【レビュー】画質/音質向上の第5世代iPod touchを試す

1080p撮影可能に。処理速度/音質も大きく向上


 いよいよ発売が開始された第5世代「iPod touch」。これまで、iPhoneから3G通信機能を省いて薄型化したような立ち位置の製品として展開してきたtouchだが、第5世代では5色のカラーバリエーションを用意し、ストラップの「iPod touch loop」が取り付けられるようになるなど、iPhoneとは一味違う方向に進化しているのが特徴だ。

 第4世代のtouchとの比較をメインに、新iPod touchを使ってみる。




■仕様と外観をチェック

 仕様をおさらいしよう。内蔵メモリのラインナップとして、32GBと64GBが用意され、Apple Storeでは32GB 24,800円、64GB 33,800円で販売されている。なお、第4世代iPod touchも引き続き販売され、Apple Store価格は16GBが16,800円、32GBが20,900円だ。

 ライバルとなるソニーのAndroidウォークマン「NW-F800シリーズ」の実売価格は、32GBで24,800円前後、64GBで34,800円前後と、あまり大きな違いはない。

 第5世代touchの特徴は、豊富なカラーバリエーションを用意している事。スレート、シルバー、ピンク、ブルー、イエローの5色(PRODUCT RED)で、ボディ背面はアルミニウム製。このアルミ素材自体に色がついている。金属そのものが持つ光沢を活かしているのが特徴で、カラフルでありながら、高級感もある。iPhoneが黒か白しかない中、このカラーバリーションの豊富さはtouchの大きな魅力だ。

厚さは6.1mm。薄い板を持っているような感覚だ背面はアルミ素材で色がついている電源ボタンは上部に
左からピンク、イエロー、ブルー、シルバー、ブラック左からブラック、シルバー、ブルー、イエロー、ピンク
左から第4世代touch、第5世代touch、iPhone 5
左が第4世代、右が第5世代。アイコンが一列増えた

 液晶ディスプレイは、4型/1,136×640ドットでIPS方式の「Retina(網膜)ディスプレイ」。第4世代は960×640ドットだったが、縦方向の解像度が増えると共に、アスペクト比も3:2から16:9に変更されている。この点はiPhone 5と同じだ。また、マルチタッチ技術をガラスそのものに組み込むことで、応答性も改善させている。

 実際に第4世代と並べてディスプレイを見てみると、コントラストや黒の締り、色の鮮やかさなどは第5世代の方が格段に優れている。第4世代はバックライトを明るくすると黒浮きが増え、色味も薄くなってしまう。第5世代はそのような事はなく、暗いシーンの多い映画も快適に視聴できそうだ。

 ディスプレイの変更に伴い、本体サイズも縦長になった。第4世代iPod touchは111×58.9×7.2mmだが、第5世代は123.4×58.6×6.1mm(同)だ。厚みは6.1mmに薄型化され、重量は101gから88gに軽量化している。

 実際に手にしてみると、背面が膨らんだ第4世代は、薄いというよりも金属で出来た薄い石鹸のような印象だが、第5世代touchは薄さと軽さにより、“薄い板を持っている”という感覚。背面が滑りにくい事もあり、持ちやすさはアップしたと言える。


モデル名第5世代touch第4世代touch
価格32GB 24,800円
64GB 33,800円
16GB 16,800円
32GB 20,900円
CPUA5A4
ディスプレイ4型/1,136×640ドット3.5型960×640ドット
動画撮影(外向き)1080p720p
動画撮影(内向き)720p480p(VGA)
バッテリ音楽:最大40時間
映像:最大8時間
音楽:最大40時間
映像:最大7時間
充電所要時間約4時間 
カラースレート/シルバー/ピンク/
ブルー/イエロー/
PRODUCT RED
ホワイト/ブラック
Dock端子Lightning(8ピン)30ピン
外形寸法(縦×横×厚さ)123.4×58.6×6.1mm111×58.9×7.2mm
重量88g101g

 第5世代touchならではの特徴として、背面にストラップ「iPod touch loop」が取り付けられる。背面下部に銀色の丸いボタンのようなものがあり、これを指で押すとピョコッと飛び出る。このボタンに、ストラップの円形切れ込みを引っ掛ければ、落下防止ストラップとして使える……というものだ。

 長めのストラップは、手首に通して使うことを想定しているようだ。シンプルでデザイン性も良いのだが、前述の通り、切れ込みに突起を通しているだけで、結んだり、ロックしているわけではないので、ストラップがたわんだ拍子に、ボタンから外れてしまうのでは? と心配になる。

