レビュー

“世界最高音質を目指す”Bluetoothスピーカーはどんな音!? 新生Olasonic「IA-BT7」

 スマホの普及により、すっかり一般的なものになったBluetoothスピーカー。かつて、家庭で気軽に音楽を楽しむ機器と言えばミニコンポやラジカセだったが、スマホ+Bluetoothスピーカーがそれに代わりつつある。それゆえ、Bluetoothスピーカーと言えば手軽でコンパクトな製品が主流だが、そこに「世界最高音質を目指す」という鼻息の荒い新製品が現れた。新生Olasonicの「IA-BT7」だ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は3万円前後。

新生Olasonicの「IA-BT7」

新生Olasonicって?

 もともとOlasonic(オラソニック)は、元ソニーのオーディオ事業本部長である山本喜則氏が、東和電子で立ち上げたオーディオブランドだ。AV Watch読者なら、卵型のスピーカーや、CDジャケットサイズの超小型単品コンポシリーズ「NANOCOMPO」(ナノコンポ)などでお馴染み。“小さくてもスゴイ”製品が得意な、“尖ったブランド”という印象がある。

ハイレゾ再生対応のタマゴ型USBスピーカー「TW-S9」

 そのOlasonicブランドと事業は、昨年10月に東和電子からインターアクションへと譲渡された。インターアクションは、スマホや一眼レフカメラ、車載カメラなどのCCD、CMOS向けの光源装置や、瞳モジュールといった光学精密機器を手がけるメーカーで、同分野では世界的に高いシェアを誇っている。今後は“インターアクションが展開するOlasonicブランド”になるわけだ。

 ……こう書くと、「オーディオとは関係の無い会社に譲渡されて、製品は大丈夫なのか?」と思う人も多いだろう。だが、心配は無用のようだ。というのも、新生Olasonicの第1弾製品「IA-BT7」の開発には、SOZOデザインという会社が協力しており、このSOZOデザインを率いるのが、Olasonicを立ち上げた山本氏なのだ。SOZOデザインには、これまでOlasonicの製品開発を手がけていたメンバーの多くが在籍。新生Olasonicにも、ブランドのコアとなる部分は引き継がれているというわけだ。

SOZOデザインの山本喜則代表取締役CEO

大口径ユニットで再生するダイレクトサウンド

 IA-BT7のデザインを見ていこう。カラーはシルクホワイトとウォルナットの2色を用意している。今回はウォルナットをお借りした。なお、Bluetoothスピーカーは「バッテリを内蔵しているもの」というイメージも強いが、この製品はACアダプタで動作する据え置き型だ。

シルクホワイトモデル

 市場によくあるBluetoothスピーカーは、黒くて丸っこかったり、円柱形をしていたり、横長の長方形だったり……あまり“スピーカーっぽくない”形状のものが多い。対してIA-BT7は、“昔ながらのスピーカーっぽい”雰囲気だ。あえてユニットの位置や大きさがわかるデザインである事や、エンクロージャが木製なところも、その印象を深めている。“オーディオっぽい”、“レトロ風”デザインとも言えるが、SFチックなデザインが多いBluetoothスピーカー市場では、逆に新鮮に感じる。

“昔ながらのスピーカーっぽい”雰囲気がある「IA-BT7」のウォルナットモデル
エンクロージャは木製

 フロントパネルを見て、まず目に入るのが中央のユニットだ。デカイ。それもそのはず、なんと口径は110mmもある。ここまで大きなユニットを搭載したBluetoothスピーカーはなかなかない。例えば、2015年に発売され、ハイレゾ再生対応で話題となったソニーの大型ワイヤレススピーカー「SRS-X99」でも、サブウーファは94mm径だ。

中央の巨大なウーファがトレードマーク
110mmのウーファユニット
磁気回路も大きい

 ウーファの左右には、57mm径のフルレンジを2基搭載。2.1ch構成となる。このフルレンジは高域まで再生できるワイドレンジなもので、システム全体の再生帯域は50Hz~40kHzを実現。さらに、背面にはパッシブラジエータも搭載し、低域を増強している。

57mm径のフルレンジユニット
背面にはパッシブラジエータ

 大口径ウーファを搭載しているのだから、さぞや筐体も大きいのだろうと思うと、横から見て驚く。かなり“薄い”。奥行きは65mmしかない。横幅は275mm、縦が少し長くて144mm。駅弁の箱を横にしたような、昔の一体型ラジオを彷彿とさせるようなサイズ感だ。

