レビュー

遂にAstell&KernからTWS。突き抜けたAK UW100、BTスピーカACRO BE100

Bluetoothスピーカー「ACRO BE100」と、その上に設置した完全ワイヤレスイヤフォン「AK UW100」

DAPメーカーとしてお馴染みAstell&Kern。イヤフォンなども手掛けるポータブルオーディオの人気メーカーだが、そんなAKから、ついに完全ワイヤレスイヤフォン「AK UW100」(39,980円)が登場した。TWSの新製品は大量に登場しているので、最近珍しいものではなくなっているが、このUW100、AKらしい“他とは一味違う”ものになっている。

また、AKは昨今ワイヤレスに注力しており、本格的な据え置き型のBluetoothスピーカー「ACRO BE100」(49,980円)もリリース。シンプルな外観だが、こちらも中身は凝っており、そこらのBluetoothスピーカーとは別物なクオリティに仕上がっている。

今回は、AKのワイヤレスな2モデル、UW100とBE100を使ってみる。

TWSの「AK UW100」

完全ワイヤレスイヤフォン「AK UW100」

まずはTWSのUW100から概要をおさらいしよう。4月9日発売で、価格は39,980円。TWSとしては高級モデルに位置づけられる。

筐体はさほど大きくなく、シックなカラーリングで大人っぽい。フェイスプレートはAKらしい幾何学的なデザインで、「音楽の美しさを星で表現し、その瞬き、輝き、光の散乱を具現化した」という。見る角度を変えると、陰影が変化する。シンプルだが飽きないデザインだ。

高級な完全ワイヤレスだが、アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載していない。これがUW100の大きな特徴であり、AKブランドの思想を感じさせる部分だ。

というのも、決してケチってANCを省いたわけではない。ANC機能を搭載する事による音質の低下を避けるため、あえてANCを非搭載にしている。その代わりとして、騒音の侵入を抑えるためのパッシブノイズキャンセリング、つまり遮音性をとにかく高めているのだ。

そのために、人間工学に基づいた設計と、大量のシミュレーションを経て、遮音性の高いイヤフォン形状・構造を実現。「低音域でもANCに匹敵するレベルのノイズキャンセリング能力を実現し、構造上もノイズが減衰しやすく、音質を維持できる」ものになったという。

イヤフォンを外さずに外の音を聞けるアンビエントモードも搭載しており、左ハウジングをタップするとモードのON/OFFを切り替えられる。再生制御は右ハウジングのタップだ。

音へのこだわりはこれだけではない。内蔵しているドライバーは、Knowles製のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバ×1基。TWSで、フルレンジBAのみという構成は非常に珍しい。

内部構造

さらに珍しいのはDACを搭載している事。QualcommのBluetoothイヤフォン用チップセット「QCC5141」を搭載しており、このチップセットにはDAC機能も内蔵されているのだが、UW100ではあえてこのDACを使わず、旭化成エレクトロニクスが、TWS向けに開発した32bit DAC「AK4332ECB」を搭載し、これを使ってアナログ変換している。

このDACは、据え置きのピュアオーディオ向けDACにも使われているVELVET SOUNDテクノロジーをTWS用にも投入したもので、音質を高めると共に、業界最高水準という超低消費電力2.8mW、THD+N=-101dBの高性能も実現したものだ。

Bluetoothのコーデックは、SBC、AACに加え、24bitまでサポートするaptX adaptiveに対応。左右のイヤフォンそれぞれに、信号を送信して伝送遅延を抑えるQualcomm True Wireless Stereo Plusにも対応している。

通話にもこだわっており、特殊なアコースティックエコーキャンセラーとノイズサプレッサー技術を用いて、クリアな声を通話相手に届けられる。

バッテリーの持続時間は、イヤフォン単体で6時間、充電ケースを併用すると最大24時間使える。ケースは少し横長のデザインだが、高さが抑えられているのでポケットにも入れやすい。ちなみにこのケースはワイヤレス充電にも対応。イヤフォンの急速充電も可能で、10分の充電で1時間の再生が可能だ。

充電ケース

AK UW100を聴いてみる

実際に装着してみよう。フェイスプレート側は角張ったデザインだが、耳側はなめらかなフォルムになっており、耳に挿入しやすい。イヤーピースを挿入して、少しひねるようにすると安定する。

