小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第643回:一眼での動画撮影、音にもこだわる!

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第643回:一眼での動画撮影、音にもこだわる!

シュー取り付け型マイク5機種を一気に使う

音が問題だ

 一眼レフやミラーレスなどのデジタルカメラで動画を撮る行為は、以前のデジタルシネマやりたい人だけがやってた時代を経て、次第に一般的になってきた。昔DVカメラが高画素化したときに、動画も写真も1台で撮ってた時代の、逆版が起こりつつあるわけだ。

 そんな中、デジカメでは音の収録がイマイチ、という声も聴かれるようになった。よってプロユーザーはなんとかして普通のマイクをデジタルカメラに入力できないかとあれこれ知恵を絞ったり、それに対応したレコーダが出たりしてきたが、カメラのアクセサリーシューに付けるマイクも、だいぶ各社から出そろってきた。

11月に発売されたばかりの一眼用マイク5種を用意した

 今回はそんな中でも、11月から順次発売が開始されたShureの「VP83」および「VP83F」、オーディオテクニカの「AT9945CM」、「AT9946CM」、「AT9947CM」の5モデルをテストしてみることにした。

メーカーモデル名価格
ShureVP83オープンプライス
(実売26,000円~27,000円程度)
VP83Fオープンプライス
(実売42,000円~43,000円程度)
オーテクAT9945CM19,950円
AT9946CM15,750円
AT9947CM12,600円

 いずれもミニプラグでカメラ本体のマイク入力に接続するタイプである。これまであまりレビューでは注目してこなかった“一眼用マイク”とはどういうものなのか、さっそく試してみよう。

それぞれが特徴的な構造

 まずそれぞれの特徴を把握しておこう。Shureの「VP83」と「VP83F」は、ルックスが結構違うが、基本的なマイク特性はほぼ同じだ。VP83は純粋なマイクだが、そこに本体だけで録音できる機構とmicroSDカードスロットを追加し、ヘッドフォン出力も搭載してモニターもできるようにしたのがVP83Fだ。マニュアルのポーラー図(マイクの指向性を表した図)を見ると、6.3kHzの背面の特性だけが違うようだが、これはボディ形状から来る差だろう。

VP83(左)とVP83Fはマイク性能はほぼ同じ
中身は鋭指向性型のモノラル・コンデンサーマイク

 双方ともモノラル、鋭指向性型のコンデンサーマイクで、電源はカメラからではなく、本体に電池を入れる。VP83は単三電池1本で最大130時間、VP83Fは単3電池2本で最大10時間の連続使用が可能。

 マイクボディはスタンド部分から独自構造のアームで吊り上げられる格好になっており、カメラの振動がマイクに伝わらないようになっている。ケーブルはカールコードで、VP83はスタンド部分から直出し、VP83Fは着脱可能なコネクタ式だ。

VP83Fは前方に電池収納部とmicroSDカードスロットがある
独特の吊り上げ構造を持つ

 VP83のボディは、マイク部は円筒形だが、電池格納部を含むボディ部は後ろに行くほど平たくなっている。背後にローカットフィルタ兼用の電源スイッチと、出力ゲインの選択スイッチがある。

 一方VP83Fは、マイク部は同じだがボディ部は背後までほぼストレートな円筒形となっており、背面は斜めに切り落としたようなデザインだ。背面には電源ボタン、録音ボタン、メニュー操作用のジョイスティックと液晶画面がある。

VP83Fは背面に操作部がある
液晶画面で録音レベルなどの監視も可能
VP83Fはスタンド部にイヤホン端子を備える

 メモリーカードは32GBまでのmicroSDカードが使用可能で、本体だけでも24bit/48kHzのWAVフォーマットで録音できる。もちろんカメラ側でも同時に収録可能なので、音声収録の二重化ができるわけだ。さらに言うと、外部マイク入力のないカメラでもこのマイクで独立して録音させればいいわけで、そのためにマイクケーブルが着脱式になっているし、モニター用のイヤホンジャックもあるのだろう。

