【スマホLIFE】小型だけど高音質、iBasso Audio「D5 HJ」を聴く

-スマホの音質を強化するDAC内蔵携帯アンプ


「D5 Hj」の使用イメージ

 ポータブルヘッドフォンアンプ市場において、リーズナブルな価格ながら、高い音質で人気のiBasso Audio。日本ではヒビノインターサウンドが取り扱っているが、その取扱開始1周年を記念して開発された新モデル「D5 Hj」が7月15日に発売される。

 位置付けを把握するために、iBasso Audioのラインナップをおさらいしよう。まず、低価格かつコンパクトなモデルとしてDACを内蔵しないヘッドフォンアンプの「T3 Hj」(オープンプライス/実売13,000円前後)があり、その上にDACを内蔵した「D2+ Hj Boa」(同19,000円前後)、さらに最上位のデュアルDAC/デュアルモノアンプ内蔵「D12 Hj」(実売32,000円前後)が存在する。

 新登場の「D5 Hj」は実売25,000円程度のため、価格としては最上位「D12 Hj」と「D2+ Hj Boa」の間に入るモデルとなる。




■上位/下位モデルよりもコンパクト

 外観から見ていこう。第一に感じるのは「小さい」という事。外形寸法は77×51×21mm(縦×横×厚さ)、重量は99g。最上位「D12 Hj」の98×55×25mm(同)/150gより大幅に小さく、下位モデル「D2+ Hj Boa」の82×51×21mm/108gと比べてもコンパクト。ポータブルヘッドフォンアンプでこの小ささは、大きな魅力だ。

 外装は手作業でヘアライン加工を施したというブラッシュド・ブラック仕上げ。他機種と同様に質感は高く、手にするとひんやりと冷たい。内蔵のリチウムポリマーバッテリで、最大38時間の駆動が可能。充電所要時間は約4時間。

上位、下位モデルと比べてもコンパクトな「D5 Hj」前面。ライン入出力兼用端子と、ヘッドフォン出力を備えている背面。USB入力は充電にも使用する
左から最上位「D12 Hj」、「D5 Hj」、「D2+ Hj Boa」、iPhone 3GS

左から「D2+ Hj Boa」、「D5 Hj」、「D12 Hj」

左から「D12 Hj」、「D5 Hj」、「D2+ Hj Boa」。D12は同軸/光デジタル入力も備えている

 端子は、ステレオミニのイヤフォン出力×1系統、ステレオミニのライン入出力兼用端子×1系統、USB入力×1系統を装備する。iPodなどのポータブルプレーヤーとアナログ接続してヘッドフォンアンプとして使うほか、USBでPCと接続すればUSBオーディオインターフェイスとしても動作。PCの音を高音質に再生できる。充電はUSB経由で行なう。最大出力100mW×2ch(32Ω)で、推奨ヘッドフォンインピーダンスは8~300Ω。全高調波歪は0.009%(DAC/1kHz/0dB)、0.012%(アンプ/1kHz/0dB)。

 内部的な特徴は、DACに旭化成エレクトロニクス製のものを採用し、24bit/192kHzへのアップサンプリングレートコンバータも搭載した事。USBから入力された信号を24bit/192kHzにアップサンプリングした上で、D/A変換することで、「原音の細かなニュアンスを極限まで伝える極めて解像度の高い音質を実現した」という。

USB接続すると、フロントパネルの「24bit/192kHz UP-Sampling」という文字の横にある青いランプが光る

 Windows 7(64bit)のPCとUSBで接続。プラグインを追加した「foobar2000 v1.0.3」で、OSのカーネルミキサーをバイパスするWASAPIモードを使い、16bitで出力してみると、非サポートというエラーが出て音が出ない。24bitで出力すると音が出た。16bitの楽曲の場合は、24bit出力すると良いようだ。もちろん24bitの楽曲は24bitのまま出力すればOK。WASAPIモードを使う場合は注意が必要だ。なお、DS(DirectSound)でも当然使用できる。

 なお、上位モデル「D12 Hj」、下位モデル「D2+ Hj Boa」のUSBは16bitのみの対応で、24bitの入力には対応していない。ただし「D12 Hj」は同軸/光デジタル入力も備えており、こちらは24bit/96kHzまでサポートする。


「D5 Hj」は16bit入力には対応していないようだ

 アンプ部分の特徴は、フラッグシップの「D12 Hj」(実売32,000円前後)と同様に、左右のチャンネルで独立して搭載している事。解像度の高さを維持しつつ、「圧倒的な迫力の音質で再現する」としている。なお、最上位の「D12 Hj」は、DACも左右で独立させている。




■音を聴いてみる

 ポータブル環境での試聴は、「第6世代iPod nano」+「ALO AudioのDockケーブル」を使用。DACとしての使用は前述のPC+ソフトを使って聴いた。

 まずは「D5 Hj」のアンプのみの音から。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、ヴォーカルが力強く主張する、中域の押し出しが強いサウンドが展開。クリアだが勢いのある音が特徴で、空間を広く描いたり、楽器の分離を重視する方向性とは異なる。ヴォーカルとパーカッション、ギターの音像が近いが、いずれも音が前へ前へと主張してくるので聴きとりやすい。音色はウォームで、ボリューム感と温かみのあるサウンドだ。

