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「アンプに見えないアンプ」と「平面振動板」でポータブル参入。異色のメーカーOPPOとは?
(2015/3/3 09:50)
米OPPO Digital(以下OPPO)から3月20日に、ポータブルオーディオ2製品が登場するUSB DAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプ「HA-2」と、同社初のポータブルヘッドフォン「PM-3」だ。
注目の理由は3つある。1つは、ポタアンには見えない「HA-2」の薄さとデザイン、2つ目は「PM-3」が平面振動板というユニークな技術を使っている事。
そして3つ目は、これら2製品が“意外に安い”事だ。価格はどちらもオープンプライスで、店頭予想価格は「HA-2」が39,000円前後、「PM-3」が55,000円前後。これに先駆けて発売されている据置型のヘッドフォンアンプ「HA-1」が16万円前後、オープンエアのヘッドフォン「PM-1」が15万円前後、「PM-2」が9万円前後だと考えると、かなり思い切った値付けと言える。
手掛けているのは、AVファンにはBlu-rayプレーヤーの「BDP-105DJP」などでお馴染みのOPPOだ。あのOPPOが、本気で取り組んだポータブルオーディオというのも、注目ポイントの1つと言っていいだろう。
そもそも、なぜOPPOがポータブルオーディオに参入するのか、OPPO Digital本社、プロダクトマネジャー担当のクリストファー・ヴィック氏に話を聞いた。ヴィック氏の言葉からは、長い歴史を持つピュアオーディオメーカーとは少し違う、新進気鋭のOPPOならではのオーディオに対するこだわりや姿勢が見えてきた。
ユーザーからのフィードバックを重視
2004年に設立されたOPPOは、米カリフォルニア州のマウンテンビュー(シリコンバレー)を本拠地とし、直販をメインとしたビジネスを展開。その他の国でも、販売などにかかるコストを極力抑える事で、価格を抑えたオーディオ機器をラインナップしている。
もともと、他社へのBDプレーヤーやBD再生メカのOEM供給などを行なっており、そこで技術力を高め、低価格ながらクオリティの高いBDプレーヤーを自社ブランドで発売。ESSのDACを搭載し、アシンクロナス伝送に対応したUSB DACも搭載した「BDP-105」などで、人気ブランドの仲間入りを果たしたのはご存知の通り。オーディオイベントやメーカーの試聴室などでもプレーヤーとして使われる事も多く、「業界のスタンダードプレーヤー」になったとも言える。
そんなOPPOが新製品を投入するのであれば、例えばAVアンプや単体DACなど、フルサイズのホームシアター/ピュアオーディオ機器だろうと予想しがちだ。しかし、昨年彼らが投入したのは、ヘッドフォンアンプ「HA-1」とヘッドフォンの「PM-1」。しかもヘッドフォンは通常のダイナミック型ではなく、平面振動板を採用したユニークなモデルだ。
そして、新製品ではポータブルオーディオ市場に本格進出しようとしている。この流れにはどのような狙いがあるのだろうか。ヴィック氏からは意外な答えが返ってきた。
「我々OPPOの特徴は、“カスタマーが何を求めているのか”を重視している事です。常にカスタマーの声に敏感になり、市場からのフィードバックにはすぐ反応しようという姿勢でビジネスに取り組んでいます。BDプレーヤーの開発においてもそうですが、オーディオファンが抱く“こんな機能が欲しい”、“こんな画質を実現して欲しい”などのニーズをできるだけ捉え、我々がアイデアを駆使し、それを実現し、理想の製品に向けてアプローチしていく……というのがOPPOの基本的な考え方です」
「ヘッドフォン/ヘッドフォンアンプといったパーソナルオーディオへの参入も、そうしたカスタマーからの声がキッカケでした。BDプレーヤーを開発している中で、ユーザーからの声に耳を傾けると、BDプレーヤーの機能の中でも、特にUSB DACやヘッドフォンアンプといった、よりパーソナルな機能に対してのリクエストが増えてきたのです。今回の新ヘッドフォンのPM-3も、PM-1のユーザーから“外で使える小型のモデルを”、“密閉型も欲しい”という声を受けて開発がスタートしました」
