藤本健のDigital Audio Laboratory
第1030回

中華USBオーディオの”最高水準の音質”はガチ? TOPPING Pro「E2x2 OTG」を測定した
2025年5月26日 10:17
アメリカ製、ヨーロッパ製と記載がありつつも、実際は製造だけでなく設計も含めて中国で行なっているというケースが機器で増えてきている。オーディオインターフェイスなどにおいては、そうした事例を以前に何度か取材したMusic Chinaなどでも確認できている。
そんな中、堂々と“中国ブランド”として打ち出すメーカーも登場してきた。今回取り上げるTOPPING Professionalがその一つだ。
「E2x2 OTG」という2in/2outのオーディオインターフェイスは「最高水準の音質である」と、性能面を前面に打ち出して日本国内での販売をスタートさせている。
とはいえ、その性能は本当なのだろうか?
音を聴いてのあいまいな感想ではなく、いつものように実際に性能テストを行なって調べてみた。
MUSIN取り扱いの中国ブランド「TOPPING Professional」
今年1月にアメリカ・アナハイムで行なわれた世界最大の楽器の展示会「NAMM SHOW」。
その会場で、TOPPING Professionalという中国メーカーがオーディオインターフェイスを発表したことで話題になっていたが、さっそくそれが日本でも発売されることになった。取り扱うのはiBassoやSHANLINGなどのオーディオ機器を取り扱っている代理店であるMUSIN。
先日、そのMUSINからTOPPING ProfessionalのE2x2 OTGというオーディオインターフェイスとCL101というコンデンサマイクの発売を開始したので、試してみないか、という連絡をいただき、さっそく借りてみた。
実際使ってみたところ、機能的にも面白かったので、DTMステーションの記事で機能紹介をしたのに加え、YouTube Live/ニコニコ生放送番組であるDTMステーションPlus!では、アニソンシンガーの愛未莉叶(まなみりか)さんをゲストに、ボーカルをレコーディングするテストも行なってみた。
その結果、非常に便利に、かつ非常に高音質でレコーディングすることができたのだが、やはり気になっていたのは感覚的にキレイないい音というだけのことなのか、測定上も高音質であるのか、という点だった。
というのも、TOPPING ProfessionalがE2x2 OTGの特徴として一番に打ち出しているのが数字だからだ。
ライン出力やマイク入力のダイナミックレンジやTHD+N、クロストークや周波数特性などを細かく打ち出すとともに、それらをTOPPING Laboratoryなる測定施設でテストした結果である、と謳っている。
もちろん、単に自社の測定ということであれば、何とでも言えるわけだが、同社はAudio Precision社のオーディオ・アナライザー「APx555」「APx555B」を使って測定している、と明言している。
ご存じのとおり、Audio Precisionは業務用のオーディオ機器の測定機器を出しているメーカーであり、オーディオ性能測定やジッター測定など、業務用での測定においては、唯一無二といってもいい存在。
APx555というと500万円程度の機材だが、その測定でかなりの性能を発揮しているのだとすれば、世界中のメーカーにとっても侮れない存在ということになる。今回その点を検証してみよう、と考えた。
オーディオインターフェース「E2x2 OTG」とは
測定に入る前に、E2x2 OTGについて概要を紹介していこう。
本機は2in/2outのハーフラックサイズのオーディオインターフェイスだ。ブラックモデルとホワイトモデルのカラバリがあり、全面アルミボディで、作りも非常にしっかりしている。
フロントに2つのコンボジャック入力を備えるとともに、その右側にはヘッドフォン出力を装備。リアにはTRSのステレオ出力を備えた、一見シンプルな機材である。
が、チェックしていくと、いろいろな面でよくできている。まずフロントには入力および出力のレベルメーターが装備されており、一目で状況をチェックできるようになっている。
また、リアにはLINE OUTの隣に、3.5mmのAUX OUT、さらには最近のオーディオインターフェイスではやや珍しいS/PDIFのオプティカル出力も搭載しており、ヘッドフォン出力と合わせると4系統もある。
もっとも、E2x2 OTGは2in/2outのオーディオインターフェイスなので、それぞれを完全独立で使うというわけにはいかないが、あとで紹介するTOPPING Professional Control Centerを利用することで、かなり自由度高く利用できるようになっている。
USB-C端子を3つ搭載。どのように使う?
