ニュース

富野監督「このシーンは切る」の真相は!?『G-レコ』スタッフトーク

『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」
(C)創通・サンライズ

8月5日から公開されている劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」。10日にスタッフトーク付き上映会第3弾が開催され、TVシリーズから劇場版でも演出を担当した吉沢俊一氏が登壇。制作デスクの大橋圭一氏と、制作秘話について熱いクロストークを展開した。

スタッフトーク付き上映は新宿ピカデリー シアター3で実施。制作デスクの大橋氏について、演出の吉沢氏は「お気づきの方がいらっしゃるかも知れませんが、第4部と第5部で、あるキャラは彼が顔面モデルを担当しています。ぜひ探してみてください」と紹介。

左から大橋圭一氏(制作デスク)、吉沢俊一氏(演出)
(C)創通・サンライズ

「演出回」ということで吉沢氏が用意してきたネタは、第4部で起こった富野由悠季総監督による、驚きの決断について。「第5部に関しては、悩んでいる時間が無かったので、富野さんの想定通りの形でサクサクと作業が進みました。そのため今日ここで何の話をするか悩んだんですが、第4部では、実はスタッフがビックリするようなことがありまして。本日はそちらの話をメインにさせていただければと思います」と説明。

スクリーンには、第4部のクライマックスに向けた重要な戦闘シークエンスである、G-セルフが絶対兵器フォトン・トルピードを使うシーンの絵コンテが映し出される。

(C)創通・サンライズ

フォトン・トルピードとは、G-セルフのパーフェクトバックパックに搭載された反物質を搭載した光子魚雷で、触れたものを一瞬で消滅させるという恐ろしい兵器。それが使用されるシーンの絵コンテが順番に映される中、吉沢氏は「途中で“×”(バツ印)が入っているカットがあるんですが、これが欠番シーンなんです。フォトン・トルピードのくだりは、本当はもっと沢山の人が死んでいたんですが、第4部を作っている中で欠番が出ました。富野監督の方で、絵コンテで想定していたところよりも削ってしまったカットがたくさんありまして。例えば、脱出してモビルスーツに乗っていない、戦う意志のないパイロットなんかも問答無用で命が奪われてしまうような、結構えぐい描写があったんです。その他にも、バララとクリムのチャンバラがあったりとか、いろいろ要素も入っていました」

(C)創通・サンライズ

解説と合わせて、画面にはいくつもの“×”が入った絵コンテが表示され、欠番シーンが多かったことがわかる。中には、カット単位では無く、ページまるごと削除される箇所があり、当初想定していた戦闘シーンがもっと長かったこと、また戦闘シーンが長くなってしまっているために大橋氏から富野監督に「削って欲しい」とお願いしたことなども語られた。

吉沢氏の説明によると「絵コンテの状態で撮影をし、並べてテレビ版の絵と繋げた仮映像を作ってみたところ、これはボリュームがエグすぎると。それでどんどん切っていったんです」と、戦闘シーンに関しては作画に入る前の段階での調整がなされたため、シーンの欠番だけで済んだとのこと。

続いて大幅な欠番が出たと紹介されたのは、ラ・グー総裁によってアイーダたちが案内されるビーナス・グロゥブの管制室のシーン。その時のことを吉沢氏は、「ここは、当初作ることが決定していて、作画や3Dに関してはある程度作業に入ってしまった後に切っているんです。タイミング的にはもうそろそろアフレコに入るか、というところで富野さんがいきなり“このシーンは切る”と言って切ってしまって。その時、編集室には編集マンの今井大介さんと僕と大橋君や笠井圭介アシスタントプロデューサーなどがいる中で、アニメーターが絵を描いているのに“このシーンは切る”、“このシーンはいらない”と言ってブワーっと切っちゃたんですよ。セリフから何からいじりまくって、みんな青ざめてしまった」と振り返る。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

