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歌い手“以外”にも注目!「もののがたり」「もういっぽん!」など1月期注目アニソン

明日のカタチ/竹達彩奈
(P)PONY CANYON INC.

アニソンと言えば、注目されるのは歌っているシンガーだろう。声優やアニソンシンガー、最近ではJ-POPのアーティストも珍しくない。筆者も学生時代は、歌っている声優にしか興味がなかった。

しかし、アニソンという音楽を制作している人たちは、もちろんそれだけではない。ハイレゾを楽しむということは、音楽を深く味わう方法の一つでもあると思う。詳しくは本文末尾に述べているので、まずはハイレゾを聴き込むということに興味を持っていただけるよう筆を進めていくことにする。

本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。さっそく、今期の注目ソングをみていこう。

「ノケモノたちの夜」OP主題歌「明日のカタチ」(96kHz/24bit)

週刊少年サンデーに連載された同名コミックのTVアニメ。全8巻を最後まで映像化した。

19世紀末のロンドンを舞台に、社会ののけ者となった少女と悪魔たちの交流と成長を描いた作品。物語冒頭で物乞いをしていたウィステイリアが、ストーリーが進むに従って、芯の強い圧倒的なヒロイン力を発揮していく様がなんとも魅力的。

中盤、ナベリウスの契約者ダイアナが瀕死の重傷を負ったときの、切なさといったら!

ダイアナは、まさかの復活を遂げ、固い絆で結ばれた2人は、ウィスとその相棒マルバスに負けず劣らずの名バディ。最終回では共に旅をすることになった2人と2匹がまぶしくて、もっと彼らの日々を見ていたい気になった。

OP主題歌は、ヒロインを演じる声優の竹達彩奈が歌唱。LIVE LAB.所属の毛蟹が作詞から作編曲まで一連を担当。ウィスの心情を綴った歌詞を、疾走感のあるメロディと力強い歌声で聴かせてくれる。ハイレゾ版を聴いた。

96kHzを活かす奥行きのあるミックスに、クッキリと定位する竹達のボーカルは、芯のあるエネルギッシュな歌声をストレスなく聞かせてくれる。リバーブも絶妙で、中低域も程よい処理。中域に厚みがありつつも、マイクに近すぎるような低域のファットさは微塵もない。実在感と聞きやすさを両立した優れた処理だ。

オケは主に打ち込みと思われるが、ヴァイオリンは生音かもしれない。シンセの音との親和性を重視した、音場に溶け込むようなミックスで、生らしさよりも統一感を大事にしている印象だ。左右に振り切ったチリチリ鳴っているシンセの音や、奥に定位するドラム、程よく前方に浮かび上がるボーカルと、音場の立体感はぜひハイレゾで本来の姿を確認してほしい質の高い仕上がりだ。

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「もののがたり」ED主題歌「rebind(96kHz/24bit)

【TRUE】「rebind」Music Video(TVアニメ『もののがたり』EDテーマ)

ウルトラジャンプにて連載中の同名コミックを分割2クールでTVアニメ化。

過去の壮絶な出来事からあらゆる付喪神を憎んでいる“塞眼”の青年・兵馬と、複雑な生い立ちを持ち、付喪神と家族として暮らす少女・ぼたんの共同生活を描く。

ぼたんと暮らす6人(?)の付喪神は、婚礼調度の付喪神なこともあって、特にリーダー格の羽織は、盛んに兵馬とぼたんをくっつけようとする。もどかしい恋愛模様は1クール目ではわずかしかなく、今後の展開に期待したい。

本作は人でない物(未知で異質な存在)と人との共生について描いているため、今の現実社会の世相と照らし合わせると、メッセージ性も込められている気もして奥行きを感じられる。

ED主題歌は、作詞家でシンガーでもあるTRUEが担当。作詞はTRUEの作詞家名義である唐沢美帆。作曲はXELIK、編曲はh-wonder、ストリングスアレンジは山下洋介。未来にあり得るかもしれない、ぼたんの婚礼の儀を描いたイメージ映像が毎週涙を誘った。

ところで、ストリングスアレンジは、たまに見かけるクレジットなので、「おや?」と思った方もいるかもしれない。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなどから成る弦楽器の集合体であるストリングスは、クラシックなどの専門的な知識が必要なため、別のアレンジャーがアサインされることがあるようだ。アレンジによっては、コントラバスがおらず、1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった編成もある。本楽曲は、門脇大輔ストリングスが奏でる。

さすが96kHzのハイレゾ版だ。ストリングスの広がりがスピーカーの左右いっぱいに溢れて広がる。左右のスピーカーの内側で収まるのが普通の音場だが、スピーカーが大きくなったような広いサウンドステージを堪能できる。決して、ストリングスの音像が無駄に広がってボンヤリしている訳ではない。弦楽団がホールでも屋外でもない、それほど広くない室内にいて、自分のためだけに演奏してくれているような近めのミックスを克明に描いてくれる。リバーブも控えめな分、弦楽器の質感が残っていて、個人的にはリラックス効果もあった。

TRUEのボーカルは、情熱的で心に染みてくる。テレビ放送版は、ほんの触りしか聴けてなかったことを思い知る。これがスタジオクオリティかと満たされる思いだ。惜しかったのは、ベーストラックのサウンドメイク。ローエンドは程よいのだが、中低域の部分がマシマシなことにより、ベースが鳴ってくるとボーカルがややマスクされたようになり聴きにくかったこと。低音があまり鳴らない小型のスピーカーや一般的なイヤフォンであれば、ほとんど気にならないだろう。実際、デスクトップスピーカーのPebble V3では程よいバランスであった。

TRUE/rebind
(P)Lantis
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「もういっぽん!」OP主題歌「Stand By Me」(96kHz/24bit)

Subway Daydream/Stand By Me
(P)PONY CANYON INC.