 実際には、使用中に外れてしまう事は無かったが、固定されていない不安感が頭から消えず、いまひとつ信頼できないので本体を持つ手に力が入る。サードパーティなどから、より強固なストラップが出たら、そちらに変更したいというのが正直な感想だ。

指で押すとストラップ引っ掛け用のボタンが飛び出る
引っ掛けたところ。若干不安が残る手首に通して使用する


■処理能力をチェック

 CPUは「A5」を搭載。第4世代の「A4」から強化された事で、新たに1080pの動画撮影が可能になった。音声認識/操作のSiriも、CPU強化で認識精度が向上したという。グラフィック性能は従来比で7倍向上。ゲームアプリを沢山遊ぶという人には魅力的な強化点だ。OSはiOS 6がプリインストールされる。

 そこで、格闘ゲームアプリ「ストリートファイターIV」を新旧touchにインストール。キャラクターの選択から、初戦がスタートするまでの所要時間を計測したところ、第4世代は16秒のところ、第5世代は14秒と若干高速化していた。

 ブラウザのSafariではより違いが顕著。AV Watchのトップページ(PC版)が表示されるまでの時間を、無線LAN環境下で計測したが、第4世代が25秒のところ、第5世代は8秒と大きな差がついた。なお、同じ条件でiPhone 5でも測ったところ、3.5秒でさらに高速だった。iPhone 5には及ばないものの、第5世代touchは、サクサクとストレスのないWebブラウジングが可能だ。通信機能としてIEEE 802.11a/b/g/nの無線LANと、Bluetooth 4.0に対応する。

 バッテリは内蔵リチウムイオンで、音楽再生時間は最大40時間、ビデオは最大8時間。充電時間は高速充電約2時間で、完全充電は約4時間だ。

 なお、プリインストールされているiOS 6は、標準搭載されているマップアプリが、米国の一部都市以外、情報量が少ないというのが話題になっているが、touchでも同様だ。高層ビル群の3D表示を期待して新宿を表示させたが、ビルの3Dデータはまだ無く、平原のように表示されてしまう。

 ただし、touchには第4世代も第5世代もGPSは入っておらず、無線LANを使って位置を特定する方式のみであるため、iPhoneと比べると地図の利用シーンは少ないのかもしれない。いずれにせよ、ヘビーに地図機能を使いたいという場合は、公式アプリの情報量が増えるまで、他の地図アプリを物色しておくのが良さそうだ。

ホーム画面。アイコンが一列、上に増えている標準のマップアプリで都庁あたりを表示したところ3Dモードでも立体的には表示されない


■静止画/動画の画質が大きく向上

 機能的に一番の強化ポイントはカメラだろう。第4世代は背面カメラでの動画撮影が720pに対応していたが、第5世代では1080p対応になった。「iSightカメラ」と呼ばれ、センサーの画素数は500万画素、裏面照射型CMOSになっている。

 タップしてのフォーカス、LEDライト、顔検出機能も搭載。静止画ではiOS 6から、パノラマ撮影も可能になっている。

カメラ部分iPhone 5との比較第4世代との比較
パノラマ撮影も可能に撮影しているところ

 まず、第5世代で静止画を撮影してみた。東京タワーの鉄骨描写は細かく、画質的には
十分なクオリティだが、ビルの暗部や、木々の葉など、暗いところやディテールが複雑な部分にざらつきを感じる。

第5世代touchの静止画作例
パノラマ撮影をしているところ。ガイドに添って本体を水平にスライドさせると……このようなパノラマ画像が撮影できる

 続いて、第4世代と第5世代touchと、iPhone 5の3機種で静止画・動画を撮影した。

第4世代touchで撮影第5世代touchで撮影iPhone 5で撮影
第4世代touchで撮影第5世代touchで撮影iPhone 5で撮影
第4世代touchで撮影第5世代touchで撮影iPhone 5で撮影
第4世代touchで撮影第5世代touchで撮影iPhone 5で撮影
oldtouchmov.mov (37.8MB)
第4世代touchの動画
ntouchmov.mov (54.2MB)
第5世代touchの動画
iphone5mov.mov (61.5MB)
iPhone 5の動画

