小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第911回
親指サイズでも凄い!「Insta360 GO」、アクションカメラの世代交代!?
2019年9月12日 11:07
誰もが狙うGoProの次
GoProに代表されるアクションカメラは、2000年代初頭の映像シーンを大きく変えた「発明」であった。今となっては、モノ自体はある程度の技術力のあるメーカーなら簡単に作れる構造だが、“壊れにくい”、あるいは“壊れるのも厭わないカメラ”というコンセプト自体が、大きな発明であったわけだ。
もちろん豊富な資金力をベースに、GoProは技術的にも映像業界をリードした。各社4Kの小型カメラに苦しむ中、フレームレートは低いが4Kで撮影できるモデルをリリースするなど、その後の4Kシーンに与えた影響は少なくない。
とは言え、映像表現は常に進化を求められる。そろそろGoPro以外の選択肢も欲しいところだ。そういうポジションに今最も近いのが、Insta360ではないだろうか。360度カメラは数多くあるが、動画撮影が主軸、加えてアプリの出来の良さで、ライバルを大きく引き離している。
2016年に登場した一番最初のInsta360 Nanoは、今にして思えば大丈夫かこれ、と思わせるような作りで、いかにも中国ベンチャー的な仕上がりであった。それがたった3年でこれほどまでにちゃんとしたメーカーに進化するとは、誰も想像できなかったはずだ。そんなInsta360の切り札が、9月30日より出荷予定の「Insta360 GO」だ。
ほぼ1年前に登場した「Insta360 One X」が大型化し、ハイエンド仕様であったのに対し、今回のInsta360 GOは親指ほどしかない小型カメラとして登場した。
大きな可能性を感じさせるInsta360 GO(以下360 GO)を、早速テストしてみよう。
想像以上の小型化
8月22日あたりから公開されたティーザー広告にて、360 GOが親指サイズであることが紹介されてきた。実際のモノを見てもまさしく親指サイズであり、男性の指なら親指よりも小さく感じられるサイズだ。ケース共々白を基調としたのも、AppleユーザーにはiPhone周辺機器として馴染みやすい。
まず本体は表面にレンズを1つだけ装備した、いわゆる半球360度撮影のカメラ。これまでInsta360は前後にレンズを配置した球体360度撮影のカメラだったが、半分に割り切ったことで逆に多くの可能性が出てきたとも言える。
ボディ正面は白の樹脂にアクリルカバーがかかったようなデザインで、美しさとともに立体感を感じさせる。てっぺんに見える小さい穴はマイクだ。
背面は、レンズの真裏が充電端子となっており、ケースに入れると充電される。もう一つの黒丸は操作ボタンで、長押し、1回押し、2回押し、3回押しで動作が分かれる。この動作はあくまでもデフォルトで、スマホと接続して設定を変更することもできる。
- 【電源OFF状態で】
長押し=電源ON
1回押し=30秒間動画撮影 - 【電源ON状態で】
1回押し=静止画撮影
2回押し=ハイパーラプス撮影
3回押し=スロー撮影
長押し=電源OFF
ボタン押しによる動作のリアクションは、本体が振動することで伝えてくる。LEDでもわかるが、ウェアなどに装着している場合は体への振動で動作したのがわかるようになっている。
写真解像度は3,040×3,040の正方形で撮影されるが、書き出し時には2,560×2,560となる。16:9で切り出す場合は、2,560×1,440となり、フルHDよりも大きく切り出せる。
動画解像度は以下の通り。
モード名 | 解像度 | フレームレート |
標準動画 | 2,720×2,720 | 25fps |
インターバル | 2,720×2,720 | 25fps |
タイムラプス | 3,040×3,040 | 30fps |
ハイパーラプス | 2,720×2,720 | 30fps |
スロー | 1,600×900 | 100fps |
解像度もフレームレートも自由というか、ビデオ(テレビ)のしがらみを切り捨てた仕様だ。実際これで撮影した映像の大半はネット上で消費されるため、解像度もフレームレートもまったく自由になってしまったわけである。なおアプリ経由でエクスポートすると、スローモーション以外は解像度1,920×1,080で書き出される。
充電ケースは、本体が磁石でピタッと吸い付くようになっており、さらにアクリルカバーもある。ケース底部にはLightning端子があり、iPhoneと直結すると、画像の高速転送ができる。