そしてユニークなのは、USB-C端子を3つも搭載している点だ。
このUSB-C端子、それぞれ役割が異なっている。まずメインとなるのが中央のUSB-Cと書かれているところ。これをWindowsやMacと接続して使う。バスパワー供給で動作するから、通常はこれ1つだけでもOKだ。
一方、右のOTGがE2x2 OTGというネーミングにもつながっているところであり、iPhone/iPad、Androidなどと接続して使う端子となっている。
もちろんスマホ・タブレットだけでなく、WindowsやMacとの接続も可能であるが、こちらはバスパワー供給とはならないため、3つ並んでいるUSB-C端子のうち一番左のPOWER端子から電源供給する必要がある。
この中央のUSB-C端子と右側のOTG端子の両方を使い、同時に2つのホストと接続できるのもユニークなところ。この場合、真ん中のUSB-Cと接続したホストから十分な電源供給があれば、POWER端子に電源供給しなくても動作させることが可能になっている。
では、2つのホストに接続するとどのようなことになるのか。
それをコントロールするのが、先ほど少し触れたTOPPING Professinal Control Centerというソフトだ。これはWindowsでもMacでもドライバをインストールするとセットでインストールされるシステムソフトで、E2x2 OTGのすべてをコントロールすることが可能。
パッと見はまさにミキシングコンコンソールという感じで、一見複雑そうに見えるが、整理して見ていくと、実にうまく設計された、非常に優れたシステムになっている。
先に言っておくと、ここでコントロールするのは入力や出力のレベルとルーティングであり、それ以上のものはない。つまり、最近の高級オーディオインターフェイスが備えているEQやダイナミックスなどDSP機能はなく、あくまでも入ってきた音をレベル調整・バランス調整して出力する形となっている。
まず左上のInputという項目が3つあるが、これが外部からの入力。フロントのコンボジャックからの入力がIN1、IN2であり、+48のファンタム電源、ハイインピーダンス対応のINSTスイッチなども用意されているほか、SOLO、MUTEスイッチ、位相反転させるφスイッチも備える。
MONスイッチをONにすると、モニターミックスへもルーティングさせる形になる。その隣は、通常Disconnectedとなっていて何も入力がないが、OTGにスマホなどを接続するとMobile INという表示に変わり、スマホからの音が入ってくる形となる。
実は“12inを備えた機材”。自由なルーティングが魅力
右側のMixerと書かれているのが、ミキサー機能だ。ここにはステレオで6ch、モノラル換算で12chが並んでいる。E2x2 OTGは2in/2outのオーディオインターフェイスではあるが、“実は12inを備えた機材”ともいえるわけだ。どういうことなのか?