耳穴の周囲にピタッとフタをするような感覚で、ANCは搭載していないが、遮音性は非常に高い。静かな部屋で装着すると、デスクトップPCのファンノイズやエアコンの音はほぼ聴こえなくなる。付属イヤーピースのサイズ展開は、XS/S/M/L/XLと豊富で、装着感も高めやすい。

スマホのアプリで「Amazon Music HD」を起動、「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」を再生する。冒頭のベースが鳴った瞬間に、「お、今までのTWSと違う」とわかる。低域が非常にタイトかつシャープで、ベースラインが克明に見える。響きの膨らみは少なめで、どちらかというと分解能重視。クールでシャープな描写は、AKのDAPやイヤフォンにも共通する音作りで、音楽の細かな描写を聞き取りやすい。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」も、冒頭から音が非常にシャープ。ピアノのリリカルなタッチや、はじかれたベースの弦がブルブルと震え、時にカッ! と鋭い音を立てる様子が生々しく伝わってくる。

全体的に、響きや膨らみは少なめ。繊細な描写はBAユニットシングルらしい。ただ、十分な低域は出ているので、腰高な印象はあまりない。バランスをとりつつも、高解像度寄りな音作り。“今まで聴こえなかった音が聴こえる”タイプのイヤフォンで、モニターライクなサウンドが好きな人は気にいるハズ。32bit DAC「AK4332ECB」の能力も、この高精細なサウンドに寄与しているのだろう。

最近、TWSにもBA+ダイナミックのハイブリッド型が少し登場してきたが、まだまだ主流はダイナミック型オンリー。そんな中で、BAのみシングルのサウンドは新鮮で、「こんな音のTWSもアリだなぁ」とニヤニヤしてしまう。TWSからポータブルオーディオに興味を持った人に、ぜひ聴いて欲しい。

ビートがタイトに描写され、個々の音がクッキリ聴き取れるので、例えば「YOASOBI/夜に駆ける」のような、音像のエッジが鋭いタイプの曲も非常に気持ちが良い。ゾクゾクするような描写力は、このイヤフォンにしかない魅力だ。

遮音性が高いので、屋外で歩きながら使っていても、周囲の音を大幅に抑え、静かな空間でシャープな音楽が楽しめる。左ハウジングに触れると、アンビエントモードがONに。すると、音楽の背後から、道路を走る「ゴーッ」という車の音が聞こえてくる。

関心するのは、アンビエントモードをONにしても、再生される音楽の音質はさほど変化しない事。大通りなどを、安全に歩く時にはONにした方がいいだろう。

電車内でもON/OFFしてみた。OFFの場合は、「次は渋谷、渋谷」というようなアナウンスが流れても、音楽を聴いていると「ん? いま、アナウンスが流れた!?」程度にしか聞こえないが、アンビエントONにすると、音楽と重なるように「…お出口は左側です、東急東横線……」と、クッキリアナウンスが耳に入ってくる。左ハウジングをタップすれば、また音楽だけの世界に。これは非常に便利だ。ちなみに、アンビエントモードでの“取り込みレベル”は4段階から選択できる。個人的には「2」あたりがベストな聞こえ方だ。

アプリではイコライザー設定も可能で、低音強調モード、高音強調モード、ボーカル強調モード、ゲームモードから選択できる。聴いた感じ、ボーカル強調モードは低音を少し抑えつつ、声の輪郭を強調。ゲームモードでは低域を抑えつつ、細かな音を聞きやすくしているイメージ。アプリでは他にも、ボタン機能の割当切り替えや、バッテリー残量確認などが可能だ。

Bluetoothスピーカー「ACRO BE100」

「ACRO BE100」は、一体型筐体のBluetoothスピーカーだ。写真の通り、デザインは非常にシンプルで、パッと見では“四角い箱の上に、ボリュームノブがついているだけ”に見える。ただ、近づいてよく観察すると、正面のグリルメッシュ部分が幾何学的なエッジ形状になっており、見る角度によって光と影が変化していくAKらしいデザイン。カラーはブラックとホワイトを用意し、今回はブラックを使っている。

カラーはブラックとホワイトを用意

天面にはプレミアムPUレザーを採用し、ボタン操作をするたびに質感の良さが指先に伝わってくる。落ち着いていて、高級感のあるデザインだが、主張が激しくないので、様々な部屋に置いても調和しそうだ。

