トピック

AKM DACと独自アンプでさらなる進化、ワイヤレスでもモニターサウンド「AK UW100MKII」

AK UW100MKII

「イヤフォンと言えば“完全ワイヤレス(TWS)”」になった昨今、各社の製品も進化し、高級機では有線イヤフォンを脅かすような音質の製品も増えてきた。だからこそ、「どのモデルを買っても、そんなに違いはないのでは?」と思っている人もいるかもしれない。

しかし、ガチなオーディオメーカーを中心に、TWSの根本的な部分にまで手を入れる事で、これまでとはレベルの違う音の進化を実現する動きが出てきた。ポータブルオーディオ市場を牽引しているAstell&Kernの新モデル「AK UW100MKII」(9月29日発売/49,980円)が、まさにそれだ。

根本的な部分に手を入れるとは何か

AK UW100MKII

完全ワイヤレスイヤフォンは非常に小さい製品だが、その中には様々な機能が詰め込まれている。何が入っているのかは、TWSを“Bluetoothで飛んできた音楽を受信して鳴らす小さなスピーカー”と考えると、想像しやすい。

大まかに言えば「電波を受信するアンテナ」、「飛んできたデジタル音声をアナログに変換するためのDAC」、「スピーカーユニット」、「スピーカーを鳴らすためのアンプ」、そして「これらを動作させるためのバッテリー」が、小さな筐体に詰まっているわけだ。

当然ながら、これらのパーツをイヤフォンの中に入れるのは技術的なハードルが高い。そこで救世主となるのが、SoC(システム・オン・チップ)と呼ばれるもの。SoCは、非常に小さなチップだが、その中にCPUやメモリーに加え、DAC機能やアンプなども集積されている。

要するに、Bluetoothの電波を受信するアンテナ、バッテリー、音を出すユニット以外のほとんどの機能を、SoCが受け持ってくれるわけだ。このSoCが存在するからこそ、各社がTWSを作りやすくなり、これだけ多くの製品が店に並ぶようになった……というわけだ。

SoC自体は素晴らしいもので、冒頭で書いたように“TWS市場の高音質化、多機能化”の立役者と言ってもいいだろう。ただ、その一方で、オーディオメーカーが、自らの理想とするサウンドを突き詰めたいと考えた時に、SoC自体が制約になる事もある。AK UW100MKIIのような、ハイエンド製品であればなおさらだ。

そこでAK UW100MKIIは、なんとBluetoothのSoCとは別に、旭化成エレクトロニクス(AKM)のHi-Fi 32bit DAC「AK4332ECB」を搭載。SoCの中にあるDACは使わず、SoCからI2Sで音声データを出力し、より高音質な外部DACへと伝送しているわけだ。

この小さな筐体内に、SoCとは別に、Hi-Fi 32bit DAC「AK4332ECB」も搭載した

このAK4332ECBは、TWSに内蔵する事を想定して作られたもので、据え置きのピュアオーディオ機器などのDACチップに採用されている、高音質/高性能を追求した“VELVET SOUNDテクノロジー”をTWS向けに最適化して投入している。

音質的には、THD+N(全高調波歪み+ノイズ)が-101dBというハイスペックを実現しつつ、パーツ自体は小さく、消費電力も抑えられている。バッテリー持続時間も重要なTWSならではの特徴だ。

さらにアンプ部分も進化。Astell&Kernのポータブルオーディオプレーヤーに搭載されている独自のアンプ・オーディオ回路技術を投入しており「極めて低歪みで高品質なサウンドを実現した」という。

回路構成も新しくなっており、デジタル部分とアナログ回路の分離も実現。前モデルよりもさらにノイズを低減したとのこと。音質だけでなく、スマホなどとの接続性もより安定したそうだ。

イヤーピースを外したところ

再生時間が大幅増加、充電ケースは小さく

こだわっているのはDACやアンプだけではない。

ドライバーは、Knowles製BA(バランスド・アーマチュア)をフルレンジで1基搭載。この構成は前モデルと同じだが、新機種ではドライバー位置を耳の内側に移動させた。繊細なサウンドのディテールをよりダイレクトに伝えるためだそうだ。BAドライバーの位置に合わせ、アコースティックチャンバーの構造とメッシュサイズも再設計。音の拡散を抑え、より繊細な描写が可能になったという。