見るとわかる通りIN 1+2、Mobile INが左側のInputを介して、ここに立ち上がってくる。さらにPlayback 1/2、3/4、5/6、7/8とあり、PCでの再生音がここに立ち上がってくる。
ここでWindowsのサウンド設定を見ると、E2x2 OTGの出力先はPlayback 1/2~7/8まで4つ(モノラルで8ch分)あるので、アプリケーションンごとに切り替えて使うことができる。
12ch分をミックスした結果はどこから出力されるのかというと、デフォルト設定では、このミックスした音はどこからも出てこない。E2x2 OTGのメイン出力やヘッドフォン出力から聴こえるのは、Plyaback 1/2へ出力した音だけになっている。
そこで登場するのが画面右下のOutputという項目。ここにはOutput1+2、Moubile Out、S/PDIF OUTと3つが並んでいるが、その下がすべてPlayback 1/2となっているから出てくる音がPlyaback 1/2の音だけだったのだ。
このOutput 1+2の下のPlayback 1/2をクリックしてみるとMixer、Input、Plyabackという選択肢が出てくる。この中でMixerのMix Aを選択すれば、上でミックスした音が出てくる。
またMixer部のタブを切り替えることでMix AだけでなくMix B、Mix C、Mix Dとあり、異なるミックスを4つ同時に設定しておくことが可能なのもポイント。
Inputを選べば、入力された音をそのままダイレクトモニタリングすることができるし、Playbackを選べば、PCからの出力のみを出すこともでき、自由にルーティングできる。
同様にMobile Outではスマホへの出力を好きなものにルーティングできるし、S/PDIF OUTへも独立してルーティングが可能。さらに、画面下のLoopbackではループバックへ送る信号のルーティングができる。
一方で一番右下にあるのがヘッドフォン出力。ここもメイン出力であるOutput 1+2と同じ出力となるが、Input/Playbackのバランス調整で前述のMONで送られたモニター出力とのミックスをノブで調整できる。
またGainをオンにするとヘッドフォン出力を+17dBアップすることが可能で、インピーダンスの大きいヘッドフォンでも十分駆動できるようになっている。
ここまで自由度高くルーティングできる2in/2outのオーディオインターフェイスも珍しいが、アイディア次第でいろいろな使い方ができそう。
例えば、PCを使ってゲーム配信する上で、ゲーム音および接続したマイクでの声をミックスするとともに、スマホで別の人と電話している声もミックスした上で、ループバックに介して配信し、必要な音を別ミックスで電話相手に返す……なんてこともできるだろう。
逆にPCのDAWで音楽作っている音をスマホに送ってそちらから配信するといったことも、音質劣化させることなくできるのも面白い使い方だと思う。
気になる性能は? 周波数特性やレイテンシーを測定
さて、ここからが今回の本題。このE2x2 OTGの音質がどうなのか、いつものようにRMAA Pro 6を用いて周波数特性やノイズレベル、ダイナミックレンジ、高周波歪み、ステレオクロストークなどをチェックしていくことにする。
方法はいつも通りではあるが、E2x2 OTGのメイン出力をTRSケーブルでそのままフロントのライン入力へと接続してループさせる。この際、内部ループが起こらないように、TOPPING Professinal Control Centerの設定はデフォルトに戻し、メイン出力はPlayback 1/2に設定しておく。
この状態で出力を0dBにしても入力レベルとしてRMAAの測定基準には達しないため、入力ゲイン調整で少し持ち上げて調整。この状態で44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzそれぞれのサンプリングレートで測定した結果が以下のものだ。
見るとわかる通りだが、各サンプリングレートでの結果はすべてExcellentの表示となっており、グラフを見ても、非常にキレイなデータになっている。
THD+Noiseでの高調波を見てみると、2倍音、3倍音、5倍音が多少乗っているが、そのくらいでノイズは非常に少ない。この価格帯の製品としては極めて優れているといって間違いないようだ。
さすがにRMEのインターフェース「Fireface UCX II」などと比べれば、SNもダイナミックレンジでも劣ることがわかるが、3万円台でこれだけの高音質を実現できているのであれば誰も文句を言うものではないだろう。
ちなみにレイテンシーについてもテストした結果がこちら。こちらは特別低遅延というわけではないようで、普通の値のようだが、決して悪いものでもない。
これら結果を見ても、世界中のオーディオインターフェイスメーカーにとって、中国メーカーは強敵となってきそう。
なお、現時点での国内販売はE2x2 OTGのみであるが、TOPPING Professinalとしては8in/8out、4in/4outまたマイクプリが1つの2in/2outなどバリエーションがある。
MUSINは国内の販売状況などを見て、これらを扱うかも検討するということだったので、この辺の動きも注視したいところだ。