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“ボーカルに惚れる”万能イヤフォンQoA「Misty Blue」を聴く。ドライバの使いこなしに秘密
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- サウンドアース
2025年8月15日 08:00
完全ワイヤレスイヤフォンが普及した昨今、より高音質を追求でき、趣味性の高いものとして、有線イヤフォンに再び注目が集まっている。有線イヤフォンは数千円のエントリーから50万円を超えるようなハイエンドまで幅広いが、各社が気合いの入ったモデルを投入し、激戦を繰り広げる事で、価格と音質のコストパフォーマンスが高まっているのが3万円台のクラス。このクラスに、QoAから登場した注目イヤフォンが「Misty Blue」(33,816円)だ。
このMisty Blue、アーティストの藍井エイルさんとコラボしたモデルで、右側フェイスプレートには彼女の名前のロゴが入っている(左にはQoAのロゴ)。そのため、藍井エイルさんのファン向けイヤフォンと思われがちだが、聴いてみると、イヤフォンとしての“素の実力”が非常に高い。藍井エイルファンはもちろんだが、そうでない人にも“3万円台の要注目イヤフォン”として、体験して欲しい1台になっている。
QoAとは
QoA(Queen of Audio)は2019年に設立されたブランドだ。下は1万円台から、上は10万円近いハイエンドモデルまで、幅広いイヤフォンをラインナップしているが、その多くで、カクテルの名前を製品名に採用している。
今回のMisty Blueも、ホワイトラムやブルーキュラソー、パイナップルやレモンジュースなどを使ったカクテルの名前から採用されている。
内部には、SonionやKnowlesなど、定評のあるブランドのドライバーを使っているが、独自にカスタムしたドライバーを採用する事もある。
開発にあたっては、特性だけでなく、プロのテスターによる試聴と、そのフィードバックを受けての改善というサイクルを徹底的に繰り返し、完成度を高めているのが特徴。その結果、モデルが違っても、“ナチュラルでウォームな聴き疲れしない音”というQoAのブランドポリシーが貫かれており、それが近年QoAファンが増加している理由の1つになっている。
また、サウンドだけでなく、シェルやフェイスプレートのデザインや、仕上げのクオリティが非常に高いのも特徴。そこまで高級なモデルでなくても、手にするだけで気分が“アガる”ようなイヤフォンを手にできるのも大きな魅力だ。
Misty Blueのドライバー構成
Misty Blueの内部を見ていこう。
4ウェイの4ドライバーで、構成は以下の通り。
- 低域用:6μm PET振動板10mmダイナミックドライバー
- 中域用:8mmチタンコートPET振動板ダイナミックドライバー
- 中高域用:カスタムQoA BAドライバー
- 高・超高域用:Knowles BAドライバー
実機を見ると、それほど大きな筐体ではないのだが、ダイナミックドライバーが2基も搭載される、リッチな構成だ。
低域用の10mmダイナミックドライバーは、振動板が6μmと薄いが、剛性は高く作られている。また、特殊なボイスコイルを使うことで歪みを抑えているほか、サスペンションの設計も工夫することで、急峻な音楽でも、スムーズに追従できるという。
中域用の8mmダイナミックドライバーは、振動板の素材はPETだが、その上にチタンコートを施したQoAカスタム仕様になっている。剛性の高いチタンをコーティングする事で、振動板の変形を防いで歪や共振を抑えるなどの効果があり、レスポンスのいいサウンドにしているという。
このように、同じダイナミックドライバーでも、サイズや素材、そして役割が異なるものを組み合わせているのが特徴だ。
BAドライバーでもそれは同様で、中高域用にはQoAがカスタムしたBAドライバーを採用。これはあらかじめ中高域用にチューニングされたものだという。BAドライバーの特性を活かし、レスポンスの良い再生ができる。
高域・超高域用には、Knowles製のBAドライバーを搭載。振動して音を出す振動板部分にメタルを使い、高い解像度を実現。こちらのBAドライバーもQoAがチューニング。不要な振動を抑え、歯擦音などのキツイ音が出ないように工夫している。
インピーダンスは30Ωで、感度は105dB±2dB。ケーブルの導体は、OCCに銀メッキを施したもので、0.78mm 2pinで着脱可能。入力プラグも交換できるタイプで、3.5mmと4.4mmバランスのプラグが付属する。別途ケーブルを購入しなくても、バランス接続ができ、お得感がある。
