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DTM声優・小岩井ことりも即購入? 映画/ゲーム制作向けに強化した約19万円の「Nuendo 8」

 ヤマハミュージックジャパンは、22.2ch音声やビデオエンジンを一新したスタインバーグの業務用DAWソフトウェア「Nuendo 8(ヌエンド8)」の説明会を開催し、映画やゲームのクリエイターによるNuendoの活用例を紹介した。また、Cubeseなどを駆使してDTMにも詳しい声優の小岩井ことりさんも来場。アフレコを便利にする機能などを体験した。

Nuendo 8が6月より発売された
小岩井ことりさんが来場

 「Nuendo 8」は映画やテレビ放送、CM、ゲームなどのコンテンツ制作向けDAW(Digital Audio Workstation)ソフトウェアで、ポストプロダクションやオーディオレコーディングに特化。同じスタインバーグ製である音楽制作用のCubaseと大きく異なるのは、Nuendoは映像に合わせて音を編集することが前提になっている点。6月より発売され、価格はオープンプライス、実売価格は19万円前後。

Nuendo 8の画面例

 最新バージョンではゲームオーディオ制作向けの機能も強化したのが特徴で、Audiokineticのミドルウェア「Wwise」へ音楽や効果音などのゲームオーディオの構成要素を直接インポートして編集できる「Game Audio Connect 2.0」に対応。マルチトラックのイベントやマーカー情報のやり取りも行なえ、ゲームエンジンへのオーディオデータの実装を大幅に効率化できるという。

 新機能「ダイレクトオフラインプロセッシング」は、ゲームキャラクターによる攻撃モーションのセリフなど、多数収録した短い音声ファイルを扱う時に、その一部分にEQやリバーブを掛ける作業が簡単に行なえるもの。1つのファイルの前半と後半でリバーブや音量などを変えたいときに、従来はファイルを複製して片方のファイルを調整する作業が必要だったのが、新機能では目的の範囲を指定するだけでその部分のみEQなどを適用でき、リアルタイムで反映させて聞き直せる。その設定を他のセリフにもコピーして適用するといった効率的な作業ができ、多くのパターンを試せるのがメリット。

ダイレクトオフラインプロセッシング画面

 また、リネーム機能も進化し、ファイル数が膨大になるゲーム音声などのファイル名を、TXTまたはCSVファイルからインポートして一括して適用できる。なお、仕様書などのテキストやExcelファイルでは、1行目にタイトルなどが入っている場合もあるが、それを無視するように設定することなども可能。

リネーム画面。テキストやCSVをインポートして適用

 「ランダマイザー」は、ある一つのセリフや音について、様々なパターンのバージョンを用意したい場合に、自動で4つのパラメーター(EQ、コンプ、タイムストレッチ、ピッチ)をランダムで適用し、これをループ再生すると様々なパターンを聴き比べて、イメージに合うものを適用できる。

ランダマイザー

 ゲストとして来場した、アニメ「のんのんびより」の宮内れんげなどで知られる声優の小岩井ことりさんは、CubaseなどのDTMソフトや機材を活用し、音楽作りや、自身のセリフのチェックなどにも活用するほか、MIDI検定1級にも合格。最初の頃に買ったマイクがノイマンのU87Ai(30万円前後)という本格派。

真剣に解説を聞き、的確なコメントを返した小岩井ことりさん

 「エンジニアさんから『Nuendoは音がいいよね、便利だよね』という話は聞いていた」という小岩井さんは、ファイルのリネーマー機能の説明をクリエイターの大島su-keiさんから受けると「このまま納品できますね! エンジニアさんが助かる」と作り手視点でコメント。また、音のバリエーションを自動で増やせるランダマイザー機能については「アフレコでガヤ(複数の人が会話するザワザワしたシーンなど)ていうのをよく録ります。たくさんの兵士が『ウォー!』と声を上げるときも、これがあれば一人で!?」と話すと、大島さんは「1人でも8回くらいやって全部ランダマイザーすれば、160個くらいの大量の音が録れますね。剣を振る音なども、微妙に違った音が録れる」とした。

 サラウンド音声は、5.1chや7.1chなど、チャンネルベースのほか、Ultra HD Blu-rayなどで採用されているDolby Atmosなどのオブジェクトオーディオ技術にも対応。新たにAuro3Dや、次世代フォーマットの22.2chなどの3Dサラウンドフォーマットに対応する「VST MultiPanner」を搭載。「柔軟なアウトプットができて、今ある規格のほとんどの音声を作れる」(大島氏)とした。

22.2chにも対応

 また、従来はCubaseの機能を持つ別売オプションだったNuendo NEKを、Nuendo 8では統合。作曲系を含む、Cubase Pro 9の機能も使えるようになった。ゲーム業界で、Cubaseを使っている人とのファイルのやり取りがしやすくなった。大島氏は「会社ではNuendo、家ではCubaseという使い方ができるのでは?」と提案。多くの新機能を搭載したNuendo 8について大島氏が「どうですか?」と小岩井さんに感想を求めると「買いますね」と即答した。

 続いて、7月29日に劇場公開される実写映画「東京喰種 トーキョーグール」においてNuendoを活用した、ミキサー・エンジニアの渡辺寛永志氏が登壇。清水富美加、窪田正孝、大泉洋らが出演し、Nuendoを活用してアフレコも行なったという複数のシーンで、活用例を紹介した。

ミキサー・エンジニアの渡辺寛永志氏

 NuendoのADR(Automatic Dialog Replacement)は、セリフなどの複数の音声トラックを簡単に管理できる機能。最大32のマーカートラックと役名/場面/時間などのフィルタリング機能を組み合わせ、セリフや効果音、SFXなどの分布を一目で把握できるという。

 実際のアフレコ作業の時は、映像上に役者のセリフをスーパーインポーズ表示できるため、役者は台本と画面を見比べる必要がなく、映像を見ながら話し始めるタイミングや長さなどを視覚的に確認しながら話せるため、突然の台本変更にも、画面上のテキストを書き換えることで柔軟に対応できる。

 渡辺氏は、声優の演技に慣れていない役者でもADR機能によりスムーズにアフレコができるといったメリットを説明。ここで、実際の1シーンから、蒼井優(神代利世/リゼ役)のセリフの部分を、急遽ゲストの小岩井さんにアフレコしてくれるようリクエスト。リハーサルなしの一発勝負だったが、見事に重要なシーンの声を小岩井さんが演じた。

Cubase/Pro Toolsユーザーが低価格で買えるクロスグレード版も

 前述の通り、Nuendo 8の実売価格は19万円前後だが、新たな情報として、CubaseやPro Toolsのユーザーに対し、割引価格でNuendo 8を購入できる「クロスグレード版」を近日Web上で発表することも予告された。

クロスグレード版も予告

 その他のバージョンは、Nuendo 7からのアップグレード版(UD7)が2万5,000円前後、教員向けのアカデミック版(E)は10万円前後、1年限定5ライセンスのマルチパック版(M)は14万円前後、マルチパックリアクティベーション版(MR)は11万円前後。学生版(S)は50,000円。

各バージョンの価格
Audiokineticのミドルウェア「Wwise」との連携について、同社の牛島正人代表が説明
クリエイターとして、Klabの標葉千晴氏と、阿部公弘氏が登壇。ゲーム「BLEACH Brave Souls」でのNuendo活用例などを説明した