“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第527回:iPhone撮影の音問題を解決! Fostex「AR-4i」

~ネット生放送で活躍するオーディオインターフェース~


■「放送する」という楽しみ

フォステクス「AR-4i」

 AVの楽しみ方には2つの方向がある。1つは既存の“鑑賞すること”で、テレビ、Hi-Fiオーディオなどは今でも王道だ。もう1つの方向は“クリエイティブ”で、コンテンツを自分で作るというもの。古くはナマ録、最近では写真や動画撮影もこれに入るだろう。そして最近は、ネットの生放送もこのジャンルに加わってきている。

 生放送を行なうのにもっとも手軽なデバイスの1つとしてiPhoneがある。発売直後に動画撮影性能の検証、さらに先日はiPhoneとiPadを使ったマルチカメラ放送のソリューションを御紹介したところだ。しかしiPhoneでの撮影は、音声収録が弱いという難点がある。

 それをフォローするために、iPhone用のマイクやオーディオインターフェースが各種販売されているが、どちらかといえば撮影というよりも、レコーダとして使うタイプの製品が多かった。

 しかし、7月28日から販売が開始されたフォステクスの「AR-4i」は、撮影や映像配信をメインに、フィールドで使うことに的を絞った製品である。発表時の想定売価は13,000円だったが、既にネットでは徐々に下がり始めているようだ。

 これまではベンチャーが手がけることが多かったタイプの製品群だが、オーディオメーカーの大手フォステクスが参入した点は見逃せない。さっそく試してみよう。



■細かい工夫満載のボディ

 従来のiPhone用オーディオインターフェースは、底部のDockコネクタに挿して使うものが多かった。そのため、マイクが底部に固定されることになり、カメラと集音の方向が合わないなどの問題があった。

 マイクならiPhone本体に差し込めばいいだろうと思われるかもしれないが、iPhone本体のミニジャックはイヤホン出力と兼用になっているために、通常のコンデンサーマイクを差し込んでも使用できない。一部iPhone専用のマイクが売られているが、iPhoneには録音レベルの調整機能がないので、音量が小さすぎる場合に持ち上げることができない。会議録音などで使いたい人は、これらの点で苦労していたわけである。

 そこで、AR-4iはiPhone用ジャケットのような形状を採用。ちょうどミラーレス一眼カメラのボディ部分程度のサイズで、樹脂製ということもあり、それほど重くはない。なお、iPhone4専用となっている。

本体は樹脂製なので軽量iPhoneをスロットに差し込んで使う

 iPhoneをスロットに差し込む形で使用するわけだが、寸法としてはかなりぴったりサイズで作ってある。ちょうどDockコネクタのあたりにプラ形成のバリがあって、iPhoneを差し込むとそのバリが保護フィルムをめくり上げてしまう。個体差はあると思うが、気になる場合はバリをカッターや紙やすりで削ればOKだろう。

本体用の電源は単4電池2本

 ボディに電源スイッチなどはなく、iPhoneを差し込んだら自動的に電源が入るようになっており、手間なしである。本体の電源は単4電池2本で、8~10時間程度の動作が可能。iPhoneからAR-4iへは給電しない。

 単4の割には電池ケース部分が大きく張り出しているが、これは単体で横向きに持ったときに、しっかりホールドするためのグリップと兼用しているからである。ただ、それならそれで滑り止めの表面加工が欲しかったところ。まあ気になる場合は、自分で何か気に入った革を貼るといいだろう。カメラ修理用として、大手カメラ量販店で張り替え用の革が売られている。

 本体は縦でも横でも使えるが、ここでは横向きに使う状態で説明していこう。上部には2つのマイク入力端子があり、付属のL字型のマイクを使ってステレオ収録ができるようになっている。端子はミニジャックなので、マイクの向きをぐるぐる変えられるのがポイントだ。マイクそのものは指向性のコンデンサーマイクである。

マイク2つとアルミのグリップが付属上部にマイク端子が2つ

 マイク端子の間にはアクセサリーシューがある。グリップ側にはマイクレベルのボリュームと、入力レベルを示すLEDがある。LEDのうち一番左側のものはレベルLEDではなく、iPhoneとの通信状態を示すLEDだ。接続されている状態では、緑色に点灯している。