 第4世代と第5世代の比較では、画素数の向上やノイズの少なさなど、静止画/動画共に大幅なクオリティアップが確認できる。動画の手ぶれ補正も強力になっているようだ。第5世代の比較相手としては、iPhone 5が良い勝負で、暗部のしまりや細部の描写力はiPhone 5が一枚上手だ。しかし、第5世代touchもちょっとした風景撮影や料理の撮影など、日常生活で利用するには十分な画質を持っている

 なお、第5世代touchは、フロントカメラの「FaceTime HDカメラ」も120万画素になり、720p/30fpsのビデオ撮影が可能になった(第4世代はVGA/30fps)。フロントカメラを使ってiPhone 4以降のiPhoneやiPod touchでビデオ通話する事もできる。



■Dock端子がLightningに

Dock端子がLightningに

 第4世代との大きな違いとして、底部のDock端子が、従来の30ピンから、8ピンの新端子「Lightning」に変更された。大幅に小型化されたほか、すべての信号をデジタルで出力するのが特徴だ。

 端子の形状がまったく違うため、従来のDock端子を備えたコンポなどには接続できない。純正の変換アダプタ「Lightning-30pinアダプタ」を使用すれば大丈夫だが、バランスが悪くなるため、コンポによってはうまくいかないケースもありそうだ。

 なお、Lightning-USBケーブルは付属しているため、前面USB端子でiPodと接続するタイプのコンポやAVアンプなどでは、そのまま利用できる可能性が高い。

 ただし、Lightningは全てがデジタル出力になり、アナログ出力は出なくなっているので、アナログライン出力を入れていたポータブルアンプなどは扱いが難しくなる。前述のアダプタを使えば使用は可能だが、本体がさらに縦長になり、収まりが悪いだろう。これを機に、DAC内蔵ポータブルアンプへの買い替えなどを検討しても良いだろう。




■音質もチェック

 プレーヤーとして重要な音質もチェックしよう。本体直接接続で、イヤフォンはShureのSE535を使って試聴してみた。

 第4世代touchと比べると、「ダイアナ・クラール/Temptation」における、ベースの沈み込みの深さが、第5世代touchの方が一枚上手。また、ヴォーカルの高域描写も、音が荒れ気味でかさつく第4世代に比べ、第5世代の方が繊細。口の開閉の動きなども、よりリアルに感じられる。全体としてはコントラストが深く、メリハリのあるクリアなサウンドに進化したと言える。

 よく似た外観なので、「iPhoneの音と同じようなものだろう」という先入観があるが、比較してみると、やはりプレーヤー専用機であるtouchの方が、出力のクオリティは高い。まず、iPhone 4Sと比較すると、第4世代touchと同様に、SNの良さや低域の深みの点で、第5世代touchの方が高品位だ。

付属イヤフォンが「EarPods」になった

 それではと、最新のiPhone 5と比べてみると、iPhone 5の音は平面的で、高域の描写もかさつき、全体のコントラストも低い。低域の沈み込みや締りも弱く、ボンついているだけ。全体的に安定感の足りないサウンドだ。第5世代touchにかなわないどころか、正直言って、これならばiPhone 4Sの方がクオリティが高い。iPhone 5は音質面ではちょっと残念な印象だ。

 なお、iPhone 5と同様、付属のイヤフォンはEarPodsになった。音質に関しては、以前レビューした通りだが、装着感やホールド性能、そして音質も、従来の付属イヤフォンよりも向上。特に音場の広さや中高域の伸びが良くなっている。別に愛用のイヤフォンがあったとしても、「たまにはEarPodsで聴いてみようかな」と思わせる、独自の魅力があるイヤフォンだ。




■まとめ

 処理速度や静止画/動画撮影能力の向上幅は大きく、第4世代から第5世代に乗り換える動機としては十分と言える。同時に、音質や画質も向上しており、メディアプレーヤーとしての基本的な能力も高められている事も評価したい。

 ライバルのAndroidウォークマンFシリーズと比べると、アプリを自由に追加できる拡張性はどちらも備えている。音質面ではウォークマンに分があると感じ、FMラジオを備えているのもウォークマンのみだ。

 対して第5世代touchは、デジカメで動画/静止画撮影できるのが大きな強みと言えるだろう。音楽やラジオを聴く事に注力するウォークマンと、よりマルチな使い方ができるtouchと表現する事もできる。スマートフォンを既に持っている人は、音質を重視してウォークマンを選ぶというのもアリだ。touchは、スマートフォンを持っていない人がスマートフォン的な使い方ができる端末として購入するのにマッチしそうだ。


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第5世代 iPod touch


(2012年 10月 23日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]