第481回:軽快/高機能なDAW「Studio One 2」を試す
~強力なマスタリング機能。Melodyneと統合可能に ~
Studio One 2 |
Avid TechnologyのPro Toolsの新バージョン「Pro Tools 10」がリリースされて、レコーディング業界は大騒ぎとなっているが、その一方で今ちょっと注目を集めているDAWがある。それがPreSonusの「Studio One」というものだ。
知名度は決して高くはないが、もともと「Cubase」や「NUENDO」を開発した人たちが作ったDAWで、非常に軽くて高機能なのが特徴。そのStudio OneにCelemonyの「Melodyne」が統合されるなど大幅に機能拡張し、「Studio One 2」としてリリースされたのだ。そのStudio One 2をさっそく入手して試してみたので紹介してみよう。
■ コンパクトかつ軽快なStudio One 2
PreSonusのStudio Oneは2年前の初期バージョンのときに紹介したことがあった。マルチウィンドウでの編集が一般的だった当時、シングルウィンドウでの操作を基本としたStudio Oneを初めて触ったときは、非常に軽いソフトだが、かなり妙なユーザーインターフェイスだという印象を持った。しかし、気づいてみると「SONAR」も「Logic」もシングルウィンドウが標準となったわけで、まさにシングルウィンドウDAWの先駆けであったということになる。もちろんStudio One 2もシングルウィンドウというUIは継承されている。
Studio OneがほかのDAWと明らかに違うのは、その軽さだろう。CubaseやSONAR、Logic、ProToolsも歴史とともに機能が追加され、アプリケーションとして膨大なものになってきている。それに対して過去のしがらみを持たないStudio Oneはとにかくコンパクトで軽快なのだ。
新バージョンのStudio One 2は「Studio One Professional 2」(39,800円)、「Studio One Producer 2」(19,800円)、「Studio One Artist 2」(ProSonousオーディオインターフェイスに無償バンドル)と3ラインナップあり、今回使ったのは最上位版のProfessional 2であったのだが、DAW本体のインストーラのサイズはたったの50.9MB。
これはWindowsの64bit版のインストーラのサイズだが、32bit版だと48.7MB、Mac版(32bit/64bit兼用)だと80.8MBと、いずれもほかのDAWとは比較にならないほどコンパクトなのだ。実際に64bit版をCore-i7のマシンのSSDマシンにインストールしてみたところ、3秒でインストールは完了。いかにシンプルなDAWであるかがわかるだろう。
ちなみに、2年前に記事にした際、PreSonusの国内代理店は日本エレクトロ・ハーモニックスだったが、昨年10月にエムアイエブンジャパンに変更されている。国内で9月以降に旧バージョンを購入したユーザーであれば、新バージョンは無償提供されるとのことだ。
シングルウィンドウUI | DAW本体のインストーラサイズは50.9MB |
■ DAWとして必要充分。UIはシンプル
しかし、そんな小さなプログラムサイズとなると、機能的にかなり貧弱なのでは……と思うかもしれない。ところが、実際に使ってみるとDAWとして必要な機能は一通り網羅されており、とくに不足と感じるものはない。MIDIのレコーディングはもちろん、ピアノロール画面を使っての入力から、クォンタイズをはじめとした細かな編集機能まで何でも装備している。
またオーディオのほうもレコーディング、編集、オートメーション……と何でも揃う。とくにオーディオの編集機能ですごいのはクォンタイズだ。オーディオ・イベントを選択して「Q」キーを押すだけでトランジェント検出がされ、グルーブ抽出をすることができたり、指定の音符やグルーブにクォンタイズを適用することができるのだ。この簡単さ・手軽さは、ほかのDAWではあまり見たことがないほどである。
もちろんミックス機能だってしっかりしている。オーディオトラックとインストゥルメントトラックがシームレスに並び、自在にミックス操作が可能。もちろん、各トラックにインサーションエフェクトを噛ませたり、FXチャンネルやバスチャンネルを設定して、それを利用してセンド・リターンエフェクトを利用するということもできる。
ピアノロール画面 | クォンタイズ | 編集画面 |
オートメーション | トランジェント検出機能 | ミックス機能 |
