小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第782回 なにこれチョー捗る! 新MacBookProのTouch Barで生まれ変わったFinal Cut Pro X

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なにこれチョー捗る! 新MacBookProのTouch Barで生まれ変わったFinal Cut Pro X

新MacBookProに合わせてFCPもアップデート

 10月28日のイベントで発表された、新MacBook Pro。13型3モデル、15型2モデルがラインナップされた。画面サイズ以外にもプロセッサ、GPU、ストレージ容量で違いがあるが、今回もっとも大きな変化は“Touch Bar”の搭載であろう。

新MacBook ProとFinal Cut Pro X

 Touch Barとは、キーボードの上部、従来Functionキーがあった部分に埋め込まれたタッチセンサーだ。実際にはボタンだけでなく画像も表示することができる細長いカラー有機ELディスプレイで、解像度は2,170×60ピクセルと言われている。また一番右にはTouch IDを使うための指紋センサーがある。

 一番低価格な13型モデルを除いて、全てのMacBook Proに標準搭載されたこのTouch Bar(13型はTouch Barの有無が選択可能)。まだ具体的にこんな事ができるといったレビューは少ないようだ。

 筆者は2014年にMacBook Airを購入して出張などで利用しているが、昨年ごろから出先で原稿執筆以外にも、動画の編集をやる機会も多くなった。さすがに4Kを編集しなければならないケースはまだ少ないが、非力さが気になる。そろそろパワフルなポータブル機が欲しいということでずっと待っていたので、この機会に13型モデルを購入することにした。13型のTouch Bar付きモデルの価格は178,800円からだ。

 またApple純正の編集ツールであるFinal Cut Pro X(以下FCP X)も、新MacBook Proに合わせる形で、同じく10月28日にメジャーアップデートが行なわれた。現バージョンは10.3。Apple純正アプリはTouch Barがフルサポートされているが、FinderやSafariといった広く使われるアプリではなく、プロも使用できる専門アプリでTouch Barのフルサポートは珍しい。

 今回はTouch Barによって特定の作業がどれぐらい機能的になるのか、FCP Xの新機能と共にご紹介したい。

まずはMacBook Proでできること

 今回購入したMacBook Proは、13型でストレージ容量256GBの、いわゆる「真ん中」モデルである。ただしメモリ容量はマックスの16GBを搭載している。

購入したMacBook Pro 13型スペースグレイモデル
MacBook Airの11型と比較。奥行きが2cmほど長い

 以前使用していたMacBook Airの11型モデルと比較してみると、横幅はほぼ同じだが、奥行きが2cmほど長い。重量は360gほど増している程度だが、ずいぶん重く感じる。MacBook Airは横から見ると形状がくさび形で、重心が奧にあった。一方新MacBook Proは厚みが均等で、重心点もほぼ真ん中にある。それゆえ、手前を持ち上げた時のずっしり感が重く感じるのだろう。

 トラックパッドはかなり大きくなり、奥行きという点では物理キーボード部分とほぼ同じである。トラックパッドは単なるマウス動作だけでなく、ピンチイン・ピンチアウトといった動作も頻繁に行なうので、面積が広いほうがやりやすい。

本体奥行きの半分をトラックパッドが占める

 キーボードに関しては、賛否あるところだ。昨年発売の12型MacBookと基本的には同じ構造ながら、打ち心地が改善されているという。MacBookは所有していないので直接の比較はできないが、MacBookよりもうるさくなっているのではないかという意見もある。確かに軽く打っている分にはポコポコと胴鳴りがする程度だが、力を入れるとパチャパチャと盛大に音がなる。おそらくキートップが底打ちしている音だろう。ハードパンチャーは周りに嫌われるかもしれない。

特徴的な薄型キーボード

 従来のMacユーザーでも一番戸惑うのが、コネクタがアナログのイヤフォン端子と、Thunderbolt 3だけになってしまったことであろう。iPhone 7からアナログのイヤフォン端子が廃止されたのに、Macにアナログ端子が残るのはおかしいという意見もあると思うが、映像編集者からみれば納得の仕様である。と言うのも、Bluetooth接続のイヤホンではディレイが生じるので、映像と音声のリップシンクが確認できないからである。遅延を嫌うならアナログだ。