つまり、最初からBDプレーヤーの後はパーソナルオーディオ、そしてポータブルに……というロードマップが決まっていたのではなく、あくまでユーザーの声を聞いた結果、求める声の多い“パーソナルオーディオ”へと進んだというわけだ。しかし、パーソナルオーディオと言っても、製品ジャンルは様々。ヘッドフォンとヘッドフォンアンプを作ったのには理由がある。
「BDP-105の内蔵ヘッドフォンアンプをテストする際に、様々なヘッドフォンを用意して、ドライブしてみました。聴き比べていく中で、ユーザーニーズを完璧に満たすような、“痒いところに手が届く理想的なヘッドフォン”が市場には存在しないのではないか? もっと理想的なヘッドフォンが別にあるのではないか? と考えるようになりました。そして、自分達のエンジニアリング能力を駆使すれば、市場に出しても、競争力のあるヘッドフォンを作れるのではないかと考えるようになったのです」
「仰るとおり、周りから見ると“ホームシアター”と“パーソナルオーディオ”で、まったく違うエリアに進出したように見えると思います。しかし、ユーザーの声が架け橋となっているという意味では、我々にとって、とても自然な流れなのです」
では、ヘッドフォンだけでなく、ヘッドフォンアンプも作ったのは何故だろうか?
「ヘッドフォンを作ろう……と言うよりも、“ヘッドフォンを使ったオーディオの世界観を打ち出したい”という想いがありました。そうした我々の意思を、強く示すためには、最高のヘッドフォンを作るだけでなく、それを最も良くドライブできるアンプも必要だったのです」
ユーザーの声を受けてのパーソナルオーディオへ参入……。だが、日本やアジア市場と比べ、OPPOのお膝元である米国ではヘッドフォンのムーブメントはそこまで盛り上がっていないのではないだろうか。ヴィック氏は首を横に振る。
「米国発のヘッドフォンメーカーは沢山ありますし、ヘッドフォンなどのパーソナルオーディオをテーマとした展示会も、開催するたびに来場者が増えています。米国においても、市場は着実に成長を続けています」
「仰る通り、日本と比べると、米国の家は部屋が広く、大型のスピーカーを起きやすかったり、オーディオ専用ルームが作りやすいというのはあります。しかし、“音楽をじっくり聴く時間そのものが限られてきている”というのは、日本とまったく同じ状況です。だからこそ、ヘッドフォンの人気が高まっていると考えています」
ヘッドフォンで平面磁界駆動方式を採用した理由は?
新製品となる、ポータブル向けの密閉型ヘッドフォン「PM-3」。そして、既に発売されているオープンエア型の「PM-1」と「PM-2」。これら3機種に共通するのは、平面振動板を採用している事だ。
一般的なダイナミック型ユニットは、お椀のような形の振動板が、前後に動いて音を出すが、平面磁界駆動方式では平らな振動板になる。PM-3では7層ポリマー振動板が使われており、この振動板の両面に、渦巻き模様のようにアルミ導体がエッチングされている。
通常のユニットは、振動板の分割振動……つまり、波打つように振動する現象が起き、周波数特性が悪化する。対して平面磁界駆動方式では振動板全体で均質な振動ができるため、低音から高音までフラットな周波数特性が実現できるとしている。
実のところこの方式は、フォステクスが1974年に日本初の平面駆動型ヘッドフォン「T50」を発売するなど、古くからあるものだ。しかし、能率が低く、大出力のアンプでドライブする必要があるなどしたため、民生向け製品ではあまり広がっていない。一方で、最近になってOPPOを初め、フォステクスやHiFiMANなどが民生向けの新製品を投入。改めて注目が集まっている。
「我々が平面磁界駆動方式に着目したのは、BDP-105のヘッドフォンアンプ機能をテストしている際に、多くの方式のヘッドフォンを聴き比べ、その中で平面磁界駆動方式がベストパフォーマンスを持っていると感じたから……それに尽きます」
「サウンドチューニングに携わっているアコースティックエンジニアが、平面磁界駆動方式についての豊富な経験を持っていた事も幸いでした。彼はPM-1からPM-2、そしてPM-3と、一貫して開発を見ており、小型化&密閉化したPM-3の開発にも、彼の知見が豊富に投入されています」
