小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

「履歴」をもっと使おう

ちょっと、人によっては「それは当たり前だろう」と思われることを、改めて書いてみたいと思う。

仕事柄、いろいろな人とファイルのやりとりをすることが多い。そうするとありがちなのが、「やりとりをするごとにファイルが増えていく」ということ。「本番」という文書ファイルがあるとすると、そこに改変が加わると「本番 10月30日」とか「本番 西田チェック」とかいう風に追記されていき、多数のファイルができるのだ。

まさに「あるある」なのだが、これ、ほんとうに必要なのだろうか? 「ファイルの変更をするたびに、ファイル名は変えて残すのが基本」という人がいるが、はっきり言って、「本当にそう?」としか思えないのだ。

というのは、これだとむしろ混乱が増えるからだ。どれが最新かわからなくなる、ということは日常茶飯事である。

「理解できるように名前を変えているんじゃないの?」

まあ、そうなんだが、命名規則を考えたり、ファイル名で見分けたりするのに頭を使うのは、無駄じゃなかろうか。

はっきりいって、文書の履歴管理を「ファイル名」で行うのは悪癖だと思うのだ。

まず、現在ビジネス文書として多く使われているマイクロソフト・オフィス文書には、きちんと「変更履歴」を残す機能がある。別にファイル名に頼る必要はない。Google Documentだったら、ネット上の同じファイルに履歴をつけて編集することになるので、ファイル名を気にする必要はない。

ファイルの保存についても同様だ。現在のクラウドストレージには、ファイルの保存履歴を記録しておく機能がある。以前の状態が確認したければ、履歴にアクセスして内容を確認すればいい。この場合、テキストファイルのような、履歴保存機能がないものでも問題ない。

Dropboxの「履歴」機能。このメルマガは、実際にこの機能を使ってコラボレーションをしながら編集されている

そして現在は、「GitHub」などのバージョン管理ツールもある。クラウドストレージにおける「履歴」機能は、本質的に簡易的なバージョン管理ツールであり、DropboxにしろOneDriveにしろ、ビジネス向けのプランは、まさにバージョン管理をウリのひとつとしている。ファイル名をいちいち変えるよりも、こういうものを使って管理した方がいいはずだ。

GitHubや文書管理システムの導入は、すでにあたりまえになっているところもあるが、意外なほど浸透していない。個人レベルだとさすがに大掛かりなシステムは難しいだろうが、クラウドストレージの履歴機能を使ってみるくらいならできるはずだ。macOSの「TimeMachine」のように、バックアップ履歴を管理しやすくしたシステムもある。

「働き方改革」と言われるが、本質はこんなところにあるんじゃないか、と思っている。ひとつひとつの作業はほんの数秒でも、日常的に積み上がるとけっこうなものになるし、それを全員がやっていると思うと大変な時間になる。そして、いっせいに止めてみると「なんて快適なんだろう」と感じる。

そんなことはたくさんあるはずなのだ。集計を手作業でする前提で出欠を聞いたり、「お世話になっております」でメールを書き始めたり、無駄に書式に凝ったり。

どれが儀礼でどれが無駄な作業なのかは、人によっても意見が異なるかもしれない。だが、システムがカバーしてくれることは、システムに任せて、もっと楽をしてもいいのではないか。履歴にあわせてファイル名を変えることの問題は、そのきっかけになりうるのではないか、と思うのだ。

まず、あたりまえになった作業を「ちょっと見直す」ところから始めてみてほしい。自分達の働き方に無駄が多いことに、改めて気づくはずだ。

もちろん、作業プロセスの変更は、個人レベルではなく会社・部署レベルでシステマチックに導入した方が良い。そうでないとむしろ混乱が起きる。ファイルの履歴を管理することにしても、部署や働き方によっては、「システムによる履歴管理」が向かないところもある。だが、それは相当に特殊な状況だろう、とは思う。

ただ、過去には「混乱が起きるから」という理由で変えずにきたが、そろそろ「変える」ことを前提に考えてもいい時期に来ている。そのくらい、わたしたちの働き方はめんどくさいことにあふれているのだから。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2018年11月2日 Vol.195 <考えてみりゃわかる号>
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01 論壇【小寺】
「私的録画に関する実態調査」から見る、イマドキのユーザー動向
02 余談【西田】
「履歴」をもっと使おう
03 対談【西田】
境治さんに聞く「バズで売れるってどういうことなのか」(1)
04 過去記事【小寺】
オリジナルドラマはネットからやってくる?
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41