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CESの裏テーマ?! だった「スマートグラス」「ARグラス」を俯瞰する
2019年1月16日 07:30
今年のCESでは、とにかく「スマートグラス」「ARグラス」の出展が目立った。VR系が減った(というか、プラットフォームが出そろって、大手以外が手がける意味が減った)結果、多数の企業がそちらにビジネス価値を感じた……ということかと思う。
また、2020年くらいを目処に、大手プラットフォーマーがARに本格参入する……と予想されており、「その前に地位を確保したい」と考えている小規模企業やスタートアップがしのぎを削っている、という事情もありそうだ。
2017年後半あたりから、スマートグラス・ARグラス向けのディスプレイデバイスが台湾を中心に開発されており、そのいくつかが製品の形になって出てきたのが2019年、という言い方も出来る。
とにかく、色々な巡り合わせと思惑があり、2019年のCESは「スマートグラス祭り」になった。ここでは、会場で見かけたスマートグラス・ARグラスの一部をご紹介しよう。すべてを体験したかったのだが、筆者の手持ちの時間では限界もあり、いくつかご紹介できていないものがあることをご了承いただきたい。
「スマートグラス」と「ARグラス」の違い
まず「スマートグラス」「ARグラス」とはなにか、という定義をはっきりさせておきたい。
現実に映像を重ね、現実に情報を加えるのがAR(仮想現実)だが、その実現方法は複数ある。もっともシンプルなのは、位置合わせをせず、単純に情報を現実にオーバーラップする方法。「スカウター」方式、といってもいい。現在は、そうした手法を使う比較的シンプルなデバイスのことを「スマートグラス」と呼んでいる。多くの場合、スマートフォンと連携し、スマートフォンのアプリから、通知や地図などの情報を視界に表示する。過去の製品で言えば「Google Glass」がこれに当たる。
一方「ARグラス」はもう少し高度なもののことを指す。自分が向いている方向や高さ、物体との距離などを判別する「ポジショントラッキング」技術を搭載し、より自然に映像を現実に重ねる。今、いわゆるARと呼ばれるのはこちらの方。すでに存在する製品で言えば「HoloLens」がこれに当たる。
基本的には後者の方が技術的には高度なものとなるが、その分ハードウェアが大きくなり、価格も高くなる。CESではこの両方が出展されていた。しかもポイントは、過去と異なり、「スマートグラスかARグラスか、見分けがつきにくい」製品もあったということだ。また、スマートグラスそのものも、過去とは異なり、「ほぼメガネそのもの」といっていいデザインになってきている。
もはやメガネそのもの、Alexa対応の「North Focals」
という予備知識を持った上で、CESに展示されていたスマートグラスをみていこう。
まず、カナダの「North」が開発した「Focals」だ。特徴はなによりそのデザイン。見た目はほぼ「ちょっと縁の太いメガネ」でしかない。右側のツルの中に小さなプロジェクターが仕込まれており、レンズに光を反射させ、目に映像を見せる。中央の狭い領域だが、そこにアイコン+α的なイメージで情報が表示されるようになっている。
基本的には「スマホの情報ディスプレイ」であり、iOSおよびAndroid用の専用アプリと連携して使う。操作に使うのは、非常に小さなジョイスティックがついた指輪状のデバイスと、音声アシスタント。実はAmazonのAlexaに対応しており、多くの作業は音声で行なう。ジョイスティック操作は補助的なものとなっている。
短時間の体験だったが、表示はなかなか良好。狭い領域にアイコン+文字を表示するようなもので、ARというよりまさに「スマートグラス」だ。説明員によれば、「それでも、人による顔の形状差やレンズとの相性もある。人ごとにしっかりとカスタマイズすると見え方が全く異なる」とのこと。度付きのレンズを入れることもできる……というか、メガネ利用者にはそれが前提だ。そのため現在は、North本社に近いカナダ・トロントとニューヨークのブルックリンのショールームで、フィッティングを前提とした販売を、昨年11月から始めているところだという。価格は999.99ドルだ。
日本でも発売、単体でアプリも動く「Vuzix Blade」
次も、「見た目、メガネそのまま」のデバイスをひとつ。それが、Vuzixの「Blade」だ。
開発元のVizixはスマートグラスでは老舗(創業は1997年だから、このジャンルでは圧倒的な古参だ)といっていいメーカーの一つ。「Blade」は満を持して発売する最新モデルである。
