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Amazonデバイスの価格はほぼ製造コスト。良い製品と改善のための製品戦略
2018年8月2日 07:00
7月24日からEcho Spotを日本でも出荷開始したAmazon。世界最大級のオンラインストアであるのはご承知の通りだが、昨年日本で発売したスマートスピーカー「Echoシリーズ」をはじめ、FireタブレットやメディアプレーヤーのFire TV、そして電子書籍端末のKindleシリーズなどを手掛ける巨大なハードウェアメーカーという側面もある。KindleやPrime Video、ショッピングなど、Amazonサービスと連携したデバイスをリーズナブルな価格で提供し、例えばEchoシリーズはスマートスピーカー市場で圧倒的なナンバーワンの地位を確保している(Strategy Analyticsの5月調査)。
巨大メーカーAmazonのデバイス事業はどのような考え方で運営されているのだろうか? Amazonデバイス事業を統括するデイブ・リンプ氏に聞いた。
日本市場におけるAmazonデバイス
昨年11月のEcho日本導入以来の来日というリンプ氏は、7月16、17日のプライムデーで世界的にFire TV StickとEcho Dotがヒットしたことや、AlexaやEchoが毎日のように改善を重ねていることを紹介。Amazonデバイスの事業については、「我々はAmazon社内における家電メーカーです。ただ、一般的な家電メーカーとの違いはサービスとデバイスが密接に絡み合って体験を高めること。毎日より良いものになっていくことです」と語る。
日本市場については、「いくつかの特徴がある」とリンプ氏は語る。
「Kindleについては、日本では漫画がとてもポピュラーで、他の国にはない特徴ですから、まずは漫画のセレクションに当然こだわります。それだけでなく、漫画をより便利にするような仕組みを入れています。例えば、ページめくりの高速化やスクリーンのレスポンスの向上などです。地域に国に合わせた読書体験の違いがありますから、そこに着目し、満足していただけるもの目指しています」
「Fire TVにおいては、ローカルコンテンツ、特に日本発信のものが重要です。アニメもそうですし、DAZNのJリーグのようなコンテンツ。“Fire TVであればJリーグが見られる”ということは日本の方には強く求められている体験ですから」
「Echoスピーカーについても、日本市場の特徴はあります。音楽についていえば、日本以外だとPandraが人気サービスですが、日本で必要なのはdヒッツやうたパスなどのサービスです。EchoやAlexaを使っていただくため、市場にあったサービスに対応する必要があります。加えて、その地域ならではの情報、例えば日本以外ではそれほど重要ではなくても、日本では相撲の結果を知りたい方は多い。さらに、電車の路線案内や交通情報、星占いなども日本市場特有といえるものです。いずれのデバイスにおいても、我々はカスタマーから学び、その機能や体験を実現できるよう取り組んでいます」
リンプ氏は、Echoを展開してから「Alexaは単なるマシンではなく、パーソナリティを持ちうる、と学んだ」と語り、「話していて楽しい、興味深いと思われる存在と思われるようになりたい。その興味の源は何だろうということを地域ごとに学んでいる。オピニオンやユーモアは全世界共通ではない。そこは日本の人から学びたい」と述べた。
ただし、日本市場に投入されないAmazonデバイスがあったり、一部の機能が日本向けに実装されない場合もある。報道陣から「海外で入っている機能が日本でない、という課題もある」と問われたリンプ氏は、「おそらく『AlexaとFire TVが連携してほしい』という話ですね」と即答。「AlexaからFire TVの操作、それからFire TVのEchoからの操作は、海外ではできるようになっています。この2つは準備中ですので、日本でもそう遠くない将来に発表できそうです」と説明した。
次はカメラだ!
Amazonデバイス事業では、販売台数などは公開せず、市場シェア等などの目標を掲げることはない。これはどうした考え方から来ているのだろうか?
