レビュー
「WH-1000XM6」でSixTONESを聴く。ソニー新ヘッドフォンが見せた“高音質な推し活”最前線
2025年7月4日 08:00
2025年5月、ソニーからワイヤレスヘッドフォンの新しいフラグシップモデル「WH-1000XM6」が登場し、オーディオ界隈の注目を一斉に浴びている。専用開発のドライバーユニットを採用し、グラミー賞受賞/ノミネート歴のあるマスタリングエンジニアと共創した音質で、早くも市場で大きな評価を得ている。
そして同じ5月、WH-1000XM6発売とシンクロするように飛び込んできたニュースが、男性アイドルグループ「SixTONES(ストーンズ)」の楽曲のサブスク解禁だ。これまでフィジカル中心だったリスニングスタイルにストリーミング体験が加わるということで、解禁日にはファンを中心に大きな話題になっていた。
……で、感の良い方はピンとくるだろうか。そう、SixTONESの所属レーベルはソニーミュージック。奇しくも、“音楽と機材、両方のソニー”が同じタイミングで盛り上がったわけだ。そして、その熱は今も続いている。ならば、この2つを組み合わせて体験してみよう! ってのが今回の企画だ。
題して、「SixTONESのサブスク楽曲をソニーのWH-1000XM6で聴く」。そこには、じわじわ進化する“高音質な推し活”というスタイルが見えてきた。
大注目のソニー最新ヘッドフォン「WH-1000XM6」
まずはヘッドフォンのWH-1000XM6から触れていきたい……といってもめちゃくちゃ話題だし、AV Watchでも何度も取り上げられていて、みなさんもよくご存知だと思う。
なのでここでは、後述のSixTONES楽曲との組み合わせでポイントとなる部分を中心に、簡単に紹介しておこう。詳しい製品情報や音質レビューは、以下の過去記事を参照してほしい。
改めて本機は、世界的にも高い評価を受けてきたソニーのBluetoothヘッドホン“XMシリーズ”の第6世代モデル。デザインの意匠も含めて前世代モデル「WH-1000XM5」の要素を引き継ぎながら、サウンドやノイズキャンセリング機能、使い勝手がいずれも大きく進化した。
AV Watch目線では、冒頭でもお伝えした通り、専用開発のドライバーユニットを採用し、マスタリングエンジニアと共創した音質が最もポイントとなる部分であろう。この辺については、以下の過去記事に詳しいので参照されたい。
さらにスゴいのが、進化したQN3プロセッサーと、12基に増えたマイクによるノイズキャンセリング性能。従来モデルでも評価が高かった部分だが、より自然で業界トップクラスのノイキャン性能を実現している。
機能面では、高音質コーデック「LDAC」に加え、圧縮音源をハイレゾ相当に補完する「DSEE Extreme」、さらに「360 Reality Audio」に対応する音源の再生も可能だ。
そしてもうひとつ注目したいのが、ステレオ音源も含めて立体的な音響として再生する技術「360 Upmix for Cinema」。本機の専用アプリから「シネマ」モードを選択することで機能ONになるのだが、後述するSixTONES楽曲との相性という点で、ちょっと注目したい機能だった。
そのほか、AIビームフォーミングやノイズリダクションAIなどで通話性能も進化しているし、とにかく「さらなる高次元へ到達した」とソニー自らが語るだけのことはある完成度を誇っている。
SixTONESのサブスク、96kHz/24bitで配信中
続いては、SixTONESについてご紹介しよう。と言いつつ、こちらもこちらで超有名アイドルなわけで、今回は本記事の肝となる音楽的な部分を中心に触れておく。
STARTO ENTERTAINMENTに所属する6人組の男性アイドルグループである彼らだが、今回の記事で取り上げた理由として、メンバーの歌唱力や楽曲の音楽的な魅力が広い層から支持を得ているのも大きい。