 Thunderbolt 3はコネクタの形状としてはUSB-TypeC互換となっており、Thunderboltケーブルを挿せばThunderboltに、USBケーブルを挿せばUSBとして動作する。

左側はThunderbolt 3端子のみ
右にはアナログのイヤフォン端子がある

 充電も含め両方の機能がこのコネクタで実現できるので結構なのだが、問題はUSB-TypeCが一部のスマートフォンを除けばほとんど普及していないというのが困った事である。つまり他の周辺機器に接続するためには、いちいち変換アダプタが必要だ。

 まず充電用ACアダプタだが、iPhoneやiPadで採用しているUSB-Type Aのタイプが付いてくるのかと思っていたところ、充電器側のコネクタもType-Cであった。考えてみれば給電容量が全然違うのでこうならざるを得ないのだが、充電用には“Type-C - Type-C”のケーブルが付属してくるわけだ。てっきりモバイルバッテリなどからも給電できるような組み合わせになっているものと思ったのだが、それほど甘くはなかった。現在“Type-A - Type-C”のUSBケーブルを手配中なので、モバイルバッテリでの給電結果は後ほど更新したい。

予想外だったACアダプタの仕様

 もう一つ読みが甘かったのが、HDMI出力である。本機のGPUはIntel Iris Graphics 550なので、4Kディスプレイが2台接続可能なパフォーマンスを持っている。すでに“Thunderbolt 2 - 4K HDMI”の変換コネクタは持っているので、“Thunderbolt 3 - Thunderbolt 2”の変換コネクタを用意して、そこに“Thunderbolt 2 - 4K HDMI”のコネクタを連続で接続すればHDMI出力できるのかと思ったら、何も出力されなかった。変換コネクタ2連発は認識しないようである。仕方がないので、「Digital AV Multiportアダプタ」を追加で発注している。

 動画編集に関しては、まず素材の取り込みに最初のハードルが来る。SDカードスロットやUSB-A端子がないので、カメラからの映像取り込みには“USB-TypeC - TypeA“の変換コネクタが必要だ。それにカメラやSDカードリーダーを繋ぐという事になる。

 またiPhoneでも4K/30pまでの動画を撮影できる。これを取り込むには、iCloudで同期するのをひたすら待つという方法も考えられる。だがかなりのファイルサイズの動画を、ネットを通じて上り・下りするのは時間の無駄だ。iPhoneを本機に直接接続しようとすると、今度は“USB-C - Lightning”ケーブルが必要になる。

 一通りのことをやろうと思ったら、変換コネクタ・ケーブルだけで2万円ぐらいかかる。個別のコネクタなら全ての端子をまんべんなく使えるというメリットはあるが、運用コストを重視するなら、今後続々と発売されるであろうThunderbolt 3対応ドック製品を一つ買ったほうがすっきりするかもしれない。

万能感があるTouch Bar

 では今回のテーマでもある、Touch Barの挙動を見ていこう。実はフタを開けて一番にお世話になるのが、Touch Barの右端にある指紋センサーだ。これまでMacOSにログインするには、アカウント名をクリックしたのち、パスワードの入力が必要だった。だがこの指紋センサーにより、iPhoneと同じようにTouch IDとして、指を当てるだけでログインできるようになった。

実はナニゲに便利な指紋センサー
ログインも指一本

 これは頻繁にMacを閉じたり開いたりと移動の多い人には、便利だろう。これまではちょこっと場所移るぐらいのことでいちいちパスワードを入力しなければならなかったが、逆にパスワードを入力しているところを頻繁に見られると言うことは、セキュリティレベルが下がるという事である。また度々パスワードを入力するのが面倒なので、スリープしてからパスワードの入力が必要になるまでの時間を長めに設定していた人も多かっただろう。それもまたセキュリティレベルが下がる一因だ。

 しかしTouch IDであれば、頻繁にパスワードを入力する手間がないため、スリープからの復帰にロックがかかっていても解除に手間がかからない。これまでもビジネス向けWindowsマシンでは、指紋によるロック解除を行なうものがあったが、Macの場合はすでにiPhoneでの下敷きがあっての流れなので、Mac歴が浅い人にもメリットが理解しやすい。