筐体の形状・サイズは前モデルと同じで、カラーが少し明るく、グレー寄りになった。ただ、上記の通り、中身は完全に“別物”と言っていい進化を遂げている。

左がAK UW100、右がAK UW100MKII。フェイスプレート部分を見るとあまり違いがわからないが
側面を見ると、AK UW100MKIIはカラーがグレー寄りになっているのがわかる

先程DACの部分でいろいろ書いたSoCは、「Premium Tier Bluetoothチップセット」の「QCC5141」を搭載している。Bluetooth 5.2に対応し、コンテンツやワイヤレス環境に応じてビットレートを調整する、高音質低遅延コーデックaptX Adaptiveもサポート。マルチペアリングと最大2台までのマルチポイント機能も備えている。通話面は「cVc 8.0」を搭載し、4段階の切り替えが可能な外音取り込み機能も備えている。

また、電源システムをリニューアルし、電流の最適化をする事で、前モデル実に1.5倍となる約9.5時間、充電クレードル併用で約29時間の連続再生も実現した。ワイヤレス充電と急速充電にも対応している。

なお、イヤフォン自体のサイズに変更はないが、充電ケースは一回り小さくなっている。前モデルは正直ケースが大きく、ポケットを占有していたが、新モデルの充電ケースであれば邪魔にならないだろう。可搬性がアップしつつ、使用時間も長くなっているというのは、良いことづくめだ。

前モデルAK UW100の充電ケース
AK UW100MKIIの充電ケース
AK UW100MKIIになってケースが一回り小さくなった

音を聴いてみる

iPhoneとAAC、PCに接続したBluetoothアダプタとaptX adaptiveで接続しつつ、試聴してみた。まずは前モデルのAK UW100を聴いてみよう。

前モデルのAK UW100

詳細は以前レビューしたが、このAK UW100も非常に高解像度なサウンドが特徴で、情報量の多さは今でも高級TWSにおいてトップクラスと言っていいだろう。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」では、ボーカルの口の動きがクリアに聴き取れ、アコースティックベースが肉厚に張り出しながら、弦がブルブルと震える様子もよく見える。

全体のバランスとしては、低域がやや強めで、シングルBAのイヤフォンとは思えないほどパワフルで、厚みのある中低域が楽しめる。同時に、その中低域に負けない、高解像度な中高域がプラスされている……という印象だ。

左からAK UW100、AK UW100MKII

ここで新モデルのAK UW100MKIIにチェンジすると、思わず「え?」と、口から出てしまうほど、まるで音が違う。

まず驚くのは全体的なSN比の良さだ。ダイアナ・クラールやベースなどの楽器が無い、つまり無音の部分がより静かになり、その静かな空間からスッとボーカルの声が立ち上がる様子が、非常に素早く、繊細に描写される。

ノイズが少なくなったと同時に、SoCとは別にDACを搭載した事による超高解像度かつ、情報量の多いサウンドを、何かにマスクされずに、鮮度良く、ダイレクトに受け取れるようになった印象だ。

バランスも大きく変化している。前モデルではやや主張が強めだった中低域が、そこまで張り出さず、音楽全体を下から支えるポジションに収まった。これにより、中低域の張り出しで見えにくくなっていた、中高域のシャープな描写が、聴き取りやすくなった。全体としては、モニターイヤフォンに近い、よりオーディオファンが喜ぶバランスになったと感じる。

「手嶌葵/明日への手紙」のような、広い音場に、ピアノとボーカルのようなシンプルな音が広がっていく曲は、AK UW100MKIIの魅力が炸裂する。前モデルでもボーカルの口の動きがクリアにわかる高い描写力なのだが、AK UW100MKIIに切り替えると、口の動きだけでなく、身を乗り出して口の中を覗き込んでいるような、より生々しく、リアルな質感描写まで聴き取れるようになる。

前モデルと比べると低域が大人しくなったが、決して低域が“出ていない”わけではない。「米津玄師/KICK BACK」の激しいベースラインを聴き比べてみると、前モデルではパワフルにガンガンと張り出して、迫力は満点だが、ちょっとパワフル過ぎてモコモコした音に聴こえてしまう。

