ミニレビュー
ゼノギアスレコードを買ったがプレーヤーがない! オーテク「PL300BT」で初体験
2018年11月5日 00:00
気になるアナログレコードを買った。けれど肝心のレコードプレーヤーは手元にない。東京ゲームショウ2018で先行販売された、スクウェア・エニックスのRPG「ゼノギアス」発売20周年記念レコード「Xenogears Vinyl - SHINKAKU -」を手に入れたのだ。2枚組4,000円で完全生産限定、発売日は10月24日。現在はAmazon.co.jpや一部のレコードショップなどで購入できる。
今年30代に突入した筆者にとって、レコードは古いプレーヤーやコレクションが実家に沢山あって時々父親がかけていたな、というおぼろげな記憶がある程度。実際に触れるのはこれが初めてだが、初めて購入したレコードなので是非音を聴いてみたい。完全生産限定商品なのでコレクションとしても貴重だが、部屋に飾ってジャケットデザインを楽しむだけではもったいない。
そこでオーディオテクニカから、ベルトドライブ駆動のレコードプレーヤー「AT-PL300BT」(実売約2万円)を借り、レコードの音を初体験した。
AT-PL300BTはフルオートのレコードプレーヤーで、フォノイコライザーを内蔵しており、手持ちのアクティブスピーカーを繋いでレコードをセットし、再生ボタンを押すだけですぐに聴ける手軽さがウリ。Bluetooth送信機能も備え、手持ちのBluetoothスピーカー/ヘッドフォン、コンポなどでレコードをワイヤレス再生できるのも特徴だ。レコードを知らない自分でも使えそうだ。
基本仕様は共通だがBluetooth非搭載の「AT-PL300」もあり、実売価格は約8,600円。安価だが交換用の針やベルトもオプション品として販売しているなど、しっかりしたサポートが受けられそうで、レコード初心者としては安心できる。
ゼノギアス音楽20周年の名曲選「Xenogears Vinyl」
1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からリリースされたプレイステーション用ソフト「ゼノギアス」。学生時代、友人の熱烈なオススメに押されて始めたゲームだったが、爽快なバトルシステム、緻密に作り込まれたSF設定を元にした難解なストーリーに引き込まれた。今年、発売20周年を迎えてなお、多くのファンを惹き付けてやまない名作だ。
スクウェアでゼノギアスなどの楽曲を手がけた作曲家の光田康典氏(現プロキオン・スタジオ)による、名曲揃いのBGMも大きな魅力。アイルランドや中東など、様々なトラッドミュージックを採り入れた楽曲がゼノギアスの世界観を盛り上げ、こちらも根強い人気を誇る。4月に発売されたハイレゾリマスター音源や、劇中映像入りのBlu-ray Disc Music、都内で開催された「Xenogears 20th Anniversary Concert」も記憶に新しい。
今回紹介する「Xenogears Vinyl」は、劇中曲やアレンジ盤からセレクトされた計18曲を収録。新規曲はないが、20周年を飾るにふさわしい名曲選といえるだろう。光田氏はレコードに深い思い入れがあるそうで、特設サイトでは「過去、LP盤を何枚か発売してきましたが、今回は『ゼノギアス』という作品でLP盤を発売できることになり非常に嬉しく思います。CDやハイレゾ作品とは違った“温かみ”を楽曲から感じ取ることができると思います」としている。
歌声の生々しさに圧倒される
AT-PL300BTの外形寸法/重量は360×356×97mm(幅×奥行き×高さ)、約3kg。事前に水平なテーブルを用意して、おおよそのサイズ感は把握していたつもりだったが、実際に置いてみると狭い室内では存在感があって驚いた。
まずは組み立てが必要だ。といっても難しいことはなく、マニュアル通りに進めれば10分もかからない。透明なダストカバーを開けて、アルミニウム合金ダイキャスト製のプラッターを載せ、ゴムベルトを本体の金色のプーリーにひっかけるだけ。「ベルトドライブ式」と呼ばれる理由がよくわかる。数回プラッターを回して、ベルトが捻れておらずスムーズに回ることを確認したら、ラバーマットを敷く。
レコードにはサイズや回転数によって複数の種類がある。Xenogears Vinylは直径30cmのLP盤と呼ばれるサイズで、1分間の回転数は33 1/3回転。AT-PL300BTで再生する時は、上面のサイズセレクターを「30」、前面左にあるDCサーボモーターの回転数セレクターを「33」に合わせる。
トーンアームには同社製VM型ステレオカートリッジがあらかじめ装着されている。先端の針がレコード盤面に刻まれた渦巻き状の音溝の振動を拾い、音楽を鳴らすかたちとなる。デリケートなパーツなので、再生時以外は付属のプラスチックカバーで保護しておく。
音声出力はステレオミニ。手持ちのアクティブスピーカーを付属のステレオミニ-RCAオーディオケーブルで繋ぐ場合は、背面にあるPHONO/LINEスイッチをLINE側に切り替える。内蔵のフォノイコライザーを使わずに手持ちのステレオシステムに繋ぐ場合は、PHONOを選ぶ。
