第393回:「2009楽器フェア」レポート

~ ヤマハ「TRN-O」やコルグ「SOUND on SOUND」を発表 ~


 11月5日~8日の4日間、横浜みなとみらいにあるパシフィコ横浜で、2年に一度の楽器の祭典「楽器フェア」が開催された。

 会場では、各メーカーがブースを出展する一方、パシフィコ横浜にある会議室においては、いくつかの記者発表会が開催されたり、オープンに合わせてプレスリリースが配信されるなど、さまざまな新製品が登場した。今回は、楽器フェアで登場した電子楽器、レコーディング機材の新製品にスポットを当てて紹介してみよう。

横浜みなとみらいにあるパシフィコ横浜で開催された「2009楽器フェア」

■ ヤマハは「TNR-O」などの製品発表会を実施

 楽器フェアは5日の10時オープンとなったが、そのすぐ1時間後に別室でヤマハによる記者発表会が開催された。ここで発表されたのはTENORI-ON(テノリオン)の新製品とエレクトリックドラムDTXシリーズの新製品の2つ。

ヤマハは5日に製品発表会を開催。「TENORI-ON」の新製品とエレクトリックドラムDTXシリーズの新製品の2つを発表

 TENORI-ONとは16×16個のLEDボタンを使って視覚的・直覚的に作曲・演奏ができるというユニークな機材。ヤマハとメディアアーティストの岩井俊雄氏の共同開発によるもので、昨年5月に国内で発売された製品で、国内外のさまざまなアーティストがライブなどでパフォーマンスをしていることで話題となっているものだ。

 楽器がまったく弾けない人でも簡単に音楽をアドリブで演奏できるとともに、LEDが映像のように動きながら光るという面白い発想の製品ではあるが、ネックは定価121,000円という価格で、なかなか手が出しにくいという点だった。

 それに対して今回登場したTENORI-ON「TNR-O」は、普及価格帯のスタンダードモデルで、実売価格が70,000円程度に下げられている。これは従来の白色LEDからオレンジ色のLEDに変更するとともに、ボディーをマグネシウム合金からプラスティックに変更することで、重量が約610gと90gほど軽くなったのとともに、低価格化を実現した。機能、性能的、そしてサイズはほぼ同じで、12月1日の発売が予定されている。

 ただ、バッテリ駆動せず、ACアダプタでの電源供給となるため、ライブパフォーマンス用としては使いにくくなったのがちょっと気になるところだ。個人的には、もう少し安くなってくれるとよかったなと思うのだが……。

「TNR-O」TENORI-ON(右)との比較

 

「DTX-MULTI 12」

 もうひとつの製品「DTX-MULTI 12」は、DTXシリーズの新製品となるエレクトロイックパーカッションパッド。

 従来DTXシリーズはドラムセットの形だったが、これは12個のパッドと音源を一体化させたもので、スティックで叩く「スティックモード」のほかに、手で叩く「ハンドモード」、指で演奏する「フィンガーモード」などがある。

 さらに別のパッドを押さえながら叩くと音をミュートしたり音色を変化させることができる「ミュート奏法」にも対応しているなど、さまざまなパフォーマンスが可能となっているのが特徴。

 音源部はMOTIFシリーズから移植した各種音色のほか、新規サンプリングした打楽器音を含め1,277音色が搭載されている。さらにUSB端子がTO DEVICEとTO HOSTの2端子用意されており、USBメモリにWAVやAIFFファイルを入れて接続すると、ユーザー音色を追加することができる。また、Cubase AI5が同梱されており、TO HOST端子でPCと接続すると、DTX-MULTI 12の演奏をリアルタイムレコーディングできるほか、ソフトシンセをトリガーするといった使い方も可能となっている。


■ リニアPCMレコーダ「SOUND on SOUND」を発表したコルグ

 コルグが同日プレス発表したのが小型のレコーダ「SOUND on SOUND」。副題に「NLIMITED TRACK RECORDER」とあるのだが、非常にユニークなコンセプトのレコーダだ。

