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「悪うない」。Apple TV+配信「テトリス」をいち早く観た!

3月31日から、Apple TV+で、オリジナル映画「テトリス」が公開になる。

ひと足さきに見させていただいたが、「悪うない」と京都弁で言いたくなる、とても面白い作品だ。(なんで京都弁かは、予告編の最後をどうぞ)

テトリス — 公式予告編 | Apple TV+

テトリスを巡る物語がどんなものか、おそらく多くの人にはピンと来ないかもしれない。

すごくシンプルに言えば、「ソ連で開発された画期的なゲームを、西側企業がビジネスにするために文字通り東奔西走する」話だ。

特定の世代のゲームファンはよく知る話だが、テトリスには、商業化に向けたライセンスについて数々の逸話がある。圧倒的な商機がある一方で、当時はまだ「ソビエト社会主義共和国連邦」の時代。現在のように、シンプルに権利処理が行なえる時代でもない。しかも、ビデオゲーム市場自体も黎明期。ライセンス契約のあり方も固まっていない。

そんな時代に出てきた巨大な傑作が「テトリス」であり、複雑なライセンス獲得の中核にいたのが、日本のソフトメーカーであった「BPS(Bullet-Proof Software)」だ。

本作の主人公は、BPS創業者であるヘンク・ロジャース氏とその家族、そして、テトリスの開発者であるアレクセイ・パジトノフ氏だ。

BPS創業者ヘンク・ロジャーズ氏
テトリスの開発者、アレクセイ・パジトノフ氏

ヘンク氏の妻であるアケミ・ロジャースを演じた文音さんは、演じた印象を次のように語っている。

「著作権がテーマなので、脚本の段階ではすごく難しい話になるのかな、と思ったんです。でも、完成作品を見たら、すごくストレートなエンターテインメントになりました。こうなるんだ! という驚きは大きかったですね。やっぱり、ちゃんと家族の話になっているのがポイントだと思うんです。(主演の)タロン(・エガートン)と、夫婦役を演じる上でのつながりが大事だと考えました。けっこう、二人でケンカするシーンも多いんですよ。でも、お互いがどうあるべきか、話したわけではないんです。徹底的にリハーサルをして、作り上げていきました。タロンが『僕のためだけにちょっと話してみてくれないか』って言ってくれて。結果的にですけど、考えたこともない感情が生まれ、表現できました」

ヘンク氏の妻であるアケミ・ロジャースを演じた文音さん

ゲームのライセンスをめぐる実話が家族の物語になる、というと「え?」と思うかもしれない。だが、実際そうなのだ。

「テトリス」は実話をもとにしたストーリーではあるが、実話そのものではない。だいぶ、いやかなり、脚色は入っている。

ゲームの歴史に詳しい人から見れば、本作品からは、いくつものツッコミどころを見つけられるはずだ。オールドゲームファンが集まれば必ず論争になる、任天堂とセガの間での「テトリス紛争」も描かれない。任天堂は作品中で重要な役割を果たすが、セガはセリフの中で「セガ」と語られるのみだ。個人的には、「複数列を同時に消す」という要素が、パジトノフ氏の発想ではないように描かれているのが気になった。

しかしそれでも、本作の面白さが削がれるわけではない。

「テトリス」は、ゲームの歴史を描くことが目的ではない。あくまでドラマだ。

「横浜で働く、家も抵当に取られたゲーム開発者が、鉄のカーテンの向こう側に乗り込んで、人生の一発逆転を狙う」話が、面白くならないわけがない。

ソ連時代の理不尽さはまるでスパイ映画のような緊迫感を持っているし、その中でロジャース氏とパジトノフ氏が友情を築いていく様には心を打たれる。

演出として史実から離れた部分はあるが、ドキドキするビジネス・アドベンチャー。

それが、私の「テトリス」に対する評価だ。有料というハードルはあるが、Apple TV+には良い作品が多いので、この機会に試してみてほしいと思う。

なお、本作が「現実からヒントを得たドラマ」であり、どの部分が現実で、どの部分がフィクションなのかは、エンディング・テロップとともに流れる、「実際にヘンク氏が当時、モスクワで撮影した映像」から読み取ることができる。ロジャース氏とパジトノフ氏の友情は、間違いなく本物だ。

最後に、現在のお二人のコメント動画を紹介しておこう。

描かれた本人たちから日本のファンへコメント。テトリス開発者アレクセイ・パジトノフ氏(左)、BPS創業者ヘンク・ロジャース氏(右)
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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