ケースの横には別途Micro USB端子があり、ケース内バッテリーはここから充電できる。なおカメラ内バッテリーとケース内バッテリー合わせて、動作時間としては約60分となっている。
アクセサリー類も豊富に付いてくる。三脚固定用のソケットは、同じく付属の台座と併用すると、どこでもくっつけて撮影が可能になる。
そのほか、防止や服などに挟み込むためのクリップ型ソケット、磁石でストレートにくっつけるだけの楕円形の板、ペンダント型になった固定板がある。
撮影は簡単だが、暗記力が試される
では早速撮影してみよう。本機は撮影時にはスタンドアロンで動くので、付属のソケットを駆使して様々なところに固定できる。球体360度の場合は、撮影者や台座の写り込みを考慮しなければならなかったが、今回は球体半分だけと割り切ったので、体や帽子に取り付けたり、壁に貼り付けたりと、いろんなアイデアが出てくる。今回はクリップ型ソケットで帽子に取り付けたほか、ペンダント型固定板を使って胸の位置に固定して撮影している。
まずは手ブレ補正性能から見ていこう。元々レンズ自体が超広角なので手ブレには強いのだが、普通に歩いた場合には少し上下の歩行感を感じる。人が歩いた感じもしないほど強力な補正ではないようだ。動画後半は走って撮影しているが、上下の揺れ感は同じである。走った方が上下のブレは激しいはずだが、同じ程度の仕上がりになっているところから、敢えて上下の歩行感は残しているのかもしれない。
一方スロー撮影では、標準撮影では見られなかった歩行の振動がかなりはっきり動画に反映されている。スロー撮影時には手ブレ補正はOFFになるということだろう。
続いてハイパーラプスを撮影してみた。スピードはあとからアプリで自由に調整できるが、今回は撮影速度のさらに×2倍で書き出してみた。アプリで書き出すと、自動的に音楽が付加される。
本体のみで撮影する場合、これら撮影モードのうち、どれで撮影しているのか、外見からはわからない。上記表組みの、「何回押したらどのモード」というのを暗記しておかなければならないのだ。そんなわけで今回は写真を撮るつもりで動画になってたり、動画を撮るつもりで写真になってたりと、誤爆が多かった。
どうしてもモードを確認したい場合は、スマホアプリでリモート撮影ができるので、そちらで動作を確認するしかないだろう。ただし撮影中の映像がスマホにリアルタイムで飛んでくるわけではないので、どんな絵が撮れているのか遠隔から確認する方法はない。
静止画は最終的には2,560×2,560で書き出されるが、木々の枝葉の細かい部分にフリンジがあるほか、ビットレート不足なのかディテールが潰れているところも散見される。センサーやレンズは動画に合わせてあるようだ。
また全天球カメラではないので、撮影結果をVRとしてぐるぐる回せるわけでもない。縦横正方形の画角が選べる広角カメラ、という位置づけである。
撮影が完了したら、カメラ本体をケースに戻してiPhoneと接続すれば、カメラの映像を高速にiPhone内の専用アプリに転送できる。アプリ内ではA.I.によってクリップを自動的に選択、トリミングしてくれる自動編集機能が付いており、音楽に合わせたエフェクトなどを付加することができる。編集のセンスがなくても、素材さえおもしろいものが撮れていれば、自動でかなりのクオリティの作品を作る事ができる。
総論
Insta360シリーズは、これまでVR文脈で語られる事が多かったカメラだが、360 GOでは全天球を捨てて半球になったことで、“どこにでも付けられる広角カメラ”というポジションとなった。どうしてもInsta360という看板を背負っていると360度を意識してしまうが、実際にはGoProみたいなアクションカメラ的な使い方となるカメラである。
豊富なアクセサリが同梱されており、平らな場所だけでなく、体にも壁にも取り付けられるのがメリットだ。ただ本体が小型ゆえ、長時間の動画記録には向かない。通常動画の連続撮影時間がデフォルトで30秒となっているが、今回の撮影では30秒動画を10本ぐらい撮影したところで、バッテリー切れの警告画面が表示された。
ケースに戻せば10分15分でまた撮影できるようにはなるのだが、カメラ固定で2時間、みたいな使い方は難しい。むしろアプリでのA.I.編集を考慮して、面白い被写体、面白い撮り方を30秒勝負するというのがいいだろう。個人的には、予備電源込みのスタンドが欲しいところである。
細かい点を言い出せばキリがないが、思い切った割り切りが魅力のカメラと言える。そして本機はInsta360が繰り出す“GoProキラー”というポジションで間違いないだろう。こんなところでもアメリカ v.s. 中国の戦いが表見したという見方もできるかもしれない。