 またアプリのインストールやシステムに関わる変更を行なう場合など、従来から頻繁にパスワードの入力を迫られていたが、これもすべてTouch IDで済ませられるようになった。この部分はMac歴の長い人の方が、よりメリットを感じやすいだろう。

 Touch Barの表示は、高解像度有機ELなので、アイコンなどの表示はかなり綺麗だ。文字を表示することもあるが、これもかなり見やすい。ただキーボード面に貼り付いているので、通常はディスプレイを正面から見ることはなく、大抵は視野角がついた状態で見ていることになる。視野角がつくと若干低コントラストに見える。

 Finderの表示中では、左端にescボタンが表示されるほか、フォルダの移動履歴や項目表示の変更などが行なえる。ポインタを移動して画面操作しても同じなのだが、ここにショートカットがあることでずいぶん便利に思える。またFunctionキーがある場合のfnキー動作も再現される。ちなみにescキーの位置は、ハードウェアキーがあった位置からは若干右寄りになっているが、ボタン枠の左側の何もない部分をタッチしても反応する。ディスプレイ部が端まで届いていないだけで、タッチセンサーは端まであるようだ。

escキーは、左の黒いところでも反応する
fnキーの機能も再現

 Apple純正アプリの対応具合はさすがである。特に「写真」アプリのTouch Barの使い方は、一つのリファレンスになるだろう。写真のサムネイル表示の時は、小さい写真がギッシリ並び、いつ頃の写真が必要かを探す際にスクロールバーの代わりとなる。

 また写真を拡大表示しているときは、前後の写真をCover Flowのように1つ1つのサムネイルが確認できる。そこから編集モードに入ったり、お気に入りマークを付ける際のショートカットにもなっている。

「写真」アプリでのギッシリ感
サムネイル表示も可能

 一方でApple純正ではない、汎用のテキストエディタを開いたときにも、独自の機能を提供する。Apple標準の日本語入力を使えば、入力中の文章に対して次のに続く言葉の候補を予測して表示してくれる。英語の文章を入力する際にも同様に、候補の単語が表示される。現在のATOKは非対応だが、来年のアップデートでTouch Barを活用し始めたら、大変なインパクトを与えるだろう。

文字入力では、次の候補を表示

第3のコントローラを手に入れたFinal Cut Pro X

 ではTouch Barの登場に合わせてアップデートされた「Final Cut Pro 10.3」(新規購入時の価格は34,800円)を見てみよう。Final Cut Proは2011年にバージョン7からXへと大幅なリニューアルを行なった。そのUIはまるで高機能な「iMovie」のようであり、プロユーザーからは不評であった。

 今回は末尾のXがXIになるような大幅リニューアルではないが、UIがかなり変更されているのがポイントだ。上部左にソースブラウザ、右がプレビューモニタ、下にタイムラインという大まかな構成は変わらないが、ボタンデザインやタイムコードの表示位置などが変更されている。

UIが大きく変わったFCP X
あらゆるウインドウを全部出すとこんな感じ

 また各種ウインドウを出したり引っ込めたりするボタンも新設され、小さい画面でも効率的に作業できるよう工夫されている。なおウインドウのレイアウト状態はワークスペースとしてプリセット化できるようになっており、自分流にカスタマイズしたレイアウトをいつでも読み出して使う事ができる。

 ただ、各ウインドウの位置を好きな位置に配置できるほどのカスタマイズ性はなく、せいぜいサイズ比率を変えられるぐらいだ。このあたりは、作業の質によってもうちょっとカスタマイズしたいところである。

 今回のアップデートでもっとも大きく取り上げられているのが、タイムラインの「ロール」である。これはタイムライン上に並べた複数のクリップをグループ化できる機能だ。例えば音声クリップを台詞、SE、音楽……といった具合に色分けしておけば、これは一体なんの音だったかなと再生してみなくてもわかるようになる。また今は扱わない音声クリップは、細いバー状の表示に切り換えられる。またロールごとに「複合クリップ」化すれば、あとからまとめてコンプレッサーをかけたりといった、エフェクトの一括処理もできる。

