初のフルHD 3Dプロジェクタ「VPL-VW90ES」を体験

-プロジェクタならではの「大画面3D」


VPL-VW90ES。3Dメガネが2つ付属する

 ソニーは、3D対応のSXRDプロジェクタ「VPL-VW90ES」を11月20日に発売する。

 薄型テレビでは、3D対応モデルが各社から続々と登場しており、競争も激しくなってきているが、民生用のプロジェクタで、フルHD解像度の3Dを表示できる製品は「VPL-VW90ES」が初となる。

 テレビで3D製品が続々出てきているが、3Dの場合、視覚心理学的に映像が小さめに感じられるので、「3Dを大画面で見たい」というニーズに応えるには、プロジェクタという選択肢の登場は非常に大きな意味があるといえる。

 3D対応に加え、新SXRDデバイスの採用による画質向上やコントラストの向上といった点も気になるところ。この新プロジェクタを、開発拠点である厚木テクノロジーセンターで体験するとともに、その狙いを聞いた。


 


■ 確かにクロストークの少ない3D映像

 VW90ESは、国内の家庭用プロジェクタとして、業界で初めて1系統の光学エンジンによるフルハイビジョン3D映像投射を実現したというSXRDプロジェクタ。詳細については、製品発表時の記事を参照して欲しいが、新開発の0.61型/1,920×1,080ドットSXRDパネルを搭載。240Hzのハイフレームレート駆動により残像感の低減とともに、クロストークを抑えた3D映像を実現する点が特徴だ。

VPL-VW90ES。ボディデザインは従来モデルを踏襲

 新デバイスでは、画素間のスペースを0.2μm(従来は0.25μm)にまで狭めることで、パネル表面の平滑性を改善。これにより乱反射を抑え、メッシュ感が少なく、滑らかな映像表現が可能になったという。コントラスト比も、ダイナミックコントラストで15万:1と、昨年モデルの「VPW-VW85」の12万:1より大幅に向上しているが、この点も新デバイスの採用が大きく効いているという。

 また、3Dの実現のためには、左、右目用の画像を用意し、さらに映像をメガネを通して見ることになるため、2Dより高い輝度が必要になる。VW90ESでは、光学エンジンの高効率化や200W高圧水銀ランプの組み合わせで、輝度は1,000ルーメンを実現(2D表示時。前モデルVW85は800ルーメン)。3D立体視においても明るさを確保しているという。

 3Dメガネ「TDG-BR100」が2台付属するなど、3D表示が大きなセールスポイントとなっているVW90ESだが、その3D立体視の最大の訴求点としているのがクロストークの少なさだ。VW90ES、というより多くの民生用テレビ、プロジェクタが対応する「フレームシーケンシャル」方式の3Dでは、右目用と左目用のフルハイビジョン映像を交互に表示。その映像表示と同期して交互にレンズシャッターを開閉する専用アクティブシャッターメガネにより、フルHDの3D立体視を実現している。

 しかし、シャッター開閉時に、シャッターが閉じている方の目の映像の残像が、もう一方の目に入ってしまい、結果、像が2重に見えてしまう「クロストーク」が同方式の問題点だ。映像が立体的に見えないだけでなく、快適性を損ない、時にはノイズに見えたりするなどの弊害を生む。これを削減するのが、今の3D対応機器共通の課題といえる。

ソニー3Dのアドバンテージ。240Hz駆動で2枚ずつ左/右の映像を描画することでクロストークを抑制

 ここで効いてくるのがSXRDデバイスの240Hz駆動という特徴だ。VW90ESでは、パネルは4倍速(240Hz)で、1/240秒ごとにフレームを書き換える能力を有しているが、シャッターの開閉は1/240秒ごとではなく"倍速"の1/120秒ごととなる。

 VW90ESでは、1/240秒ごとに左目用の映像を2回描き、その後右目用を2回ずつ描画。それぞれ2回描画したタイミングで(1/120秒)、シャッターを切り替える。これを1/120秒で1枚ずつ描画して、シャッターを切り替えると、前のフレームの映像がシャッター切り替え時に知覚されてしまい、それがクロストークとして認識されやすく、2枚同じ画を投写することで、クロストークが大幅に抑えられるという。

 さらに、シャッターの開放時間も3段階で調整できる。これは「3Dメガネ明るさ設定」という項目でユーザーが強/中/弱が選択できる。開放時間が長くなれば輝度は上がるが、その分前後の映像が見えやすくなるため、クロストークが増える。弱はその逆でクロストークは減るが、輝度が落ちる。コンテンツによっても3Dの見え方が異なるため、違和感がある場合はここで調整できる。初期設定は「中」になっている。

 今回は、「くもりときどきミートボール」、「モンスターハウス」、などのBlu-ray 3Dや、720pのビデオコンテンツを3Dで見た(3Dメガネ明るさ設定は「中」)。100型のスクリーンで、視聴距離3m程度で視聴したが、確かにクロストークは少なく、ほとんど知覚できないほど。色も自然で、すぐに「3Dを見ている」という感覚が無くなるのが一番の驚きだった。

