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Ultra HD Blu-rayとHDRがもたらす次世代映像とは?
HDRにより広がる“色”。伝わる“雰囲気”
(2015/10/9 09:30)
「CEATEC JAPAN 2015」2日目となる10月8日、「未来を切り開くブルーレイの新展開 -Ultra HD Blu-rayのすべて-」と題したパネルディスカッションが開催された。4K/HDR対応の新Blu-ray「Ultra HD Blu-ray」(UHD BD)について、関係者がその特徴や魅力、課題について意見を交わした。
モデレータは、AV評論家の麻倉怜士氏。パネリストとして、パナソニック AVCネットワークス社 技術本部 メディアアライアンス担当部長の小塚 雅之氏、ソニービジュアルプロダクツ 技術戦略室 プリンシパルエンジニア 小倉敏之氏と、ワーナー エンターテイメント ジャパン ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント&ジャパン・コンテンツ事業グループ マネージング・ディレクター 日本代表 福田太一氏が登壇し、4K/HDR時代の映像表現や映像ビジネスの今後について紹介された。
Ultra HD Blu-rayとは何か。解像度、色、輝度が進化
DVD時代から光ディスクの規格化に携わってきた、パナソニック小塚雅之氏は、DVDから10年でBD、BDから10年でUHD BDという進化を振り返るとともに、UHD BDのスペック面の特徴を解説。BDでは、MPEG-4 AVC/H.264だった映像コーデックはUHD BDでHEVCに、ビット深度は8btから10bitに、転送レートは40Mbpsから100Mbpsに引き上げられる。これに伴い、ディスク容量も100GB(3層)に拡張される。
Ultra HD Blu-rayの目標は、「圧倒的にいい画を出そう」というもの。その要素技術として、映像コーデックのHEVC、広色域規格のBT.2020、そしてHDRへの対応を上げた。特に、BT.2020とHDRについては、「これまでのBDでは、映画(DCI規格)を参照し、『映画の体験を家庭でも』を目標にしていたが、UHD BDでは、箱(ディスクフォーマット)だけは、DCIよりもいいものになった」とした。
ハイダイナミックレンジ映像の「HDR」については、「明るい太陽や光線の反射、煌めきなどだけでなく、色、解像感も向上する」と説明。HDR方式は「HDR10」を採用。Dolby VisionやPhilips方式はオプション扱いとなる。
HDRの導入を決めたのは、ハリウッドスタジオからの強い要望があったためという。2012年頃から4K対応の検討をスタートしたが、「半年後ぐらいに、ハリウッドスタジオからHDRを絶対入れる。そうじゃないと(4Kは)やらないという声が出た。当初は必要性に疑問というか、違和感があった。しかし、制作側の意見を聞くと、テレビを単に明るくして、という話ではなく、カメラのセンサーがすごく良くなってダイナミックレンジが拡大している。その映像をそのまま出したいという話。これは映像の大きな進歩。やろうとなった」という。
一方、これまでの制作環境との融合にも考慮し、「UHD BDでは映像だけを変更した」とのことで、音声フォーマットについては、従来のBDとほぼ共通。BDとUHD BDのパッケージを作る場合でも、映像部分だけを差し替えて対応できるようにしている。
オーサリング環境の整備も進んでおり、パナソニックは、BDAやAACSの公式テストディスク制作のためにUltra HD Blu-ray制作ツールを開発。UHD BD立ち上げのために米Jargonに提供し、同社が商用ツールとして開発/提供し、ポスプロで既に利用されているという。また、米シナリストも対応ツールを開発/ベータ提供しているなど、オーサリング環境も整ってきているという。
そして、プレーヤーについては、パナソニックの「DMR-UBZ1」が11月13日に発売。「Samsungが初になると思っていたのですが……」と語る小塚氏だが、世界初のUltra HD Blu-rayプレーヤーとして「DIGA DMR-UBZ1」を紹介。また、ワーナーと協力し、初のUHD BDタイトル「るろうに剣心 京都大火編」と「るろうに剣心 伝説の最期編」を制作し、購入者にプレゼントするため、「DIGA買っていただければ、すぐに楽しんで頂ける」とアピールした。
