第3回:RMAAで音質比較大会

~一斉測定で見えてくること ~


製品版のDVK-UDA01

 インプレスジャパンが発売するUSB DACキット「DVK-UDA01」解説記事の最後を飾る今回は、音質測定ソフトのRightMark Audio Analyzer(RMAA)を用いて、各種オーディオデバイスとの音質比較を行なう。

 これまで、アナログノイズレベル、デジタル出力のジッタと個別に見てきたが、RMAAで総合的に見た場合の実力はどんなものだろうか。(TEXT:中田 潤 & DOS/V POWER REPORT編集部)

第1回:USB DACを作るにいたったワケ第2回:“ジッタ”の実体に迫る第3回:RMAAで音質比較大会


■ 測定結果を見る前に

オーディオデバイスの総合ベンチマークとして多くのユーザーに利用されているRMAA。測定手順自体はシンプルだが、評価は読み解くにはちょっと知識が必要。分かってくるとあれこれ測定するのがおもしろくなってくるかも?

 本企画の第1回で「PCユーザーは自分のマシンでベンチマークテストを実行し、その能力を自分で測定することができる」と書いたが、それはPCオーディオデバイスにもあてはまる。専用の測定器ほどの精度はなくとも、ユーザーが自分の環境で自分が使う製品の評価を客観的に行なえるというのは、購入した製品の評価というレベルにとどまらず、健全な市場の育成にもつながってよいことだ思う。

 その評価の指標としてこのところよく使われているのが、RMAAと呼ばれるオーディオ測定ソフトだ。今回の本企画では、このRMAAを用いて、他のオーディオデバイスとDVK-UDA01の特性の違いを見てみたい。

 ただ、RMAAはさまざまな角度からサウンドデバイスの特性を測定してくれる優れ物ながら、項目が多い上に用語もやや専門的なものが多く、さらには測定条件や計算の仕組を理解しないと正しい比較には使えない。理解を深めていただくために、ベンチマークで遊んでいただくために、まずは簡単な用語の説明から行なおう。



■ RMAA測定結果


 まずは、基本中の基本であるdB(デシベル)という単位について。RMAAの測定結果をはじめ、オーディオ機器の性能を数値化する際に使われている。このdBは%と同様の意味合いで割合を表わす単位だ。たとえば、S/N(Signal Noise ratio) 100dBとは信号に対するノイズの割合が0.001%という意味。RMAAにおけるdB表記の数値の大半は最大音量に対する割合だ。

 業務用のオーディオ機器の場合は、ライン入出力の最大音量は決まっているので、dB表記だけでノイズの量が比較できるのだが、PCを含む民生機器では最大音量がばらばらなので、dB表記だけでは比較できない。

 つまりS/N 100dBという表記は民生機器の場合は非常に曖昧で、同じ100dBでも最大出力が2倍大きいと、ノイズも2倍大きいということになり、サーノイズが聞こえる100dBと聞こえない100dBが存在することになるのだ。

 今回は、アッテネータ(パッシブボリューム)を使用して、それぞれの機器の出力をもっとも音量の小さなDVK-UDA01に合わせて測定した。音量を絞るということはノイズの量も減るので(比率は変わらない)ノイズ量の測定ではDVK-UDA01が不利となる項目もあるが、とくに補正は加えずに掲載している。

 諸先生方から石が飛んできそうなのは覚悟の上で、なるべく簡単にRMAAの結果の意味をまとめてみた。測定結果の表示項目はカッコ内の英語表記だが、分かりやすくするために日本語表記に置き換えている。


  • 周波数特性【Frequency respose】:低い音から高い音まで同じ音量で再生できているか
  • ノイズレベル【Noise level】:ノイズの多さ。ただ、今回の測定方法では誤差が大きいので第1回に掲載した測定結果のほうが信頼性は高い
  • ダイナミックレンジ【Dynamic range】:小さな音を正しく再生できるか
  • 歪【THD】:単音(1kHz)と再生時に生まれる不要な倍音(2KHz,3KHz,,)の割合
  • 歪+ノイズ【THD + Noise】:単音(1kHz)と不要な音すべて(上記を含む)の割合。上の“歪”の項目が主にDACチップの性能に影響を受けるのに対して、こちらはオーディオ機器全体の性能の影響を受ける
  • 相互変調歪【IMD + Noise】:2種類の音声とほかの不要な音すべての割合
  • 左右の音漏れ【Stereo crosstalk】:右の音が左に、左の音が右に漏れる割合
  • 相互変調歪10kHz【IMD at 10 kHz】:サンプルレート変換の影響で悪くなることが多い

