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ソニー“品川バレー”実現へ。社外も巻き込むスタートアップ支援「SSAP」
2019年2月20日 11:39
ソニーは20日、ハイブリッド型スマートウォッチの「wena wrist」(ウェナリスト)などを生み出した、社内スタートアップ支援プログラム「Seed Acceleration Program」の現状と今後を説明。約5年の経験を経て次のレベルへと展開し、ソニー社外の起業や人とも連携しながらクリエイター(起業家)のビジョン実現を目指す、新たな「Sony Startup Acceleration Program」(SSAP)をスタートする。
Seed Acceleration Programではこれまで、ソニー社内で生まれたアイデアを、事業化し、クラウドファンディングのシステムを作り、販売インフラを作る、事業のスケールを拡大していくなどの取り組みを行ない、そこから「wena wrist」や動くおもちゃを作れるロボットトイ「toio」などが誕生している。これまでに国内外で750の新規事業案件を審査、34件を育成、14の事業を立ち上げた実績がある。
一方、その取組の中で、海外のソニーでも同じような仕組みを作りたいという要望や、社外のメーカーや人との連携が重要になるシーンも増加。事業の立ち上げからスケールアップの手法をノウハウとして残していくことや、社外の人とも連携していく仕組みが、Seed Acceleration Programの次の段階のサービスである「Sony Startup Acceleration Program」(SSAP)となる。
具体的には、社外(社内含む)のアイデアを持つ人がSSAPを利用。品川のソニー本社にある、3Dプリンタなどが用意された「Creative Lounge」も利用しながら、アイデアを磨いたり、形にしたり、事業化に取り組む。その際に、ソニーでこれまで様々な製品を作ってきたプロデューサー、エンジニア、デザイナーが参加し、製品を具体的な形にしていくサポートをする。
「例えばウォークマンを作ったとか、(ある製品を)何万台売りました、というような人もメンバーとして入り込んで、ビジネス化の検証、プロトタイピングをしてくれる。ソニーのクリエイティブセンターのデザイナーが、コミュニケーションデザイン、UXデザインをサポートし、もやもやしていたアイデアが形になっていく」(ソニー Startup Acceleration部門 副部門長 Startup Acceleration部 統括部長 兼 Open Innovation & Collaboration部 統括部長の小田島伸至氏)という。
こうした“アイデアを形にして、ビジネス化していく”工程自体を、カリキュラム化しているのもSSAPの特徴。「我々がSeed Acceleration Programを始めた当初は、(どうすればいいのか)教えてくれる人達はいなかったので、これまでの経験で得たノウハウを可視化し、プログラムに落とし込んでいる。(事業化に向けてクリアしていく)膨大なチェックリストがあり、例え我々の中の誰かが異動したとしても、ノウハウが残る形にしている」とのこと。
製品を作るだけでなく、クラウドファンディングとeコマースを兼ねたサイトであるFirst Flightの提供や、独自に開拓してきた100以上の販路の紹介、アメリカ市場参入に向けた初期マーケティングもSSAPがサポート。
新規事業の拡大に向けて、協業や資金調達、戦略的提携の企画・実行も支援。ソニーグループ各社だけでなく、他社や自治体との連携なども、ニーズに合わせた形でサポートする。
ソニーグループ会社との連携例としては、スマートロックの「Qrio」がソニーネットワークコミュニケーションズで販売、toioはプレイステーションのソニーインタラクティブエンタテインメントが販売している。Qrioはアイデアは外部から持ち込み、経営者と営業は外部から、開発・製造・デザインをソニーが担当。ソニーの“外から中へ”タイプの事例。逆に、ソニーから独立して外部へと行った、三日坊主防止アプリ「みんチャレ」などもある。
ベンチャーから生まれる製品は、誰かの発言、思いついたアイデアがスタートになっている事が多いが、企業でこうした思いつき、アイデアが生まれる“場所”を用意しているところは少ない。「アイデアが生まれる、人が集まる場所を作る、テーマについてトークできる場所、出てきたアイデアを磨く場所、アイデアを放っておかず活用する。そして事業化していく、ここをしっかり整えていきたい。ソニーはずっと品川に居を構えているが、(シリコンバレーならぬ)品川バレーという発想で、品川近辺の他社も巻き込みながら展開していきたい」(小田島氏)という。
SSAPのビジネスモデルとしては「それぞれのプログラムで変えている。コンサルティングをしながらフィーをいただいたり、例えばベンチャーさんで今はお金がないという場合は、(作っている製品が)うまくいったあかつきにはというレベニューシェア、優先交渉権といったお話もある。また、優れたアイデア、人材に、ソニーに入っていただいて、ソニーとして事業化していくというカタチもある」(小田島氏)とのこと。
また、2月20日から6月28日まで「新規事業創出支援プラン1ヶ月お試しキャンペーン」も実施。専用のWebサイトから申し込むことで、SSAPが提供する「アイデアを創る」、「形にする」、「世に出す」、「事業をスケールする」の中から、「アイデアを形にする」段階が気軽に体験できるキャンペーンで、「新しい事業を世に出したいという熱い想いがあるクリエイター(起業家)や、事業化支援サービスを検討中の方」を対象としている。
SSAPで現在進行している社外連携として、約5カ月前から京セラが活用。京セラは材料やデバイスに強いノウハウを持つが、「それらを組み合わせて消費者に価値をつけて提供する、イノベーション力」が不足していたという。そこで、SSAPで価値を最大化するプロセスやノウハウを学び、それをモノとして仕上げている段階だという。
具体的には、京セラ独自の「圧電デバイス」、電圧をかけると振動したり、音が出るといった小さなデバイスを活用。圧電セラミック素子と、それに最適なチューニングを施したデジタル駆動アンプを組み合わせ、新たなユーザー体験をもたらす製品のプロトタイプが作られている。「アイデアの事業検証をしてもらうインキュベーションの段階。アイデアの原石を磨き上げ、事業をどのように展開していくのかをカリキュラムに沿って、指導してもらっているところ」(京セラ 研究開発本部 システム研究開発統括部 ソフトウェア研究所 副所長 横山敦氏)だという。
また、SSAPに関連し、ソニーと東京大学が連携し、タートアップを創出する「産学協創エコシステム」を発展させるための社会連携講座設置に関する契約も締結。SSAPの事業育成の枠組みを、2019年4月より、東京大学大学院工学系研究科の社会連携講座のカリキュラムに導入する事も発表されている。