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ゼノギアスを彩る音楽がリマスター&ハイレゾ化。20年越しの“本物の音”
2018年4月6日 11:27
「ゼノギアス」というRPGをご存じだろうか。1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からプレイステーション用ソフトとして発売され、発売から20年が経った今もなお、多くのファンを惹き付けてやまない名作だ。光田康典氏による名曲揃いのBGMも大きな魅力。今回、新たに全曲リマスターされ、さらに新録曲を追加したハイレゾサウンドトラックが登場。e-onkyo musicとmoraで配信中だ。
学生時代、友人の熱烈なオススメに押されて始めたゲームだったが、爽快なバトルシステムで遊ぶ楽しさ、重厚かつ緻密に作り込まれたSF設定を元にした難解なストーリーに引き込まれた。アイルランドや中東など様々なトラッドミュージックを採り入れ、ゼノギアスの世界観を盛り上げた音楽の良さも、ハマった理由のひとつ。今でも個人的にヘッドフォンやスピーカーの試聴に使っている。
今回紹介する「Xenogears Original Soundtrack Revival Disc - the first and the last -」は、光田氏が音作りにこだわってリマスターしたゲーム内BGM 45曲を収録。プレイヤーなら一度耳にすればすぐ分かると思うが、CD未収録の「予兆」(7曲目)が追加されているあたりがマニア心をくすぐる。さらに、光田氏とマリアム・アボンナサー(プロキオン・スタジオ)が新規アレンジし、アイルランドの男女混声合唱団「ANÚNA」が歌う新録4曲をスペシャルトラックとして追加している。ちなみに、光田氏とANÚNAの共演はNintendo Switch向けに昨年リリースされた“ゼノシリーズ”最新作「ゼノブレイド2」の制作以来となる。
ハイレゾ配信はこれまでアナウンスされてこなかったが、4月4日にゼノギアスのゲーム映像とハイレゾ音源を同時に楽しめる、同名タイトルのBlu-ray Disc Music盤(5,500円)が発売されるという記事が僚誌GAME Watchに載っており、「音楽だけの配信もあったらいいな」と期待していた。それが現実になったかたちだ。
96kHz/24bitでWAV/FLACが選べるが、筆者はFLAC版をチョイスした。ロゴの頭文字「X」をデザインしたジャケット画像がカッコいい。単曲はBGMが各350円、新録曲は各500円。アルバム購入すると7,200円で、ハイレゾで映像も付くBlu-ray盤と比べるとかなり強気の価格設定だと感じるが、それでも迷わずダウンロードした。
ゼノギアスのストーリーを一言で言い表わすのは難しい。現在の公式サイトに載っているあらすじは次の一文のみだが、クリア後に改めて読むとなかなか象徴的だ。
「神は、堕ちてきた……ゆっくりと船は星へと沈んでいった……。それから幾千年の時が流れた。忘却の彼方より繰り返される悲劇。輪廻と再生。破滅と癒し。神とは何か? その意図するものは?」
遠い未来、人類を載せた宇宙船のコントロールが何者かのハッキングによって乗っ取られ、ある惑星に墜落。そんなオープニングアニメーションから物語は始まる。音楽は、不穏な空気から緊張感の高まる展開へと一気に引き込む「冥き黎明(くらきれいめい)」。CDからリッピングしたFLAC 44.1kHz/16bit音源とリバイバル盤を同じボリューム位置で聴き比べると、曲自体の音量が上がっており、迫力がアップしている。音量を揃えて聴くと、リバイバル盤のほうが音の輪郭がくっきりしていて細かな音の動きも聴き取れた。リマスターとハイレゾ化で見通しが良くなって、聴き所でしっかりメリハリが付いた印象だ。
オープニングの後、物語の世界で二つの大国が長い間、戦争状態にあるというテキストのモノローグが入る。ここで流れる「海と炎の絆」は、フルートとハープの音色がどこか物悲しくもスッキリ響き渡る。同曲以降はプレステの内蔵音源曲が中心だ。