 特徴は、パワフルでありながら抜けの良さを持っている事。中域の押し出しが強いバランスだと、低域の主張も強くなり、ボワボワ、モコモコした不明瞭なサウンドになりそうだが、低域の主張は控えめであるため、全体的な見通しが良い。この印象はソニーのヘッドフォン「MDR-Z1000」、「MDR-ZX700」をで聴いた時に感じたものだが、カナル型イヤフォン(Shure SE535)に切り替えてもバランスが良い。カナル型は構造的に低域が良く出るため、低域の主張が強いアンプでドライブすると低音ばかり目立つ危険性があるが、「D5 Hj」では問題ない。

 下位モデル「D2+ Hj Boa」に切り換えると、音場が狭く、奥行きも減って平面的なサウンドになる。「D2+ Hj Boa」の音色は冷たく、ヴォーカルのサ行もきつめで、Kenny Barron Trio「The Moment」から「Fragile」を再生すると、ピアノの響きに暖かさが無い。打ち込み系では「D2+ Hj Boa」の音色がハマる楽曲もあるが、アコースティック系など、多くの曲では「D5 Hj」の方が自然な音と感じる。低域の沈み込みも「D2+ Hj Boa」の方が浅い。

 最上位「D12 Hj」に切り換えると音が一変。「D5 Hj」と比べ、音場が1.5倍ほど広大になり、ヴォーカルやギターの響きが波紋のように奥の空間に広がり、消えていく様子がわかるようになる。「D5 Hj」で耳に殺到していた音像は全員一歩下がり、整然と整列。音像分離が良く、隙間も見やすく、全体的にスッキリとした、ピュアオーディオライクなハイファイサウンドになる。細かな音も聴きとりやすく、クリアさに磨きがかかった印象だ。ヘッドフォンと比べ、カナル型イヤフォンでは違いが若干わかりにくくなるが、切り替えた瞬間に音の方向性の違いは誰にでも容易に判断できるレベルだろう。

 そのため、切り替えた瞬間は「D12 Hj」の方が大人しい音に聴こえる。だが、じっくり聴いていると、空間が広い事によるスケールの大きさ、アコースティックベースの量感のある低域の沈み込みの深さなどは、下位2モデルとのレベルの違いを感じさせる。低域の質が高いため、音楽に安定感が出ている。

 静かな環境で聴き比べると上記のような違いがあるが、パンクロック(Sum 41/noReason)などの激しい楽曲を聴くと「D5 Hj」のようなパワー感のある音の方が楽しいと感じる事もある。しかし、個々の音がくっつきぎみで、レンジも狭いので調子に乗ってボリュームを上げると耳が痛く、うるさく感じる。「D12 Hj」では広大かつ精密な音のままボリュームが上がっていくので、鼓膜に悪そうな音量にしてもヴォーカルとバックの分離が良く、音楽が破綻しない。このあたりの“楽しみ方”は好みの問題だろう。

 また、電車内でも比較してみたが、騒音の大きな地下鉄や、断続的にゴォーという騒音に包まれる新幹線の中などは、中域の主張が激しい「D5 Hj」の方が音楽の美味しい部分が聴きとりやすく、ボリュームをそれほど上げなくても音楽が楽しめる。繊細な音も描写できる「D12 Hj」の音も素晴らしいが、そのあたりが騒音に覆われる環境では良さが出しにくいのだろう。

 DACの音を比べてみると面白い変化がある。前述のように「D12 Hj」は16bit入力のみ、「D5 Hj」は24bitのみという違いがあるので純粋な比較ができないが、比べてみると、「D12 Hj」はアナログ接続時の印象がそのまま強化され、音場の広さ、クリアさ、ニュートラルな音質に磨きがかかる。「D5 Hj」は力強い中域という特徴を残したまま、音場が拡大。音像の分離の良さや、解像感もアップし、個性を維持したまま「D12 Hj」の音に近づくようだ。



■結論

iPhone 3GSと接続した使用イメージ

 トータルの音質では「D12 Hj」の方が一枚上手だが、価格差を考えれば当然と言える。また、音質の方向性が違うため、単純にどっちが高音質とは言いにくい。「D12 Hj」は分解能、空間表現、ワイドレンジ再生などを重視するマニア&玄人向けの音作りであり、正統派で飽きにくく、どんな音楽を入力しても対応できる懐の深さを感じさせる。しかし、悪く言うと面白みのないサウンドだ。D5 Hjは外部アンプらしい情報量の多さを持ちながら、パワーのあるサウンドで音楽を元気よく再生してくれる。中域の張り出しも「外部アンプでドライブしている醍醐味」を感じさせてくれる個性と言えるだろう。

 また、何より素晴らしいのがコンパクトさ。どんなに音が良くても、「D12 Hj」のような大きくて重いアンプは持ち運びがおっくうになり、使う機会が減少する可能性がある。「D5 Hj」であれば、鞄のちょっとした隙間に入れたり、プレーヤーと一緒に胸ポケットに入れられる。これは、音質の違いを補って余りある魅力だ。DACの音も良いため、USB DAC機能を頻繁に利用する人には、より魅力的なモデルと感じるだろう。

【iBasso Audio D5 Hj】
発売元ヒビノインターサウンド
発売日7月15日
価格オープンプライス
(実売25,000円前後)


(2011年 7月 12日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]