HDRが変える「色」
Ultra HD Blu-rayとともに注目されるのがハイダイナミックレンジ(HDR)映像だ。ただ、小塚氏は「単に明るくなると誤解されている」とも語る。HDRの導入により、明るさだけでなく、色や解像度においても進歩し、画質の向上が期待できるという。
ソニービジュアルプロダクツの小倉 敏之氏は、Ultra HD Blu-rayに導入されたHDRによる映像表現力の進化について説明した。
小倉氏は、「映像フォーマットの進化は、3つの解像度と2つの表現範囲の5つから決まる」とし、2K/4Kなど「2次元(平面)解像度」、10bit/12bitなど「3次元(階調)解像度」、24p/60p/120pなど「時間軸の4次元(フレームレート)解像度」、BT.709/BT.2020などの「色の表現範囲」、SDR/HDRなど「輝度の表現範囲」について説明した。
5要素をレーダーチャートにマッピングし、既存BDに対し、全要素でUHD BDが向上していることを提示。さらに、デジタルシネマ向けのDCI規格についても、UHD BDが階調以外の全要素で上回ると説明。「シネマのフィルムに対しては、BDは十分な能力を持っていなかった。しかし、デジタル技術を駆使してBDは進化し、Ultra HD Blu-rayになり、4K、10bit、60p、そしてBT.2020色域、HDRと、階調を除いて、ほぼシネマフィルムの性能を凌駕する能力を備えた」とアピールした。
また、小倉氏は、「レーダーチャートの5角形のバランスが取れてきていた」とし、特にSDRから、HDRに対応することで、映像のリアリティが向上することを強調。ハイダイナミックレンジの重要性を説明した。
HDRについては、「いままでのカメラに入っているHDR」とは違うと説明。IMAGICAによるUHD/HDR標準画像[LUCORE]の画面を例示し、1枚の画面で2cd/m2~9,890cd/m2まで幅広い輝度をもつことを紹介した。
実世界の明るさのダイナミックレンジはさらに広く、それに対して人間の目のダイナミックレンジが10万:1と言われている。
一方、従来の一般的な液晶テレビやカメラは、1,000:1程度の表現を想定していた。最近の映画製作ではよりハイダイナミックレンジに対応した撮影が行なわれ、また、最新のテレビでも既存のSDRやBT.709で伝送された信号から、テレビ側でダイナミックレンジを復元して表示する技術も搭載されるようになった。
カメラやモニターはSDRを超える明るさ/ダイナミックレンジをに対応し始めているが、伝送時に圧縮されてしまう。BDでパッケージ化する段階で、HDRのダイナミックレンジが、一端SDRにされ、再度テレビ側でHDRに復元するというかたちだ。この環境を整備し、ボトルネックを解消することで、そのままのHDR映像を伝送し、「ディレクターの意思をそのまま伝える」ことができるようになる。
また、小倉氏が強調したのが、HDRは「輝度」が上がるだけでなく、「色」についても表現力の向上が見込めるという点。明るさと色の表現範囲が上がることで、カラーボリュームと呼ばれる表示可能な色数が大幅に増加する。HDR/SDRの比較画像を例に、「HDRによる色表現の向上」と、それによる立体感、リアリティの向上こそが、HDRのメリットと強調した。
また、UHD BDではHDR10というHDR方式を採用している。ほかにも、Dolby Vision(UHD BDではオプション)や放送向け利用が想定されるHybrid Log-gammaなどの技術もあるが、HDR10は、米CEA(米国家電協会)で標準化されているほか、映像配信サービスでもHDR10の採用が見込まれている。そのため、テレビメーカーは、HDR10に対応しておけば、UHD BDでも配信でも、どちらでも受け取って再生できるという。
小倉氏は、HDRの魅力は明るさだけではなく、「雰囲気が出てくる」と語る。
「夕日の色や空気の粒状感、雰囲気を再現する、その表現力を持っているのがUHDとHDR。表現の幅が広がる」と強調。ソニーのテレビでもHDR対応を進めており、UHD BDに対して「Ultra HD Blu-ray Ready。4K Blu-ray、やってこい。高画質やってこいという状態」とアピールした。
HDR制作時のクリエイティブ要素をどう扱う?