 

 これらの項目の意味をざっと理解した上で、測定結果を見ていただきたい。RMAAは結果を数値だけでなくExcellentからVery poorまで6段階の表現で示してくれるのだが、表にまとめた際に見にくいので、よい評価から順に6~1の数値に置き換えている。なお、“総合”【General performance】に関しては各項目を加味した総合的なスコアとも言えるが、かえって曖昧さの残る評価のように思えるので、各項目の数値の比較を中心に見ていただきたい。

RMAAでの測定結果

 まず、PCオンボードサウンドの音質はどうだろうか。再生専用機であるSACDプレイヤーのSA7001と比べると、個別の項目では数値に大きな差が出ている。これは聴感にも近いようで、SA7001はクリアでダイナミックレンジが広く、オンボードサウンドはノイジーで細かい音が聞こえない感じだ。唯一、“総合”がいずれも同じ「5」<Very good>である点は明らかに違和感がある。

 オンボードサウンドの音質を改善しようと玄人志向の低価格サウンドカード「CMI8768P-DDEPCI」を追加してみたところ……何とさらに悪くなった。とくにオンボードサウンドで優れていた周波数特性やダイナミックレンジで劣る数値を示している。とりあえず単体のオーディオデバイスだから、それなりに効果があるんじゃないかという予想もあろうが、マルチチャンネル出力やデジタル出力などのサウンド機能を追加することが主目的の製品は、音質面まで気を配っていないこともあるという例だ。

 それではと、もっと高級なサウンドカードのSound Blaster X-Fi Titanium HDをおごった所、SA7001と同じくらいのレベルになった。このカードはいずれも5以上のスコアを示しており、RMAAでは弱点が少ないようだ。とりあえず、高級品は数値上の音質は優れていると言えそうである。

 次に、お手軽なUSB DACの効果を確かめるべく、TOPPING D2を投入した。この製品はSound Blaster X-Fi Titanium HDよりも安価ながら数値的にはなかなかの結果だった。ただ、“ヘッドフォン”ボリュームの位置によってライン出力が歪んでしまったり(ヘッドフォン出力端子は別にある)、電源ON時のポップノイズがかなり大きかったりと気になるところが多かった。

 さて、DVK-UDA01にいたる過程のUSB DACチップ選びの段階で作成したPCM2704とCM102A+の試作基板はいずれもオンボードサウンドより悪い結果になってしまって冷や汗ものだ。とくにCM102A+は、歪+ノイズ、相互変調歪+ノイズ、左右の音漏れ、相互変調歪10kHzがかなり悪い。

 そして最終版のDVK-UDA01はと言えば、なかなかバランスの取れた結果になった。試作基板やオンボードサウンドと比較するとかなりの向上であるし、Sound Blaster X-Fi Titanium HDやTOPPING D2、オーディオ専用機のSA7001にも引けを取らない。

 今回は測定に16bitのデータを使用したため、24bitデータの再生が可能な機種では結果が頭打ちになって気の毒な面もある。しかし、現在主流のCD(16bit)のリッピングデータの再生を行なった際の性能と考えれば、現実的な比較とも言えるだろう。その点からすると、DVK-UDA01はCDクオリティの音源を手軽に高音質で再生できるデバイスとして、まずまず使えるものにできたのではないだろうか。

玄人志向のCMI8768P-DDEPCI。5、6年前に5,000円を大きく下回る価格で販売されていたサウンドカード。低コストでサラウンドを楽しみたい人向けに、7.1chのアナログ出力を装備。Dolby Digital/DTSパススルー出力にも対応しているこちらは現行の製品。1万円台後半の価格で販売されている。クリエイティブメディアのラインナップでは音質重視のモデルとされているなにかと話題になることが多い中華USB DACからTOPPING D2をピックアップしてみた。代理店直販価格は12,800円。立派なケースや回転式ボリュームの使い勝手も魅力


【はみ出し情報その1】コンデンサの音質

 さて、最後の場を借りてDVK-UDA01のアップグレードに挑戦してみたいという方に向けて、アドバイスというかウンチクを語ってみたい。

 まずはコンデンサ交換だ。DVK-UDA01では音質に影響が大きいコンデンサを手差しで交換可能になっており、ここにオーディオグレードの高級コンデンサを挿してやれば音質の変化を楽しむことができるようになっている。