さらに、USB-C to 3.5mmの変換ケーブルも同梱。スマホなどのUSB-Cに接続する事で、イヤフォンジャックの無いスマホでも、有線イヤフォンが楽しめるようになっている。
美しいハウジングデザイン
音を聴く前に、Misty Blueの外観を見ていこう。
海の底か、夜の星空を連想させる深いブルーのフェイスプレートが印象的。砂が風や水の流れで模様を作る“砂紋”のよう。実際に砂が入っているわけではないが、見る角度によって、凹凸に反射する光の表情も変化し、見ていて飽きない。付属ケーブルも深みのあるブルーで、筐体のデザインとマッチしている。
デザインや仕上げのクオリティが高いのは、フェイスプレートを専門のペインターが、1つ1つ、手作業で作っているためだ。以下に、工程の動画があるが、筆で独特の模様を描き、パウダーを塗布、ロゴの配置して、全体をレジンでコーティングして固め、磨いて仕上げるなど、非常に手間がかかっているのがわかる。高価なカスタムイヤフォンではなく、3万円台のユニバーサルイヤフォンでも、手を抜かない仕上げには好感がもてる。
付属品も豪華だ、イヤーピースは9セットも封入されており、紫色のものは「ボーカルの心地よさを追求」、黄色と白と黒のものは「バランス重視」、透けているものは「サウンドステージの広さ」を重視と、ユーザーが音の好みで使い分けられるようになっている。
質感の良いレザー収納ケースは、薄いブルーで、イヤフォンのカラーとマッチしている。これとは別に、ポーチも付属。前述の変換ケーブルなども含め、付属品がかなり充実したイヤフォンと言っていいだろう。
音を聴いてみる
Astell&KernのDAP「A&ultima SP3000」とMisty Blueを接続。4日間、24時間鳴らしっぱなしにした後で、試聴を開始した。まずは3.5mmのアンバランス接続だ。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。冒頭から2分くらいを聴きながら、思わず「(音作りが)うまい……」と呟いてしまう。
冒頭、アコースティックベースの低音が登場するのだが、その低い音がズシンと重く沈み込み、音像も肉厚で迫力がある。特筆すべきは、この音が重く、分厚いだけでなく、しっかりと締まりがあり、解像度の高さも兼ね備えている事だ。
「ブォン」と押し寄せる低音に集中すると、その音の中に、ベースの弦が「ブルブル」と細かく震える様子や、それがベースの筐体で増幅されて、ウォームな響きを生み出している様子が見えてくる。
また、この肉厚な低域の中でも、ピアノの和音の広がりなど、異なる楽器の音がしっかり聞き分けられる。
この巧みな中低域の描写は、10mm径で6μmと薄いPETドライバーと、8mm径のチタンコートPETドライバーを組み合わせた効果だろう。
単に“ダイナミックドライバーを2個搭載すれば、低音がリッチになる”というものではない。やりすぎると低音がボワボワと膨らんで不明瞭な低音になったり、ダイナミックドライバーの振動を上手く制御できないと、中高域のクリアな音までマスキングしてしまい、全体的に眠い音のイヤフォンになってしまうものだ。
Misty Blueは、10mm径ドライバーのサスペンションを工夫したり、中域用の8mm径ドライバーの振動板にチタンコートを施すことで、繊細な描写を可能にするなど、各ドライバーの強みを活かし、全体のクオリティを高めているようだ。
例えば、「ビリー・アイリッシュ/bad guy」は、冒頭から地鳴りのようなサブベースが響く楽曲だが、Misty Blueで聴くと、頭蓋骨を揺すられるような強烈な低音が味わえるのだが、サブベースの輪郭は膨らみ過ぎず、タイトさを兼ね備えており、キレが良い。ダイナミックドライバーが暴れず、良く制御できている証拠だ。
また、この強烈なサブベースにボーカルが埋もれず、ビリー・アイリッシュのかすかな吐息がクリアに聴き取れるのも見事だ。
「月とてもなく」のボーカルも、リアルで生々しい。普段の生活で聞き慣れている人の声は、少しでも音が硬かったり、響きが硬質だと、違和感を感じるものだが、Misty Blueの再生するボーカルは非常にナチュラルで、聴いていて安心する。
歌い出す直前に「スッ」と息を吸い込むかすかな音まで描写する繊細さがあるのだが、音の輪郭を強調したようなキツさが無く、ボーカルの音像も薄くならず、しっかりとした立体感がある。中高域には、QoAカスタムのBAドライバーと、KnowlesのBAドライバーが使われているが、2基のBAの強みをうまく融合させて、この音を実現しているのだろう。
