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音の個人最適化だけじゃない、NUARL開発中TWSに搭載するAudiodo第4世代「Personal Sound」とは何か
2024年7月10日 18:17
エム・ティ・アイは10日、同社のNUARLブランドの完全ワイヤレスイヤフォンに搭載を予定しているAudiodoの「Personal Sound」技術の説明会を開催。Personal Soundを搭載した新製品「X878(仮称)」を披露すると共に、この新TWSが「NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbuds」という名称になる事を明らかにした。
このNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsは、ハードウェアとしては8割方完成しており、現在はアプリやファームウェアのデバッグ、音質調整を行なっている段階だという。発売時期は未定だが、2024年第3四半期中の発売を目指しているとのこと。
AudiodoのPersonal Soundとは何か
エム・ティ・アイは今年の5月に、スウェーデンのAudiodo(オーディオドゥ)と、技術提携に関する契約を締結。NUARLブランドのイヤフォンに、Personal Sound技術の投入を進めていた。
NUARLではかつてから、イヤフォンにおける嗜好性への対応として、個人の聴覚にイヤフォンを最適化させる事や、ユーザーが聞きたい音が聞き取れない事から、自然とボリュームが大きくなり、音響性難聴を引き起こすのを防ぐ取り組みとしても、“個人最適化”に注目。それを実現するために、Personal Sound技術を持つAudiodoと技術提携したという。
Audiodoのセールスマネージャー、Michel Roig(ミシェル・ロイ)氏によれば、人間は耳だけで音を聞き分けているわけではなく、人が個々の声の違いを聞き分けられるように、音の認識には人間の心理が複雑に影響を与えているという。Audiodoでは、こうした音響心理学も取り入れた研究開発を行ない、Personal Soundを開発。
具体的には、スマホ向けのアプリを用いて、左右の耳に対して聴覚テストを実施。その結果に基づいて再生する音を補正するのだが、どのような補正を行なうかという個人のプロファイルをアプリ側で作成。その結果を、イヤフォンにフィードバックし、イヤフォン側で保持できる。これにより、スマホを別の機種に変えても、引き続き補正したサウンドを聴くことができる。
このPersonal Soundを採用した製品は、2019年に第一世代の製品が登場。Personal Sound技術自体も進化をしており、2021年リリースの第二世代では、聴覚テストの精度向上と、テスト結果の表示を改善。第三世代では、音量に応じた補正が可能になったほか、リミッターを搭載した。
そして、開発中のNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsに搭載するPersonal Soundは、第4世代まで進化しているという。
進化した第4世代Personal Sound
第4世代のPersonal Soundでは、音質の最適化に加え、著名な音楽プロデューサーであるカール・フォーク氏が設計した、直感的に使える操作性で、パーソナルサウンドに最適化された調整が可能な「Audiodoイコライザー」を搭載。
さらに、まるでイヤフォン外側で音が鳴っているような空間印象や臨場感を再現する信号補正技術の「空間オーディオ」、音量を制限する事で聴覚を保護するセーフリスニング機能などで構成されている「聴覚保護」機能も盛り込まれている。
また、音質の最適化技術についても進化しており、計算アルゴリズムが使用するリファレンスモデルを改良し補正精度を向上。個別の製品に合わせて、パートナー会社がカスタマイズ可能なキーファクター設定も搭載された。
さらに、高周波数特性の補正モデルを更新し、音質を維持しながら臨場感の再現性を向上。独自のバランス調整により、左右の聴覚差が大きいユーザーに対しても最適な補正が実現できるようになったという。
また、第4世代では適応補償により音量により変化する聴覚特性に合わせたリアルタイム補正も可能になっている。
他にも、「測定の際に両耳でテストをする事」や、「テストに使う信号を、アプリから送信せず、イヤフォン側に内蔵する事でコーデックの影響を受けないようにしている事」、「医学的な根拠に基づいた周波数帯域(250Hz~8kHz)を使用してテストしている事」などがPersonal Soundの特徴だという。
また、新機能として、パーソナライズされた聴覚特性に応じて集音音声を補正し、これまでにない良好な音で、外音取り込み機能「パーソナルトランスペアレンシー」機能の搭載も予定されている。
NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsの特徴
