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KANNシリーズの衝撃再び、ヘッドフォンもスピーカーもおまかせ!「KANN ULTRA」
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2023年12月21日 08:00
デジタルオーディオプレーヤー(DAP)も様々な製品が登場しているが、常に“アイツはスゲェ”的な、別格的なシリーズが存在する。Astell&Kernの「KANN」シリーズだ。“スゲェ”の中身はモデルによって異なるが、共通しているのは「どんなヘッドフォンでも鳴らしてみせる」と言わんばかりの、ポータブルプレーヤーとは思えない圧倒的な出力性能だ。
そんなKANNシリーズの第5弾として「KANN ULTRA」(直販価格299,980円)が登場した。なんでも、Astell&Kernのプレーヤーで最高峰の出力と、“トリプル出力モード”を搭載したのがミソだという。
さっそく聴いてみたが、結論から先に言うと、まさにKANNシリーズの集大成と言える、とんでもないDAPに仕上がっていた。
トリプル出力、トリプルサウンドとは?
KANN ULTRAを手にした第一印象は「これガチなやつだ」。
KANNシリーズの歴史は古く、初代「KANN」が登場したのは2017年。通常のDAPと違う別シリーズとして、「ONE PLAYER TO RULE THEM ALL(1台のプレーヤーで全てを支配する)」をコンセプトに誕生した。要するに、外部アンプを接続したり、あれこれとやらなくても「1台でなんとかしてやる、全部俺にまかせとけ」的なプレーヤーだ。
衝撃的だったのが2019年の「KANN CUBE」だ。「え、これ持ち歩くDAPですよね?」と再確認したくなるほど巨大なボディで、ミニXLR出力まで搭載する振り切ったモデルで、重量も493gとヘビー級だった。
そして第4弾として2022年に登場した「KANN MAX」で、再び驚いた。巨大だったKANN CUBEから、「普通のDAPになった!」と驚くほど小さく、重さも約305gと軽量化。「KANNシリーズなのに持ち運びがツラくない!」という謎の感動に包まれたものだ。
そして最新の第5弾KANN ULTRAは、再びデカくなった。
さすがにKANN CUBE(140×87.75×31.5mm/縦×横×厚さ)よりは小さいが、外寸は141.1×82.4×24.4mm(同)とかなり迫力がある。ありがたいのは重量で、KANN CUBEの493gよりもかなり軽い約390gに収まっている。また、厚みがあまりないので、手に持つと、見た目ほど大きくは感じない。ポケットに入れると普通のDAPよりもかさばりはするが、これなら持ち歩けるだろう。ディスプレイは5.5型で、解像度はフルHDだ。
大きくなったということは、それだけ中身が凄くなったという意味でもある。それを象徴するのが“トリプル出力、トリプルサウンド”だ。
KANN ULTRAはヘッドフォン出力として、3.5mm 3極アンバランス(光デジタル出力兼用)と、4.4mm 5極バランス出力(5極GND結線あり)を備えている。ここまでは一般的なDAPでもよくある構成だが、それに加えて、プリアウト/ラインアウトとして3.5mm 3極アンバランス、4.4mm 5極バランス出力を搭載している。
このプリアウト/ラインアウトは、デスクトップオーディオなどでKANN ULTRAを据え置きのプレーヤーのように使い、アクティブスピーカーやパワーアンプなどに接続するためのものだ。つまり、屋外で使うだけでなく、家でも活躍するプレーヤーとして作られているわけだ。
なお、プリアウトでは音量調整が可能で、ラインアウト出力時は音量固定となる。つまり、KANN ULTRAは、イヤフォン出力に加え、プリアウト、ラインアウトという3種類の出力モードを備えている。
面白いのはここからだ。トリプル出力モードは単に出力ポートを分けるのではなく、TERATON ALPHAテクノロジーを使い、ヘッドフォン出力ポートとプリアウト/ラインアウト端子のアンプ部とサウンドの設計を別々に行ない、それぞれの端子に最適なサウンドを提供するという。これが“トリプル出力、トリプルサウンド”の中身だ。
もう少し詳しく、内部のDAC出力の先を見ていこう。
ヘッドフォン出力では、DACから出力された音声が、ボリュームICを通り、その後でハイパワーのアンプに入力される。このアンプは非常に強力なもので、4段階のゲイン設定が可能なのだが、超高ゲイン設定にすると、バランス出力で16Vrmsの出力が可能になっている。鳴らしにくいヘッドフォンでも、余裕をもってドライブできるのがKANNシリーズの特徴であり、KANN ULTRAでもその姿勢が貫かれているわけだ。
もう1つのプリアウトでは、DACからの音声出力を、先程のヘッドフォン用ハイパワーアンプに入力せず、特別に設計されたプリアウト用アンプへと入力。それを経てプリアウトする。これにより、プリアウトのボリューム調整が可能になる。しかし、ヘッドフォン出力とは異なり、ゲイン設定や出力電圧は変えられない。最大出力はアンバランス2Vrms、バランス4Vrmsになる。