 高音質なステレオのコンデンサマイクを内蔵しており、16bit/44.1kHzではあるがリニアPCMで録音できるという点では、各社が出しているリニアPCMレコーダと同様。

音楽向けリニアPCMレコーダ「SOUND on SOUND」赤く光るLEDの左右にマイクが内蔵されている

 しかし、違いは重ね録りができるというところにあり、その録音方法がかなりユニークなのだ。まず、リズムマシンがあるので、これに合わせてマイクから録音したり、ギター入力端子があるので、ここからギターなどの録音を行なう。

 次にこれを再生しながら何度でも重ね録りができるのだが、いわゆるマルチトラックレコーダというわけではない。簡単操作で、どんどん音を重ねていくだけだから、どのトラックが埋まっているといった事情を考慮する必要はない。また、無限に重ね録りができるのだ。

 だからといって、すでに録音したデータに上書きしているのではないのが不思議なところで、アンドゥ/リドゥが何回でもできてしまうのだ。その秘密は、繰り返し録音していくテイクがすべて1回ずつWAVファイルとして保存されていることにある。また各テイクとは別に2chにミックスされたWAVファイルも同時に生成されるため、全体のミックスが簡単に再生できるようになっているのだ。

 そして、すべてのWAVデータはUSB経由でPCへ持っていくことができるため、DAWに取り込んでテイクごとに別のトラックに展開するといった使い方もできるのだ。

 SOUND on SOUNDには、ほかにもチューナを内蔵していたり、ギター用、ボーカル用など100種類のエフェクトも内蔵されている。小さなスピーカーも内蔵されているので、ギターから入力した音にエフェクトをかけ、そのスピーカーを鳴らしながら掛け録りしたり、すでに録音したデータにエフェクトを掛けるといったこともできる。12月中旬の発売予定で31,500円。製品を借りてレビューしてみる予定だ。

パーカッションシンセサイザ「WAVEDRUM」

 すでに発売は開始されているが、コルグブースではこの秋にリリースされたパーカッションシンセサイザ「WAVEDRUM」や、ビンテージ風エレクトリックピアノ「SV-1」も人気を集めていた。

 WAVEDRUMは一つのパッドの形をしているが、従来のエレクトリックドラムと異なり、非常に繊細なセンサーを装備しているのが特徴。叩くだけでなく、擦る、押すといった演奏が可能で、非常に広いダイナミックレンジと高い表現力を実現している。まさにアコースティックな感覚で、ブラシを使った演奏もまさにアコースティックドラムと同じ感じで行なえる。オープンプライスで、実売価格が49,800円前後となっている。

 一方のSV-1は73鍵盤タイプ(210,000円)と、88鍵盤タイプ(231,000円)の2種類があるが、いずれも左サイドに真空管が見える形で埋め込まれており、レトロなデザインと音を実現させている。もっとも音の管理は完全デジタル化されており、USB経由でPCに接続し、付属ソフトの「SV-1 Editor」を使って音色エディットもできるようになっている。

エレクトリックピアノ「SV-1」。写真は73鍵盤タイプ左側に真空管が埋め込まれている付属ソフトの「SV-1 Editor」を使って音色エディットも可能

■ ローランドはギター演奏向けプレーヤー「eBand JS-8」など

 ローランドは毎年この時期に行なわれるSONARのメジャーバージョンアップが、今年は8.5というマイナーバージョンアップに留まったため、DTM系においては大きな動きはなかったが、BOSSブランドにおいていくつかの新製品が発表された。

 ひとつはリビングやベッドルームでギターをつないで演奏するという新コンセプトのオーディオプレーヤー「eBand JS-8」。これはPCから転送したWAVとMP3を再生するプレーヤーで、3W+3Wのステレオスピーカーを搭載した機材。ここにギター入力が装備されているので、MP3などに合わせてギターが弾けるというわけだ。

