第398回:64bit OSへの対応を強化したCakewalk「SONAR 8.5」

~ 充実したプラグインや新機能の搭載も ~


 先月、CakewalkのDAWであるSONARの新バージョン「SONAR 8.5」がリリースされた。

SONAR 8.5

 毎年この時期に新バージョンとなるSONARだが、今年はSONAR 9ではなくSONAR 8.5とマイナーバージョンアップに留まったが、64bit OSへの対応をより強化するとともに、従来からあった機能をより使いやすいものへと仕上げた格好だ。

 そこで、今回は筆者的にも初めてとなる64bit版のWindows 7を導入した上で、最新版のSONAR 8.5を使ってみることにした。



■ 64bit OSへの対応を強化

 サーバーの世界では、すでに64bitのWindowsが主流になっていたのかもしれないが、一般のユーザー、特にDTMユーザーで64bitのWindowsを使っていた人は皆無に近かったのではないだろうか?

 そんな中、Cakewalkはすでに5年前のSONAR 4の時点で「SONAR x64 Technology Preview」という64bit OSに対応させた試作版を発表。2005年末にリリースされたSONAR 5以降では、32bit版と64bit版の両方が収録されるというスタイルをとってきた。こうしたバージョンアップに伴い、当初はいろいろあった64bitでの制限が徐々になくなっていき、今回のSONAR 8.5においては、ついに性能的に32bit版を超えるものとなったという。

 一方で、OS側であるWindowsもWindows 7になって、ついに64bit版が表舞台へとやってきた。64bit版の詳細についてはPC Watchなどの記事に譲るが、プリインストールマシンの多くが64bit版を採用するとともに、単体でWindows 7を購入しても32bit版と64bit版の2つが入っているため、ユーザーにとっても64bit版導入のハードルが低くなった。

 また、それに合わせ多くの周辺機器用のドライバも64bit版が揃ってきており、プリンタやネットワーク機器などはそのほとんどが普通に使えるようになっている。

 ただ、DTMユーザーにとって気になるのは、オーディオインターフェイスやMIDI機材に64bit版のドライバが用意されているか、ということ。そもそもWindows Vista用のドライバが揃うようになったのが最近のことなので、あまり期待していなかったのだが、予想以上に各メーカーの対応は早いようだ。

 今回はSONARだけにRoland製品でシステムを組んでみたが、USBオーディオインターフェイスの「UA-101」も、USB-MIDIキーボードの「PCR-300」もWindows 7用の64bitドライバがリリースされている。FireWireオーディオインターフェイスの「FA-101」や「FA-66」は、まだ出ていないようだが、ほかにも「V-STUDIO 100」、「UA-1000」などもドライバがリリースされているため、あまり心配することなく使えそうだ。


■ 64bit版をインストール

64bit版をインストール

 そこで、さっそく先日購入したWindows 7 Home Premiumの64bit版を新規インストールしてみたところ、コントロールパネルでシステムの種類を確認しなければ32bit版との違いはほとんどわからないほど。

 まあ、メモリが4GBなので、64bit版にするメリットはそれほどないのかもしれないが、ここにUA-101とPCR-300のドライバをインストールしたところ、こちらもあっさりと完了。コントロールパネルから、それぞれの設定画面を表示させたところ、従来のWindows Vista用ドライバとはデザインなどがちょっぴり変わっているが、基本的になんら変わりなく動作しているようだ。

UA-101のドライバをインストール。基本的になんら変わりなく動作するPCR-300のドライバをインストール。こちらも変わりない

 そして、ここにSONAR 8.5の上位バージョンであるSONAR 8.5 PRODUCERのインストールディスクをセットして、インストールを開始したところ、見慣れない画面が登場。ここで32bit版をインストールするか64bit版をインストールするかを尋ねられる。

 64bit版を選び操作を進めていくと、今度は特別バンドルソフトであるNative Instrumentの「Guitar Rig 3 LE」のインストーラが動き出す。これは、さすがに32bit版なのかなと思ったが、こちらもしっかりと64bit版が用意されているようで、今さらながら「世の中結構進んでいたんだな」と感心してしまった。