大橋氏は、制作中にあった富野監督とのやり取りについて、「アフレコや音響作業の時には、監督を車でお連れするんですが、その車内でラジオを聞いているわけです。ある時、“ラジオネーム、パプテマス・シロッコさんからのお便りです”と名前が出て、普通に嫁がどうした……というような内容が紹介されて。“監督、今パプテマス・シロッコって言いましたよ。50歳らしいです”みたいな話をしたら、“そうか、パプテマス・シロッコは50歳か……”って年齢のところを気にされて。“でも、全年齢に響いているようですよ”と言うと嬉しそうにしていましたね」と、富野監督のちょっと愛らしい様子も紹介。

そこに吉沢氏も反応。スタジオで富野監督の隣の机に置いてあったコメディ漫画「アラサーOLハマーン様」(月刊ガンダムエース連載中)の単行本を富野監督が気にして、「あの漫画は一体何なんだ?」と語った話や、監督がお気に入りの女優“マリリン・モンロー”の発音にこだわる様子など、さまざまなことに興味を持つ富野監督の一面が披露された。

スクリーンには、ビーナス・グロゥブの巨大なモデルをみんなで見上げるシーンの絵コンテが映し出される。「劇中でラ・グー総裁がアイーダたちにビーナス・グロゥブの内部を見せるというシーンだったんですが、ここもかなりの部分を切っているんです」と、吉沢氏の説明の後に、どんどんと欠番となった絵コンテが投影される。

さらに吉沢氏は「富野さんの作品で、これだけ顔のアップが続くというのはかなり珍しいことで、ここが余程大事なシーンだということがわかるんです。ディスプレイデザインの青木隆さん(スタッフトーク第1弾に登壇)にCGのモニターを“気合いを入れてお願いします”と頼みました」という。

また、ラ・グーが“このようなエネルギーの塊にする計画なのです”と語っていることから、「もしかしたらラ・グーは金星の近くで人工太陽みたいなものを作ろうとしていたのではないか」とスタッフ間では考察されていたことなど、当時の制作時の様子も語られた。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

クレッセント・シップにある永久エネルギーの話や、作品のテーマとも言えるエネルギー問題について語る場面など、重要だと思われるシーンが本編では全面的に削られたことについて、吉沢氏は「これは、結構大事なシーンのはずなんですが、みんな切っちゃったんです。これには僕らもかなりビビリましたね。すでに手を動かしているアニメーターや3Dの方に何て言おうと。でも、いたずらに切っているわけではないんです」と振り返る。

「アイーダとケルベスの間にも何かあったのかと思わせる部分も含めて、こんなに大事なシーンを何で切ってしまったのかと考えたんです。おそらく、この欠番したシーンが入ることによって、作品が説教臭くなりすぎて、話のテンポが落ちると判断したんだと思うんです。すでに作業が進んで、作品のテーマの根幹に触れてそれが見え隠れするところも、作品のテンポという全体を救うためにあえて切ってしまうという。この作り手としての監督の姿勢に、僕は本当にビックリしました。

1カット、2カットの見せ場のためだけじゃなく、全部通しての映像にしたときに、どういう印象を残すかを考えて、そのために全部必要ないと判断して切ってしまうということですね」と、大きく作業の手が入る中での多数の欠番シーンが生まれた、前代未聞の富野監督の決断に関しての素直な感想を語った。

そして、このカットされたシーンを途中まで作られた素材などを交えた映像を、来場したファンのためだけに特別に公開。実際の完成映像と比較する形でスクリーンに投影された。この映像は、普段は一般には見せることがないもので、アフレコ直前だったためにアフレコの際にセリフが入るタイミングなどが指示「セリフボールド」が入った映像となっていた。

(C)創通・サンライズ

映像 に合わせた解説を入れる際には、大橋氏は「カットしたシーンはテレビシリーズには無かったところで、追加するというのは必要だから入れたところですから、そこを切ってしまうんですよね」と感心とも驚きともいえる感想が語られると、吉沢氏も「その英断ができるっていうところが、やっぱりすごい人だなと。作品に対して、誰よりも客観的だからできるんですよね」と同じように驚きについての感想を語った。