 続いてオーディオテクニカの方だが、「AT9945CM」(以下9945)は、単一指向性×2マイクのXY方式ステレオマイク。「AT9946CM」(以下9946)は単一指向性×2、超指向性×1の3つマイクを内蔵したMS方式ステレオガンマイク。「AT9947CM」(以下9947)は、小型の超指向性モノラルマイクとなっている。どれもバックエレクトレット型なので、カメラのマイク入力端子から電源を取るタイプだ。

XY型のステレオマイク、AT9945CM
3マイクのステレオマイク、AT9946CM
超指向性モノラルマイク、AT9947CM

 3モデルともマイクの構造は違うものの、脚部の構造は同じである。編み目状のゴム素材でスタンド部と本体が繋がっており、衝撃を吸収する。また背面にはノーマルとローカットフィルタの切り換えスイッチがある。

独自の編み目構造でマイクを支える
背面にローカットフィルタのスイッチが
どれもフカレ防止用のマフが付属

 また3モデルとも、フカレ防止用のウインドマフが付属する。9946と9957は若干形状が違うものの、長さは同じなので、マフを装着するとどっちがどっちだか外見からは見分けが付かなくなる。両方使い分ける人は注意が必要だろう。

屋外での収録

 ではさっそく収録してみよう。ShureのVP83とVP83Fは、特性的には同じだろうということで、屋外収録はVP83Fのみ行なった。カメラは先週に引き続き、ソニー「α7」を使用し、AVCHD 60pモードで収録している。今回は音声重視、サンプル動画はそこまでの解像度はいらないだろうということで、720pのMP4フォーマットに変換している。オーディオは16bit/48kHz AAC 384kbpsである。なおVP83FはリニアPCMでも収録できるが、これも最終的にはAACにエンコードしている。

自然音の収録
nature.mp4(56MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 まず最初に自然音の収録を行なってみたが、VP83Fは音のレベル決めが難しい。マイク本体での収録のために、マイクゲインが決められるのだが、そのレベルに応じてマイクからカメラへの出力ゲインも変わってしまう。マイク本体収録で適切なレベルにしようと思うと、カメラ本体側ではレベルがでっかすぎるのである。例えばマイク側のゲインを30に設定すると、カメラ側の入力を1に設定してもまだ大きい。

 一応両方で収録してみたが、他のシーンではカメラ側の音声が割れてしまっているので、以降のサンプルはマイク側で収録したWAVファイルのみを使っている。

 VP83Fは鋭指向性だけあって、周囲の余計なノイズをほとんど拾わず、鳥の声を綺麗に拾っているのがわかる。オーテクの9945はXY式ということでステレオ感が強く、低域まで広く拾えているが、自転車の移動音を聞くと若干センターが抜ける傾向もあるように聞こえる。

 9946もステレオマイクだが、こちらはセンターマイクもあるので、中抜けは少ない。ただ9945と比べると低域が少し弱いようだ。9945とは集音したい内容で選ぶべき、兄弟のような立ち位置だろう。

 9947はモノラルマイク特有の低域が深く響くタイプの音になっており、似たような形状でもそれぞれにきちんと特徴のあるサウンドになっている。

歩行時の集音性能比較
walk.mp4(45MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 続いて歩行撮影。マイクの振動による集音の影響をテストした。カメラからシューを通じて振動が伝わるわけだが、どのマイクも歩行による衝撃は吸収しており、この程度の撮影ならまったく問題ない。

 ただShureのカールコードはやはりちゃんと意味があって、ケーブルが空中でビヨンビヨンしているだけなので、ケーブルがカメラボディに当たらない。一方オーディオテクニカはストレートコードでケーブル長が35cmぐらいあるので、歩行時はきちんとケーブルをさばいて固定しておかないと、カメラボディに当たって音を拾う可能性がある。9947の時に、後半でボンボンと音が入っているが、これがケーブルがカメラボディに当たっている音である。

ローカットフィルタのテスト
road.mp4(45MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 さらにローカットフィルタの利き具合をテストしてみた。いずれのマイクも前半が通常、後半がローカットフィルタONの状態である。