少年チャンピオンから移籍し、Webコミック「マンガクロス」で連載中の同名コミックのTVアニメ。

女子柔道部を舞台に描かれる青春グラフィティ。共学の高校なのに恋愛要素はなく、顧問の先生も凜々しい女性教師で、ロマンスを徹底的に排除した作風が意外に面白い。運動部のリアリティのある日常を描いており、所属する女の子達が本当に等身大で、異様に美形だったりモデルスタイルでないのがむしろ好印象。

中でも、天真爛漫な部の重心である園田未知の主人公パワーが尋常ではない。物怖じせずに人に向き合い、空気を読まないときもあるけれど、いつの間にか周りの人間の気持ちを前向きにしてしまう天性の人柄。自分を主張しづらい窮屈な現代日本において、誰もが何かしら彼女の個性に憧れるのではないだろうか。未知を躍動感のある人物として好演した伊藤佐彩の手腕は、高く評価されてほしい。

主題歌は大阪発の4人組バンドSubway Daydream。作詞作曲は、ギターの藤島裕斗。もう一人のギターは、なんと双子の藤島雅斗。ボーカルはたまみ、ドラムはKana。2021年に行われた関西の音楽コンテスト「eo Music Try 20/21」では、結成1年目にして準グランプリに選ばれた経歴を持つ。

ポップロックをハイレゾ96kHzで制作。ジャンル的に48kHzでいいんじゃね? という意見が聞こえてきそうだ。確かに48kHzの方がまとまりいいとか、パンチが出るとか、歪みっぽさがカッコいいとかいろんな説があるし、筆者も否定はしない。ただ、フォーマットに依存している気がして、ロック=48kHzというのは疑問もある。

実際、本楽曲は96kHzなのにインディーズCDのようなまとまり感のあるミックスでありながら、音量を上げるとライブハウスのような情報量の豊かさに耳を奪われる。ギターの音の厚み、ベースやドラムの重低音の実在感や質感、ボーカルの口元感など。今目の前で演奏してもらってる感覚に浸れるのは、96kHz以上の録音をしているからこそ。どっちがいいかは、もはや好みの領域だが、48kHzでできることをもっと96kHzでも挑戦している楽曲を聴きたくなる一曲なのは確かだ。

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先日、AnimeJapanという大規模イベントが催され、訪問したある業界関係者が「声優さんばかりで切なかった」という趣旨の発言をSNSでされているのを目にして、筆者も考えさせられた。現場スタッフにもっと光があたってほしいという趣旨であったが、音楽の世界も同じことを思うことがある。

アニソンを制作しているのは、歌い手だけではない。作詞・作曲・編曲者はもちろん、演奏するミュージシャンもいる。ミキシングするエンジニアやマスタリングするエンジニアもいる。プロデューサーは作品の方向性やディレクションなど重要なセクションに関わっている。

サブスクが主流となり、ブックレットのあるCDを買わなくなったことで、音楽制作に関わった人の名前が知られないまま聞かれていくのが当たり前となった。クレジットが見られない問題は、ハイレゾのダウンロード販売でも顕在化しており、ほとんどの配信サイトにおいて、ミュージシャンやエンジニアなど、クリエイティブに直接関わる人間の名前すら表示されていない。

ハイレゾを楽しむと言うことは、深く音楽を味わうと言うことでもあると思う。筆者が総合プロデュースを勤めるBeagle Kickは、2013年の発足当初からダウンロード販売でのクレジット記載にこだわり続け、今もOTOTOYやe-onkyo musicにおいて、詳細なクレジットを明示している。

情報さえ、配信サイトや仲介会社のアグリゲーターに伝えれば、掲載されるのだ。歌詞の掲載は著作権使用料が掛かるが、スタッフクレジットは一手間さえ掛ければファンに広く届く。ハイレゾという音楽をじっくり聴き込むリスナー層にこそ、関わる人の多くが生身の人間として存在していることを伝えるべきではないだろうか。音楽業界には、丁寧に情報の発信を行ってほしいと願うばかりだ。

【使用機材】

  • NAS/ネットワークトランスポート「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB(アイ・オー・データ機器)
  • USB-DAC「NEO iDSD」(iFi audio)
  • プリメインアンプ「L-505uXII」(ラックスマン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/ HPH-MT8(YAMAHA) / IE 400PRO(ゼンハイザー)
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト