小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第707回:なるほどそう来たか! ソニーとは違う、スマホ合体カメラ「OLYMPUS AIR A01」
第707回:なるほどそう来たか! ソニーとは違う、スマホ合体カメラ「OLYMPUS AIR A01」
(2015/4/15 10:00)
ソニーと似たようなヤツじゃないの?
デジカメの光学部とプロセッサ、記録部だけを残し、コントロール部を全部スマホに預ける格好の「レンズスタイルカメラ」として、QXシリーズをソニーが発売したのは、2013年10月のことである。当時コンパクトデジカメ市場が行き詰まったのを受けて、新機軸として発売されたシリーズだが、後にレンズ交換式のミラーレスカメラも発売され、コンセプトとしては定着したように見える。
オリンパスが3月より発売を開始した「OLYMPUS AIR A01」(以下AIR A01)も、同じようにスマホとくっつける格好のミラーレスカメラだ。オリンパスのオンラインショップでのみ販売されており、価格はボディのみが3万3,800円、「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」とのセットが4万9,800円となっている。
「レンズスタイルカメラ」は面白いコンセプトではあるが、そんなに市場性があるかと言われれば微妙なところだ。ソニーの製品が大ヒットしたというわけでもない。ただ同じスタイルというだけでは、後発メーカーが入る余地はないだろう。
そこに参入しようとする「AIR A01」とはどういうカメラなのだろうか。今回は動画にはこだわらず、コンセプトを中心にテストしてみよう。
小型かつシンプルなボディ
AIR A01には、ブラックとホワイトの2モデルがある。今回はブラックの方をお借りしている。ソニーのQXシリーズは、円柱ではあるものの底部を平たくして、テーブルに置いて転がらないようになっていた。一方本機は三脚穴の部分も含めて完全に円柱であり、テーブルの上に置くと転がる。パッと置いても水平がとれるような作りにはなっていない。
マウントおよびセンサーはもちろんマクロフォーサーズ仕様で、キットレンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mmの沈胴式ズームレンズだ。今回は他にも「M.ZUIKO 75mm/F1.8」と、「M.ZUIKO 40-150mm/F2.8」もお借りしている。ちなみにZUIKOの前に付いているアルファベットは、フィルム時代は内部のレンズエレメント枚数を表わしていたものだ。しかしデジタル化以降は、フォーサーズレンズと区別するために、マイクロフォーサーズ対応レンズという意味でMが付けられている。
センサーは総画素数約1,720万画素、有効画素数1,605万画素の4/3型Live MOSで、シャッターは電子式。静止画の記録画素数は4,708×3,456ドットで、動画は最大フルHD/30pの24Mbpsで撮影できる。コーデックはMPEG-4 AVC/H.264で、フォーマットはMOVだ。
ボディの上部には大きなシャッターボタンがあり、そのすぐ後ろに電源ボタンがある。左手側には2つのスライドスイッチがあり、前方はレンズリリース、後部はスマホを取り付けるためのマウンタ、「AIR-CP01」のリリーススイッチとなっている。
左右にある銀色の丸は、六角のネジだ。ここまでガッツリ留めネジを露出させているカメラというのも、ちょっと珍しい。
マウンタを外すと、Wi-FiのON/OFFスイッチと充電用のmicroUSBポートがある。実はこの背面も薄手のカバーになっており、これを外すとmicroSDカードスロットにアクセスできる。正直この薄手のカバーは本当に無いとダメなのか、隙間が空くなら設計でなんとかすりゃよかっただけなんじゃないかという疑問も残る。
スマートフォンの固定の仕方は、ソニーQXがペタッとスマホの背面に垂直にくっつけたのち角度が変えられる格好だったのに対し、AIR A01では最初から約45度の角度を付けて固定する。固定具のロック角度がLARGEとSMALLの2段階があり、LARGEではiPhone 6が、SMALLではiPhone 5ぐらいのスマホが固定できる。別に合体しないと撮影できないわけでもないので、それ以外のサイズでは別体で使えばいいという事である。
底部の三脚穴は、本体にピッタリ沿うように付けられているため、実際に三脚に取り付けるとシューがレンズに当たって、交換できなくなる。三脚を使う場合は、スペーサーなどをかませた方がいいだろう。
AIR A01は、ノーファインダでよければ本体だけで写真は撮れる。だが基本的にはスマホと接続することで、その機能がフルに発揮される。現時点でメーカーからは8つのアプリが提供されている。
- OA.Central:初期設定を始め、対応アプリのポータル的な役割
- OA.ModeDial:モード撮影やマニュアル撮影をサポート
- OA.ArtFilter:フィルターを使った撮影