 これはテストしたシーンがあまり良くなかったので、効果がわかりにくいかもしれない。このあと室内に戻って、もう一度テストした。

室内では色々違いが明確に

朗読を集音してみた
voice.mp4(85MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 室内では朗読を集音してみたが、この収録ではすべてローカットフィルタONである。題材はすでに著作権が消滅している岡本綺堂「穴」の冒頭部分だ。マイクはカメラのシューには固定せず、別の金属製の三脚を使って顔の方向に向けている。なぜそんな面倒なことをしたかというと、カメラごと顔のほうに向けてしまうとレベルメーターが見えなくなってしまうからである。

 このテストでは、色々面白い事がわかった。

 VP83Fは音声収録としては若干硬いが、明瞭感は高い。またS/Nもかなり良い事がわかる。

 9945は、低域まで特性がよく伸びているのがわかる。一方、若干プツプツというノイズを拾っている。室内は無音だったが、おそらくWi-Fiか、PCからのノイズを拾っているのではないかと推測する。同じ室内には無線LANルータはないが、スマートフォンやPCなどはあった。ただカメラのシューにマイクを付けたりマイクのボディを手で触ると、多少アースされるのか、ノイズは減った。

VP83F
AT9945CM

 9946は、S/Nはまずまずだが、かなり音が硬い。また、ローカットはよく効いているのがわかる。

 9947はモノラルマイクなので、こういった集音には向いている。ただこれも低域のノイズを拾っている。ローカットフィルタは入れているので、マイクからの音ではなく、やはりなんらかのハムノイズを拾ってしまっている可能性が高い。

AT9946CM
AT9947CM

 静かな室内での集音では、9945と9947は電波の混入に注意したほうがいいだろう。オーディオテクニカのマイクの価格帯は12,600円~19,950円だが、ShureのVP83Fは42,000円~43,000円程度と、さすが価格が1ランク以上違うだけあって、ノイズ耐性はより高いようだ。

 最後にピアノの演奏も収録してみた。これはすべてローカットはOFFである。またShureはVP83Fではなく、VP83を使ってカメラ側で収録してみた。VP83はカメラ背面に出力切り換えがあり、-10でオーディオテクニカのマイクとほぼ同じレベル設定で同音量となった。

ピアノ演奏をほぼ真上から収録
piano.mp4(62MB)
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 モノラルとステレオで収録する意味合いが違ってくるわけだが、このテストが一番各マイクの周波数特性がはっきりわかるのではないかと思う。こうした音楽収録では、9945の音が一番しっくりくる。ただVP83も、このタイプでステレオマイクがあったらどうなるのか、聴いてみたいと思わせる音だ。

総論

 デジタル一眼では、レンズを色々替えて楽しめるのがポイントだが、マイクもこうやって付け替えてみると、色々カラーがあって面白い。何を撮るかによって当然マイクは選ぶべきだろうが、どのような特性なのかは実際に集音してみないとわからない部分なので、今回は個人的にも貴重な体験をさせていただいた。

 価格的には1万円超から4万円まで幅広いが、やはり高いマイクにはノイズ耐性など、それだけの理由があるわけだ。ただ条件がハマれば低価格マイクでも十分に使える能力がある事もわかった。高いマイク1本でオールマイティに済ませるか、録音する被写体やシーンに合わせて低価格マイクを使い分けるか、これもまた一つの楽しみ方だろう。

 最後に、オーディオテクニカのウインドマフは結構毛が抜けるので、レンズの着脱でセンサーが丸見えになるミラーレス一眼の場合は、ちょっと注意した方が良いだろう。今回は特に映像系でのトラブルはなかったが、全部のマイクをバッグに一緒に入れて移動したら、Shureのスポンジ状のウインドスクリーンがめっちゃ毛だらけになるというハプニングが起きた。まあマフが3本もあるので、抜け毛も3倍になったからなのだが、なんだか笑ってしまった。

 これを機会に、一眼動画の音も気にしていただけると、より楽しいカメラライフが過ごせることだろう。

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オーディオテクニカ
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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。