天面にはプレミアムPUレザーを採用

上部のボリュームノブはアルミニウム製で、ローレット加工も施してあり、こちらも高級感がある。まわした時の動きも精密で、オーディオ機器っぽさを感じる。ちなみに、根本の部分にLEDが内蔵されており、色の変化でボリューム値のイメージがつかめるようになっている。

上部のボリュームノブはアルミニウム製
ボリュームノブにはLEDが内蔵されており、色の変化でボリューム値のイメージがつかめるようになっている

これとは別に、正面グリルメッシュの奥に、インジケーターのLEDも内蔵。ボリュームを回すと、ボリューム値が数字でも表示される。このインジケーターは、Bluetoothのペアリングモードや、接続しているコーデックなども表示される。シンプルなデザインながら、表示する情報量は多いので、「お、ちゃんと今LDACで接続されているな」と確認したいオーディオファンも安心できる。

正面グリルメッシュの奥に、インジケーターのLEDも内蔵

外形寸法は261×171×164mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約3.2kg。キャビネットは木製だ。ハンドルは備えていないが、背面に横長のバスレフポートがあり、そこに指をひっかけると、片手で簡単に持ち上げられる。頻繁に移動するサイズではないが、ちょっとした部屋間の移動も苦ではない。

横長のバスレフポートに指を入れると持ち上げやすい

外からは見えないが、内部にはカスタマイズされた専用のスピーカーユニットを搭載。低域用に、4インチウーファーを採用し、振動板はケブラー素材だそうだ。ツイーターは1.5インチで、シルクドームのものを2基搭載。ウーファーは1基だが、ツイーターは2基で、このスピーカー単体でステレオ再生できる。

お手軽なBluetoothスピーカーでは、Bluetooth用の統合チップに内蔵しているDACを使う製品が多いが、UW100はここにもこだわり、32bit DACの「ES9010K2M」を別回路とともに内蔵している。

独自の設計技術を投入したアンプを内蔵し、出力を高めながら、歪みも抑えたという。デジタルクロスオーバーも採用。DRC(ダイナミック・レンジ・コントロール)機能も内蔵している。出力は55W(25W×1/15W×2)と、一般家庭で使うには十分なパワーだ。

Bluetooth 5.0に対応し、コーデックはSBC/AAC/aptX HD/LDACに対応。背面にまわると、3.5mmのAUX入力も装備しているので、Bluetooth送信機能が無いDAPやパソコンなどと接続することも可能。携帯ゲーム機などを接続してもいいだろう。

3.5mmのAUX入力も装備している

ACRO BE100を聴いてみる

左からFenderの「INDIO」、ACRO BE100

Bluetoothスピーカーとして、家でFenderの「INDIO」というモデルを使っている。「ギターアンプっぽくてカッコいい」というミーハーな理由で選んだのだが、なかなかどうして、筐体の剛性が高く、本格的な音が出せるBluetoothスピーカーだ。

並べてみると、AK ACRO BE100の方が背が低く、奥行きで比べるとINDIOの方がスリム。全体的なサイズ感としては、似たようなものだ。

いつも聴いているINDIOが高音質なので、「いくらAKのBluetoothスピーカーとはいえ、そう簡単には負けないハズ」と思いながら、BE100とスマホをペアリング。スマホはPixel 6 Proを使っており、伝送はLDACだ。

設置場所は、とりあえずBE100もINDIOも、フローリングの床に置いただけ。イヤフォン試聴でも聴いた「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」を再生し、BE100のボリュームノブを回していくと、「んん!?」と思わず声が出る。INDIOで聴いていた音よりも、明らかにBE100の方がクリアで、アコースティックベースやボーカルの音に色付けが少ない。特に人の声が生っぽくてリアルだ。

INDIOに切り替え、こちらもボリュームを上げていく。小音量では悪くない音なのだが、音量を大きくしていくと、音像のシャープさが甘くなり、中高域に余分な響きを感じるようになる。これはもしやと思い、大音量再生しながら、各スピーカーの近くの床を触ってみると、明らかにINDIOは床まで大きく振動しているが、BE100は床にほとんど振動が伝わっていない。

