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骨伝導含む4種・12ドライバが生む脅威の最上位サウンド、Empire Ears「RAVEN」を聴く

Empire Ears「RAVEN」

個人的な話だが、ハイエンドオーディオには“圧倒的な何か”が欲しい。他と比べてちょっと音が良いというレベルではなく、一度聴いたら衝撃的な音が頭から離れず、寝ても覚めてもそれを思い出してしまい「いつか買うんだ」と悶々とした日々を送るような、そんな存在であってほしい。

そんな“圧倒的な凄さ”を久しぶりに体験した。Empire Earsの新フラッグシップIEM「RAVEN」(レイブン/599,500円)がそれだ。フラッグシップだけあり、価格も凄いが、それを踏まえても抗いにくい魅力がある。

Empire Earsとは

「RAVEN」のフェイスプレートにあるEmpire Earsのロゴ

Empire Earsは、アメリカのジョージア州アトランタにあるメーカーで、医療、コンシューマー、プロ市場にわたる音響エンジニアリングと製造において30年以上の歴史がある。ブランドとして掲げているのは、ズバリ「世界最高のインイヤーモニターを作る」。

少量生産であっても自社製ドライバーを開発・製造に取り組むことで、業界の制約や妥協にとらわれないイヤフォンを制作。熟練の職人による手作りで、最高の基準に基づいたテストをクリアしたものだけを販売しているのだそう。

なお、このRAVENがベースとなっている限定モデル「RAVEN Launch Edition」は一足先に発売されている。価格は同じ599,500円で、サテンゴールドメッキ加工のフェイスプレート採用やサンクスカードを同梱。日本では30台のみの販売となっている。

限定モデル「RAVEN Launch Edition」

DD + BA + 骨伝導 + ESTを使いこなす

イヤフォンの中を見ていこう。

ユニット構成は“デュアル・コンダクション、クアッドブリッド12ドライバー”……と言われてもよくわからないので、低域からチェック。

低域用には「W9+」(WEAPON 9+)と呼ばれるダイナミックドライバーを2基搭載している。さらに、中域用としてKnowlesとSonionの協力で設計された特注のBAドライバー×5基、高域用にSonionの静電ツイーター×4基も搭載する。

「W9+」ダイナミックドライバー
中域用はKnowlesとSonionの協力で設計された特注のBAドライバー×5基
高域用にSonionの静電ツイーター×4基

ここまででも十分リッチな仕様だが、RAVENの大きな特徴になっているのが「W10」(WEAPON 10)と名付けられた骨伝導ドライバー×1基までを搭載していることだ。これで、片側計12ドライバー構成。この豪華なユニット群により、再生周波数帯域は下が5Hzから、上は100KHzと超ワイドレンジを実現。感度は108.1dB@1KHz,1mW、インピーダンスは2Ω@1KHz。

「W10」骨伝導ドライバー

ダイナミック型、BA、静電ツイーターは空気伝導で音を伝えるが、骨伝導ドライバーは振動として伝えるもの。その両方を使って再生する独自の技術が「デュアル・コンダクション・アーキテクチャー」だという。

空気伝導と骨伝導、両者の長所を共に引き出す事を目的としており、役割分担としては5Hz~100kHzのフルレンジ周波数特性を、デュアルW9 + ダイナミックドライバー、5つのBAドライバー、クアッド静電ドライバーの空気伝導によって実現している。

W10骨伝導ドライバーは、5Hz~40kHzの周波数帯においてイメージング、サウンドステージ、ディテール、低域拡張、リバーブを向上させる効果があるという。骨伝導では、外耳と中耳の部分をバイパスして、頭蓋骨から直接振動を送る事で、耳の奥にある蝸牛の中の有毛細胞を刺激。空気よりも低い周波数を効率的に伝導できるため、「低く深い音色」を表現できるという。

一見すると「レイヴン(カラス)」という名前の通り、筐体は真っ黒……に見えるが、実はクリアブラック。角度や光の具合によって中に入っているユニットがかすかに見えており、骨伝導ドライバーは上部に配置しているようだ。

一見すると真っ黒に見えるが
薄っすらと、中のユニットが見えているのがわかるだろうか

また、触ってみると全体が黒く見える筐体も、部分によって素材が違う事がわかる。フェイスプレートはヒンヤリと冷たいのだが、Empire Earsとして初めて316Lステンレススチール製フェイスプレートを使っているそうだ。エンボス加工でロゴマークなどが記されているのだが、ステンレスなのでしっかりとした重厚感がある。「神話に登場するオーディンの眼と、象徴的なEmpire Earsの翼をモチーフとした」という。

