小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

セルフィーのためのスマホ、Wiko Viewから見えるもの

11月22日、フランスのスマホメーカーWikoが、国内向けの新商品を発表した。白金のフランス大使館内で行なわれるということで、珍しいと思い足を運んだ次第である。

フランス大使館は、手荷物検査などセキュリティチェックを通ったあと、プレゼンホールに入れるようになっていた。内部の写真撮影は禁止ということで、写真をお見せすることができないが、作りはあまりフランス的ではなく、庭園的なテイストを上手く取り込んだものとなっている。

フランス大使館の入り口付近。この向こうにセキュリティゲートがある

ハイスペックなインカメラ搭載

Wikoはフランスにおいてシェア20%を握るスマホメーカーで、今年3月にTommyという端末で日本デビューを果たした。このとき発売されたTommyは、そこそこの性能を持ちつつ実売13,000円以下として話題になった。「格安スマホ」は通常MVNOのSIMプランとセット売りされるケースが多く、あまり単体の値段が意識されないところではあるが、ASUS、ZTEじゃなければFREETELかALCATELという選択肢しかない中、フランス製というアドバンテージで割り込んできた格好である。

今回発表されたViewは、それよりもやや上級モデルで、価格は2万8千円前後の予定だ。発売は12月を予定している。18:9というやや縦長の液晶を採用し、画面サイズの割には横幅が狭く握りやすいサイズを実現した。

国内投入される「View」

個人的に興味を持ったのは、カメラのスペックだ。メインカメラが1300万画素なのに対し、インカメラのほうを1600万画素とハイスペックになっている。特徴がない低価格端末の中で、セルフィ重視という性格を打ち出し、女性層を狙う。

インカメラのほうが性能が高いという変わり種

そもそもiPhone 8のインカメラは700万画素である。もちろん、絵の良さは画素数では決まらないが、多くのインスタ女子は、iPhoneのインカメラのスペックに不満を持っている。インスタ用の2台目、という線はあり得るのではないか。

日本では「インスタ映え」が一つのテーマとなっている。食べ物や風景など、シーンを撮影する人も多いが、良くも悪くも多く話題になるのは、セルフィのほうである。最低限、写りのいいスマホを使うという大前提はあるにしても、Instagramでの人気女子がどのスマホを使っているか、あまり話題になることはない。「かわいい」はアプリで作れる時代なのだ。

そう考えると、インカメラに1600万画素を搭載したViewの存在は、際立ってくる。インカメラは単眼だが、背景ぼかし機能も備えており、インカメラ側にフラッシュも装備している。

価格が安いところも、ポイントだ。綺麗なポートレート撮影ともなると、本体だけでなく道具も色々必要になる。別途セルフィ用LEDライトはもちろん、動画配信する人にはマイクも必要だ。そうなると、地味に周辺機器にお金がかかる。配信・セルフィ専用スマホとして3万円弱は、いい線だろうと思う。

サービスからハードウェアを選ぶ時代

セルフィ動画配信プラットフォームとして、最近注目を集めつつあるのが「17Live」である。元々は台湾発祥のアプリだが、中国やインドネシアなどのアジア圏において、結構大きなブームとなっている。今年1月から日本でもサービスインしたが、アジア圏においては日本での普及が一番遅れており、今年末から来年にかけて注目を集めるのではないかと思っている。

日本でも来る?「17Live」

構造としては、Twitter/Instagramとライブ配信が一緒になったような作りだ。ユーザーはいつでもテキストや画像投稿ができるが、もっとも多く利用されているのが、ライブ配信である。

アプリを落として見てみればわかるが、やってることは昔のニコ生だ。ただし生主はどれもルックスに自信のある子である。このライブ配信最大の特徴は、気に入った子には有料の「ギフト」を提供できるところだ。このギフトの数で毎日ランキングが入れ替わり、「人気ライバー」の座を巡って激しい競争が行なわれている。

そのモチベーションはどこから来るかというと、このギフトはUSドルに換算されて、ライブ配信者に支払われる仕組みになっているのだ。人気ライバーともなれば、一晩で20,000ドルも稼ぎ出すという。ただし、まだ日本では利用者が少ないため、そのレベルの稼ぎに到達できている人はいないようだ。

もちろんそこまでになるためには、かわいいだけではダメで、視聴者とコミュニケーションするDJとしてのトークセンスも問われる。歌を披露して人気を集める子もいる。当然そのためには、音楽をポンだしする必要もあるし、マイクもいいものが必要だし、エコーなどのエフェクターも必要だ。バックに写り込む背景もあったほうがいいだろう。

配信がスマホでしかできないことから、カメラにプロ機を持ち込むといった差別化ができないところから、映像のプロが乗り出してきて総取り、という事にはならない。

こうした背景から、セルフィ特化のスマートフォン市場は、今後アジア圏を中心に爆発する可能性を秘めている。Wikoがそこに座るかどうかはわからないが、ハードウェアがそれほど高い物でなければ、アプリやサービスがハードウェアの人気を決定づけることは十分にあり得る。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2017年11月24日 Vol.151<時はいつのまにか過ぎていく号>

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01 論壇【西田】
Kindle10周年、電子書籍に起きたことと起きなかったこと
02 余談【小寺】
セルフィーのためのスマホ、Wiko Viewから見えるもの
03 対談【西田】
トリニティ・星川哲視氏と語る「スマートフォン関連市場の今」
04 過去記事【西田】
変わる日本のスマートフォン
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。