小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第910回
19,800円で360度撮影できるドラレコを使ってみた。リアカメラまでセット
2019年9月6日 09:00
ドライブレコーダー必須の時代へ
あおり運転が、今大きく注目を集めている。元々は後方から車間距離を詰めて“追い越しさせろ”と圧力をかける行為をあおり運転と呼んでいたが、昨今では追い越したあげく走行を妨害し、強制的に停車させるといった行為にまで及ぶ例が散見される。
高速道路で路肩でもない車線に停車すれば、大変危険だ。あおり運転が大きく社会問題としてクローズアップされたのは、2017年の東名高速道路で、強制的に追い越し車線に停車させられた車にトラックが突っ込み、夫婦2名が亡くなった事件からである。
そして今年8月には、常磐道であおり運転から進路妨害で強制的に停車させたあげく、相手方の顔面を殴打するという事件が発生した。ドライブレコーダーには、加害者が車を降りてこちらへ向かう姿や、暴行を受けた状況が鮮明に記録されており、その生々しい映像がネットやテレビで公開された。さらに容疑者のゆくえが分からないことから、全国へ指名手配されるという大事件へと発展した。
ドライブレコーダーは、事件事故の模様を記録する方法としてすでに広く認知されているが、古くは前方だけを撮影するものが主流であった。しかしあおり運転が社会問題化してからというもの、前方・後方2つのカメラで記録するタイプが人気となった。
加えて今回の殴打事件のように、相手が具体的に加害行為に及んでくる可能性もあるなら、さらに運転席も撮影しておく必要も出てきた。360度撮影できるドライブレコーダーは数種類あるが、殴打事件をきっかけに、あっという間に品切れとなった。
そんな中、サンコーから8月20日に発売が開始されたのが、「5インチ 360度ドライブレコーダーー&リアカメラ」だ。長いキャッチフレーズのように見えるだろうが、これが商品名である。大型5インチモニターを備え、直販価格は19,800円(税込)。ただし9月5日現在は売り切れており、次回出荷は10月上旬になるという。
今回は運良く貸し出し機をお借りすることができた。前方も運転席も撮影でき、加えてリアカメラまで付属する本製品を、さっそく試してみよう。
簡単取り付け、簡単操作
ドライブレコーダーは、純正カーナビと合わせて動作するオプション品もあるようだが、後付けがかなり大きな市場だと思われる。かく言う筆者もドライブレコーダーは自分で買って取り付けているクチだ。
本機はドライブレコーダーとしては大型の5インチタッチパネルを備える。構造としては、5インチモニターの底部にヒンジがあり、そこに半球撮影のカメラが取り付けられている。
カメラは前後に角度を変える事ができる。カメラを真下に向ければ、360度撮影となり、前方に向ければ前方がパノラマ撮影となるわけだ。
本体はタッチパネルで操作できるので、ボタン類は背面に電源ボタンがある程度だ。上部には電源供給用のMini USB端子、リア用カメラ入力端子、MicroSDカードスロットがある。
いくら360度撮影できるとはいっても、フロントガラスに取り付けるわけだから、車の中を抜けてリアウィンドウから後方車両まで見えるわけではない。リア用は別途カメラが付属しており、これを本機の入力端子に接続することで、本機側でフロントとリアの映像を撮影する。
なお本機はバッテリーも内蔵しており、シガーソケットからの電源供給がなくても、衝撃検知して自動で録画を行う機能も搭載している。
こうした後付けドライブレコーダーの場合、取り付けやすさも大きなポイントとなる。一度貼り付けてしまうと、強力な両⾯テープゆえに⾓度の微調整もままならない製品も少なくないところだ。
本機の場合、フロントガラスへの取り付けは、吸盤のみである。取り付けは簡単で貼り直しもできるが、長時間直射日光にさらされることで吸盤が劣化する可能性もある。そのあたりは痛し痒しだろう。
なお今回は、運転席側にはすでに既存のドライブレコーダーが取り付けてあるので、バックミラーを挟んで助手席側に装着している。若干運転席から遠くなるが、左ハンドル車での視点だと思って見ていただければ幸いである。
フロントカメラは、H.264コーデックのmp4で記録し、解像度は1440×1440/24fps。リアカメラは640×480/24fpsで、今どきのカメラとしては若干非力さは否めない。
撮影画角は、フロントは半球だが、リアは約80度となっている。幅広く見えるわけではないが、バックモニターとしては利用しやすい画角だ。
リアカメラは両面テープによる貼り付けかネジ留めに対応するが、車の中でネジ留めできるところがあるだろうか。少なくとも筆者は自分の車にネジ穴を開けたくない。取り付け金具よりもカメラのほうがかなり出っ張っているので、理想の取り付け角度に設置するには、金具の角度を力づくで変えたりする必要はあるだろう。
またリアカメラの周囲にはLEDライトらしきパーツもあるが、ドライブレコーダーとして使用する際には点灯はしないようだ。元々ドライブレコーダー用ではないものを流用しているのかもしれない。
使って楽しいが、運転中の注視はNG
では実際に撮影してみよう。なお筆者の車にはコムテックの「ZDR-015」というドライブレコーダーが付いている。実売価格は25,000円前後(税込)。2年前のモデルだが、今だ人気の高い製品だ。こちらとの画質も参考までに比較しておきたい。
どちらのレコーダーもシガーソケットから電源を取るタイプなので、車のエンジンスタートと連動する。ZDR-015はエンジンをかけるとすぐに録画が始まるが、「5インチ 360度ドライブレコーダーー&リアカメラ」の場合は起動して実際に録画が開始されるまで10秒ぐらいかかる。エンジンスタートしてすぐ駐車場から出るケースもあると思うが、動き出しで事故を起こした場合、肝心のシーンが撮影できてないという事も起こりうる。