実際使ってみて、ほかのDAWにはあるのに、Studio One 2にないという機能はあまり思い当たらないくらい。強いていえば、MIDIエディタとして用意されているのがピアノロールだけだということだろうか。そう、スコアエディタやリストエディタといったものが存在しないため、とにかくMIDIは数値でエディットしたいんだ、という人には向かないかもしれない。
プラグイン毎の負荷状況のリアルタイムモニターが可能 |
また、使っていても本当にサクサク動く。ファイルを再生中にパフォーマンスモニターを見てもCPU使用率は非常に低いのだが、このパフォーマンスモニターにある「デバイスを表示」というところにチェックを入れると、ちょっとユニークな表示を見ることができる。それは、すべてのプラグインそれぞれでの負荷がどうなっているのか、リアルタイムにモニターできるようになっているというもの。普段よく使っているプラグインがどのくらいのパワーを食うのか、ここで見比べみるのも面白そうだ。
■ アルバム制作向けのマスタリング機能も
さらに、Studio One Professional 2には、ほかのDAWにはないすごい機能が統合されている。それが強力なマスタリング機能だ。「ほかの各DAWだってマスタリング機能は搭載されている」という人もいるかもしれない。確かにマスタートラックに、EQやコンプを突っ込んで最終的な音の調整は出来はする。でも、それはあくまでも1曲だけの場合であり、本来マスタリングとはアルバムを制作する際、EQやコンプを使いながら各曲のバランスをとり、曲間を細かく設定したり……という作業をいう。
現在あるほとんどのDAWでは、1曲を仕上げることを目的としており、複数の曲を並べてアルバムを制作するためのマスタリングはできない。やはり通常はDAWで作ったオーディオファイルを専用のマスタリングソフトに持っていって作業を行なうわけだが、Studio One Professional 2ではアルバム制作のためのマスタリング機能を備えているのだ。
マスタリング機能のプロジェクト画面 |
そのマスタリング機能のプロジェクト画面が右の写真。ここではWAVファイルやAIFFファイルなどステレオ2chにミックスダウンされたオーディオファイルを複数並べて、マスタリング作業を行なっていくことができるようになっている。その意味では、ここまで見てきたオーディオやMIDIで曲を作っていくのとはまったく別の画面の別の機能。たとえばSteinbergの世界でいえば音楽制作のためのCubaseにマスタリングのためのWaveLabをドッキングさせたような感じだ。画面も大きく異なるわけだが、これが1つのソフトとして構成されているのには大きな意味がある。
実はこのマスタリング用のプロジェクト画面では、WAVやAIFFのほかにStudio OneのSONGファイルも並べることができるようになっている。そして、いざマスタリング作業を行なっている際に、「ボーカルを0.3dB上げたい」とか「ギターのディストーションをもうちょっと深めにかけたい」なんていった場合に、ここからソング画面に戻って修正し、それを反映した状態で再びプロジェクト画面に戻ってくることができる。もし、DAWとマスタリングソフトという組み合わせだと、何度もデータのやりとりをし、マスタリングも最初からやり直さなくてはならなくなるが、これならとっても簡単になるのだ。
しかも、このStudio One Professional 2のマスタリング機能は、CDを焼いたり、WAVやAIFF、またMP3やFLACといったファイル形式に書き出すだけではない。なんとDDP出力にも対応しているのだ。いまプレス工場へはDDPで渡すのが主流となってきたが、それに対応しているのだから、まさに業務用としても十分使えるソフトといえるわけだ。
オーディオCD作成 | MP3やFLAC等のファイル形式書き出しに対応 | DDP出力にも対応 |
■ プラグインも豊富。「Melodyne」、「KOMPLETE ELEMENTS」との統合も
このようにさまざまな機能を持ちながら、非常に小さなプログラムサイズになっているのはまさに驚きともいえる。まあ、そうはいっても、そんな小さいサイズだとエフェクトやインストゥルメントがほとんどないのでは……と思う人もいるはずだ。それでも見てみると非常に充実している。EQ、マルチバンドコンプ、ディレイといったものからコンボリューションリバーブやアンプシミュレーターまで結構いろいろなものが揃っている。
充実したエフェクトやインストゥルメント | EQ | マルチバンドコンプ |
ディレイ | コンボリューションリバーブ | アンプシミュレーター |