 しかもBOSSのGT-10とほぼ同等のエフェクトが搭載されているので、各種ギターエフェクトやアンプシミュレータ機能をすぐに利用できるのだ。必要あれば、ここで演奏したサウンドを録音し、USB経由でPCへ転送することもできるので、簡易的なレコーディング機材として活用することもできる。11月20日発売予定で、実売価格は40,000円前後となる予定だ。

「SONAR 8.5」オーディオプレーヤー「eBand JS-8」

 ちょっと変わった製品としてデモで注目を集めていたのがフットペダルスイッチでコントロールできるボーカル専用のエフェクト「VE-20」。ボーカル用のエフェクトというと、PA側がリバーブやコーラスを乗せたり、多少EQを調整するといった使われ方が一般的だが、これはボーカリスト自らが積極的にエフェクトを掛けるための機材。

 ハードロック向けのパワー感あるサウンド、ボーカルをクリアに際立たせるポップス向けサウンドなどの定番がいろいろ用意されているほか、リアルなダブルトラック効果を実現させる2声サウンドにしたり、3度と5度の音を追加するハーモニー機能、さらにはワイルドなディストーション効果やレトロなラジオ・ボイス機能など演出できるようになっている。こちらも11月20日発売で、実売価格が25,000円前後になる。

ボーカル専用のエフェクト「VE-20」VE-20を使って、ボーカルエフェクトを実演

■ ティアックはレコーダ搭載チューナ「PT-7」を出展

録音機能を搭載したチューナ「PT-7」

 ティアックも同日、クロマチックチューナ/レコーダという新コンセプトのTASCAMブランド機材、「PT-7」をリリースした。こちらはリニアPCMレコーダのDRシリーズなどとは違い、メインはチューナ機能。一般のチューナよりも高速に反応するもので、トロンボーンなどのブラス系やバイオリンなどのストリングス系の楽器で、正しいピッチで演奏されているかをしっかり確認しながら練習ができるようになっている。

 この際、16bit/44.1kHzのモノラルで最大20分のレコーディングができるようになっており、レコーディングした音のピッチをチューナで確認できるようになっているのだ。ゆっくり再生し、より細かなニュアンスまで確認することができるのも面白いところ。PT-7は11月20日の発売でオープンプラス。実売価格は10,000円前後になる見込みだ。

 また、すでに発表済みではあるが、楽器フェア開催翌日の6日に発売されたのがUSB 2.0対応のオーディオインターフェイス「US-2000」。1Uのラックマウントサイズのオーディオインターフェイスとしては、すでにUS-1641という製品があり、以前紹介したことがあったが、US-2000はその上位モデルとして位置づけられるもの。

1UサイズのオーディオI/F「US-2000」「US-2000」のリア

 スペック的には16in/4outで24bit/96kHz対応とUS-1641と同じだが、高品位なマイクプリアンプを搭載するとともに、フロントには100ドットのレベルメーターを装備。6系統のXLRマイク入力、6系統のTRSライン入力および同軸デジタルステレオ入力に加え、フロントにマイク、ギターを直接接続可能なコンボジャックを搭載している。

 またアルミのボディーはUS-1641と比較して頑丈だし、各ツマミ類などもよりしっかりしたものになっている。ソフトはUS-1641と同じCubase LE4がバンドルされ、オープンプライスで実売価格が52,800円前後とのことだ。

ポータブルMTR「DP-008」

 もうひとつ6日に発売されたのが、ポータブル8トラックデジタルMTR「DP-008」。こちらも以前紹介したDP-004の上位機種で8トラック仕様にしたものだ。8トラックになった分、大きくなっているが、機能的には各トラックに内蔵リバーブへ送るセンドつまみが搭載されるなどの強化も図られている。オープン価格で、実売価格が50,000円前後となる。