- OA.ColorCreator:カラー調整をしながら撮影
- OA.PhotoStory:複数の写真を1枚の画像に収めるアプリ
- OA.Genius:1回の撮影でフィルターやPhotoStoryなどの効果を6タイプ自動保存
- OA.Clips:複数の動画クリップを撮影し、1つのムービーに自動編集
- OA.Viewer:編集機能付きビューワー
もう一つAIR A01では、「OPC Hack & Make Project」というプロジェクトが動いている。これはカメラ用アプリ開発をサポートするSDKや、カメラ本体の3Dデータを無償公開することで、ユーザーに必要なものを自由に開発してもらおうというものだ。カメラ版のオープンプラットフォームとも呼べる取り組みだ。
実は本体発売前の昨年からすでにプロジェクトとしては活動を始めているが、今のところ製品として購入できるような、具体的な成果物はまだ出てきていないように見える。
うまいこと考えた動作連携
では早速撮影してみよう。撮影時にはAIR A01とスマートフォンのリンクは不可欠だ。今回はiPhoneを使用した。しかしソニー系のアクションカムやQXシリーズを使ったことがある方はおわかりだろうが、iPhoneをWi-Fiでカメラに接続するのは、意外に面倒だ。
AndroidであればNFCを使ってすぐに接続できるが、iPhoneの場合はいちいちWi-Fiの設定を開いてカメラをアクセスポイントとして指定する必要がある。いや他に繋がれるアクセスポイントがなければカメラに勝手に繋がるのだが、家庭内のWi-Fiもあるような場合、いったんカメラとの接続が切れると大抵は勝手に家庭内のアクセスポイントに繋がりに行く。再びカメラを使いたいを思ったら、また選び直しだ。
AIR A01では、Bluetooth Smartという方法を使ってこれを解決している。Bluetooth Smartは、低消費電力で常時待機が可能な通信方法だ。カメラはいわゆる「スタンバイ」状態となって待機しており、スマホ側で撮影アプリを起動するか、アプリに表示される「CONNECT」をタッチすると、いったん「OA.Central」が起動する。OA.CentralがBluetooth Smartを使ってカメラを起動すると、カメラがWi-Fiのアクセスポイントとして電波を出し始める。するとスマホは撮影アプリに戻り、カメラとWi-Fiで接続するという段取りだ。
全アプリにBluetooth Smartでの接続機能を入れるのは無駄なので、アプリからOA.Centralを呼びに行くように作っておけば、あとはOA.Centralが接続の面倒を見るという作りになっている。
カメラの電源OFFは、アプリと繋がっている時は本体の電源ボタンを押しても切れない。アプリの設定メニューに電源OFFメニューがあるので、ここで電源のOFFを行なう。カメラ単体での電源ON・OFFはほぼ必要ない作りになっている。
まずはオーソドックスな撮影アプリとして、OA.ModeDialを使ってみよう。一般的にカメラにはプログラムオートやシャッタースピード優先、絞り優先といったモードがあり、ダイヤルを回して選択するようになっている。これをソフトウェア的に実現するものだ。モードはiAUTO, P, A, S, M, 動画の6モードがある。
せっかくいいレンズを使うならば絞り優先で撮影したいところだ。M.ZUIKO 75mm/F1.8を使って絞り優先で撮影してみたが、せっかく絞りを動かしても、スマホのプレビューでは開放の絵しかわからない。動的に絞りは動かないようだ。F1.8から22まで絞れるレンズだが、絞った方は実際に撮影してみるまで、どれぐらいの被写界深度になったのかわからないのはいただけない。ソフトウェア的な手当が可能であれば、機能として欲しいところである。
ファインダとしての見え方では、画面の一番下に常にパラメータが半透明で表示される。実はこの半透明の部分も写真の画角としては写ってしまう部分なので、構図としては切ったつもりなのに入っていたという、いわゆる「見切れ」がおきてしまう。パラメータを消して画像だけを全画面にするモードが欲しいところだ。
マニュアルフォーカスが効く「M.ZUIKO 40-150mm/F2.8」のようなレンズでは、画面左の虫眼鏡アイコンで3倍まで拡大できるため、フォーカスの山を確認できる。またカメラの水平も表示されるので、手持ちでの撮影で活躍するアプリだろう。
「OA.ArtFilter」は、オリンパスのカメラに搭載されているArtFilterを使うためのアプリだ。撮影してからスマホ側で撮画像処理するのではなく、あくまでもカメラ内のフィルター機能を選択したり調整するためのUIを提供しているだけなので、リアルタイムでフィルターの効果がわかる。フィルターごとにサブパラメータもあるが、こういった階層メニューはカメラ本体のメニュー操作よりもスマートフォンのUIが得意とするところである。