またインストゥルメントとしては、リズム音源のImpact、サンプリングシンセのPresenceとSampleOne、さらにアナログシンセエミュレータのMojitoとそれなりのものがある。とはいえ、やはり50.9MBといったサイズでは、最近の各社のDAWのような派手なプラグインや膨大なサンプリングデータ、ループ集は入っていない。といっても、それはあくまでも本体プログラムの話であって、Studio One 2にはさまざまなプラグインやデータ集が用意されており、これらをインストールすることで、機能が追加されていく形になっているのだ。
実際、今回はPreSonusのサイトから最新版のプログラムをダウンロードして使ったのだが、Windows 64bit版用のファイルすべてを落としたところ、そのファイルサイズは19.8GBもあった。その意味では、ほかのDAWと一緒かそれ以上ともいえるわけだが、プログラム本体とそれ以外が明確に分かれており、必要に応じて必要なものだけをインストールすればいいようになっているわけだ。
リズム音源のImpact | サンプリングシンセのPresence |
サンプリングシンセのSampleOne | アナログシンセエミュレータのMojito | Windows 64bit版用の全ファイルサイズは19.8GB |
その19.8GBの中に、今回のStudio One 2の目玉機能ともいえるものがある。それが、CelemonyのMelodyne機能だ。正確にいうとMelodyneシリーズのエントリーモデルである「Melodyne Essential」(国内価格10,500円)であり、これをインストールするとStudio One 2と有機的に統合され、完全にStudio One 2の一機能として利用できるようになるのだ。
操作はいたって簡単。オーディオイベントを選択し、右クリックして開くコンテクストメニューから「Melodyneで編集」を選ぶか、単に「CTRL+M」を押せばOK。すぐにオーディオイベントが解析され、MIDIのピアノロールのようにオーディオを表示することができるのだ。もちろん、これをエディットすれば、そのままStudio One 2のデータとして再生できる。
これまでもMelodyneをプラグインとして使う手段はあったが、ここまでうまく統合されたソフトはなかったように思う。これさえあれば、ボーカルをレコーディング後に音程を変えたりタイミング修正することが簡単にできるし、必要に応じてピッチ補正をかけたり、クォンタイズをかけたりすることができるなど、オーディオ編集の可能性が大きく広がり、作業効率も大幅に向上するはずだ。
「Melodyneで編集」を選ぶ | オーディオイベントが解析され、MIDIのピアノロール表示が可能 |
ピッチ補正の画面 | クォンタイズの画面 |
Melodyneは先日新バージョンが発表されたが、Studo One Professional 2に収録されているのは発売中のMelodyne Essentialそのもののようで、インストールすれば、Studio One 2の一機能として利用できるのはもちろん、一般のプラグインとして、さらにはスタンドアロンでも利用することができるのだ。
このようなアドオンソフトとしてもうひとつ非常に強力なのが、Native Instrumentsの「KOMPLETE ELEMENTS」。こちらは市販の「KOMPLETE 7 ELEMENTS」(実売価格:5,980円)の一世代前のもののようだがソフトシンセであるREAKTOR 5 PLAYER、ギターアンプシミュレータのGUITAR RIG 4 PLAYER、そしてソフトサンプラーのKONTAKT 4 PLAYERの3つから構成されており、VSTプラグイン/VSTインストゥルメントとして利用できるようになっている。また、それぞれスタンドアロンでも動作可能だからGUITAR RIG 4 PLAYER単独で使うといったことも可能となっている。
ソフトシンセのREAKTOR 5 PLAYER | ギターアンプシミュレータのGUITAR RIG 4 PLAYER | ソフトサンプラーのKONTAKT 4 PLAYER |
プログラム的にいえば本体のほかは、このMelodyneとKOMPLETE ELEMENTSの2つだけであり、ほかはサンプリングデータやループ素材などのデータだからハードディスク上にフォルダを作ってそこに置いておけばいいようになっているのだ。
以上、Studio One 2を紹介してみたが、いかがだろうか? 知名度や普及という意味では、まだまだマイナーな存在ではあるが、先日紹介したとおり、ReWire 64bitにも対応するなど先進的ソフトであり、とにかく軽いのが大きなポイント。Melodyneとの統合といった面白さもあり、今後主要DAWのひとつとして頭角を現してくるのではないだろうか。