4日間エージングした効果もあってか、描写が細かいだけでなく、高音域の伸びもしっかり出ている。「手嶌葵/明日への手紙」を聴くと、美しい高音が天井まで上昇していくよう。美音を超えて、神々しさすら感じて、ウットリ聴き惚れてしまう。
低域から高域まで“音色や質感にまとまりがある”のも良い。「米津玄師/KICK BACK」を聴くとよくわかるが、地を這うように沈むベース低音から、エレキギターの強烈な叫び、クリアなコーラスなどをキッチリ再生しつつ、そのどれもがナチュラルな音色で描写できているので、聴いていると“低域はダイナミック型、中高域はBAという違う方式のドライバーで再生している”という事実を忘れてしまう。
異なる方式のドライバーを組み合わせると、出来の悪いイヤフォンの場合、例えば、“低域はウォームなのに、中高域は金属質な硬い音”という帯域によって音色の違いが出てしまい、それが気になって、肝心の音楽に集中できない事もある。
Misty Blueの場合は、こうした音色の違いがまったく無いため、方式の違いも考えずに、「あぁ癒やされるなぁ」と、ゆったり音楽を聴ける。これはかなり重要なポイントだ。
3.5mmアンバランス接続から、付属の4.4mmバランス接続のプラグに交換すると、どう変わるだろうか。
「KICK BACK」で聴き比べると、3.5mmではやや音場が狭く、音像との距離が近く感じていたが、4.4mmにすると、音場の奥行きが深くなり、音像の定位もより立体的になる。
また、これまではイヤーピースは「バランス重視」を装着していたが、透けている「サウンドステージの広さ重視」のタイプを装着すると、さらに音場が広く感じられる。ライブ録音や激しいロックなどにも、この組み合わせがマッチする。
どちらが良いというものではなく、ボーカルとピアノだけのようなシンプルな曲の場合は、紫色の「ボーカルの心地よさを追求」イヤーピースの方が、ボーカルの間近で“かぶりつき”で聴いているような感覚が味わえ、マッチする。好きな音楽の傾向で選ぶとよさそうだ。
付属のUSB-C to 3.5mmの変換ケーブルを、スマホに接続して聴いてみたが、これもなかなか良い音だ。さすがに、単体DAPと比較すると、低域の深さや肉厚さが弱くなるが、音場は広めで、サウンドは非常にクリア。変な強調も無く、素直なサウンドの変換ケーブルになっている。スマホの音楽配信アプリを活用したい人には、便利に使える変換ケーブルになるだろう。
ボーカルも得意な万能系イヤフォン
Misty Blueは、藍井エイルさんとコラボしたイヤフォンで、デザインだけでなく、音作りにも藍井エイルさんが参加したという。
藍井エイルさんの「IGNITE」(「ソードアート・オンラインII」のオープニングテーマ)や、「アイリス」(ソードアート・オンライン アリシゼーション/アリシゼーション・ビギニング編のエンディングテーマ)を聴いてみたが、確かに彼女の楽曲とのマッチングも良い。
疾走感のあるビートは、2基のダイナミックドライバーでしっかりと重さがありつつ、トランジェント良く描写。そこに、彼女の力強い歌声がクリアに重なるのだが、解像度の高さだけでなく、質感の描写も丁寧なので、元気の良い歌声から、憂いを含んだ声など、感情表現の変化も聴き取りやすい。
「流星」(「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」オープニングテーマ)は、レンジが広く、ドラムの低域やサブベースも入った楽曲だが、これもMisty Blueで再生すると秀逸だ。
ドラムの低音は音圧がしっかり出ており、迫力がありながら、低音の響きが背後の空間に広がっていく様子も見渡せる。うねるようなサブベースも低く沈み、こうした低音が音楽をしっかり下支えする。その上に、藍井エイルさんのクリアな歌声が展開している事がわかる。どのように音楽が構成されているかも聴き取れる実力のあるイヤフォンだ。綺羅びやかな歌声も、無理に輪郭を強調した耳に刺さるような音ではなく、ナチュラルに伸びやかに再生してくれるのも気持ちが良い。
おそらくMisty Blueは、ボーカル曲に強い“美音系イヤフォン”に分類される事になると思うが、個人的には低域のクオリティも非常に高いため、歌の無い曲でも十分に実力を発揮してくれる“ボーカルも得意な万能系イヤフォン”と感じる。エントリーからステップアップして、より深く音楽を楽しめる有線イヤフォンが欲しい人は、お店などで試聴して欲しいモデルだ。