「ご存知の通り、平面磁界駆動方式には“感度が低い”、“製品が重くなる”といった問題があります。しかし、我々は平面磁界駆動方式が生来持っている音質的なポテンシャルの高さに注目しました。困難な課題もありましたが、それを乗り越えたところを、自分たちが到達すべき点と定めて開発に取り組みました」
最終的に、振動板の両面にコイルを配置し、通常の2倍の導体を使うことで、振動板面積の100%を磁界内に配置する事に成功。磁気回路にはネオジウムを採用、FME解析によってそれらの形状や配置を最適化。こうした工夫により、従来の平面磁界駆動方式ヘッドフォンを上回る最大102dBの感度を実現、インピーダンスは26Ω。比較的“鳴らしやすい平面振動板ヘッドフォン”を完成させた。
「PM-1/2の発売から、PM-3が比較的早期に製品化できたのには、デザインや細部の作りを、PM-1/2から踏襲しているというのもあります。もちろん、小型/密閉化しているので、違う部分もありますが、共通する部分が多いので開発も効率的にできました」
一目で“カッコイイ”“欲しい”と思われるようなアンプを
ユニークという意味では、USB DAC搭載ポータブルヘッドフォンアンプの「HA-2」もユニークだ。一見するとヘッドフォンアンプに見えない。革張りのボディに、12mmという薄さ。スーツの胸ポケットからサッと取り出したら、これがアンプだと思う人はほとんどいないだろう。
ヴィック氏はこの“スタイル”が、重要なポイントだと言う。
「市場には沢山のポータブルヘッドフォンアンプがありますが、どれも凄く分厚いですよね。“ポータブル”と言いますが、実際に持ち運んでみると、カバンの中で邪魔だったり、持ちにくかったり……そうした不満を皆さん感じていらっしゃると思います。だからこそ、“本当のポータブルを作ろう”と考えました」
「12mmという薄さに、USB DAC機能やアンプ機能、バッテリなどを搭載するのは非常に困難でした。最も苦労したのはやはり、機能と薄さのバランスを、いかにとるかという点ですね」
HA-2には、ESSのDAC「ES9018K2M」が搭載され、USB DACとしてDSD 11.2MHz、PCMは384kHz/32bitまでに対応。iOS/Android/PCと連携でき、iOS機器とはカメラコネクションキットいらずで、付属のUSB-Lightningケーブルで接続できるなど、USB DACとして高い機能を備えている。
なお、OPPOと言えば、ESS DACの人気に火を付けたメーカーとも言える。そもそもBDプレーヤーでESSのDACを採用したキッカケは、「もちろん、サウンドクオリティが良かったため」だという。しかし、それだけではない魅力もあるようだ。
「我々はシリコンバレーを本拠地としていますが、同じシリコンバレーにあるESS社と、オフイスは15kmしか離れていません。そのため、何か課題があった時も、すぐにエンジニアが赴き、顔を突き合わせて話し合って解決できます。海外のメーカーですと、そう簡単にはいきません。我々にとって、これはとても有利な事です」
オペアンプはハイグレードな「OPA1602」と「OPA1662」を採用。差動増幅回路でノイズと歪を除去した。TIのヘッドフォンアンプIC「TPA6120」とAB級の電流増幅トランジスタも搭載し、薄いが駆動力も高めている。独自開発のデジタル・アナログ電源設計により、デジタルとアナログの音声信号間でのセパレーションも高めたという。最大出力は、300mW(16Ω)、220mW(32Ω)、30mW(300Ω)。推奨ヘッドフォンインピーダンスは16Ω~300Ωだ。
機能的は豊富だが、薄いアンプであるため入出力端子は少なめだ。ライン出力、アンバランスのステレオミニ出力、ライン入力が各1系統。光デジタル出力やバランス出力は備えていない。マニアとしては、こうした端子も欲しいところだが……。
「もちろん、そうしたご意見はわかります。しかし、HA-2では、この薄さにこだわり、あえてそうした端子は採用しませんでした。まず“モノ”としてのスタイル、格好良さを追求したのです。ケーブルを抜いてしまうと、アンプとはわからない。一目見ただけで、“カッコイイ”、“欲しい”と思っていただけるような製品を作ろうというのがHA-2のコンセプトです」
ちなみに、革張りの部分はブラックだが、他のカラーバリエーションは登場しないのだろうか?