 底部には3つめのマイク入力端子がある。これは本機を縦向きで使う時に、入力1と3でちょうどステレオ収録ができる位置にある。入力2と3は排他仕様になっており、2のほうが優先だ。3を使うためには、2からマイクを抜いておく必要がある。

底部にもマイク端子が1つ縦に使った時に入力1とステレオペアになる位置

 底部にはヘッドホン端子とボリュームもある。iPhoneを本機に接続すると、iPhone本体ではなくこちらの方がモニター出力になる。ボリュームはiPhoneのボタンを触らず、しかもアナログボリュームなので無音で音量調整ができるのがポイントだ。さすがにこのあたりはよく考えられている。

 電源としてUSBのミニ端子もある。ここから電源を供給すると、本体の動作とiPhoneの充電もできる。なお本体には充電機能はないので、単4の充電池を入れておいても充電はされない。

 大きめの穴は三脚用で、このまま直接三脚に付けられるほか、付属のアルミ削り出しグリップを装着できる。このグリップはかなり重めで、全体の重心が下がるため、手持ちの時にカメラが安定する。

直接三脚に取り付け可能グリップの下にも三脚穴がある

 さらにグリップの下にも三脚穴があり、グリップごと三脚に装着することもできる。三脚でUSB端子やヘッドホン端子がふさがるような場合は、グリップをスペーサー代わりにできるわけだ。なお三脚穴はボディの横にもあり、縦方向で使う場合も利用できる。


■マイクの特性も良好

 では早速集音してみよう。まずはiPhone本体で集音したものと、AR-4iで集音したものを比較してみる。AR-4iのマイクは付属のものを使用し、左右で約45度ずつ開いた状態である。

 iPhone本体での集音はモノラルなので、ステレオ感は当然ない。また音量が小さくても、これ以上調整はなにもできない。絵があって、はじめて何の音かがわかる程度の解像感である。さらにカメラ起動中はイヤホン端子からの音声が出ないので、どんなレベルで音が収録されているかモニタリングができない。手間はいらないが、どうなっているかまったくユーザーがわからない点で、不安が残る。

 一方AR-4iでの収録は、ステレオセパレーションも良く、音量も自分で自由に調整できる。細かい音のディテールもよく拾えており、一般的なデジカメの音声よりも格段上である。さらにイヤホンでモニターすることができるので、マイク位置、カメラ位置の調整も可能だ。

 

【動画サンプル】
iPhone本体で集音
IMG_1001.mov(37.1MB)
AR-4i付属マイクで集音
IMG_0999.mov(41.5MB)

 次に、マイクセッティングをテストしてみた。左右のマイクを並行に前方へ向けてセットした場合と、左右に45度ずつ開いた状態の比較である。

 

【動画サンプル】
左右を並行に並べて集音
IMG_0994.mov(20.9MB)
左右に45度ずつ開いて集音
IMG_0995.mov(64.8MB)

 並行でのセッティングでは、中抜けの少ない、密度の高い集音ができている。ステレオセパレーションもそれなりにあるが、広がり感は少ない感じだ。

 一方、左右に45度ずつ開いたセッティングでは、若干中抜け感はあるものの、広いサウンドスケープが集音できているのがわかる。車の移動、子供の足音など、まさに現場そのものの音だ。

被写体との距離は約1.5m

 続いてインタビュー収録を行なってみよう。モデルさんのほうにマイク1を向け、マイク2は後ろ向きにして筆者の声を収録してみた。だいたいウエストショットに収まる程度まで離れると、iPhoneのカメラでは被写体まで約1.5mである。

 聴いてみればわかるが、1.5mだと若干インタビューの集音にしてはオフすぎる。屋外ということを差し引いても、もう少しオンで録りたいところだ。左右別々に入力調整ができないため、インタビューイに音量を合わせると自分の声が割れてしまうという難点がある。


 