そして最後のラインアウトが、一番シンプルだ。DACから出力された信号を、アンプを一切介さずに直接出力する。当然、ノイズレベルが最も低く、外部オーディオ機器との接続に最適というわけだ。ラインアウトは固定電圧出力(4段階設定)だが、当然ながら音量調節はできない。
ESSのフラッグシップDAC搭載。オクタコアでサクサク動作
トリプル出力ばかり注目しがちだが、DAPとしての基本的な性能にも抜かりはない。
DACチップは、ESSの最新フラッグシップ「ES9039MPRO」をデュアルで搭載。ES9039MPROは、クリアで解像度の高いサウンドが持ち味だが、トリプル出力では、そのDAC出力の良さを活かすようにアンプを改めて設計しているそうだ。
デジタルオーディオリマスター(DAR)機能も搭載。再生している音源のサンプリングレートをリアルタイムにアップサンプリングできる。DARはON/OFF可能で、PCMは最大384KHzに変換再生可能。PCMのDSDへの変換再生も可能で、96kHz以下のPCMはDSD 128に、176.4kHz以上のPCMは、DSD 256に変換する。
DAPは、操作性も重要だが、それを高めるためにオクタコアプロセッサーを初搭載している。これにより、全体としてキビキビとした動作を実現しており、試聴時も使っていて気持ちが良い。「Open APP Service」機能を使い、Amazon Musicなどのアプリをインストールして、音楽配信サービスも楽しめるが、アプリの動きにもストレスがない。
なお、オーディオ回路はCPUやメモリ、ワイヤレス通信部分などのエリアと物理的に分離することで、熱やノイズの影響を受けないように工夫されている。
イヤフォン/ヘッドフォンで音を聴いてみる
まずはイヤフォン/ヘッドフォンの音をチェックしよう。組み合わせ相手として、「ULTRASONE Signature PURE」や、手持ちの中でも鳴らしにくいフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」、イヤフォンはqdcの「WHITE TIGER」を使った。
比較相手として第4弾の「KANN MAX」を用意。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を使い、KANN ULTRAと聴き比べてみた。
実は、KANN MAXはコンパクトながらゲインを切り替えればRPKIT50も余裕で鳴らしてくれるパワフルさがあり、サウンドもAKらしいニュートラルな優等生だ。大きくなったKANN ULTRAには、それを超える音を期待するわけだが、KANN MAXはライバルとしては手強い相手になるはずだ。
だが、KANN MAXを聴いてからKANN ULTRAに切り替えると、その瞬間に「ああーこれはスゴイ」と声が漏れてしまう。音が出た瞬間にわかるほど、クオリティが上がっている。すぐにわかるのは中高域の解像度。KANN MAXも、ダイアナ・クラールのボーカルが微細で、口の動きが脳内に浮かぶような音なのだが、KANN ULTRAではその解像度がさらに上がり、口の中まで見えるような生々しい音になり、リアルすぎてドキッとする。
高音のエッジを立たせて、解像感を無理に高めたような音ではなく、純粋に分解能が上がり、なおかつアンプ部でその分解能を極力落とさないように、純度高く増幅しているサウンドだと感じる。その証拠に、ボーカルにキツさが無く、自然な声のまま、解像感が上がって聴こえる。
「月とてもなく」では、ボーカルの声の響きが空間に広がる様子が聴き取りやすいのだが、KANN ULTRAではそのかすかな響きの余韻がクッキリ聴き取れる。普通に音楽を聴いていると聞き逃してしまいそうなポイントだが、低域から高域にかけて、全体で解像度が高いので「お、響きが聴こえるな」と、意識を向ける場所が変わると、まるでカメラでズームしたように、その部分の音が意識に入ってくる。
空間の広さや情報量だけでなく、低音もかなり進化している。「米津玄師/KICK BACK」を聴いてみると、KANN MAXでもベースラインが重く、ゴリゴリと締まりがあり、疾走感があって気持ち良いのだが、KANN ULTRAで聴くとその低音がさらに一段深くなり、地の底から湧き上がってくるような、ちょっと怖いくらいの低音になる。これにより、音楽全体が低重心で安定するため、疾走感のある曲でも、浮ついた描写にならず、最後まで一貫して凄みが感じられる。
笑ってしまうくらいスゴイのは、曲の途中でテンポが変わるオーケストラの部分。KANN ULTRAで聴くと、まるで本当に部屋の外に飛び出したかのように、空間がブワッと広がるのがわかる。もともとKICK BACKは、様々な音をギュッと押し込んだようなパワフルさが特徴だが、KANN ULTRAは音場が広いので、音数が多くても閉塞感が無く、音像が乱れ飛ぶ様子が克明に聴き取れ、オーケストラの部分では、その音場が一気に広がる様子も、より広く聴かせてくれる。