その後本編で使われた完成版の映像が流され、大橋氏は「切ったことによってスイスイと流れていくんですよね。喋っているシーンを集中して観るのはつらいと思うんですけど、完成版の見やすさはテンポよく、どうみせようとしたか、という苦労の証かと思いますね」と仕上がりに対しての思いを語った。

(C)創通・サンライズ

さらに吉沢氏は「人類がまたやっていけるようなヒントだけはいろんなところで少しずつだして、未来に向けて何か準備ができるのか、できたのかという人間の叡智の部分をラ・グーを通して描いておきながら、後半はそのエネルギーを奪い合うためにものすごく醜い殺し合いをしているという、“対”になっているところが非常に印象的で、シーンを切ったことでうまくそっちに繋がっているなというように思うんですよね。それがとても見事だなと思いつつも、そのために自分の温めたアイデアも思い切って削ることができるというのが、本当に凄いですね」と、富野監督の欠番シーンを決めていった行動を改めて讃えた。

(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ

スクリーンには第5部のエンドロールの背景に流れていた映像が映し出される。

「この絵が何の絵なのかは私からは言えないし、どこかのタイミングで監督が言うのであればその時に任せたいです」と大橋氏が語る謎の絵は、美術監督の岡田有章氏が描いたもので、オーダーでは油絵だったが時間が無かったためアクリル絵の具でキャンパスに描かれたもの。それを写真で撮影し、吉沢氏がカメラワークをつけてテロップの背景用の映像にしたという。

(C)創通・サンライズ

吉沢氏はラストの謎の絵については、「SF作品を見ていたのに、最後にこの絵が出たらみんな驚くかなと思っていたんですが、結構自然に見られてしまったのかなと思います。ドラマと映像の流れがマッチして、成功して、みなさんに心地良く見てもらえるような。そういうものになっているから、スッっと見ることができてしまったのだと思うんです」と語った。

エンドロールに関しては、ただの黒バックではなく、もう少し見ている人を楽しませたいという監督の思いから、『G-レコ』では毎回何かしらの映像が入れられてきたという。

また、エンドロールに関しては、毎回監督に怒られるのは恒例だそうで、大橋氏は「エンドクレジットは、ただ流すだけじゃなく、文字の大きさやスピード、タイミングのすべてに、すごく気を使えと監督は言っています」とそのこだわりを語る。

しかし、作業の流れとしては、納品の一歩手前くらいで行なうため、テロップをいじるのは難しいのだが、そこで手を抜かないようにと富野監督は怒るそうだ。大橋氏によると「テーブルをバンバン叩いて怒るんだけど、叩いている手が折れるんじゃないかというくらい叩くので、怒られてるこっちが心配しちゃうほどの勢いで怒ってます」と、富野監督がどれくらいの勢いで怒っているのか、その様子を語った。「でも、人の名前が並んでいるので、そういうところにちゃんと気を使わないとダメだということなんです」と、エンドクレジットへの監督の強い思いについて語ったところで、残念ながらトークも終了に時間に。

最後に大橋氏は、「今日はちょっと拙い話をしてしまいましたけれど、楽しんでいただけたでしょうか? ファンの皆さんがいらっしゃるから、こうして5本目まで公開に辿り着けた思っております。本日はありがとうございました。監督はいつも取材の時に“『G-レコ』は50年残る作品だ”ということを言われているわけですが、“50年残る”ということで、パッケージや配信などでまた見る機会があると思いますので、これからも末長く楽しんでいただけたらと思います」。

吉沢は「やっぱり皆さんの応援があってこそ、我々もここまでやってこられたというのは本当にあります。『G-レコ』をこれからも愛していただければと思っております。本日は本当にありがとうございました」と挨拶。「演出回」のスタッフトークは幕を閉じた。