フェイスプレートには316Lステンレススチール製フェイスプレートを使っている

フェイスプレートの“内側”にもこだわりがある。HRC(ハーモニック・レゾナンス・コア)と呼ばれる専用のポリマーが配置されており、これを介して金属のフェイスプレートを配置する事で、筐体の振動を抑えている。

HRC(ハーモニック・レゾナンス・コア)

RAVENにおいて、“筐体の余分な振動を抑える”事は、他のイヤフォンよりも重要かもしれない。というのも、振動を効果的に使う骨伝導ドライバーを搭載しているからだ。W10骨伝導ドライバーの性能をさらに引き出すための、HRC技術でもあるわけだ。

不要な振動への対策は、筐体内部でも徹底。エンクロージャーの壁面にたわみがあると、共振周波数が不均等になるため、重要な部分の内部を独自のARC(アンチ・レゾナンス・コントロール)により、音の反射や吸収をコントロールしている。

4つの異なるドライバーを内蔵しているので、内部には当然ネットワークを搭載している。RAVENでは、独自の「synXクロスオーバー・ネットワーク」を採用した。

また、静電ドライバーは、優れたレンジと解像度を持つ反面、コントロールが難しく、他のドライバーを圧倒してしまう事があるため、「EIVEC MKIIエンジン」(EIVEC:Empire Intelligent Variable Electrostatic Control)も搭載。これより、静電ドライバーと骨伝導ドライバー間のタイミング、位相、制御を最適化したという。

イヤフォンとケーブルは着脱可能で、IEM 2pin(0.78mm)を採用。ケーブルはPW Audioとのコラボした「R7」と呼ばれるもので、RAVEN用にカスタムされたという。導体は26AWGのコアと25AWGの第2層を融合させている。4本のコア導体と、4本のセカンドレイヤー導体がシームレスに統合したケーブルになっており、R7という名前は、試行錯誤でバージョンとチューニングを7度繰り返したという意味だそうだ。

IEM 2pin(0.78mm)を採用
ケーブルはPW Audioとのコラボした「R7」。バージョンとチューニングを7度繰り返したという意味だそうだ

入力プラグはストレートで、4.4mm 5極ロジウムメッキバランスプラグを採用している。3.5mmアンバランスではなく、最初から4.4mmバランスプラグを採用しているのは、このイヤフォンの価格を考えると正しいだろう。

4.4mm 5極ロジウムメッキバランスプラグ

なんだこの低音は

搭載するユニットが多いので、筐体にも厚みがある。最上位モデルらしい迫力だ。

大きいと装着感が心配になるが、耳に触れる部分の形状がよく練られているため、“大きなものを耳に入れた感”はあまりない。耳穴の手前の空間でホールドされるので、適正なサイズのイヤーピースを選べば抜け落ちそうな感じもない。遮音性も高く、静かな空間で音楽を楽しめる。

装着したまま、リモートワークをしたり、外を出歩いてみたが、たまに手で触れると「ああ、大きめのイヤフォンだった」と思い出すくらいで、装着している時はあまり気が付かない。デザインがシックだからというのもあるだろう。

駆動するDAPは、4.4mmのバランス出力も備えているAstell&Kernの「A&ultima SP3000」を用意した。

まずはいつもの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を軽い気持ちで再生したのだが、冒頭のピアノから、アコースティックベースが入ってきたところで、ぶったまげた。なんだこの低音は。

冒頭30秒あたり、ベースが「ゾリゾリ」とひっかくような音を出すのだが、その音の1つ1つが、今までのイヤフォンでは聴いたことがないほどズシリと重い。さらにその「ゾリゾリ」という音の毛羽立ちが、クッキリシャープに見えるほどに音が細かい。

これが、低音とは名ばかりの、膨らんだ中低域であれば「まぁ迫力はあるよね」で済ませてしまうのだが、そんな“なんちゃって低音”とは文字通りレベルが違う。まるで耳というよりも、背骨に響くような……イヤフォンで聴いているはずなのに、胃袋にドスドスと重いパンチを浴びているような重くて深い低音だ。

取材などで、本格的なオーディオルームに入ると、凄い重低音が「ズシン」と響いて、「お、日常とは違う世界に来た」とドキドキする事があるが、イヤフォンを聴いただけで、あの別世界感が味わえるのが凄い。