32bit版か64bit版のどちらをインストールか選択バンドルソフトであるNative Instrumentの「Guitar Rig 3 LE」も64bitに対応

 無事トラブルもなくインストールが完了し、Readme.docが起動するのだが、これを見ると、まだ64bit版での制限というものはいくつか残っているようだった。

  • DSP-FXシリーズ、ReValver SE、Cakewalk FX1、および一部のCakewalk Audio FXはインストールされません
  • 32ビット版DirectXプラグインは使用できません
  • DreamStation DXi2 はインストールされません
  • また、32ビット版DXiは使用できません
  • VSTiプラグインのMIDI出力は使用できません。64ビット版のモジュールがMPEXから提供されていないため、MPEXタイム/ピッチ・ストレッチ機能は使用できません。MPEXを指定した際には代わりにiZotope Radiusまたは内部のストレッチ機能が使用されます
  • QuickTime for Windows x64がAppleから提供されていないため、QuickTimeのインポート/エクスポートはサポートされません。メモ:MPG 1ムービーのインポートは可能です

 ただ、いずれもほとんど必要なさそうな機能ばかりなので、無視してしまっていいだろう。強いて1点あげるとしたら、MPEXタイム/ピッチ・ストレッチ機能が使えないことが気になるが、より高性能なタイムストレッチのiZotope Radiusが64bit版ネイティブで利用できるため、問題はなさそうだ。


■ ビットブリッジ機能で“橋渡し”

 さて準備ができたのでSONARを起動してみると、これが32bit版なのか64bit版なのか、まったく意識せずに使うことができる。

SONARを起動32bit版なのか64bit版なのか、まったく意識せずに使うことができる

 一方で、この画面を見てもわかるとおり、SONAR 8とは微妙にデザインが変わっている。一見して黒っぽいシックなデザインになっているのともに、これまでのSONARではいつも表示されていた大きいトランスポートツールバーが、デフォルトでは表示されなくなっている。

 また、これまで独立表示されていたシンセラック・ビューや、メディアブラウザなどがタブ表示されてスッキリしている。これらはSONAR 8の時代からできていたことだが、デフォルトの設定がいろいろと変更になっているため、これまでのSONAR 8に慣れているユーザーからすると、微妙に違和感を感じるかもしれない。とはいえ、基本的な操作感は変わっていないので、とくに戸惑うことはないはずだ。

 ここで、もう一度話しを64bit対応というところに戻そう。前述のとおり、これまでのSONARも64bit版があったが、今回の最大のポイントとなっているのがビットブリッジ(BitBridge)という32bit版のVSTプラグインを利用可能にする機能が強化された点にある。

 予め組み込まれているプラグインはすべて64bit化しているので問題はないが、本来64bit版のアプリケーションにおいては32bit版のVSTプラグインを直接利用することができない。そこでこのビットブリッジによって32bitプラグインと64bitアプリケーションの橋渡しをしているのだ。

 もっともビットブリッジ自体はSONAR 5のときから備わっていたが、ビットブリッジ上に複数の32bit版VSTプラグインを配置するという構造であったため、全プラグインの合計で最大4GBのメモリしか割り当てることができなかった。

 しかし、今回はVSTプラグイン1つに対して1つのビットブリッジを立ち上げることができるため、各VSTプラグインが最大4GBを占有できるようになった。もちろん、そのためには、それに応じたメモリを搭載している必要があるが、サンプラーが大規模化している現在、これは非常に大きなメリットだ。コンボリューション・リバーブなどにおいても、威力を発揮してくれるはずだ。

 このビットブリッジは見えないところで自動的に動作するため、ユーザーはこれをまったく意識することなく普通に32bitのプラグインをインストールしてSONAR側でフォルダ指定すればいいだけだから簡単だ。