右目側に480×480のディスプレイを備えており、中心視野の19度分に映像が表示される。Bladeに内蔵されたARMコアのプロセッサでアプリが動作し、専用のアプリストアもある。720pのカメラと3軸のモーションセンサーも内蔵しているので、画像認識とモーションセンサーを生かしたアプリの開発もできる。iOSおよびAndroid用アプリとの連携も可能だ。
Bladeについては、メルカリが「画像による商品認識」のデモも行なっていた。Impress Watchに記事を掲載しているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。
メガネ型でポジトラ入りの「Nreal Light」
メガネにきわめて近いデザイン、という意味では、中国系スタートアップのNrealが開発した「Nreal Light」も注目だ。
こちらもちょっと派手なサングラス程度の見た目だが、レンズ内にディスプレイに加え、ステレオ形式のカメラを搭載し、ポジショントラッキングも可能だ。
プロセッサーとしてはQualcommのSnapdragon 845を使っており、OSはAndroidベース。処理系はメガネの中ではなく、ケーブルで接続されたボディ側にある。
こちらは、視野角が52度と、この種のARグラス・スマートグラスとしてはかなり広めなのが特徴。映像は明るくはなかったものの、確かに視界は比較的自然な広さだった。ただし、現状ではポジショントラッキングの技術はあまり高度ではなく、「水平面のみの認識で、今後垂直面にも対応」(説明員)とのことで、iPhoneのARKitやAndroidのARCoreにも負けている。精度はもうちょっと良さそうだったが、HoloLensやMagicLeap One(後述)ほどの完成度ではない。また、バッテリー動作時間が「2、3時間」(説明員)とのことで、そこもちょっと気に掛かる。
発売は2019年第三四半期を予定。価格は「ハイエンドiPhone程度」とのことなので、1,000ドル程度になる模様だ。
ポジショントラッキング内蔵で視野の広い「Realmax Qian」
ポジショントラッキングの技術を備えたARグラスとして注目を集めていたのが、中国系企業・Realmaxの「Realmax Qian」だ。HoloLensのような「ヘッドセット」型のデバイスで、「100.8度」というかなり広い視野を実現、自由に動き回りながら使えるのが特徴だ。
プロセッサーとしてはSnapdragon 835を内蔵し、スタンドアローンで動作する。筆者も体験してみた。確かに視野は広いが、画質はいまひとつで、トラッキング精度も「もうふた声」というところだった。
価格はこちらも1,000ドル以下を予定している。
Magic Leapはワコムとコラボ
こちらはすでに発売済みのデバイスだが、CESの各所でデモも行なわれていたし、日本ではまだ発売されていないので、改めてご紹介しておきたい。
「Magic Leap One」は、Magic Leap社が開発したARグラスで、2018年8月より、開発者向けの「Creator Edition」がアメリカで発売されている。価格は2,295ドル。イメージとしてはHoloLensの直接の競合といっていい。
高価なハードウェアだから、ということもあるが、ポジショントラッキングや表示の精度は他のベンチャー系とはひと味違う。これだけ多数の企業が参入しても、ポジショントラッキングなどについては、マイクロソフトとMagic Leapが一歩も二歩も先を進んでいる感がある。
CESで筆者が体験したのは、ワコムのプライベートブースでのデモ。ワコムはMagic Leapとパートナーシップを結び、同社のペン技術をAR空間内で利用し、多人数で3Dオブジェクトに対しコラボレーション作業を行なう研究をしている。今回も、ワコムのタブレットを使い、ペンで直接「空間に浮かんでいるオブジェクトを編集したり描画したりする」というデモを行なっていた。
ピンホールレンズでARの視野を広げる「LetinAR」
最後に、ARグラスやスマートグラスそのものではないが、興味深い技術をご紹介しておきたい。それは、韓国系スタートアップの「LetinAR」が開発しているレンズ技術の「PinMR」である。
レンズという要素技術であり、これだけでARグラスなどができるわけではない。しかし、なかなか面白い技術だ。レンズにはハーフミラーを使ったピンホールが設けられていて、液晶やOLEDなどのAR用ディスプレイから導かれた光を目に届ける際、視野を広げる役割を持っている。使うレンズによって視野の広さは異なるが、最大80度まで広げることができるとされている。
CESにはARグラスの形でのデバイスを持ち込んでいなかったが、2月末に開催される「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」では、ARグラスの形でのデバイスをデモ予定だという。