 さて、コンデンサである。オーディオ機器に使用される部品でこれほど甘美な響きのする部品はない。音質改善の改造と言うと、色とりどりのコンデンサに付け換えて悦に入るというのがお決まりのパターンだ。電子工作をしない方でもそういった改造をしてくれる業者がいることはご存じかもしれない。

 かつて、私が設計したビデオカードのデジタルノイズがどうしても下がらなくて(リファレンス設計では画面に微妙に縞が出る)、三洋電機のOS-CONというコンデンサを使用したところ、これがピタリと止まって感謝感激! 製品のうたい文句にも“OS-CON採用!”とやったところ、これが評判になってメーカーの三洋電機さんから逆に感謝されてしまった。通常なら基板設計をやり直して出荷が遅れるところを多少高価とはいえコンデンサ1本に助けられたのだから設計者にとってはありがたい話だ。その後、あの紫色のコンデンサが乗っていないと売れない、なんて話が上がってくるのは世の常だ。

 オーディオで使用されるコンデンサには大きく二つの用途があって、オーディオ信号を通すカップリングコンデンサと電源などのノイズをアースに逃がすデカップリングコンデンサがある。先のOS-CONの場合はデカップリングに使用して効果があったわけだが、音質に直接影響するのはカップリングコンデンサで、DVK-UDA01のソケットに装着されているのもこれだ。

 このカップリングコンデンサの交換によって音質が大きく変わるのは間違いないと思うが、これを測定によって優劣を付けるのが非常に難しいのが現状だ。1kHzの信号をコンデンサに通すと2KHz、3KHzと整数倍の周波数に化けた歪という信号が出てくる。アンプなどの場合はこれらの歪はすべてひっくるめた測定になるのだが、実際は2kHzと3kHzの割合が異なるとか、10kHzで測定すると違うとか、電気抵抗に相当するESRが違うとか非常に複雑な組み合わせで音質が決定されている。

 

ニチコンFWの2,200μ/10V

 つまりアンプの測定もほんの一部を切り取っただけで、すべての性能を見ているわけではない。総合的にはフィルムコンデンサがもっとも歪が少なく、次いで電解コンデンサ、セラミックコンデンサとされているが、歪を嫌ってフィルムコンデンサだらけの装置を作ると何ともお上品でつまらない音になってしまう気がする。音響用の電解コンデンサを選んで使ったほうが明るく元気な音になるようで私はこちらが好みだ。

 DVK-UDA01のソケットに装着するカップリングコンデンサの条件は、容量が220μF以上、耐圧が6.3V以上。直接挿せる足の太さは0.6mmまで。容量はライン出力で使うなら標準の220μFで十分。ヘッドフォンで低域が足りないと思ったら増やしてみてほしい。右の写真は、先日行なった試聴会でも使用したニチコン“FW”の2,200μ/10Vだ。



【はみ出し情報その2】オペアンプ交換式にしなかったわけ

 「オペアンプ交換可能」なんて製品を目にすることがあると思う。オペアンプというのはトランジスタ数十~数百個に相当するような回路を一つのICに詰め込んだものだ。以前はトランジスタ単体で組み上げた(ディスクリート)ものに比べて性能的には劣っていたが、半導体技術の進歩によって、非常に高性能の製品も提供されるようになった。

 オペアンプ回路の設計は、極端な話、抵抗2本とコンデンサ1個の値を選ぶだけだ。増幅率は2本の抵抗の比率で決まるので1kΩと10kΩの組み合わせでも10kΩと100kΩでも教科書的には同じように動作するのだが、設計者は使用するオペアンプの特性や前後の回路構成によって最適値にチューニングするのが普通だ(いろいろな用途があるから特性の異なるオペアンプが存在する)。これが交換可能な製品では無難なところにチューニングされているはずだ。必ずしも最適値にはまるとは限らないが、とにかく音の違いを体験するのはおもしろい。ただ、DVK-UDA01の場合はPCM2704の出力をとことん追い込んで低コストでよい音にするために、オペアンプ交換による遊びはあえて採用しなかった。



【はみ出し情報その3】“空きパターン”は手抜きか?