様々な音楽カルチャー系のメディアでも、その実力は高く評価されている。主に、ロックやジャズ、R&B、ファンク、ヒップホップなどがSixTONESの音楽性のキーワードとして挙がるだろう。
で、そんなSixTONES、先日解禁されたサブスクで、その楽曲のほとんどが96kHz/24bitで配信されている(※Qobuz、Amazon Music HDなど一部サービスにて)。
今どきのポップスの配信スペックは48kHz/24bitあたりも普通で、もちろんそれでも十分に音が良いが、同じハイレゾでもサンプリングレートが96kHzだと、「より配信クオリティに気を遣ってるんだ」という感覚になる。
SixTONESの楽曲が元々96kHz以上でレコーディングされてきたか、はたまた48kHz録音を96kHzにアプコン(アップコンバート)して配信されている可能性もなくはないが、いずれにせよ96kHz配信はレーベル側の意向によるものだろう。
ちなみに筆者が確認した限り、同事務所の男性アイドルで同じく96kHz/24bitクオリティでサブスク配信しているのは、他に中島健人さんのソロのみ。そして中島健人さんも所属レーベルはソニーミュージックである(2025年6月時点)。
結果的に、楽曲の配信スペックが高いという事実は、すでにCDを所有している層が配信も楽しむ価値に繋がるし、ファンからすればいつも高音質で推しの楽曲が楽しめる状況が整ったことになる。
なにせWH-1000XM6のように、LDACなどの高音質コーデックに対応するヘッドフォンを使用すれば、高音質配信の恩恵をワイヤレスで手軽に受けられる時代だ。
実際、SixTONES楽曲のサブスク配信がスタートした日、SNS上ではファンの方による「ハイレゾで配信されていて嬉しい」という反応がそれなりに見られた。
SixTONESファン=音に敏感な層が多いことも手伝っていると思うが、今や高音質音源の価値が、一般的にそれなりに浸透しているということだろう。
推し活目線で言うと、従来のスタイルである“CD購入”や“現場参戦”に加えて、“推しの音を聴く”という行為の質そのものがアップデートされている時代とも言える。
SixTONES×WH-1000XM6で体験する、“高音質な推し活”最前線
ここからはいよいよ、SixTONESの楽曲をWH-1000XM6で聴いてレビューしていこう。まずは、メンバーの声質について紹介したい。というのも、各メンバーの歌唱力は元より、そこから生み出されるハーモニーやラップのクオリティがSixTONES楽曲の世界観を形作る核で、聴きごたえに直結するからだ。
メンバーの声質と特長(※筆者の印象です)
グループのセンターを担うジェシーさんは、地の声域は低くて太いが、主旋律のど真ん中を行く心地良い中域も出せば、キレイに伸びるハイトーンも得意と、かなり歌い分けの幅が広い。ラップの表現幅も広いし、ハモリに回れば周囲を映えさせ、主役も脇役も自由自在だ。
また、男性的な声ながら歌い回しが軽やかなのも印象的。例えるなら江戸っ子の粋な空気感というか、「よっ! 待ってました!」と人を惹きつける華とノリがある。そういう点も含め、「SixTONESはこういう人たちである」というグループの色が、ジェシーさんの声に全部出ていて、耳の中でも圧倒的センター感を誇る。
叙情的に伸びるクリアなハイトーンが特徴の京本さんは、SixTONESの高域担当。男性っぽいグループの中で“中性的な表現”を一手に任されている人だ。
ほどよい湿度と光沢感のある声で繰り出すシャウトは、ヘヴィロック系曲の要所を一気に盛り上げるし、クリアな輪郭の声によるエモーショナルな表現は、90年代のV系ボーカリストも想起させる。アイドル性と耽美性の要所を押さえた声の存在感は、SixTONESの世界観に欠かせない。
