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ソニー、カメラからクルマまでセンサーで未来を創る「Sense the Wonder Day」

ソニーセミコンダクタソリューションズグループのコーポレートスローガン

ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は25日、「Sense the Wonder Day」として、グループの理念や事業活動を説明する映像を配信。昨年12月に発表した世界初となる2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術や、ソニーの電気自動車「VISION-S」に搭載しているセンサー技術の特徴などを解説すると共に、それを手掛けた人物が、それぞれが目指すセンサーを活用し未来について語った。

ソニーセミコンダクタソリューションズグループ "Sense the Wonder"【ソニー公式】



この配信は、SSSが新たに策定したコーポレートスローガン「Sense the Wonder(センス・ザ・ワンダー)」に込めた思いについて社員が語ると共に、パートナー企業、学生を含めたステークホルダーと共有する事を目的として行なわれたもの。

開会にあたり、ソニーグループの吉田憲一郎会長 兼 社長CEOは、「今後もNo.1の技術で世界に感動を届けるためには、世の中のニーズを捉え、車載向けイメージセンサーやエッジAIなど、新しい事業の機会をつかんでいくことが重要。新たなコーポレートスローガン、“Sense the Wonder”は人が何かを感じ取る“Sense”と、人から生まれる好奇心、“Wonder”に寄り添う思いが込められており、“人に近づく”という我々の経営の方向性にも沿っている」と説明。

SSSの清水照士社長 兼 CEOは、SSSが「テクノロジーと、1人ひとりの好奇心が原動力となる企業」と紹介した上で、SSSの持つテクノロジーが「この先の社会基盤をつくり、あらゆるところでイメージセンサーが活躍していくような“センシング・ソサエティ”がやってくることは間違いない」と説明。その上で「私たちの生み出すイメージングやセンシングのテクノロジーは、世の常識を覆すような事実や、日常に潜む新たな豊かさを発見させてくれるもの」と語った。

世界初となる2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー

世界初となる2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術

昨年の12月に発表した、世界初となる2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術については、SSS第2研究部門の中澤圭一氏が説明。

ダイナミックレンジ拡大やノイズ低減といったイメージセンサーの高画質化に貢献することを目的に開発した技術。従来は同一基板上で形成していたフォトダイオードと画素トランジスタの層を、別々の基板に形成して積層することで、従来比約2倍の飽和信号量を確保し、ダイナミックレンジ拡大・ノイズ低減を実現し撮像特性を大幅に向上できるという。

中澤氏はこの技術のポイントとして、「フォトダイオードと画素トランジスタをナノメートルの精度でアライメントする技術が必要になる」と説明。これを実現するために、“3Dシーケンシャルインテグレーションと呼ばれる新たなプロセス技術を導入。これは従来技術のように、完成したウェハ同士を貼り合わせる技術ではなく、製造フローの途中で新しいウェハを貼り合わせ、その後も同様に製造フローを継続する技術」だという。

具体的には、フォトダイオード形成後にシリコンウェハを貼り合わせ、その上に画素トランジスタを形成。これにより、アライメント精度は貼り合わせではなく、リゾグラフィー(光の照射で回路などのパターンを生成する技術)で決定され、高精度なアライメントが可能になるとのこと。

技術課題は、ウェハ積層後の製造工程における熱。従来の構造では接合技術に要求される耐熱性は400度だったが、新構造を実現させるためには1,000度以上の耐熱性が必要になる。これに対して、「ソニーの持つウェハ接合技術を進化させて、また構造にあわせたトランジスタを構築することにより、今回のデバイス開発に成功し、世界初の2層トランジスタピクセルを実現した」という。

さらに中澤氏は、「本構造ではフォトダイオードと画素トランジスタが物理的に分離されるために、構造的な制約を受けることがなく、それぞれを最適化することが可能になる。そのため、主にダイナミックレンジ拡大やノイズ改善などの画素性能向上が期待できるとお話しているが、実際には特性改善だけではなく、新たな機能の追加など多くの可能性を持ったデバイスになっている。現在、我々研究開発部門の中で、それに対して様々な検討が行なわれている」という。

中澤氏は、開発のキッカケが「“究極の画素とはどういうものだろうか?" という疑問を、自分達で問いかけたところからスタートしている。議論の中で、フォトダイオードとトランジスタがそれぞれ最高の性能を出す必要があるという結論になり、今回の2層トランジスタピクセルのコンセプトが生まれた」と振り返った。

車載向けも本気で取り組む

CES 2022で発表されたプロトタイプSUV電気自動車「VISION-S 02」

ソニーグループ AIロボティクスビジネスグループの田森正紘氏は、電気自動車「VISION-S」について、「セーフティ、アダプタビリティ、エンターテイメントの3つの視点から価値提案を考えている」と説明。

“ユーザーを積み込む”というオーバルコンセプトをもとに、“セーフティ”ではセンサーで車の内外を350度センシングし、安心安全で快適な空間を提供。そのために高度で高性能なイメージセンサーの技術は不可欠だという。

セーフティを確保した上で、さらにエンターテイメントで包み込み、“至福の移動体験”を実現するために、SSSのセンシング技術を活用。

刻一刻と変化する車外の環境を認識するために、好感度でハイダイナミックレンジなイメージセンサーを、車室内向けには、人の状態や行動を高精度に認識するための距離画像センサーを搭載している。“アダプタビリティ”としては、乗員それぞれに応じた快適空間を提供するという。

VISION-S | Product Movie

SSS車載事業部の薊純一郎氏は、車載向けのイメージセンサー事業について説明。車載事業部ができる前の2013年頃から、商品化に向けて開発を進めるプロジェクトリーダーとして参加した薊氏。当時は、屋外で長時間使用するセキュリティカメラ向けのイメージセンサーと似たような仕様のセンサーを、車載向けに展開する事を考えていたとのこと。

しかし、日米欧の顧客に売り込みに行っても「ソニーみたいなコンシューマー企業が、本当に車載をやる気があるのか?」という目で見られたという。

そこで、顧客の声を直接聞く中で、少しずつ“セキュリティカメラ向けセンサーと車載向けでは、求められてる事が違う”と認識。車載カメラでは、全てのフレームにおいて、LED標識や周囲の車のヘッドライトやブレーキランプなどを正確に認識しつつ、トンネルの出入口などの明暗差の大きな環境でも黒つぶれや白飛びなく撮らなければいけないことを痛感。

その顧客ニーズをもとに、厚木のエンジニアと喧々諤々の末に生み出したのが、独自のサブピクセルという画素構造。これにより、広いダイナミックレンジとLEDフリッカーの抑制を同時に実現。完成した製品のデモを行なったあたりから、顧客のソニーに対する見方も大きく変わったという。薊氏は現在、サブピクセルアーキテクチャーの第2世代品を量産すると共に、第3世代品の開発を進めているという。

ほかにも、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが長崎テクノジーセンターの敷地内に建設し、最先端技術を使ったCMOSセンサーを量産する増設棟「Fab5」の増強工事状況なども報告された。