プレイヤーがキャラクターを動かせるようになる頃には、舞台はSF調のオープニングと打って変わって山間部の牧歌的な村に移る。最初は何が何だか分からないけれど「ハードSFなオープニングに繋がる何か起きるはずだ」と期待しながら話を進めていくことになる。冒険の記録をプレステのメモリーカードに残すためのセーブポイントを含めて、ゲームの中で示されるあらゆる存在が仕組まれたものと気づくのは、物語が中盤に差し掛かってからのことだ。
この村のBGM「おらが村は世界一」は元気なハンドクラップ音がCDよりも際立ち、明るい雰囲気がハッキリ伝わってくる。切り立った山間部で流れる「風の生まれる谷」は音の分離が良くなって広がり感が増した。
ワールドマップで聴ける曲は13曲目「憧憬(しょうけい)」だが、そのボーカル版「STARS OF TEARS ~やさしく星ぞ降りしきる~」(本編未使用)はリバイバル盤にも入っており、CDと異なる音作りがされていることがはっきり分かった。パーカッションなどの低音が少し前に出てアタックが強く、薄皮を一枚剥いだようなメリハリの効いたサウンドになっているのだ。終盤のアイリッシュな笛の音と太鼓のリズム、ギターの旋律もだいぶ異なった印象で鳴り、CDの音に長らく慣れてきた人間としては新鮮な気持ちで聴けた。
全体の音の傾向として、スッキリかつメリハリをつけた仕上がりになっており、気に入っている。特に生録音の音が非常に良く、男女混声のコーラスワークがより美しく重奏的になった「最先と最後(いやさきといやはて)」や、感動的なエンディング曲「SMALL TWO OF PIECES~軋んだ破片~」は、CDやiTunesなどで聴いていた人も必聴だ。
少し気になるのが、プレイステーション内蔵音源によるBGM。13曲目「グラーフ 闇の覇者」は、度々プレイヤーを脅かす敵キャラ・グラーフのテーマ曲で、低域がCDよりも強くつけられて恐ろしいイメージが増し、リマスターが良い方に効いている。一方で6曲目「遠い約束」や31曲目「風が呼ぶ、蒼穹のシェバト」などは、特徴的な涼やかな音色がさらに研ぎ澄まされたことで、かえって耳に刺さる感じがする。このあたりは聴く人の音の好みによって評価が分かれるかもしれない。今回は手持ちのハイレゾプレーヤー(オンキヨー「DP-X1」/Astell&Kern「AK70」)にフォステクスのヘッドフォン「T50RP mk3」を組み合わせて聴いたが、AK70との組み合わせでは耳に刺さる感じは抑えられた。
こうして自分の耳に心地よい音で聴ける組み合わせを求めて、ハイレゾプレーヤーやUSB DAC、ヘッドフォン/イヤフォンをとっかえひっかえするのも楽しいもの。いずれ十分な環境を揃えて、スピーカーで聴き比べてみるのも良さそうだ。
価格で躊躇している人には、まずはオープニング/エンディングと「STARS OF TEARS」、「最先と最後」に、新録曲を加えた8曲がオススメだ。ANÚNAの歌声による新録曲は、元となった曲が好きな人にはきっとたまらないアレンジだと思う。これらを単曲購入するとしめて3,400円。「ハイレゾは聴いてみたいけど……」と迷う向きにも手が届くのではないだろうか。今週末に発売20周年を記念して都内で開催される「Xenogears 20th Anniversary Concert」の予習、復習にもピッタリだと思う(筆者はチケットが手に入らなかったので、ニコ生配信で楽しみます)。
光田氏がBlu-ray盤のライナーノーツで「当時できなかったことや気になっていた部分を20年目にしてやっと解決でき、表現したかったことをANÚNAと一緒に作り上げた」と書いているとおり、このリバイバル盤には20年越しの“本物の音”が詰まっている。そのサウンドをぜひ自分の耳で確かめてほしい。
e-onkyo musicで購入
光田康典
Xenogears Original Soundtrack Revival Disc -the first and the last-
96kHz/24bit
WAV/FLAC
価格:7,200円
レーベル:SQUARE ENIX CO., LTD.
Xenogears Original Soundtrack Revival Disc - the first and the last 【映像付サントラ/ Blu-ray Disc Music】 |
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