“美声系の低音”が特徴の松村さんは、SixTONESの低域を担う人。声そのものがクリアで叙情的なところは京本さんと近く、松村さんはそれがより湿度を帯びて、太く低い方に伸びていくイメージだ。
しかも低いのにこもらず、抜けが良くて、男性声優さんのようないわゆる“良い声”である。憂いを帯びたドラマチックな中〜低音の表現力が楽曲の中でかなり映えていて、松村さんの声が入ってきた瞬間、SixTONESの音楽に影がさす。
髙地さんは、ソフトで明るい低〜中域が印象的な声の持ち主。しかしマットな質感で暖かいのに、グループ中で最も叙情感に溺れすぎないフラットさも両立するのが絶妙だ。
一般的に、明るい声はアイドル楽曲の真ん中に据えられやすいが、それがあえて“声の差し色的なエッセンス”として使われているあたりが普通とは逆で、SixTONES楽曲を聴いた時の面白さに繋がっている。髙地さんがいないとこの逆転は起きないので、かなり重要人物。
森本さんの声も明るくソフトで、上述の髙地さんと近い。ただ森本さんの方がより甘く、中域に芯があり、“アイドルっぽい声”をしているのが特徴だ。楽曲に合わせてエモーショナルな表現もしながら、ハモリでは主旋律を引き立てつつ自分の声を消さないバランス感覚もありと、様々なシーンにフィットしている。
本来、クセ強に振り切れそうなSixTONES楽曲がアイドル的ポップ感を両立する背景には、森本さんの存在が大きいと思われる。
ザラついた金属のようなハスキーボイスを持つ田中さんは、切れ味あるラップセンスで抜群の存在感を誇る。しかし、SixTONES楽曲ではそこに調和があるのが面白い。アイドル楽曲のラップは、“盛り上げ”や“曲調の切り替え”など、いわばスパイスとして差し込まれることが多い。
しかし田中さんは、“楽曲構造に組み込まれた接続詞”や“曲を支える重心”のような、いわば職業ラッパーに近い表現のラップが多くて、歌パートに馴染むリズム感が耳を惹く。
あえて言うと、個性的な他メンバーが歌う各パートを繋ぎ合わせているのが田中さんのラップで、それによってSixTONES楽曲の世界観が確立されている印象だ。
総じて、メンバー全員が主役にも脇役にもなれる声で、実際の楽曲もそれぞれが入れ替わり立ち替わりするような歌割りになっていることが多く、グループの大きな魅力になっている。ちなみにこの男性アイドルの声質分析、過去になにわ男子とWEST.でも行なっているので、よろしければ合わせてご参照ください。
というわけで以下、筆者の独断ではあるが、WH-1000XM6で聴くと魅力が語りやすい3曲をピックアップしてみた。楽曲ごとにレビューしていこう。
「ABARERO」
2023年にリリースされた9作目のシングルリード曲。低音ゴリゴリのヘヴィなヒップホップナンバーで、攻撃性に満ちた世界観にはメタルっぽいダーク感もある。
筆者的には、「6人の呪術師が都心の地下に眠るモンスターを呼び覚ましている」という厨二病的ストーリーを妄想できる良曲で、こういう“ヘヴィなミクスチャーロックで踊る男性アイドル”という位置付けも面白い。
特に、上述したSixTONESメンバーの声質・歌唱スタイルの個性が全力で活かされた楽曲構成・歌割りで、とにかくグループ全員の良いところがムダなく全部出てる。構成として、田中さんの攻撃的なラップが畳み掛けるサビの後半、京本さんの高音シャウト「暴れろ」からジェシーさんの「SHOUT」というキメの流れは完璧すぎる。
そして、WH-1000XM6で聴くと非常に相性が良い。というのも、本機の特徴の一つとして低音が印象的で、サウンドの作り込み重視の楽曲とは相性が良い。
