mobile High-Definition Link)」は、HDMIやDVIと同じTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)技術による映像/音声伝送を可能としながら、ピン数を減らし、端子を小型化することを目的としている。 例えば携帯電話では、各端末メーカーが充電、PC連携、ビデオ出力などの機能を統合した端子を1つ搭載しており、そこにHDMIを追加実装するとなると、実装面積やコストの面で問題があり、小型/軽量化にも都合が悪い。 HDMIでは19本というピンアサインがあらかじめ定められているため、こうした小型化には応じづらい。こうしたマルチコネクタの中でも、HDMIに相当するHD映像出力を可能とする新しい規格として、3ピンでHD映像出力が可能なMHLを策定した。 コネクタ形状の規定は無いが、リファレンスのコネクタとしてマイクロUSBなどが用意されている。今回の展示ではiPhoneにマイクロUSB端子を追加し、HDビデオ出力と充電を1つのコネクタで実現するというデモが行なわれていた。
さらに、HDMIポート間の切り替え速度を改善する技術「InstaPort」の展示も行なわれていた。従来は4~7秒ほどの切り替え時間を要していたHDMIポート間の切替を、約1秒までに短縮するという技術だ。HDMI Ver.1.3の規格の中で、Silicon Imageの特許技術を用いて実現しているため、同社以外のLSIでは対応しないという。 具体的には、著作権保護技術のHDCPの認証を、テレビやソース側の機器を立ち上げた際にバックグラウンドで同時に実行することで、切替の度に発生していた認証プロセスを排除。切替を高速化するもの。必須用件は、ディスプレイ機器側に対応LSIを搭載することで、出力機器側は特別な対応の必要はないという。今回は、対応レシーバ搭載のリファレンスボードを用いて、従来製品との切り替え速度比較デモが行なわれていた。 製品についても、Samsungをはじめ、東芝などからもInstaPort対応製品の投入が発表されている。
なお、6日には米国テレビ芸術科学アカデミー(NATAS)が、Silicon Imageを始めとするHDMIファウンダーに対して「エミー賞」(技術・工学部門)を授与。業界標準となったHDMIの過去6年間の規格の開発・推進における貢献を讃えたものという。 だが今後もHDMIは進化する。次世代HDMIでは、HDMIケーブル上でのEthernet対応や、帯域の拡張による3D、4K/2K対応などが予定されているほか、19ピンの小型端子や自動車用の新型端子などの追加も計画している。バージョンナンバーは、現在の1.3から1.4になるのか、2.0になるのかは明らかにしていないが、大きな進化が見込まれる。 LiquidHD、HDMIともに、次世代のAV機器の姿を予感させるSilicon Imageの製品戦略。インターフェイスという一見地味な領域ながら、“利用者の不満の解消”や新しいコンテンツのあり方を提案するユニークな技術がそろっている。その実現に期待したい。 □Silicon Imageのホームページ(英文) ( 2009年1月14日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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