ロール機能の使いこなしがポイント

 ただこれらの機能は、ドラマや映画など、大量のオーディオクリップを扱うコンテンツには有効かもしれないが、同録音声に音楽を足すぐらいといった報道スタイルの編集では、あまり使い道がない。また番組編集では別途音声担当者がMA作業をするので、編集ソフトではそれほど音ソースを大量に扱う必要がないのが実情だ。ドラマコンテンツが強い米国では受ける機能なのだろう。

 地味ながら見逃せないのは、トランジションエフェクトに「フロー」が追加されたことである。これはAdobe Premiere Pro CC 2015に「モーフカット」として先に搭載されていた機能で、インタビュー編集時のジャンプカットを、モーフィング技術を使って滑らかに繋いでくれる機能だ。手持ちだと背景まで動いてしまうので違和感が出るが、固定カメラで人物だけ動いているケースではかなりうまくいく。これまでFCP Xユーザーは指をくわえてみているしかなかったのだが、1年越しでようやくPremiere Proに追いついた格好だ。

 Touch Barが威力を発揮するのは、タイムライン上での編集中である。各クリップのイン点アウト点の設定は、編集時に一番使う機能だ。他の編集ツールでは、シンプルに補助キーなしの「I」と「O」に割り当てられている。IN点の「I」とOUT点の「O」だ。丁度キーも隣り合っているので、覚えやすいし使いやすい。だがFCP Xのショートカットキーは“Option + [”と“Option + ]”キーなので、妙に使いづらい。

トリムツールが充実

 これがTouch Barに常時表示されるようになった。また右隣に「2秒戻って再生」ボタンが付いたのも秀逸だ。編集点を確認する際に重宝する。タイムライン全体のスケールを変えたり、場所を移動する機能も搭載された。トラックパッドのピンチイン・アウトでズーム、2本指ドラッグで移動はできたのだが、長いタイムラインを一気に移動できるようになるのは便利だ。

タイムラインの移動・拡大ツールにも

 また選択、トリム、ブレードといったツールを持ち替える時は、これまでショートカットキーを使っていたが、7種類あるツールのショートカットを全部覚えているわけではない。あまり使わないツールはメニューから選択していたのだが、これがTouch Barから一覧で選択できるようになった。

 なおTouch Barの表示は、バー部分を押し続けると画面上に拡大してレイアウトさせることもできる。環境設定のアクセシビリティで拡大するかどうかを選択できる。

Touch Barは画面上にも拡大表示できる

総論

 Touch Barの威力は、新しい機能が追加されるわけではなく、これまでマウス操作が必要だった機能を手前に引っ張り出せる、「もう一つのショートカット」が追加されると言うことに尽きるだろう。マウス操作、キーボードショートカットに加え、Toutch Barという第3の選択肢ができたという事である。

 ただ操作性として便利かどうかは、意見が分かれると思う。これまでキーボードショートカットを多用していた人には、ボタン機能なら位置的にキーボードと近いので、便利に使えるだろう。一方でスライドして位置を動かしたりするような操作は、これまでトラックパッドで行なってきた事の代用だ。しかしトラックバッドは一番下、Touch Barは一番上にあるので、代用操作としては一番遠いわけである。またショートカットキーを使わずマウス操作でほとんどの作業を行なってきた人にとっても、位置的にかなり遠く感じるだろう。

 今回は少しだけTouch Barを試してみたに過ぎないが、提供される機能はごく一部に限られている印象だ。例えばプラグイン操作時にも、それぞれ専用ボタンやコントローラが表示されるようになれば、かなり直感的に操作できるようになるだろう。また自分で機能を追加できるようなカスタマイズツールが提供されれば、アプリごとに自分がよく使うキーをまとめることができるはずだ。

 今回はMacBook Proのキーボード埋め込みという形で提供されたTouch Barだが、別売の単体コントローラが出れば他のモデルのユーザーも使えるようになるだろう。キーボードの奧ではなく、トラックパッドの手前に置いても便利に使えると思う。

 新感覚コントローラとしては、Microsoftの「Surface Dial」と比較されるところだが、Touch Barはディスプレイとセンサーを組み合わせたのが特徴で、ボタン的な要素もあるし、スライダー的な要素もある。また単なる表示機としても使えるという面白さがある。

 今後アップデートされるであろう、各アプリのTouch Bar対応が楽しみだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。