【動画サンプル】
インタビューをAR-4iのマイクのみで集音
IMG_0992.mov(112MB)
 現状デフォルトではマイク1がRchに、マイク2がLchに固定されているため、それぞれが別のトラックに集音されている。実はAR-4i用にコントロール用のAppがあり、これを使えばモノラルへの切り替えや低域カット、リミッターなどの機能が使えるはずだが、まだAppleの審査を通過していないのか、テスト撮影時点では公開されていなかった。これがあれば、より効果の高い2マイクの集音ができることだろう。

 次にインタビューイのマイクを、ピンマイクに差し替えて集音してみた。バッファローコクヨの「BSHSM03BK」というコンデンサーマイクで、市場価格500円程度のものだ。カメラはケーブル長の都合で先ほどより30cmほど近づいて、バストショットになっている。


 

【動画サンプル】
ピンマイクを使った集音も可能
IMG_0993.mov(111MB)
 マイク自体は安いものだが、襟元に付けられるので、かなりオンマイクで集音できている。元々はパソコンのWEBチャット用のマイクだが、こういう汎用的なものもiPhoneで使えてしまうのは魅力だ。ただ普段は自分でしゃべるときに使っているものなので、人に付けるとケーブルが短いというのは予想外だった。集音に使うなら、延長ケーブルもあったほうがいい。


■生放送ではLchのみ出力か?

 

【Ustreamに直接放送】

 次に現場からのUstreamの配信で使用してみた。以前TapStreamのレビューではモバイルルータの上り速度が問題だったので、今回はUQ WiMAXからモバイルルータ「URoad-8000」をお借りしている。

 まずiPhoneのUstream Appを使って、ダイレクトに放送してみた。マイクは相変わらずピンマイクを使用しており、現場のモニタリングでも問題なかったが、放送ではRchの音声がほとんど入っていない。サンプルファイルが再生できない場合は、連載用のUstreamチャンネルでご覧いただきたい。

 もしかしたら、iPhone Appのリアルタイム配信では、Lchモノラルの音声しかアップロードできないという可能性が考えられる。ちなみにニコニコ生放送用のiPhone用Appでも、同様にRchの音声が放送に出なかった。

 通常モノラル運用では、Lchをメインチャンネルとするのが放送の常識である。このため、Rchは入力があっても使われないということだろう。AR-4iを使って生放送を考えている方は、事前に音声の配信テストを行なうことをお勧めする。


 

【いったんiPhoneに録画したのち、
Ustreamにアップロードしたもの】
 次に同じUstream Appを使い、いったんiPhoneに録画したのちアップロードする方法で配信してみた。この場合はアップロードにそれなりの時間はかかるものの、1,280×720、音声はステレオでアップロードされるため、Lch/Rchともに問題なく再生できた(Ustreamはこちら)。

 つまり、ライブ配信の時のみ音声はLch(マイク入力1)固定となるようだ。前出のAR-4i用にコントロール用Appがあれば、2つのチャンネルをLchあるいは両方ともセンターに振ることで、この問題は解決するかもしれない。




■総論

 AR-4iは製造がMade in Chinaではあるのもの、実に入念に設計されたことがわかるデバイスである。さすがはフォステクスといったところだろう。考えてみれば、指向性マイク2本に頑丈なアルミのグリップまで付いて実売13,000円は、かなりコストパフォーマンスが高い。

 ボディが樹脂製ということもあって、夏場なのに加え、iPhone本体も連続撮影で熱くなってくると、希に「パキッ」とボディが鳴る音がマイクに入ってしまうことがある(この動画の23秒目くらいの音がそれ)。たぶん熱で表面の樹脂パーツが膨張する時に、きしむのだろう。しっかりした作りにしようとして、逆にいろんな部分をガッチリ止めすぎているきらいはあるかもしれない。

 iPhoneを装着すると多少大仰なルックスになってしまうので、会議録音などには不向きだが、ライブ中継や収録用途としては、音声入力の拡張機としても、固定スタンドとしても、手持ちグリップとしても使える。海外のガジェット好きにも結構売れそうな気がする。

 これと先日のTapStreamを組み合わせれば、かなり本格的なマルチ中継システムができあがってしまうのではないだろうか。そもそもiPhone本来の使い方ではなくなってきている気もするが、今もっとも面白いことが集まっているのが、ネット生放送周りだということだろう。

(2011年 8月 10日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]