ワーナー エンターテイメント ジャパン 福田太一氏は、「ハリウッドスタジオは、4K/UHDの解像度よりも、ピーク輝度や色をより良くしてきたいという意向が強い。それにより、監督の意図をそのまま伝えやすくなり、より感動を深めることを期待している」と説明。
世界初のUltra HD Blu-rayタイトルは、パナソニックが「DMR-UBZ1」購入者にプレゼントする、ワーナーの「るろうに剣心 京都大火編」となる。その制作のために、大友啓史監督と一緒にパナソニックのラボに入って、HDRのグレーディング(色調整)作業を行ない、暗さを保ちながら、質感を高める部分は明るさを上げるなど、「映像表現の深みを与えるツール」として、HDRについて多くの経験を積んだという。
るろうに剣心以外の具体的なタイトル名は言えないとのことだが、「アグレッシブなUHD化、HDR化のプランがある。ワーナーは全面的にサポートし、新たなビジネス/映像制作表現を実現すべく、強くコミットしていく」と明言。「DVD、BDに変わる、映像業界の意義ある発展。日本で最初のUltra HD Blu-rayプレーヤーが発売され、日本の映画が最初のタイトルになる。オーディオビジュアルの先進国日本を示すいい機会になった」とした。
一方でHDR化には課題もある。撮影はRAWで行なわれるため、HDRの色や輝度、階調をカバーしているものの、映画のマスターは基本はSDRでHDRになっていない。そのため、HDRのUltra HD Blu-rayを制作する場合は、別途HDRグレーディングを行なう必要がある。例えば、色域や輝度が広がったことで、変わってしまう青空の色をどうするのか、など、製作者側でなければ判断できない、クリエイティブの要素が出てくる。「そこのマッチングをどうするかが課題」という。
また、高精細化に伴い、美術や衣装などの映像制作段階でのより細かな作り込みなども必要となる。「どこまで作りこめるのか。課題であり面白味でもある」とした。過去のカタログ作品についてもHDR化の検討は進めているという。
パナソニック小塚氏も、「いままで、DVDからBDまで作ってきたが、ずっと劇場がマスターでした。劇場よりは色や音は及ばなくても、それを目指して近づけていくという作業でした。今回のHDRは『変わってしまう』。例えば暗い部屋の中で、HDRであれば中が見えてしまうが、見せたほうがいいのか、見えないほうがいいのか、それは監督の判断。そういうコミュニケーションやクリエイティブな側面が求められる。今後考えないといけない部分」とした。
また、UHD BDだけで、HDRグレーディングの費用を賄えなければ、ビジネスとしては成立しにくい。そのためHDR10を採用し、ネット配信とフォーマットの共通化を図り、マルチソース対応を用意にしている。
一方で、配信に対するUHD BDの最大の利点は「画質」だ。最高100Mbpsまで収録可能で、配信では扱えないレベルの高ビットレートで映像収録できる。
「他のエンタメフォーマットと競争していく中で、4K/HDRという特徴は非常に大きい。レートを考えれば、4K UHD/HDRが最高画質になる。これがフィジカルのBDパッケージの良さになる。一方、デジタルには利便性の高さがあり、その2つの良さを組み合わせて消費者に提供し、満足度を高めていきたい」(ワーナー福田氏)。
なお、PCやゲーム機でのUltra HD Blu-ray対応について、パナソニック小塚氏は、「BDAには、Intelやマイクロソフトも加入している。また、PCドライブについても複数の会社が検討している。懸念であった著作権保護も強化されたので、ゲームやPCなどでも対応すると思っている」と説明。「今回は映画の話が中心だが、風景やスポーツなどでもHDR化は可能で、民生用カメラでも撮影はできる。大きな産業になっていくことを期待している」とまとめた。