リンプ氏は、「Echoを何台買ってください、とお願いしてもそこはコントロールできない。ですから、自分たちがコントロールできることに集中しています。例えば製品のクオリティ、価格、どのような機能が必要か、ルック&フィールをどうするか。そこをうまく実行して、長く使っていただくものを作り、『これはいい』と思っていただけるものを作ることが目標です。お客様の声に耳を傾けること。お客様の期待とのギャップがどこにあるのか、を常に見ています」と答える。
今後の製品ロードマップ等はほとんど公表しないAmazonだが、今回リンプ氏は「次」の製品についても言及した。
「Amazonデバイスの次の製品はカメラです」
カメラといっても、写真や動画の撮影が主目的ではなく、地域の安全やセキュリティの向上を目指す製品になる予定だという。
「次は製品はカメラです。見る(see)デバイスですね。先日Ringという会社を買収しました。玄関ドアカメラなどを手掛ける会社で、住んでいる地域社会を安全にする製品を目指します。日本では先になるかもしれませんし、具体的な内容は明かせませんが、次はカメラを発売します」
Ringのカメラは、玄関ドアなどに設置し、ドアを開ける前に来客を確認できる「スマートドアベル」。動きセンサーを備えているほか、Echoとも連携する。リンプ氏は、カメラを自社で持つことで、Amazonのビジネス面にも効果が見込めるという。「玄関先にカメラがあるので、安全性が高まります。そのため配達したAmazonの荷物の盗難を防ぐという効果もあると考えています」。発売時期などは未定だが、グローバルでの発売に向けて準備を進めているという。
Amazonデバイスの価格はほぼ製造コスト。だからいい製品ができる
Amazonデバイスの特徴といえば価格。Echo Dotは4,980円でセール時には3,000円になったりクーポンでさらに安くなったりする。高機能かつ音声アシスタントを備えたスピーカーとしては破格の安さだ。
Amazonデバイスは、デバイス単体で利益が出る構造なのか? それともデバイスとサービスの中で利益を出していく構造なのだろうか?
「戦略としては後者(デバイスとサービスの中で利益を出していく)です。Amazonデバイスの販売価格はほぼ製造コスト。それが消費者にとってより良いものができると考えています。このビジネスモデルでは製品を売ることで利益を出すのではなく、使われることで利益が出てビジネスになる。ですから、デバイスを常に改善する動機づけになるのです。ユーザーさんが使いたくなる、アップグレードしたくなる、5-10年でも使いたくなるようなデバイスを目指しています」
EchoやFire TVを見ると大成功しているように見えるAmazonデバイス。しかし、その歩みは成功ばかりではなかった。例えば、2014年に発表したスマートフォン「Fire Phone」はその後続かなかった。Amazonは、どのような考えで製品化し、また失敗をどう解釈しているのだろうか?
「新しい種類の製品は、お客様に身になるものを考えるが、リスクもある。“実験”的な要素も大事にしている。実験ですから成果はやってみなければわからない。もちろん成功を望んでいるのですが……
我々は多くの実験を行なってきました。例えばWANとブックストアを内蔵したデバイス(Kindle)、マイク付きのホームスピーカー(Echo)も実験でした。そして最初のスマートフォンは、4隅にカメラを使ったDynamic Perspective(ユーザーの視線や端末の傾きなどから次の操作を予測する)を備えた実験でした。それらは、結果がわかっていて始めた実験ではありません。ですが、一歩踏み出しました」
「自分たちがコントロールできるのは、プロダクトのインプット、最高の製品を作ることです。いま申し上げた3つのうち、2つ(KindleとEcho)はお客様の心に響いて成功したのだと思います。ひとつ(Fire Phone)は共感を得るには至らなかったということです。
我々が学んだことは、お客様のために新しいものに挑戦すること、踏み出していくこと。それを継続することです。100%の成功というのはありませんが、失敗はきちんと受け止めて、次の機会に向かっていきます」
次はカメラに挑むAmazonデバイス。日本で未展開の製品としては、Fire TVとEcho(Alexa)を融合したような「Fire TV Cube」も米国で発売され、昨年からFire TV搭載テレビなども販売している。この辺りの製品の日本展開はどうだろうか?
「昨年から発売している。Fire TV搭載テレビはとても良いスタートですね。Fire TVをOSとして使うものですが、SDKを提供しています。日本での発売はしていませんが、多くのテレビメーカーに話をさせていただいています」
「Fire TV Cubeは、HDMIやディスプレイを備えたEchoといえる製品です。発売からまだ6週間なので、それほど多くの反応はないのですが、世界中で成功することを期待しています」