「カラーバリエーションに関しては、初期の段階から今現在まで検討はしています。例えば、革張りの部分を簡単に取り外せるようにして別のカラーを……というアイデアもあります。しかし、まだ商品としてどうするのかという段階には至っていません。着脱可能にすると、コストが増えてしまうのも悩ましいところですね」
なお、OPPOのBDプレーヤーといえば、頻繁なアップデートで機能がどんどん追加されていくのがお馴染みだ。今回の「HA-2」でも同様なのだろうか?
「microUSBポートを備えていますので、ファームウェアアップデートも可能です。ただ、据置型ヘッドフォンアンプのHA-1もファームアップが可能なのですが、最初からかなりの機能が搭載されているので、実はユーザーから“この機能を入れて!”という声はあまりないのです。HA-2も、念の為にファームアップができるようになっているという感じですね(笑)」
4Kブルーレイプレーヤーは“必ず出します”
パーソナルオーディオ、ポータブルオーディオに進出したOPPO。気になるのは今後の製品展開だ。例えばイヤフォンなどを作る予定はあるのだろうか? また、BDプレーヤーなど、据え置きの単品コンポはもう作らないのだろうか?
「イヤフォンに関しては、現時点では具体的な計画はありません。ただ、ポータブルオーディオのHA-2、PM-3は、これから市場に投入するところです。我々はユーザーの声を重視していますので、皆さんから色々なフィードバックを受けるなかで、“イヤフォンが欲しい”という声が出てくれば、もちろん検討します」
「BDプレーヤーは、我々のメインビジネスとも言えるジャンルですので、今後も注力していきます。フルサイズの単品コンポを作らないという事はまったくありませんので、ご安心ください」
“今後のBDプレーヤー”を考えた時に、やはり気になるのは4Kブルーレイこと、「ULTRA HD BLU-RAY」だ。これが再生できるプレーヤーは開発するのだろうか?
「ULTRA HD BLU-RAYに関しては、規格がまだ暫定で、最終に近くはなっていますが、完全に固まってはいません。ですので、具体的な製品として発売するまでには、まだ時間がかかると思います。しかし、作る事には間違いありません。必ず出しますのでご期待ください」
最後に、ヴィック氏は日本のポータブルオーディオ・ファンの印象について、「日本の皆さんのポータブルオーディオに対する情熱の凄さに、ショックに近い驚きを感じました。日本市場はOPPOにとって非常に重要です。日本のユーザーの皆さんからの意見も、今後の製品開発に取り入れていきたいですね」と語った。
ヴィック氏の言葉で印象的なのは、“ユーザーの声を最も重視”し、“そのニーズに素早く対応する”という姿勢だ。
オーディオメーカーでは、メーカー側の思想やこだわりが色濃く、そこに共感するユーザーが買い求める……という図式がよくある。対して、ユーザーの声を聞いて、自分たちの技術で作れるものはドンドン作っていくという柔軟さと素早さが、OPPOの武器と言えるかもしれない。米国では直販ベースのビジネスを展開し、コストも削れるところは大胆に削り、価格を下げて購入しやすくするのも“ユーザー重視”の姿勢の1つと言えるだろう。
一方で、平面磁界駆動方式や、ポータブルアンプのスタイリッシュなデザインなど、自分たちが“これだ”と信じた部分は、技術的に困難であってもこだわり続けるオーディオメーカーらしい一面もある。「HA-2」と「PM-3」には、そんな新しいタイプのオーディオメーカーである“OPPOらしさ”が発揮されているようだ。
(協力:OPPO Digital Japan)