AK UW100MKIIではそのモコモコ感がキレイに無くなり、稲妻のように鋭いベースラインがクリアに、クッキリと聴き取れる。そして、低域の中に埋もれがちになっていたコーラスやSEの細かな音も開放され、聴き取れる音の数が増加する。

そしてベース自体もタイトになった事で、低音の中で弦が動く様子など、細かな描写がわかるようになる。そして、タイトさを維持したまま、ズシンと深いベースラインはクッキリと刻まれている。そのため、聴いていて迫力が無くなったとは感じない。むしろ「この曲の低音って、こんな音が入ってたんだ」と驚く場面が増える。

他社の高級イヤフォンと、どんな違いがあるかも気になるところ。

ソニーの新モデル「WF-1000XM5」は、SN比は良好だが、ボーカルや個々の楽器の“リアルなむき出し感”はそれほどなく、音楽という1つのまとまりとして聴かせる“美音”タイプ。ギョッとするようなダイレクト感のあるAK UW100MKIIとは、ちょっと方向性が異なる。

低域の分解能はAK UW100MKIIの方が上手だ。WF-1000XM5は、低い帯域を意識的に少し持ち上げて、パワフルさや迫力をプラスしているように聴こえる。満足感はあるが、少し、演出を感じる。そういった意味で、AK UW100MKIIの方が色付けがないリアルさがある。

final「ZE8000」(8K SOUNDモード)と比較すると、分解能、クリアさ等ではかなり良いライバルだと感じる。一方で、ZE8000はイヤーピースの密着感が高く、より低域にパワフルさがある。AK UW100MKIIの方が、中高域の分解能描写に寄せたバランスで、より微細に描写を聴き取る事に専念できる。

なお、スマホアプリ「AK Control」を使うと、外音取り込み機能の「アンビエントモード」のON/OFFや、レベル調整、本体をタップした時の動作の変更などのカスタマイズが可能。イコライザーも備えており、「Bass」、「Vocal」、「Balance」、「Treble」、「Movie」というプリセットも用意。Bassを選んで低域の迫力をアップさせるといった使い方も可能。ユーザーがカスタマイズしたイコライザー値を保存する事も可能だ。

スマホアプリ「AK Control」
DACフィルターの切り替えができるのがオーディオメーカーらしいところ
本体をタップした時の動作の変更も可能だ

TWSの進化を実感できるMKII

AK UW100MKIIは、MKIIに進化した事で、「BAドライバーの高精細な描写力」、「AKMのDACを個別に搭載した情報量の多さ」、「独自のアンプ・オーディオ回路技術による低歪みなサウンド」といったイヤフォンの特徴が、より実感できる、凄さが聴き取りやすいイヤフォンになっているのが好印象だ。

「お、さすがは高級モデル」という実力の高さが、おそらく誰が聴いてもわかりやすい。これは高級機にとって重要なポイントだ。

他社ライバル機との比較では、アクティブノイズキャンセル機能を備えていないという割り切りがポイントになると思うが、人間工学に基づいて開発されたイヤフォン形状で、密閉性が高いので、耳にマッチするサイズのイヤーピースを選べば、パッシブでも遮音性は高い。実際に街を歩いている時や電車の中で使っても、外のノイズに音楽が邪魔されるという印象はあまりない。もしアクティブノイズキャンセリングを搭載することで、AK UW100MKIIの持ち味である鮮度感、ダイレクト感が薄れてしまうとしたら、ノイキャン非搭載は“良い割り切り”と言えるだろう。

いずれにせよ、AK UW100MKIIを聴いていると「TWSもここまで進化したのか」と感慨深い。一昔前は、「ワイヤレスイヤフォンは無線伝送するので鮮度が低い」と言われたものだが、AK UW100MKIIを聴いていると、ワイヤレスとは思えない生々しさ、クリアさ、ダイレクト感に貫かれて、「もはや有線イヤフォンよりも鮮度バツグンなのでは」という気すらしてくる。

高解像ながら色付けが少ないAK UW100MKIIの“無色透明サウンド”は、Astell&KernがDAPなどでも追求している「原音忠実」の理念に沿ったものだ。比較的リスニングライクなTWSが多い中で、TWSでもモニターサウンドを実現している点は、大きな差別化と言える。“今までのTWSの音”に満足できなかった人に、注目の製品になるだろう。