 3Dメガネ 明るさ設定を「強」にすると、明るさは確かにアップするが、クロストークが見えやすくなった。基本的には弱、中で使ったほうがよさそうだ。

フルHDの3D表示に対応
2D-3D変換の「シミュレーテッド3D」も搭載

 輝度も実用十分なレベルという印象。ただ、2D画質も向上しているVW90ESでは、黒の締まりが向上しているだけでなく、ピーク輝度の高さ、白側の輝度パワー感が強力。その2D映像の時のパワフルな映像と比べると、やや物足りなさは感じる。2Dを見てしまうと、もう一歩、明るくなってほしいと感じる。

 画質モードは、2Dと3Dで共通となっており、「ダイナミック」、「スタンダード」、「シネマ1/2/3」が用意される。3D用の画質処理としては、「液晶シャッターの影響を考慮し青色を補正するなどの調整を加え、2Dと3Dの色の見え方の違いを抑えている」という。

 また、プロジェクタでは唯一という2D-3D変換機能も搭載。3D BRAVIAと同等の「シミュレーテッド3D」により、2D映像を3D化して楽しめる。効果も3段階で調整可能で、基本アルゴリズム自体は、BRAVIAに搭載しているLSIと同様のものを採用し、プロジェクタ用に調整しているという。

 


■ 3D対応でも設置性に配慮

レンズ上下に3D同期用の赤外線トランスミッタ

 3D対応ながら、設置性でも不利にならないように配慮した点も大きな特徴。メガネとの同期に使う赤外線のトランスミッタは、本体のレンズ周辺部に内蔵。レンズ上部、下部にそれぞれ5個づつ発光部を備え、同期信号をスクリーンに反射させて、メガネと映像の同期を行なう。視聴距離はカタログ値では5mだが、環境次第では8m程度まで利用可能という。

 さらに視聴距離が離れている場合は、別売のBRAVIA用3Dシンクロトランスミッタ「TMR-BR100」を使用。LANケーブルで本体と接続し、3Dメガネに向けて直接シンクロ信号を送ることで同期させる。15mまでのLANケーブル(カテゴリ7)に対応する。

 気になるのはプロジェクタでは、テレビと異なり画面サイズが一定ではないこと。テレビであれば、画面サイズは固定なので、例えば55型テレビであれば、そのサイズにあわせた視差にすればいい。しかし、プロジェクタはスクリーンに投写する方式のため、視聴者がどんなサイズで見ているが、プロジェクタ側ではわからないはずではないか?


3D対応でも設置性を損なわぬよう配慮

 実はVW90ESでは、新たにプロジェクタ側で投射映像の大体のサイズを自動検出する仕組みを導入している。VW90ESでは、光学1.6倍ズームのARC-F(オールレンジクリスプフォーカス)レンズ(F2.5~3.4)を搭載し、電動ズーム機構を搭載。電動レンズシフトや電動フォーカス機能も備えている。この電動ズームの倍率やフォーカス設定情報から、おおまかな投射サイズを把握、それを3D投射時のデータとして活用することで、視聴サイズに合わせた最適な視差をプロジェクタ側で判断しているのだという。

 メガネは一見すると3D BRAVIAと共通のものだが、一点大きく異なっている点がある。メガネ側に偏光フィルムを追加しているのだ。BRAVIAのメガネは前面の偏光板を省くことで、透過率を高め、光の損失を減らしている。テレビ側の偏光板でメガネ前面の偏光板を兼ねることで輝度を確保していた。

 しかし、VW90ESでは表示面がスクリーンとなるため、メガネ前面にも偏光板が必要となる。VW90ESには2台のメガネが付属するほか、2つの交換用偏光板も同梱(1枚は小型の3Dメガネ「TDG-BR50」用)。BRAVIAの付属メガネに偏光板をつけることで、VW90ES用のメガネとしても活用できる。

 偏光板を追加したことで、光の利用効率は低下する。一方、首を傾けた際にすぐに色が変化してしまうという3D BRAVIAの弱点は、VW90ESには全く起こらず、少し首を動かしても色の変化を感じることはなかった。

付属の3Dメガネ偏光フィルムが付属するTMR-BR100との接続用のLANケーブル変換アダプタが付属

 2D画質についても、いくつかのコンテンツを視聴したが、コントラストの向上は目を見張るものがある。黒の沈み込みとともに、ピーク輝度の向上も感じられ、パワー感が高い。新デバイスや光学系の改善が大きいとのことだが、2D品質の確かな向上も感じられた。

黒の締まりやコントラスト感の高さが印象的2系統のHDMI入力を装備

 この年末商戦、フルHDの3Dプロジェクタは、VW90ESを皮切りに、ビクターからDLA-X7/X3が登場。さらに、三菱からも新製品が発売される見込みだ。2010年は「3Dテレビ元年」とともに「3Dプロジェクタ元年」とも言えそうだが、3Dメガネやトランスミッタが別売となるビクターと異なり、2台のメガネが付属し、3Dフル対応という点もVW90ESの大きな訴求ポイントで、3Dに取り組む“本気”が伺える。

 近年、薄型テレビの画質向上や低価格化などもあり、ホームシアター向けプロジェクタ市場は低迷しているが、3Dという要素には明確に「大画面の魅力」を高めるもの。VW90ESには、プロジェクタならではの、3Dと大画面の魅力が確かに感じられる。


(2010年 10月 28日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]