奥行きは65mm

 重量は2,200gと、薄型な見た目からするとズシリと重い。マグネットも巨大な大口径ウーファを搭載しているので無理もないだろう。ただ、男性であれば、片手でつかんでひょいと持ち上げられる軽さではある。ずっと持ち続けているのはツラい重さだが……。

 本体が薄いので設置性は高く、ちょっとしたスペースに起きやすい。ただ、棚の縁ギリギリに設置すると、地震などで倒れたら落下するので注意した方がいいだろう。バッテリは搭載しておらず、ACアダプタを接続する。持ち運びやすいサイズなので、ACアダプタをつなぎ替える必要はあっても、例えば昼間はリビングで使い、夜は寝室でといった使い方も可能だろう。

ACアダプタで動作する

出過ぎるほど出る低音

 なにはともあれ、音を出してみよう。操作部は前面左下にあり、電源ボタンアナログ入力への切り替えボタン、Bluetooth切り替えボタン、音量ボタンと並んでいる。Bluetoothボタンを3秒押すとペアリングモードになり、スマホ側から接続、ペアリングが完了するとギターの音が流れる。天面の左側にNFCロゴも備え、対応スマホであればワンタッチでのペアリングも可能だ。

天面の左側にNFCロゴ
前面の操作ボタン

 音を出した瞬間に、ぶったまげる。スゴイ音だ。驚くポイントは大きく2つ、1つは低音の豊かさ、もう1つは音の広がる範囲だ。

 110cmウーファとパッシブラジエータにより、「低音は出るだろうな」と予想していても、実際に「ズウーン」と重く、迫力満点のアコースティクベースが吹き出して驚いてしまう。筐体はこんなに薄いのに、よくこれだけの低音が出るものだ。というか、出過ぎなんじゃないかと思うほど出ている

 デスクトップに置く小型スピーカーに共通する話しだが、低音は設置した机や棚の大きさや素材、そしてスピーカーと背後の壁との距離などでかなり変化する。“やわ”な板の上に、低音が出るスピーカーを置くと、板が太鼓のようにボンボン鳴って、量感はアップするがボワボワな音になってしまう事がある。

 IA-BT7のような強力なスピーカーの場合、底部は足を装備して振動を伝えにくくはなっているが、それでも接地面の鳴きは発生する。やはり、できるだけ剛性が高い板の上に置くといいだろう。逆に言えば、“接地面の鳴き”を使って補う必要がないほど低音が出るので、“置き場所を選ばずたっぷりの低音が楽しめるスピーカー”と言える。

底部

 特筆すべきは、低音の“質”も良い事だ。小型Bluetoothスピーカーの場合、低音を出そうと頑張ると、DSPなどで音をいじりまわしたり、共鳴管を使って響かせたりするが、結果的に付帯音が増えてしまい、ボワッと音が膨らみ、分解能が低下するというパターンがよくある。悪く言うと“大味な低音”になってしまう。

 IA-BT7の低音は締りがあり、分解能が高く、音像がシャープ。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、ベースの弦が「ブルン」と震える様子もよく見える。中低域を派手に膨らませて“低音に見せかけた音”ではなく、“ガチな低音”だ。筐体の剛性が高く、振動対策もしっかり行なわれているのだろう。それを活かすためにも、やはり剛性の高い場所に設置したい。

 高解像度な音の秘密は、アンプ部にもある。TIの「TAS5782」というチップでドライブしているのだが、アンプ機能に加え、DSPによるグラフィックイコライザ機能も備えている。12の独立した21種類のフィルタを調整する事で、搭載した製品に合わせた最適なサウンドを細かくチューニングできるという。

アンプの基板

 また、このチップはデジタルプロセッシングのチャンネルデバイダーとしても使えるため、ネットワーク回路を入れずに2ウェイのシステムを構築できる利点もある。ネットワークを介さず、ダイレクトにTAS5782でドライブするので、これだけ鮮度が高く、生々しく、クリアなサウンドになっているわけだ。なお、クロスオーバー周波数は200Hzだ。

 さらにこのアンプを、高域用に10W×2、低域用に20W×1と、独立して搭載するバイアンプ構成で採用。スピーカー同士の相互干渉を排除できるので、よりクリアな再生を目指している。

