2017年10月24日 08:00
先日、Windows 10に大型アップデート「Fall Creators Update」が行われた。筆者にも依頼があったので、いくつか解説記事を書いている。
いまや、OSのアップデートは「定期的行事」として行われるようになっている。機器の性能はソフトやサービスの改善によって日々進化するのが当然だ。Windows 10においても、過去のようなメジャーバージョンアップに伴うパッケージ化は行われず、同じ「Windows 10」というOSが進化していく「ローリング・リリースモデル」が採用されている。
スマートフォンやタブレットでは、OSがハードウエアに組み込まれて提供され、ハード設計と分割するのが難しくなっている。そのため、OSのアップデートはハードウエアメーカーの責任において、適宜行われる形になっている。ゲーム機も、ハードとOS、サービスが一体のものとなってアップデートされ、価値が向上していく。どちらもPCとは異なるビジネスモデルだが、もはやこちらの形の方が、我々にとってもお馴染みになりつつある。Windowsだけでなく、macOSも年一度のアップデートが無料で行われる形だが、アップルの場合、ハードとOSは製品として不可分なので、スマートフォンやゲーム機に近い構造になるのは必然といえる。
このような構造になると、メーカー側としても、「OSの進化でどのような価値向上が行われたか」をアピールすることは、マーケティング施策上、きわめて重要なことになってくる。メジャーなOSの大型アップデートの時期は概ね決まってきた。アップルはiOSもmacOSも秋に行い、Androidも秋。Windowsは春と秋の2回。消費者側に「この時期にはOSの改変によって価値が向上する」というイメージをもってもらいやすくなるからだ。特にスマートデバイス用OSが「秋」に集中しているのは、新製品の発売タイミングをそこに合わせることで、「OSのアップデートによる価値向上」と「ハードウエアの新製品」の両方を訴求できる、という利点がある。1年もしくは半年に一度のアップデートというのは、「これ以上期間が長くなると消費者の興味が離れていく」というマーケティング上の要請に基づく決定である部分も大きいだろう……と思われる。
テクノロジー企業にとっては、「進化・変化をアピールすること」は非常に大切なことである。正直なところ、PCにおいてもスマートデバイスにおいても、OSはかなり成熟しつつあり、アップデートによる差のアピールが難しくなってきている。「動いていればもう変化はいらない」という消費者もいる。だが一方で、年単位で世界を見れば、OS・サービス・機器の観点で、進化と改良は必然だ。「このままでいい」部分は、まだ意外と狭い。新製品を売る、という観点でいえば、「今とは違うこと」をアピールするしかなく、そこでは「改良点」「改善点」が大きな意味を持つ。残念ながらテクノロジー製品は、万年筆やフォーマルウエアのように「変わらない価値」のアピールで売るのが難しい製品である。
とはいうものの、その「変化」が消費者にとってわかりやすいか、はまた別の話である。毎年のOSの変化をきちんと把握している人はどのくらいいるだろう?
数年の単位でみれば、OSは確実に進化していく。だが、毎年決まった時期に大きな進化を用意できるか、というと、本来はそんなに簡単なものではない。数年のロードマップを描き、その中で「どの年にどういう進化を見せるか」という計画のもとに進めていく必要が出てくる。毎回、その時点での最高の価値を顧客に提供……というパターンにすると、ペース配分で破綻する。そうなると、消費者側から見ると、機能アップにはどこか「小出し感」が感じられる場合が大きくなる。
特にWindows 10は、大型アップデートを「年二回」と設定しており、さらに、スケジュールを厳守する方向性にあるため、この「小出し感」がより強く感じられる。一方で、先行テスト版にあたる「Windows Insider」では、年二回のアップデート時期よりも先に逐次機能が提供されていき、そのニュースがメディアなどを通じて伝えられるため、「いつどの機能が実装されたのか」がわかりづらくなっている。
どこもそうなのだが、アップデートの「派手な機能」のアピールはするのだが、「どの機能がどう変わったのか」という詳細なドキュメントを用意してくれない。一応技術的ドキュメントが用意されている場合もあるのだが、情報はいろいろな場所に分散していて、把握が難しい。広報担当者にそうした「変更リスト」の存在を確認した際、「ない」と答えたメーカーは意外なほど多い。
利用者の観点から言えば、「追加」だけでなく「削除」や「変更」の方が大きな影響があることも多い。例えば、iOS11の「アクションセンター」では、Wi-FiやBluetoothのオンオフができるものの、iOS11での切り替えは「一時的な通信の切断」であり、過去とは異なり、通信機能そのもののオンオフを示していない。今回Windows 10のアップデートに関する記事を書く時にも、「どれが今回のアップデートで追加されたのか」「いままでの機能のどこが変わり、なにがなくなったのか」という間違い探しにかなりの時間を割かれた。
筆者のように解説記事を書く立場の人間だけでなく、企業システムを作る人々なども、「アップデートによってなにが変わるのか」を把握しておく必要がある。アップデートによる仕様変更点・機能改善点の完全なリストは、どのOSメーカーも提供していない。
「もはや、OSの細かな機能の違いを気にする必要はない。常に進化しているのだから」
そういう考え方もわかる。特にクラウドサービスは、細かな変化は日常茶飯事であり、機器のOSのような「定期的アップデート」のアピールはない。ニュースになるのは、特別な機能が追加されたり、デザインが大きく変化した時だけだ。
だが、お願いだから、「変更の一覧」の提供を考えていただけないものか。普段使っているものの挙動が変わったことに不安を感じさせないためにも、新しくなることの価値を理解してもらうためにも、非常に重要なことのはずだ。
そうした情報をいかにシンプルに提供し、周知するのか、という点についても、早急な議論が必要だと考える。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。
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