■ そのほかアビッドやプロ・オーディオ・ジャパンも

 Digidesign、M-Audio、Sibeliusなどのブランドを展開するアビッドテクノロジーは、専門学校の日本工学院ミュージックカレッジと共同の小さめなブースで出展。この楽器フェア当日の発表という製品はなかったが、ここ最近にリリースされた製品を中心に展示が行なわれた。

「FastTrack」にはDAWソフト「ProTools Esseintial」がバンドル。なおディスプレイの左横上にあるのが「FastTrack」

 ひとつは実売価格12,600円前後という低価格のUSBオーディオインターフェイス「FastTrack」。24bit/48kHz対応で2in/2outとスペック的にはエントリーユーザー向けのものになっているが、ポイントはProTools Esseintialというソフトがバンドルされること。これはProTools LEの下位バージョンで、扱えるトラック数などが少なくなっているが、基本的な機能はProToolsシリーズすべてで共通。これが12,600円で使えてしまうというのはなかなか画期的だ。すでに製品は借りているので、近いうちに記事で紹介する予定だ。

 また11月上旬発売となるUSB-MIDIコントローラのOxgenシリーズも展示された。ブースに置かれていた25鍵盤の「Oxygen25」と49鍵盤の「Oxygen49」に加え、61鍵盤の「Oxygen61」の3製品があり、いずれもオープン価格。実売価格は小さいほうから12,600円、14,700円、17,850円とのことだ。

 さらに、譜面作成ソフトのSiberiusの最新版「Siberius 6.1日本語版」も登場。こちらは、より効率的に譜面作成~印刷までを実現させるマグネティック・レイアウト機能や外部のDAWと連携させるためのReWire機能を搭載。標準価格は66,150円となっている。

USB-MIDIコントローラ「Oxygen25」譜面作成ソフト「Siberius 6.1日本語版」

 最後に紹介するのはAKAIやALESISなどのブランドを擁するプロ・オーディオ・ジャパンのブース。ここでは、AKAIのUSB-MIDIコントローラ「MPKシリーズ」の新製品「MPK88」と「MPK61」が初お披露目となった。いずれもオープン価格で、11月下旬の発売。88鍵ハンマー・アクションを採用したMPK88が実売価格89,000円前後、61鍵セミウェイト鍵盤を採用したMPK61が58,000円前後となる。

 ALESIS製品としてはエントリー用のエレクトリック・ドラムセット「DM6 Kit」が登場。スネア、3つのタムパッド、スタンドつきのキック・パッド、ハイハット、クラッシュ、ライドシンバル、キックペダルと音源という構成で、108の音色を装備している。すでに10月29日より発売を開始しており、オープンプライスで、実売価格が54,800円前後だ。

AKAIのUSB-MIDIコントローラ「MPK88」「MPK61」(上)エレクトリック・ドラムセット「DM6 Kit」

■ AMEIが「MIDI検定 1級」の新設を発表

AMEIによる記者発表会も開催

 今回の楽器フェア会場では、こうした新製品の発表のほかに、楽器フェアの後援団体である社団法人音楽電子事業協会(AMEI)による記者発表会も開催された。

 これは、MIDI関連の知識について認定する資格制度、MIDI検定試験の1級を新設するというもの。1999年にスタートしたMIDI検定は2級、3級、4級の3段階があり、これまで約3万人が受験してきたが、その上についに1級ができるというわけだ。

 この1級は「楽譜からの音楽情報を正確かつ表現力豊かに作品として創造するプロレベルの技能を認定する」というもので、2級合格者を対象に来年1月から試験を実施していく。

 試験そのものは、会場で行なうのではなく、楽譜にて提供された課題楽曲をもとにMIDIデータやオーディオCDを10日間で各自が制作して提出するというもの。ここで、そのデータの正確性や表現力などが評価されるとのことだ。


(2009年 11月 9日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]