ミニレビュー

お手頃価格でiPhoneを高音質に。Lightning直結のFiiOポタアンを使った

iPhoneを今まで使っていたSEから7に買い換えた。SIMフリーモデルだが最新機種と比べれば比較的安く手に入り、Suicaが使えて、iOS 12にも対応する現役機種だ。ただ、買い換えてステレオミニのヘッドフォンジャックが無くなったのは困った。変換ケーブルは付属していたが、手持ちのイヤフォンやヘッドフォンでいい音で楽しみたい。そこで目をつけたのがFiiOの薄型ポータブルDAC/アンプ「Q1 Mark II」だ。

FiiO Q1 Mark II

FiiO Q1 Mark IIは、iPhoneとの組み合わせを想定したポータブルUSB DAC/ヘッドフォンアンプ。MFi認証を取得しており、付属のLightning-micro USBのショートケーブルで直結して使う。iPhone付属のステレオミニ変換アダプタを通した音とは全く違う、量感あるいい音でiPhoneの音楽を楽しめる。今年2月に発売され、実売価格は14,000円前後。通販サイトなどで売れ筋となっているようだ。

コンパクトな筐体に、旭化成エレクトロニクスのDACチップ「AK4452」を搭載。PCMは最大384kHz/32bit、DSD 11.2MHzのネイティブ再生に対応し、2.5mm 4極バランス出力も備えるなど、手頃な価格ながら本格的な仕様で、マニアックな音の楽しみ方もできる。

iPhone 7とQ1 Mark IIをLightning-micro USBのショートケーブルで接続

持ち運びやすいサイズに高音質機能を凝縮

黒く重そうな見た目に反して、実はけっこう軽い。外形寸法/重量は約59×99×12.5mm(幅×奥行×厚み)/101.5gで、幅、高さともにiPhone 7より小さく、重ねて持っても無理なく自然に手の中に収まる。筐体は金属製で梨地のような仕上げになっており、さらさらした手触りが心地よい。1万円台という手頃な価格帯の製品ながら、安っぽさはない。

一般的なポータブルアンプといえば角張った箱状のイメージがあり、実際これまで自宅で使っていたラトックのポータブルDAC/アンプ「REX-KEB02iP」もそうだった。それに対してQ1 Mark IIは角を落とした丸みのあるデザインで持ちやすい。

iPhone7とのサイズ比較
ラトック「REX-KEB02iP」(左)と比べるとQ1 Mark II(右)の薄さがよく分かる

2.5mm 4極バランス端子とシングルエンドのステレオミニ、3.5mmのライン入出力を各1系統装備。接続したデバイスからの入力信号を自動検知する機能を備え、DSD再生時は信号表示LEDが緑色に点灯する。アンプ部は左右独立構成のローパスフィルタ、ボリューム、バッファ段によるオーディオ回路を採用。出力は200mW(BAL/32Ω)、75mW(PO/32Ω)。推奨ヘッドフォンインピーダンスは16Ω~150Ω。

ボリュームダイヤルは電源スイッチの機能も兼ねている。デジタルボリュームを採用しているため、左右チャンネルの音量差(ギャングエラー)はほぼ感じない。ダイヤルはスムーズに回るが少し固めになっており、ポケットから取り出す時に誤ってクルッと回って音量が跳ね上がるということはなかった。

左からシングルエンドのステレオミニ、2.5mm 4極バランス端子、3.5mmのライン入出力、DSDの信号表示LED、ボリュームダイヤル
DSD再生時は信号表示LEDが緑色に点灯

ヘッドフォン出力やボリュームと反対の側面には、micro BのUSB入力を備える。付属のLightning-micro USBショートケーブルでiOS機器のLightning端子に直結できる。別途USBケーブルを用意すれば、Android端末、PCとのデジタル接続も可能。その他、接続するヘッドフォン/イヤフォンに合わせてHigh/Lowのゲイン設定を切り替えるスイッチや、低域強化のBass boostスイッチを備える。

micro BのUSB入力(中央)と、High/Lowのゲインスイッチ(左)、Bass boostスイッチ(右)
付属のLightning-micro USBのショートケーブル

容量1,800mAhのバッテリを搭載し、連続駆動時間は約10時間(USB入力利用時)。USBインターフェイスに接続機器を認識し、内蔵バッテリ駆動とバスパワー駆動を自動で切り替える仕組みを備えている。たとえばiPhoneを接続した時はQ1 Mark II自身のバッテリで動作し、iPhone側のバッテリを消費しないようにする。パソコンなどを接続した時はバスパワーで動作する。なお、ヘッドフォン出力のないiPhone 7ではアナログ接続ができないので試していないが、アナログのライン入力の場合は約20時間保つという。

microUSBショートケーブルやステレオミニのオーディオケーブル、シリコンバンド(大×2・小×2)、スマホなどとの間に挟む保護パッドを同梱している。このゴムバンドでiPhoneに留めると、画面がゴムバンドで隠れてしまうので、筆者はポケットに重ねて入れるだけにしている。また、Suica機能を使うことが多いので、ポタアンを重ねたまま決済できるか心配だったが、iPhoneの上端が出るように持って自販機のリーダーなどにかざすことで問題なく支払えている。