最近はアクティブスピーカーを持っていなくても、BluetoothスピーカーやBluetoothヘッドフォンなら持っている、という人も少なくないだろう。対応するオーディオ機器と組み合わせれば、レコードプレーヤーの前にかしこまって座らなくても、電波の届く範囲で好きな場所や姿勢で聴けるのが嬉しい。
使用する時は、あらかじめ筐体上面のBluetoothボタンを長押しして、手持ちのスピーカーとペアリングさせておく。コーデックはSBCのみ。
Xenogears Vinylをプラッターにセットしたら準備完了だ。フルオートシステムなので、本体前面のSTARTボタンを押すだけでトーンアームが自動で動き、盤面の1曲目の位置にセットされ、曲の頭から順番に再生される。再生を止める場合はSTOPボタンを押す。
再生位置を変えて別の曲を聴きたい時は、アームボタンを押してトーンアームを持ち上げてから、聴きたい場所にアームを動かし、再度アームボタンを押して盤面に下ろす。再生中のトーンアームには触らないように気をつけたい(筆者は間違えて触ってしまった)。
今回はOlasonic「IA-BT7」で、ステレオミニケーブルでAT-PL300BTと接続して聴いた。ブルガリアの合唱団ザ・グレート・ボイセス・オブ・ブルガリアが歌う「最先と最後」や、アイルランドの混声合唱団ANÚNAの「Memories Left Behind(Revival Version)」などは、聴いていると次第に目の前で歌われているかのような荘厳さ、生々しさが感じられて、鳥肌が立つほど素晴らしい。特に「最先と最後」はゼノギアスのストーリーの本質が詰まったシーン(と筆者は信じている)でかかる曲で気に入っており、ハイレゾ音源とはまた違った雰囲気で聴けて非常に良かった。
IA-BT7はBluetoothスピーカーだが、ワイヤレスでも低域から高域までバランス良くしっかり音を聴かせてくれる。レトロなデザインもレコードプレーヤーとマッチした。手軽な再生システムながら、レコードの音の奥深さを感じた。
自宅のLED照明として使っているソニーの電球型Bluetoothスピーカー「LSPX-103E26」でも聴いてみた。スピーカー口径が小さいので低音はそれほど出ないが、天井から音楽を流したまま、ほかの作業をするといったながら聴きで良い音で聴かせてくれた。ワイヤレスでレコードの音を楽しめるのは、頭では仕組みを分かっていてもやはり不思議な体験だ。
Xenogears Vinylの収録曲は上述のように新曲は無く、既発の音源とほぼ変わらないようだ。収録曲の詳細は、既報の記事や特設サイトを見てほしいが、2枚のレコードの収録曲や曲順の対応関係は見逃せない。Disc1のSide Aにはオープニング曲「冥き黎明」や、「海と炎の絆」、「おらが村は世界一」、「盗めない宝石」といった主要キャラにまつわる楽曲が収められており、一方でDisc2のSide Cには「冥き黎明」のオーケストラアレンジ(「MYTH」収録曲、2011年)をはじめ、アレンジヴァージョンの「CREID」収録曲(1998年)、ハイレゾリマスター盤に初収録のANUNAによる混声合唱曲が入っている。
これはDisc1のSide BとDisc2のSide Dも同様の関係で、つまりレコードを入れ替えることで、ゲームBGMとそのアレンジをいっぺんに楽しめるようになっているのだ。「そういえばゼノギアスのゲームディスクも、Disc 1と2を入れ替えたなぁ」などと、懐かしい記憶がよみがえってくる(現在はPlayStation StoreのゲームアーカイブスでPS Vita/PSP/PS3向けに617円でデジタル配信中)。
ちなみに、Disc2のSide D「神無月の人魚」は、特に明記が無いがCREIDバージョンで、MYTH収録のピアノ曲ではない。また、一曲だけ既発音源と細かい点で異なる曲があるが、それは実際に購入して聴いた人だけのお楽しみということにしておきたい。本当に細かい違いだが、いちファンとしては「なるほど、そういうのもアリだな」とオタク的な楽しみができて嬉しいものだ。
ただ、当たり前だがレコードはCDと違って盤面のホコリをきっちり取り払わないとノイズ音となって目立つ。これが思いのほか厄介で、気がつくと小さな塵が盤面に乗っていたりして、レコードクリーナーや針の洗浄キットを別途入手してこまめに掃除する必要があった。目に見えないホコリが室内にこんなに舞っているのも驚きだが、盤面の静電気発生を抑える必要性など、レコードを実際に使ってみなければ実感しづらいことを身をもって体験した。保管場所についても、きちんと考えた方が良さそうだ。
音を楽しむには手間もかかるアナログ盤だが、日本レコード協会(RIAJ)の調査では、2018年上半期(1月~6月)の生産実績で数量・金額共に前年同期を上回る右肩上がりの成長をみせており、レコードの人気は続いている。個人的には、今後も気になる作品がLP盤で登場するかもしれないし、これを機に過去に発売されたレコードにも手を出してみたいと思う。元々凝り性なのでレコード沼にはまったら怖いが……。
今回のレビューとは関係なく、格安になっていたスピーカー「ZENSOR 1」を手に入れたので、いずれレコードプレーヤーを購入して、改めてじっくりとXenogears Vinylの音に耳を傾けてみたい。