小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第909回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

最強スマホジンバル!? 安くて折り畳めて機能倍増、DJI「Osmo Mobile 3」

勢いが衰えないDJI

DJIと言えばドローンからスタートした中国ベンチャー企業だが、そこから派生してアクションカメラ、ジンバルなど、撮影に関する特殊機材を手がける会社としても、AV機器業界としてはもはや無視できない存在となった。

DJI Osmo Mobile3

スマートフォン用ジンバルとして初代Osmo Mobileが登場したのが2016年の秋だった。その前には小型カメラ+ジンバルという組み合わせの「DJI Osmo」という製品があり、Osmo Mobileはそのヘッド部分をスマホホルダーにした作りだった。当時の価格はダイレクトショップで34,992円(税込)。レビューのあと筆者も個人的に購入し、動画レポートではずいぶん活用したものだった。

昨年2月には2世代目となる「Osmo Mobile 2」が発売。機能据え置きで大幅にコストダウンして、約半額の16,800円(税込)となったが、ハードウェア的にはトリガーボタンがなくなるなど、使い勝手は後退した。

そして今回登場した「Osmo Mobile 3」は、よりコンパクトに収納できるようになって価格は13,500円(税込)とさらに下がった。グリップ式三脚やキャリーケースなども同梱したコンボ版でも15,660円(税込)だ。

スマホジンバルの決定版、Osmo Mobile 3の実力を早速ためしてみよう。

想像以上に小さくしまえる本体

今回お借りしたのは、グリップ式三脚やキャリーケースなども同梱したコンボ版である。Osmo Mobile 3最大のポイントは、アームが折り畳みできるようになったところだ。これまでは初代も2も折り畳みできなかったので、持ち歩く際はかなり長いポーチに収納する必要があった。

今回のOsmo Mobile 3は、アーム部が根元から折れ曲がるようになっている。1箇所折れるだけで、こんなにコンパクトに収納できるのかと驚いた。付属のポーチは19×13×5.6cmで、これにすっぽり収まる。ただこのポーチに同梱のグリップ式三脚までは収納できないのが残念だ。コンボとして一緒に売るのであれば、普通は一緒に入るように設計しそうなものだが。

使用時はこのサイズ
アーム部が折れてコンパクトに
コンボ版に付属のポーチにぴったり収まる

一般的に電源が入ってないときのジンバルはグニャグニャなので、収納時に安定せず苦労するものだが、Osmo Mobile 3の場合は回転軸部分に小さい凹凸部分があり、折り畳むとその凹凸が噛み合うようになっている。折り畳んだときにグニャグニャにならないので、収納性が高い。

本体重量は、Osmo Mobile 2が485gだったのに対し、3は405g。80gはわずかな違いのように思えるが、片手で持ったときのずっしり感がかなり違う。これなら女性でもホールドには苦労しないだろう。

バッテリーはグリップ部に内蔵されており、交換はできない。このあたりはOsmo Mobile 2と同じ構造である。

グリップ底部に三脚穴

操作部は、ジョイスティックに録画ボタン、電源兼用のMボタンがある。また左サイドにズームレバーがある。

ジョイスティックほか、コントロール系が充実

反対側には充電用のUSB-C端子と、スマホ給電用のUSB-A端子がある。このあたりはOsmo Mobile 2と同じだ。

正面にはトリガーボタンがある。Osmo Mobile 2ではトリガーボタンが省略され、Mボタンに機能が割り当てられたので操作がやや複雑化していたが、3で再びDJIのほかのジンバル製品と同じ使い勝手に戻ったのは喜ばしい。

反対側には充電用Type-C端子と、給電用Type-A端子
トリガーボタンが復活

スマホを装着して正対した状態では、アーム部がややスマホよりも前方に出る。一見すると変な感じだが、大きめのスマホを装着してもアーム部に干渉しないよう、「逃がして」あるという事だろう。

正対した状態でアーム部がスマホよりも前に出る設計

スマホのクリップ部は、縦横どちらでも撮れるようになっている。手で動かしてもいいが、Mボタンの2回押しで縦横が変わる。

ジンバルというのは要するにカメラがスタビライズできればOKなので、そのレベルの基本性能はもはやどの製品でも大きな違いは見られなくなってきている。ただ昨今はスマートフォンが大型化する傾向があるため、搭載可能重量には気をつけたいところだ。

Osmo Mobile 3の搭載可能重量は200±30g、サイズは対角で180mm以下となっている。今回はiPhone XRを使用しているが、これは対角160mmだ。おそらく7インチディスプレイぐらいまでは行けるという事になるだろう。

優れた基本性能

では早速試してみよう。まずはスタビライズ性能だが、価格が下がってもDJIらしいクオリティの高さをキープしている。歩きの際は多少の歩行感はあるが、走った際の揺れの無さは、スマホで撮れる絵としては驚異的である。