「OA.ColorCreator」は、カラーバランスとクロマ量の調整ができるほか、ガンマカーブの調整もできるアプリだ。カラーバランスはカラーシフトというべきかもしれないが、明部も暗部も一緒に動かしているようである。もう少し本格的にやるなら、明部、中央部、暗部を別々に動かす方法もあるが、エフェクトとして使うにはこの程度のざっくりしたパラメータのほうが使いやすい。
ガンマカーブも、明暗部のリミットは動かせず、カーブの途中2箇所が動かせるだけである。補正ではなく、エフェクトとして実装するなら、絵が破綻してもガンガンに動かせたほうが良かっただろう。動かしたパラメータは、リセット機能で簡単にリセットできる。
複合技で攻める
さてこれまでのアプリは単体の写真なり動画なりを撮影するためのものだが、複合技を実現するアプリもある。「OA.PhotoStory」は、複数枚の写真からなるフレームにそれぞれ写真を撮影して埋めていくことで、一つのコンビネーションとも言える画像を作成するアプリだ。写真を撮りながらコラージュしていくというイメージである。
フレームのパターンは4タイプで、一つの枠内に1枚ずつ写真を撮っていく。ズームイン/アウトだけは、1ショットで引いた絵と寄った絵の1枚を同時に撮影する。実際には2枚撮るのではなく、寄りの絵は拡大画像である。
こういったコラージュは、別途写真をPCやスマホアプリに取り込んでなら自由に作成することもできるが、カメラで撮りながら作れるならばその場でどうするか判断できる。これまで、このような合成を撮影現場でやることに関しては否定的だったのだが、実際にやってみるとこれもまた写真を撮る楽しみの一つであると感じる。仕事としてきちんとした完成品を作るのであれば、持ち帰っての後作業のほうがいいだろうが、その場作る過程を楽しむソリューションだと言える。
「OA.Genius」は、1回の撮影で自動的に6パターンの様々なエフェクトをかけた画像を保存してくれる機能だ。オリジナル写真はそれとは別に保存されるので、計7枚の写真が撮れるわけである。
エフェクトのパターンは色々で、ArtFilterがかかるときもあれば、正方形やアップにトリミングされることもあるし、OA.PhotoStoryのフレームに絵がはめ込まれる事もある。同じ被写体を何度か撮影しても、エフェクトの組み合わせで違う結果が出てくる。
自分でフィルターを設定して印象的な写真を「作る」よりも、ざーっとカメラにやらせて「選ぶ」だけでいい。アマチュアにとっては、ディレクションよりセレクションのほうが圧倒的に楽なのである。時折「なんでこんな?」と思えるようなショットができあがるが、自分ではまずやらないような手法をカメラが勝手に試してくれるので、意外に勉強になる機能だ。
「OA.Clips」は、規定秒数の動画を撮影し、それをあとからピックアップして1つの動画にまとめるという、最近のカメラにはよく搭載されている機能だ。カメラ内のUIでやる作業としては、融通が利かなくてイヤになる作業だが、アプリのUIならハードルが低く感じる。ただクリップの順番をあとから変えたり、複数のBGMが使えると行った自由度は乏しく、このあたりはまだこれからの発展が必要な分野だと言える。
最後に画像再生アプリの「OA.Viewer」も見ておこう。このアプリは特に意識しなくても、撮影直後にプレビュー表示用として起動する。見てる画像はカメラ内に収録されているもので、スマホ内に転送する際にも使える。また共有機能を使えば、いちいちスマホに転送しなくてもダイレクトにSNSなどに投稿できる。iOSの機能をちゃっかり使っている部分ではあるものの、これまでできるとはいっても弱かった、カメラとSNSの連携がスムーズに流れるようになる。
写真で盛り上がるためのツールとして、なかなか強力なカメラだ。
総論
ソニーの「レンズスタイルカメラ」が出た2013年当時は、スマホの台頭により従来型コンパクトデジカメが売れなくなり、ではカメラ業界としてその技術をどう活かして行くかが問われていた。“スマホより画質がいいです”では勝てなくなったのだ。その理由は、スマホカメラはネットと直結していただからだ。
だからスマホカメラを拡張するカメラとして、常時スマホとセットで使うカメラが提案された。これは仕掛けとしてはまあまあ上手くいったのだと思う。ただこの手のカメラはそんなに大きなパイがあるのか、と言われれば、微妙と言わざるを得ない。
現時点ではそれほど大きな市場性はないが、アイデアを入れ込む余地としてはデカい、というのが正直なところだ。それはカメラとしてのサイズ感であったり、遠隔でモニターや撮影ができる機能であったり、撮った先からSNSに投げられるという部分で、何かの可能性を待っているという状況にある。
メーカー提供のアプリも、良くできている。一般のユーザーは、ほとんどこれで満足できてしまうだろう。それゆえに、ユーザーが自力でハックやアプリ開発まで到達できない部分もかなりありそうだ。ユーザーにやらせるなら、もっと隙があったほうがよかった。
コンデジの代わりではなく、スマホカメラの代わりでもない、ちょっとユニークな未来を見せてくれる製品に成長してくれることを期待したい。