 Bluetoothで音質と言えば、対応コーデックも気になるところ。SBCとAACに加え、aptX HDとLDACも両方サポートしている。SoCプラットフォームはQualcommの「CSR8675」を使っているが、ここまで豊富なコーデックに対応した既存のモジュールは存在しなかったそうで、自社で開発したとのこと。音質にもこだわった設計になっているそうだ。

Bluetooth受信モジュールは自社開発

 実際にLDACでウォークマンと接続すると、前述のように低域も含めてキレがよく、分解能が高いので、ハイレゾならではの弦楽器の微細な描写や、オーケストラが小音で演奏している時の表現など、繊細な音の変化が良く分かる。

 音の広がりも立派だ。真正面に座って聴くと、音場がスピーカーの横幅を遥かに越えて展開する。横方向の広さだけでなく、奥行きも深く、立体的な音場だ。情報量が多いため、その広い音場に定位する音像の輪郭もシャープだ。

 ニアフィールドで聴くと、広がる音場に左右から包み込まれるような感覚で、ちょっとしたサラウンド気分が楽しめる。中低域が豊かなので、映画のサントラなども雰囲気満点だ。

 十分な音量が出せるため、真正面に座って聴かなくても、BGM的に部屋に音楽を充満させるような聴き方も可能だ。音が明瞭でよく通るので、リビングに設置して、多人数で楽しむという使い方もいいだろう。

 背面にはアナログ入力も装備している。試しに、ステレオミニのケーブルでテレビのイヤフォン出力と接続してみたが、薄っぺらだった液晶テレビのサウンドが激変。映画や音楽番組だけでなく、ニュースを読む男性アナウンサーの声が、肉厚になり、お腹から声が出ている事がよくわかる。「走りを愛する人達へ」というような、車メーカーのCMのナレーションの低音がお腹に響き、普段は気にしていなかったがCMがやたらカッコよく見えて笑ってしまった。

テレビと接続して聴いてみる
テレビの前に設置するのは画面が隠れてしまうのでダメだ

 スマートフォンとワイヤレスで繋いで音楽再生も良いが、イヤフォン出力とアナログケーブルで繋、遅延無くゲームのサウンドを楽しむのもいいだろう。

 さらに面白いのが、Amazon Echo Dotのようなステレオミニ出力を備えたスマートスピーカーとの接続だ。「今日の天気は?」などと話しかけると、「杉並区の今日の天気は……」などと返答してくれるが、IA-BT7から聞くと、その声がぐっと肉厚になり、より人間っぽい生々しい声に聞こえる。「スマートスピーカーの声ってこんな声だったのか」と、初めて聞いたような新鮮な感じだ。むろん、ネットラジオや定額制音楽配信サービスの曲を再生してもらう時も、Echo Dot内蔵スピーカーとは次元が違うサウンドで楽しめる。

Amazon Echo Dotと接続

 背面を見ると、アナログ入力端子部分には「AI/AUDIO IN」と記載されている。「スマートスピーカーとの接続も想定して作られたスピーカーというわけだ。 なお、レートコンバーターも搭載しており、アナログ入力も含め、ソースは全て96kHz/24bitにアップコンバートしてから再生されている。

アナログ入力端子部分には「AI/AUDIO IN」と記載されている

Bluetoothで“ちゃんと音楽が楽しめる”スピーカー

 市場には多数のBluetoothスピーカーが存在するが、その大半は“気軽に音楽を楽しむための製品”だ。1万円以下のモデルも多く、低価格な製品は当然ながら素材もチープだ。そんな中、実売約3万円のIA-BT7は、高品位なデザインではあるが、相応に高価であり、“異質な存在”にも見える。

 しかし、音を聴くと価格にも納得できるクオリティだ。そして“気軽に音楽を楽しむ”用途だけでなく、“真剣に聴く”時にも耐える音質に到達している。これだけ音の良いBluetoothスピーカーは、そうはない。一般的な“Bluetoothスピーカー”のイメージを越えた音だろう。

 それでいて、“移動できないほど巨大”ではなく、“Bluetoothスピーカーの気軽さ”をある程度維持しているところも評価したい。落ち着いたデザインも、「オーディオ機器を購入した」という所有満足感も高めてくれる。

 コモディティ化が進む市場ではあるが、IA-BT7の登場を機に、“音で選ぶ本格的なBluetoothスピーカー”市場の盛り上がりにも期待していきたい。

製品発表会ではよりオーディオライクなカラーの筐体試作機も展示された。カラーバリエーションの充実にも期待できそうだ

山崎健太郎