走った際の安定性はさすが

アクティブトラック機能は、初代Osmo Mobileから搭載されている人気の機能だ。これはスマホ内でトラッキングしたい物体を囲むと、それを追従するという機能だ。回り込んで物体の形が変わってしまうと認識が外れてしまうが、逆に言えばそれだけ形を認識してトラッキングしているわけで、精度は高い。

ベンチをトラッキング。上下角の可動範囲が気になる

ちょっと気になったのが、上下(チルト)方向のフォロー範囲の狭さだ。スペックシートには機械的可動範囲として「チルト:-104.5度~235.7度」と記載があるが、実際にジョイスティックで動かしてみると、上下30度ぐらいしか回らない。モーターの回転角としては確かに-104.5度~235.7度ぐらいありそうだが、コントロールがそこまでいかないのだ。機械的限界とコントロール可能範囲は違うという事かも知れないが、実動作とスペック表記がここまで食い違うのは、消費者に混乱を招く。早くどちらかを修正した方がいいだろう。

静止画機能としては、自動パノラマ撮影も人気の高い機能だ。これはジンバルが自動で角度を変えて静止画を撮影し、1枚のパノラマに合成してくれる機能である。横方向に180度か、3×3で空間を撮影する2モードがある。

3×3で撮影したパノラマ
横180度で撮影したパノラマ

そのほか撮影モードとして、タイムラプスとハイパーラプスがあるが、初期の頃とは意味付けが違ってきているので、改めて整理しておこう。

タイムラプスは撮影間隔やトータルの撮影時間といった撮影コマ数を基準に設定し、最大4点までのポジションを繋いでパン・チルトの動作がプログラムできる。

一方ハイパーラプスは、倍速撮影スピード、例えば5倍や10倍といった形で撮影間隔を設定する。動きとしてはオートトラッキングの指定が出来るので、動く被写体を追いかけたり、撮影者が動いて静止物を撮影するといった撮影に対応する。

Storyモードにも対応

今回Osmo Mobile 3のコントロールアプリは、「DJI GO」ではなく、「DJI Mimo」となった。MinoはOsmo Pocketのコントロールアプリとしてデビューしたものだが、特徴的なのは、ジンバルのアクションとカット割りをあらかじめプリセットした「Story」というモードがあることだ。

つまりスマートフォン撮影でも、このStoryモードが使えるわけである。早速撮影してみたが、カメラとモニターが一体化したスマートフォン撮影のほうが、Storyモードは分かりやすいと感じた。

Osmo Pocketの場合は、スマホにカメラをくっつけるという格好でホールドしなければならず、アクションの撮影でも両手持ちしなければならない。一方Osmo Mobile 3は片手持ちで行けるので、撮影の自由度が高い。

今回は「ダイナミック」と「アフタヌーン」というモードで撮影した。「ダイナミック」は回転を中心とした撮影モードだが、縦方向の動きと組み合わせるとより複雑な構成となる。

回転の動きをフィーチャーした「ダイナミック」

一方の「アフタヌーン」は上下左右に首を振ることで、スイッシュでカットを繋いでいくモードだ。クリップ内のテロップは、自動で挿入される。英語と中国語併記なのがなかなかカッコイイ。ある意味現代のガジェットの世界観を表しているとも言える。

「アフタヌーン」は上下左右に首を振ることで、スイッシュでカットを繋いでいくモード

総論

スマホ重量200gぐらいを押さえつけられるトルクの強いブラシレスモーターを3つも搭載し、しかもコントロールアプリも無料で本体価格13,500円(税込)というのは、破格に安いと言える。単に安定した絵を撮るハードウェアとしては、他社も競合の余地があるかもしれないが、ソフトウェアによる機能が段違いである。

また今回はアームを折りたためるようにして可搬性が向上したので、より旅行などに持ち出しやすくなった。今後YouTubeやFacebookでは、「旅ジンバル映像」が増えそうである。

一方で今後、これ以上スマホ用ジンバルでやるべき事があるかという点については、音声機能の拡張が残っているところだ。ジンバルに取り付けたスマホに直接ワイヤードのマイクを接続するのはなかなか難しいが、ジンバル側にマイク入力端子があり、ジンバルとスマホをBluetoothで結ぶなどして音声を送り込めるようになれば、動画レポート映像も、もう一段クオリティがあがる。非常に難易度が高い部分であるが、競合のFeiyu Techにはすでに対応製品がある。

ただ、こうした機能はコンシューマにはあまり関係のない部分で、ホビーユースか、業務向けかというところでメーカーの棲み分けも行なわれているところだ。DJIは今のところ、業務向けにはRoninがあり、Osmoはホビー向けに振っているように見える。

音声収録にこだわらないのであれば、Osmo Mobile 3は今もっともスマホ撮影にパワーをもたらしてくれるアイテムだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。