この第4世代Personal Soundを採用したNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsの特徴は、NUARLが独自開発したダイナミックドライバーに加え、MEMSスピーカーも搭載したハイブリッド構成になっている事。
NUARLは従来から、ダイナミックドライバーにこだわったイヤフォンを開発してきたが、その考え方は変えておらず、NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsは「独自のダイナミックドライバーをより良い音で鳴らすためにMEMSスピーカーの追加を決めた」という。
NUARLが使っているダイナミックドライバーは、主に炭素系の素材を振動板に採用している。これはNUARLが目指す音質に炭素系素材の特性が合っていることが理由だが、炭素系素材を使用した振動版には、特定の高域にディップが出やすいという懸念があるという。
そこで、高域を別のドライバーで補うことでの問題を解消しようと、発音方式や素材が異なるドライバーの組み合わせた場合、音質バランスの崩れてしまう。そのため、これまでのNUARLイヤフォンでは、ハイブリッド構成を採用することなく、ダイナミックドライバーを改良する事で進化をしてきた。
しかし、MEMSスピーカーをテストしたところ「最も我々のダイナミックドライバーと音質的な親和性が高かったので採用することになった」という。
それでも、基本的にはサウンドシグネチャーのキーとなる中高域に影響しないように、MEMSスピーカーのクロスオーバーは9KHz付近の高い周波数帯域に設定。弱点となっている高域部分の補正とハイレゾ再生に必要な超高域の強化に使用している。
また、ネットワークによる音質の低下を抑えるために、ピュアオーディオで使われるバイアンプマルチドライブの発想を用いて、MEMSとダイナミックドライバーそれぞれに、別々のDACを使い、ソフトウェア制御によるデジタルフィルタリングを組み合わせる「2x2 Soundテクノロジー」を開発・投入している。
NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsを聴いてみる
試作中のNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsを、説明会の会場で短時間ではあるが聴いたのでファーストインプレッションをお届けしよう。なお、試作機のサウンドは製品版とは異なる。また、NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbuds試作機は、7月13日~14日に秋葉原で開催される「ポタフェス 2024夏 秋葉原」での展示も予定されている。
試聴の前に、Audiodoのアプリを使い、Personal Soundで最適化を行なう。アプリを立ち上げ、測定をスタートすると、左耳から測定音が流れる。高い音、小さな音と様々な音が流れるが、それが聞こえたらアプリのボタンをタップするという流れ。左耳が終わると、次は右耳となり、全体では3分ほどで測定終了。
終了すると自分用の補正プロファイルが作成され、視覚的にどのような補正がされるか確認できる。また、ボタンを押すと、補正のON/OFFが切り替え可能だ。
その状態で、音楽再生アプリから音楽を流すと、自分用に補正された状態で音楽を聴く事ができる。
曲を聴きながらON/OFFしてみると、ONの場合は、個々の音像のコントラストが深くなり、より音楽に立体感が生まれる。また、細かな音も聞き取りやすくなる。加えて、中低域の音圧もアップし、音楽全体に迫力と躍動感が生まれる。
逆にOFFにすると、平坦で、サラッとした、悪く言うと「素っ気ない音」に聞こえてしまう。一度体験すると、もうOFFの音には戻れないという印象だ。
NUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsは、このON/OFFによる音の違いが非常にわかりやすく、描写能力が高いイヤフォンだと感じる。特にMEMSを採用した高域の分解能が非常に高いため、弦楽器の質感豊かな描写や、ボーカルのブレスなど、微細な音まで聴き取りやすい。
特筆すべきは、大部分の帯域を担っているダイナミックドライバーの音と、MEMSの音が非常に馴染みが良い事。個人的にMEMSスピーカーの音は「高解像度で硬質、アッサリした音」という印象があるのだが、そうした固有のキャラクターがNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbudsではあまり感じられず、ダイナミックドライバーのナチュラルなサウンドと、質感がしっかり融合しているように感じられた。
今回はPersonal Soundの体験会だが、肉厚な中低域の描写や、自然な響きといったダイナミック型の長所と、MEMSの高解像度な描写という長所を兼ね備えたNUARL Inovatör 2x2 Sound Earbuds自体も、完成が非常に楽しみなハイブリッドTWSだ。