この低音は基本的に、W9+ダイナミックドライバー×2基によるものだが、地面を震わせるような低音の凄み、グッと押し寄せて来るような勢いなどは、骨伝導ドライバーの効果なのだろう。ここまで骨伝導ドライバーを上手くつかったイヤフォンは、これまで聴いたことがない。

ちなみに、再生中のイヤフォンに触ってみても、骨伝導ドライバーにより筐体がビリビリ振動しているような様子はない。そのため、「耳の中でイヤフォンが震えて違和感を感じるのでは?」とか「イヤフォンが振動で動いて抜けてしまうのでは?」といった心配はない。

ただ、イヤフォンの筐体と指が触れている部分に指を差し込んで邪魔をしてみると、再生している低域の「ズシン」という重さが少し軽くなったように聴こえる。指を差し込んだことによる密閉度低下の影響もあると思うが、骨伝導の効果としては、そこまで大きく出しゃばらず、あくまでダイナミック型の低域を補佐し、より深みや広がりを与える役に徹しているのだろう。

特筆すべきは低音だけではない。ダイアナ・クラールのボーカルが入ってくると、こんどは人の声の自然さと、その声がスーッと音場に広がり、消えていく細かな音の様子まで見通せるクリアさに驚く。

というのも、これだけ低域が低くてパワフルだと、低音のほうが強くなりすぎて、中高域が埋もれてしまい、全体的にモコモコした音になりがちなのだが、RAVENにはまったくそれがない。

低域から高域まで、圧倒的な高解像度が貫かれており、迫力の低音と、中高域のヌケの良さ・繊細さが同時に耳に入ってくる。アコースティックベースの弦がブルブルと震え、筐体で増幅された響きが「ズズン」と低く響いているのに、ダイアナ・クラールの歌声が広がり、それが左側の空間に波紋のように広がって食いく様子がハッキリ聴き取れる。聴きながら「なんだこれ、無敵じゃん」とつぶやいてしまう。

「イーグルス/ホテルカリフォルニア」も凄そうだなと再生すると、予想通り。冒頭のギターとベースが大迫力。地鳴りのような迫力がありながら、極めてシャープかつソリッドで気持ちが良すぎる。「しめしめ予想通りの聴こえ方だ」ではなく「なんでこんなに気持ちが良いんだ」と、異世界にトリップしてしまう。

中高域はクリアなだけでなく、音が自然なのも特筆すべき性能だ。BAとESTを組み合わせた高音には、金属質な響きや、音の硬さは感じられず、ドン・ヘンリーの歌声にも不自然な響きが乗らない。

「あいみょん/マリーゴールド」を聴いても、歌声は生々しく、温かみがある。ナチュラルさは、低域から高域まで貫かれている。ダイナミック型、BA、EST、骨伝導と、4種類ものドライバーを搭載しているのに、ユニットの方式の違いによる音色のチグハグさを感じさせず、トータルで違和感のない音に仕上げているのは見事だ。

骨伝導の使い方の“さり気なさ”も良い。前述の「あいみょん/マリーゴールド」のような楽曲を聴いていてもベースラインなどの低域描写は重く、迫力があるのだが、あくまで低音を補強する役割に徹している。低音を強調し過ぎて不自然な音になる事もない。このあたりのさじ加減は、流石老舗ブランドだ。

試しに、イヤフォンをBluetoothレシーバーに接続し、スマホでFPSゲームをプレイしたり、Netflixで映画も見てみたが、RAVENはサウンドが低重心なので、映画の迫力がグッとアップし、リッチな気分で鑑賞できる。解像度もシャープなので、敵の足音も聞き取りやすい。ソースを選ばず、活躍するイヤフォンだ。

ハイエンドイヤフォンは、どうしても「どんなイヤフォンが何個入っているか」が気になるが、単に搭載すれば良いというものではなく、方式の違うユニットの得意な部分を引き出しつつ、音がチグハグにならないよう、イヤフォン全体としてまとまりよく作る……という“使いこなす技術力”が問われる。ここにこそ、Empire Earsの真髄があるのだろう。

価格が価格なので、まずはお店やイベントなどで一度聴いてみて欲しい。“有線イヤフォンの1つの到達点”が味わえるはずだ。

なお、既報の通りEmpire Earsの日本国内代理店は以前タイムマシン(e☆イヤホン)だったが、2023年9月下旬からはアユートが担当している。今回のRAVENを含む、2023年9月1日以降に発売のユニバーサルIEM製品の輸入、販売、修理はアユートが、2023年8月までに発売されたユニバーサルIEM/カスタムIEMのサポートは、タイムマシン(e☆イヤホン)での対応となる。

山崎健太郎