このような特徴があるため、例えば開放型のヘッドフォンを聴けばより音場を広大に、そして密閉型であっても閉塞感の少ない音が楽しめるだろう。イヤフォンもまた同じで、イヤフォンの閉塞感が苦手という人は、ぜひKANN ULTRAで聴いてみてほしい。
ちなみに、ULTRASONE Signature PUREはゲイン「MID」でボリューム値100(最大値150)あたりで充分な音量が得られる。「RPKIT50」も「HIGH」で100あたりで充分で、さらに上の「Super」を使う必要がないと思えるほどの駆動力だ。イヤフォンのqdc WHITE TIGERは、「LOW」ゲインの50程度で充分。曲の出だしなどで、ホワイトノイズが目立つ事もなく、IEMでも使いやすいDAPと言えるだろう。
アクティブスピーカーと組み合わせてプリアウト/ラインアウトを比較
特徴であるプリアウト/ラインアウトも聴いてみよう。アクティブスピーカーとステレオミニケーブルで接続してみた。
まずは、プリアンプを通すことでKANN ULTRA側でボリューム調整が可能なプリアウト(可変出力)だ。
音がどう変わるか比較したいので、プリアウトで出力するボリューム値とスピーカー側のボリューム値を決めたら、それと同じくらいの音量で聴こえるようにイヤフォン出力(ゲインLOW)のボリュームを上げ、プリアウト端子とイヤフォン端子に交互に繋ぎ変えて聴き比べてみた。
この比較が非常に面白い。イヤフォン出力経由で聴くと、ボーカルなどの中高域が目立ち気味なのだが、プリアウトに切り替えるとベースやピアノの左手など、低い音がより聴こえるようになり、全体的にワイドレンジな、バランスの良い音に聴こえる。
それにしても、KANN ULTRAの出力で聴くアクティブスピーカーの音は素晴らしい。
イヤフォン/ヘッドフォンで聴いた時も、音場の広さに感動したが、スピーカーで聴くと、その広さがよりハッキリとわかる。左右に設置したスピーカーを遥かに超えた、外側にまで音場が広がり、そのステージを良い席から楽しんでいるような気分になる。スピーカーを設置している机の上が、広くなったような気さえする。
ここまででも充分“デスクトップオーディオで使えるDAP”としての実力だが、さらに上を目指してラインアウトも試してみよう。
DACから出力したサウンドを、アンプを介さずに直接出力する純度バツグンのモード。なお、4段階設定の固定電圧出力となるため、KANN ULTRA側でボリューム操作はできなくなる。アクティブスピーカー側で調整するカタチだ。
また、誤ってイヤフォンやヘッドフォンをプリ/ラインアウト端子に接続したままラインアウトモードを起動すると、爆音になってしまうので注意が必要。ラインアウトに切り替えると「電圧はラインアウト時に適用されます。出力しますか?」というアラートが出るので、イヤフォン/ヘッドフォンを接続していないか改めてチェックしてから「OK」を押そう。
このラインアウトの音が衝撃的だ。出力電圧を0.7V、1V、1.25V、2Vの4段階で切り替えられ、0.7Vの状態だと「プリアウトよりちょっとSNが良くなったな」くらいの違いしかないのだが、1V、1.25V、2Vと電圧を変えていくと聴こえ方が激変していく。
変わるのは主に音圧で、ボーカルやベースなどの張り出しがグッと増え、音がこちらに向かって飛び出してくるような、パワフルで“熱い音”になっていく。そのため、机に置いたアクティブスピーカーの前に座って聴かず、椅子を引いてちょっと距離をとっても、音がグングン前に出てくれるので、迫力がまったく低下しない。むしろ、少し距離をとって聴きたくなる音になる。これはもう、据え置きのピュアオーディオを聴いている感覚だ。
これならばと、PCとUSB-C接続してKANN ULTRAをUSB DACとして使い、アクティブスピーカーから出力。Netflixで「トップガン マーヴェリック」を鑑賞したが、予感は的中。冒頭のダークスター離陸シーンでは、「グォオオ」というダークスターの強力なエンジン音を、ビリビリと前に出てくる音で音圧豊かに描写してくれるため、映画にとって重要な迫力がキッチリと味わえる。とてもポータブルDAPを通している音とは思えない、衝撃的な音だ。
もはや“ポータブル”オーディオではない。だが、そこがいい
個人的にKANNシリーズには「やり過ぎなくらいやってしまおう」という、ある種ヤンチャな勢いみたいなものが感じられて好きなのだが、KANN ULTRAでもその姿勢は変わらず貫かれている。
屋外で使うものだったポータブルDAPを、家の中でも、デスクトップオーディオでも使おうという提案は、近年他社でも行なわれており、ぶっちゃけそれ自体は真新しい提案ではない。
そこで、「据え置きとして使うなら、思いっきりやってやろう」とトリプル出力を搭載した事が、いかにもKANNシリーズらしい。挑戦するだけでなく、その結果として、驚くようなサウンドを実現しており、「いやもうこれポータブルオーディオじゃないでしょ」とニヤニヤしながらツッコミを入れたくなるDAPが誕生したという事実が、なんとも小気味良い。
非常に“尖った”製品なので、誰にでもオススメというわけではない。ただ、家の外でも中でも、ヘッドフォンでもスピーカーでも最高の音を楽しみたいという人にとっては、“これしかない”と言える製品だ。