いわゆる重低音系とは違うが、引き締まった低音が豊かに鳴っていて、ベースやドラムの音がよく聴こえ、勢いと疾走感がある。攻撃的な本曲の勢いをWH-1000XM6がエネルギッシュに表現し、ドラマチックに引き立ててくれる。
で、こういうストーリー性のある楽曲に、実はWH-1000XM6の「360 Upmix for Cinema」が活きた。例の、ステレオ音源も含めて立体的な音響として再生する技術だ。
こちら、主に映像コンテンツ再生時の使用を念頭にした機能であろうから、ステレオの歌モノで使うと、少々違和感が生まれる人も多いだろう。従来のステレオイメージと異なり、頭内定位の範囲内で奥行きが生まれることで、ボーカルも少し遠くなる。ただ、「空間性を感じることで楽曲のストーリー性が際立つパターンもある」というのを、今回発見した。
言うなれば、映画を観る感覚で、「ABARERO」という楽曲のダークなストーリーを楽しめる感じだ。ヘヴィなヒップホップが持つ、「沼の底から不穏なモノが立ち上がってくるような世界観」を満喫できるというか。ヘッドフォン側が、普通のステレオ感とは異なる色付け・表現をしてくれて、楽しみ方が広がったパターンだと思う。
「Call me」
トロピカルでメロウなR&B調のバラードで、シンプルかつオーソドックスに、WH-1000XM6で聴いて魅力がわかりやすい1曲として挙げたい。引き締まった低音が心地よく、切なさの漂うメロディアスな主旋律を、リズム楽器が作り出すグルーブの疾走感がリードして運んでいく。広い音場で包まれ感もある。
特に、歌い出しのジェシーさんと田中さんのスタイリッシュな掛け合い後、Aメロで低い松村さんの声が入ってきた瞬間にグッと深みが増すのが秀逸。同じくらいわかりやすく引き立つのは光沢感のある京本さんの声だが、明るくソフトな質感がある髙地さんや森本さんの声が少し湿り気を帯びて、静かな余韻を残すのも面白い。
なお、本曲に関しては、「シネマ」モードにすると低音が強調されるのもあって違和感が生まれ、世界観を壊してしまうので、スタンダードにステレオ再生の醍醐味を味わうのがオススメ。
「Strawberry Breakfast -Live on MTV Unplugged-」
MTV主催のアコースティックライブ「MTV Unplugged: SixTONES」でパフォーマンスされた音源。原曲はファンキーなダンスチューンで、そのアッパー感を受け継ぎつつ豪華でリズミカルな楽器編成アレンジになっている。
WH-1000XM6で鳴らすと、広い音場によって左右に振り分けられた各楽器の配置がわかりやすいし、強い低域でライブハウス感も出るのがすごく良い。
また、メンバー全員がこのアレンジを楽しんで歌っている感が伝わってきて、それぞれのリズムでグルーブを作り出しているのがわかる。全員スゴいが、特にラスサビのジェシーさんによるハモリ「恋する〜」のしなやかさは絶品だし、終始ビートに柔らかく身を委ねるような森本さんの声も映えている。
本曲も、「シネマ」モードにすると頭の中に小さなステージが描かれる感じで面白いが、広がりのある音場で楽器の配置や、メンバーの声を間近で感じるには、やはりスタンダードなステレオ再生が良い。
こっからは高音質で“推し”を聴く時代
今回、SixTONESのサブスクをWH-1000XM6で体験して改めて思ったのは、高音質なサブスクと高音質機材の組み合わせが、“推しの声に耳を傾ける”というシンプルで本質的な体験をより手軽で豊かにしてくれること。音がクリアになればなるほど、心の中で“推しのステージ”が近づく感じもするし。
もちろんこれは楽曲のスペックと、WH-1000XM6のような再生機器、そしてLDACなどデジタル規格の進化とセットだ。音楽と機材、両方の進化によって、“高音質な推し活”はこっから 始まるんだとばかりに広がり、その最前線はどんどん更新されていく。