 なお、ビットブリッジと非常によく似たものとして、J's StuffのjBridgeというシェアウェアのラッパーが存在する。これも1つ1つのプラグインに対して起動するため、1つのプラグインが最大4GBのメモリを占有することができる。

 もし、すでにこのjBridgeを導入していて、気に入っている場合はSONARの設定でビットブリッジからjBridgeへ切り替えることも可能。ただし、このチェックボックスはjBridgeをインストールして初めてアクティブになるようだ。

32bitのプラグインをインストールしてSONAR側でフォルダ指定SONARの設定でビットブリッジからjBridgeへ切り替えることも可能

■ プラグインの強化や新機能を搭載

 もちろん、SONAR 8.5になって図られた機能強化は64bitがらみのことばかりではない。プラグインや各新機能についても軽く紹介していこう。

ドラム音源が「Session Drumer 3」にバージョンアップ

 まず、一番の目玉ともいえるのが、ドラム音源の「Session Drummer 2」が「Session Drumer 3」へと大きくバージョンアップしたこと。シンバルやスネア、キックなどを鳴らすと、アニメーションで動いたり揺れたりするリアルなドラムで、ドラムキットのサンプルデータも一新。各ドラムキットごとに100~500MB程度あり、音的にもリアルだし、使えるバリエーションが増えていていい。

 また、Session Drummer 3自体に各音のバランスを調整するミキサーを内蔵しているため、自分の望みにあったドラムセットにアレンジしなおすことが可能になっている。

 また、このSession Drummer 3などと連携させることで大きな威力を発揮するステップシーケンサもバージョンアップ。各ステップごとのベロシティ設定がしやすくなったり、打ち込んだステップ部分をダブルクリックするとフラムに変化するなど、使い勝手が大きく向上している。

自分の望みにあったドラムセットにアレンジしなおすことが可能ステップシーケンサもバージョンアップ

 一方、まったく新たな機能として追加されたのが「マトリックスビュー」だ。これはAbletonのLiveのような操作感で、リアルタイムに各サンプルループを鳴らし、音楽演奏ができるというツール。もちろん、SONARで作ってある楽曲データと同期させながら鳴らすこともできるし、逆にマトリックスビューでのプレイを録音していくといったことも可能となっている。

 さらに使ってみてなかなか便利だったのが、MIDIトラック自体に内蔵された「アルペジエター機能」。数多くのプリセットが用意されているので、それを読み込んで使ってもいいし、簡単にオリジナルのアルペジオを作成できるのも面白い。この設定を行なったうえで、MIDIキーボードでコードを押すだけで、アルペジオが演奏でき、それがレコーディングできるため、結構便利に使えそうだ。

新機能の「マトリックスビュー」「アルペジエター機能」も搭載

 そのほか、プラグインのエフェクトがかなり充実した。具体的にはドラム/パーカッション系のトラックに最適化したチャンネル・ストリップ・プラグインである「PX-64 Percussion Strip」、ボーカル・トラックに最適化したチャンネル・ストリップで、コンパウンダーやチューブEQなどを搭載し、ディエッサー、ダブラー、サチュレーターなどの機能を搭載した「VX-64 Vocal Strip」、さらには以前Cakewalkの統合型シンセサイザProject 5に搭載されていたエフェクト群「Classic Phaser」、「HF Exciter」、「Para-Q」など7つのプラグインが復活するなど魅力もいっぱい。もちろん、いずれの機能も64bit版のネイティブで動いているので、安心して使える。

PX-64 Percussion StripVX-64 Vocal Strip
Classic PhaserHF ExciterPara-Q

 以上、Windows 7の64bit版で動かすSONARの新バージョン、SONAR 8.5 PRODUCERについてみてきた。実際に使ってみた限り、何の問題もなく非常に安定して使うことができた。Roland以外も64bit版のドライバをリリースし始めており、Cubaseをはじめ各アプリケーションも64bit化されてきているので、DTM環境もこれを契機に徐々に64bit化が進んでいきそうだ。


(2009年 12月 14日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]