つまり、BE100の方が筐体内での振動対策がよりキッチリ行なわれているという事だ。INDIOの方は、余分な振動が脚部を伝わり、床まで動かしてしまい、床からも音が出てしまっている。その音が、INDIOの再生音と混ざり、明瞭度を下げてしまっている。

この差は、ボリュームを大きくしていくほど顕著になる。逆に言えば、BE100は小音量でも、大音量でも、音のクリアさ、音像のシャープさ、広がる音場の聴こえ方が変わらない。床に直置きで、これは見事だ。振動対策だけでなく、歪みも抑えるデジタルクロスオーバーや、DRC(ダイナミック・レンジ・コントロール)機能も効いているのだろう。

BE100は、スッキリとシャープなサウンドなので、宇多田ヒカル「One Last Kiss」のような繊細な歌声の表情などもクッキリ描いてみせる。一般的なBluetoothスピーカーは、迫力重視のいわゆる“ドンシャリサウンド”が多いが、さすがAKブランドだけあり、Hi-Fi寄りの、モニタースピーカー的なサウンドで、格の違いを感じさせる。

そのため、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」のような、アコースティックな楽曲もしっかり楽しめる。音の質感を豊かに再現できるためだ。なので、BGM的に聴き流すような使い方もできるし、ちゃんと音楽と向き合って味合うような聴き方もできる。床置きではなく、出窓や棚など、高さのある所に置けば、さらに本格的なサウンドが楽しめる。

一方で、Bluetoothスピーカーに“迫力を”求めている人は、少し物足りなさを感じるだろう。そんな時は、天面のBSS/TREBLEボタンを押すと、低音と高音を、それぞれ0~5までの範囲で調整できる。個人的には、どちらも「3」に設定すると、クリアさ、シャープさを活かしながら、低音の迫力も感じられるバランスが得られた。

一週間ほど使っていて感じるのは、バランスの良いクリアな音が楽しめるため、必要以上に音量を上げなくても満足度が高いという事だ。夜に寝ながら、スマホでYouTubeを見ているのだが、ベッドサイドに置いたBE100から音を出すと、小音量でもしっかり人の声や効果音などが聴き取れる。音量を上げなくても済むので、「夜だから隣の家に怒られないかな」なんて事を心配しなくていい。

使い勝手も良い。手を伸ばせばすぐ大きなボリュームノブに触れられ、クルクル回すだけで音量調整ができる。電源ON/OFFはボリュームノブの長押しで、短く押し込めば入力切り替え。基本的な操作はそのくらいで、全部ボリュームノブで完結するため、何も考えずに操作できる。このストレスの無さは、普段使いするBluetoothスピーカーとして重要なところだろう。

INDIOと比べると、バッテリー動作ができないのがBE100のマイナス点だと思っていたのだが、ぶっちゃけ家の中を頻繁に移動させる事はなく、一度「ここに置く」と決めたら、そこから動かさない日がほとんどなので、数日経過した段階でバッテリー非搭載の事など忘れていた。もう少し小さなスピーカーであれば、バッテリー内蔵のメリットも感じられるが、BE100のようなサイズであれば、常時電源ケーブル接続でもまったく問題はないだろう。

ワイヤレスでもAKらしいサウンド

TWSのAK UW100と、BluetoothスピーカーのACRO BE100。ジャンルは違うが、実際に使ってみると、どちらも非常に“AKらしい”製品に仕上がっているのがわかる。シンプルなデザインと、Hi-Fiな音質。分解能が高く、情報量を重視した音作りが、ジャンルが違う製品でも貫かれているのは実にオーディオメーカーらしい。

特に、UW100は市場に存在する「よくあるTWS」とは一線を画すイヤフォンだ。音作りもそうだが、あえてANCを搭載せず、パッシブの遮音性を追求している事、Bluetoothチップセットとは別にDACチップを追加している事など、かなり突き抜けたイヤフォンになっており、「高級モデルはこうでなくちゃ」という独自の魅力をまとっている。

今まさに“オーディオがワイヤレス化していく時代”が到来しているが、その中でも、オーディオブランドとしてのこだわりを貫き、その効果をサウンドで証明できる。そんな“これからのオーディオブランドの在り方”みたいなものを感じさせる2モデルだ。

(協力:アユート)

山崎健太郎