 PCの自作をされる方は電子機器の基板を見る機会も多いと思うが、ときどき基板に部品の乗るスペースはあるものの部品がない、というパーツを見かけることだろう。これはメーカーがコストダウンのため性能を犠牲にして取り去ったものなのだろうか?  確かにそのようなこともあるのかもしれないが、ノイズというのは予測が非常に難しく、実際に基板を作ってみなければどうなるか分からないというのが技術屋の本音だ。

 基板設計を変更するのは時間とコストがかかるため、基板上のコンデンサは多めに配置しておいて試作のときに必要なコンデンサを決定するのが普通のやり方になっている。また一つの基板を違う種類の製品に使い回すと言うのもめずらしくない。

 コンデンサがたくさん使われている基板をコストがかかっていると喜ぶ向きもあるようだが、基板の作り方が悪くてコンデンサで抑え込むしかなかったという例も多々あるので、コンデンサが多いほうがよい製品とは一口では言えない。

 さて、DVK-UDA01にも“空きスペース”がいくつか存在している。これももちろんコストカットの部品減らしのためではない。一つは電源部のコンデンサに並列につながるパターンで、ここにコンデンサをハンダ付けすれば電源を強化できる。また、光出力モジュール用のパターンが用意してある。ここにモジュールを一つ取り付けるだけで、光出力が可能になる仕組だ。また、SW-CONというパターンはボリュームコントロールスイッチ用だ。

 左下写真のEC3/5/6/7のパターンは並列に配線されており、複数個のコンデンサを増設できる。基板が狭いので大型のもの一つより、小型を複数としたほうが使い勝手がよいと考えたためだ。電源強化用コンデンサの仕様は、容量が330μF前後、耐圧が6.3V以上。なお、直径10mm以上のものは足を曲げる必要がある。

 なお、第1回掲載時からケースはないのかとの意見をいくつかいただいたが、実はオプションでサイドウッド付きのメタルケースも用意している。色は2種類あり、シャンパンゴールド(桜白木パネル)が3,800円、ブラック(黒檀パネル)が5,800円だ。製作は山本音響工芸にお願いしており、同社らしい高い質感に仕上がっている。なお、桜白木パネルはウッドオイルで磨いて色や質感をカスタマイズできる。

EC3/5/6/7へ複数個のコンデンサを増設できるSP-OPTと印刷された空きパターンにモジュールをハンダ付けすることで、光出力が可能になる。設計者のオススメは、東芝の「TOTX177」または「TOTX177A」。性能は前回測定したとおり、なかなかのレベル別売のケース。左のシャンパンゴールド(桜白木パネル)が3,800円、右のブラック(黒檀パネル)が5,800円


【はみ出し情報その4】DVK-UDA01は高いのか?

 テレビ、雑誌などの製作費を下げる手法としてタイアップと呼ばれるものがある。たとえば、海外ロケの航空運賃を割り引く代わりに、番組や誌面で利用した航空会社のサービスを紹介するなどという感じだ。

 DVK-UDA01がどこかのオーディオメーカーの製品で、それを格安で提供する代わりに、インプレスジャパンの雑誌の広告費用を下げてもらえるとすれば……残念ながらDVK-UDA01にはこのような魔法はかかっていない。また、キットとはいうものの、ハンダ付けに親しみが薄い方でも安心して手に取っていただけるように、抜き取りではなく1台ずつ動作確認をしていたり、電子部品の扱いに不慣れな書店ルートの流通にも堪えられるように結構丈夫な梱包材を使っていたりと、いろいろな会社が努力をしているのだ。



【はみ出し情報その5】PCM2704高音質化のキホン

 先日行なわれたDVK-UDA01の試聴会には悪天候にもかかわらず多くの方にご来場いただき、設計者としては大変ありがたかった。そのお礼というわけでもないが、PCM2704の高音質化のノウハウに関する質問をいくつか受けたので、少しアドバイスしておきたい。

 実は、同じPCM2704を使用したUSB DACでもノイズレベルには結構な違いがある。これは電源まわりの設計によるところが大きい。PCM2704にはUSBの5Vから3.3Vを得るためのレギュレータという部品が内蔵されているのだが、これはオマケ程度の性能なので、外部のレギュレータを使用するのが鉄則。また、3.3Vの電源端子がいくつかあるのだが、それぞれ負荷特性が異なるようなので、ノイズ対策などは最適化が必要になるのだ。


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(2012年 3月 30日)

 中田 潤


 絵と音の出る機械を作り続けて30年、まだまだ作ります。


[Text by 中田 潤 & DOS/V POWER REPORT編集部]