ハイレゾ音源や音楽配信アプリが、量感あるいい音に

iPhoneの音楽再生アプリ「HF Player」で再生したハイレゾ音源をQ1 Mark IIにデジタル入力して聴いた。手持ちのイヤフォン「UE900s」や、実売4,600円のリーズナブルな2.5mm 4極イヤフォン「Co-Donguri Balance」を使っている。

UE900sでイーグルス「Hotel California」(192kHz/24bit)を聴くと、シングルエンドでも、iPhoneのLightning-ステレオミニ変換ケーブルで聴いた時よりボーカルなどの中域の量感が豊か。Q1 Mark IIを介したことで、音の迫力がぐっと増したことが分かる。ただ、最低音は沈み込まず、ベースの輪郭はややぼやける。高域もそれほど伸びず、好みの問題かもしれないが、UE900sのバランスドアーマチュアの繊細さが若干スポイルされた印象になるのが気になった。

次に、UE900sを2.5mm 4極バランスケーブルに付け替えて、Q1 Mark IIに繋いで同じ曲を聴いた。バランス接続によって駆動力がアップし、歌声やギターが奏でる音の1つ1つがパワフル。穏やかなサウンドがアグレッシブに変化する。音場や奥行き感も広くなったように感じられた。ハイレゾ音源に限らず、Spotifyなどの音楽配信アプリで音楽を聴く時も、バランス接続の良い効果が得られ、個人的にはこちらで聴く方が好みだった。

イヤフォンをCo-Donguri Balanceに代えてもこの傾向は基本的には同様で、ボーカルや楽器の音が自然な拡がりの中に配置されてバランス良く聞けた。約1.4万円のバランス対応ポタアンと、実売4,600円のCo-Donguri Balanceを組み合わせれば、2万円を切る手頃なバランス接続の再生環境ができあがるわけだ。バランス接続を試したいけれど、ハイレゾプレーヤーは高価で手が届かないという人にも、これなら手が届きそうだ。

Bass boost機能も試してみた。Q1 Mark IIはデフォルトではシングルエンドでもバランスでも低域の迫力は比較的抑えめだが、ディスクリート方式の専用回路を内蔵しており、本体スイッチでオン/オフの切り替えが可能。スイッチオンにして神保彰のインスト曲「ブロウイン・イン・ザ・ストリート」(96kHz/24bit)を聴くと、ドラムのアタックやサックスなど、低音がより力強く芯のある響きに変化。ロックやJ-POPでは「ちょっと低域が強すぎるかな」と感じたが、オーケストラや吹奏楽の曲とBass boostの相性は意外に良いようだ。あえて低域が弱めのイヤフォン/ヘッドフォンを選び、スッキリと音を楽しむという使い方もできるだろう。

コンパクトながらアンプの出力は充分で、駆動力が必要なフォステクスの平面駆動ヘッドフォン「T50RPmk3g」も問題なく鳴らせた。静かな室内でCo-Donguri Balanceを接続した時は、無音時に「サー」というホワイトノイズが少し聞こえたが、このあたりは組み合わせるイヤフォン/ヘッドフォンにもよると思われる。外に持ち出すポータブル用途で使う分には、ノイズはほとんど感じなかった。

筐体が金属製なので、これからの季節、電源を入れる前はちょっと冷たいと感じるかもしれない。使っていてもほんのり熱を持つ程度で、それほど熱くなることはない。充電時間は4時間で、満充電まで多少時間がかかるが、寝る前に充電するようにすれば問題ない。

ひとつだけ、付属するLightning-micro USBショートケーブルの端子がL型ではなくストレートタイプなので、ポケットの中でケーブルに負担がかかるのが気になる。使う時はポーチに収めるなどして、断線には十分気をつけたい。FiiOが販売しているショートケーブルのラインナップには、L型コネクタのmicro USB-micro USBやmicro USB-USB Type-Cはあるのだが……できればLightning-micro USBショートケーブルにもL型のものが欲しい。

機能面で不満はほとんど無く、バランス接続やDSDネイティブ再生というマニアックな使い方ができ、アンプのドライブ力も優秀。ハイレゾに限らず、音楽配信アプリを迫力あるいい音で楽しめるのも素晴らしい。服のポケットに忍ばせておいても気にならないサイズなので常に持ち歩いており、ヘッドフォン/イヤフォンの試聴時や、iPhoneで録音した取材データを聴く時にも重宝している。約1.4万円という手頃な価格で買える製品ながら、満足度の高い一品だ。

庄司亮一