表示モードとしては、ワイドアングル、球面、フロント&バック、マルチウィンドウの4タイプから選択できる。
ワイドアングルは、前方を半球で撮影するモードで、カメラは前方に向ける必要がある。前面は広く撮れるが、ドラレコよりも後ろは写らないので、運転席は写らない事になる。
なおリアカメラを繋いでおくと、画面右隅に小さく表示される。この部分をタップすると、リアカメラが全面に拡大する。ちょっとバックモニターとして使いたいという時には便利だ。
球面モードは、カメラを真下に向けて置いて、見たい部分をユーザーが画面をスワイプして決める事ができる。ある意味カメラが撮影しているそのままが見えるのが、球面モードだ。
フロント&バックは、前方と後方を上下2つに分けて表示するモードだ。カメラアングルは画面のスワイプで自由に決められる。したがって前と後ろでもいいし、運転席と助手席でもいい。
マルチウインドウは、さらに4分割して表示するモードで、こちらもスワイプで4画面のアングルを自由に決められる。
これらのモードは、あくまでもディスプレイをどういう表示にするかという問題であって、このモードの状態で録画されるわけではない。実際に録画される映像は、1,440×1,440ドットの半球映像である事には変わりない。
とは言え、こういう面白い映像が流れていると、運転中についついドライブレコーダーを注視してしまう。こうした原因での事故を防止するため、一部のレコーダーでは走行してしばらくたつと自動的に画面が消灯するものもある。本機にはそのような機能はなく、ずっと点きっぱなしになる。
画質としては、半球とはいえ360度映像全体の解像度が1,440×1,440しかないので、前方や運転席の切り出し映像の解像度はVGA程度になってしまうはずだ。だが本体の5インチ画面で、しかも1/2や1/4といったサイズで表示されるので、モニター上は荒れている感じはない。
とは言え、何か事件事故に巻き込まれた際に画像を証拠として切り出す場合には、解像度の低さが問題になることがあるかもしれない。ちなみに本機の映像をPC上で再生したり書き出したりするには、専用ソフト「VeseeGo」が必要となる。本ソフトはWindows版しか提供されておらず、Macユーザーは動画が記録されているメモリーカードのマウントすらままならないのでなかなか大変だ。録画された対向車や前方車両のナンバープレートを確認してみたが、番号が読み取れるかかなりギリギリである。
比較として普段使用しているコムテックのZDR-015の映像を確認したが、こちらは360度ではなく普通の前方カメラでフルHD解像度なので、ナンバープレートもはっきり読み取れる。サンコーのモデルは、実際になにか事件事故に巻き込まれたり、たまたま現場に遭遇した場合、警察等に証拠として提出するには若干弱いかもしれない。
一方で近づいてくる相手に対しては、どの方向からでも確実にその姿が写っている。車の正面、横だけでなくやや後方からも、車内を覗き込んでいる様子が撮影できる。このあたりは360度カメラの強みである。
音声も収録できるということで、テストしてみた。ロードノイズもあり、ボイスレコーダーほど鮮明に録音できるわけではないが、記録としては十分だろう。
続いて夜間撮影も見てみよう。夜間では対向車や後続車のヘッドライトもあり、撮影条件はかなり厳しくなる。信号待ちで停車中の前の車は、車種は特定できるものの、ナンバーはこちらのヘッドライトの反射で飛んでしまっている。リアカメラも同様で、ヘッドライトの光芒でナンバーが見えない。
大抵こんなもんだろうと思われるかもしれないが、コムテックZDR-015の同タイミングの映像を見ると、ナンバーはもちろん、リアカメラなどは運転車の顔まではっきり写っている。やはりドライブレコーダー専用のレンズ・センサー・画像処理があるのとないのとでは結果が大きく違うようだ。
総論
ドライブレコーダーは、今や様々な機能を背負った情報機器だと言える。上位機種になれば、信号が変わったり前の車が発信したことを知らせてくれたり、車線をはみ出すと警告してくれるなど、運転者をサポートしてくれるようになってきている。
元々ドライブレコーダーは事故を防ぐための装置ではなく、あくまでも被害に遭ったあとに役に立つものだった。ある意味保険のようなものだ。しかしそれでは平常時に役に立たないので、上記のように運転者をサポートする機能を加えて、常時役に立つようにと変化してきている。
加えて運転者の状況まで撮影する必要があるのかと思っていたが、今回の暴行事件をきっかけに、またドライブレコーダーへの期待が変わってきたと言える。そんなタイミングで2万円を切る価格で発売された本機は、安心を買うという意味では手軽だ。ただ、撮影された映像を見ると、確かに前方や運転席の様子はよく分かるが、ナンバープレートまで確実に記録したいとなると物足りない部分が出てくる。
今アクションカメラ系では360度、カメラは2K・4K解像度になりつつあるので、そうした部材がドライブレコーダーに投入されてくれば、また事情は違ってくるだろう。加えて夜間撮影を考えると、裏面照射CMOSは必須であると同時に、HDR処理も欲しいところだ。コストや技術的なハードルがどんどん上がっていくのでメーカーも大変だろうが、逆に市場が縮小しつつあるカメラメーカーにとっては、ドライブレコーダー参入のチャンスでもある。
今ドライブレコーダーはスタンドアロンだが、Wi-FiやBluetoothでスマホに繋がってくると、また違う展開もありそうだ。来年あたりは、ドライブレコーダーもAV機器ジャンルに入ってくるかもしれない。